コラム IFRS導入を低予算で成功させる方法

IFRS導入を低予算で成功させる方法 第5回 「IFRSベースの有価証券報告書の“経理の状況”がオソロシイことに・・・!(その2)」
-執筆者-
公認会計士 武田雄治 氏
株式会社アガットコンサルティング 執行役員 中央大学専門職大学院国際会計研究科 専任講師(IFRS 担当)
主な著書に『IFRS ガイド』『IFRS のディスクロージャー』『決算早期化の仕組みと実務』(いずれも中央経済社)など。

第5回 「IFRSベースの有価証券報告書の“経理の状況”がオソロシイことに・・・!(その2)」

前回のコラムでは、IFRSベースの有価証券報告書は“経理の状況”の分量がとにかく多く、特に注記の中の「重要な会計方針」の説明の分量が膨大であるという特徴があるという話をしました。

“経理の状況”の「注記」を分析すると、「重要な会計方針」の説明の分量が膨大であるという特徴以外にも様々な特徴が見られます。

まずは【図表1】をご覧下さい。これは諸外国のIFRSベース有価証券報告書の“経理の状況”の記載事項(タイトル)を列挙したものです。

1.“経理の状況”の記載事項は会社によってバラバラ

これを見るとひと目で分かりますが、“経理の状況”の記載事項は会社によってバラバラなのです。タイトルもバラバラ、記載順序もバラバラ、付番もバラバラです(*1)。どのような開示をするかは皆様の「判断」(judgement)が求められます。従来のわが国の有価証券報告書の開示実務では考えられなかったことです。ルノーの注記には「14 – 日産自動車に対する投資」という項目があります。これは、日産自動車がルノーの子会社ではなく持分法適用会社であることの注釈がなされているのですが、これもルノー社の「判断」(judgement)による開示といえるでしょう。

【図表1】 IFRS開示事例(経理の状況の記載事項)

【表1】 IFRS開示事例(経理の状況の記載事項)

(*1)但し、記載順序については一定の秩序に基づいて記載されています(IAS1 「財務諸表の表示」第114項参照)。

次に、それぞれの「注記」の中身をみていくと、記載内容もバラバラ、雛形もバラバラ、ボリューム感もバラバラということに気付きます。【図表2】はインフォシス・リミテッド(旧インフォシス・テクノロジーズ・リミテッド)の「有形固定資産」の注記ですが、わが国の附属明細表に記載される有形固定資産増減明細表とはまったく異なる体裁です。

このように、諸外国のIFRSベースの有価証券報告書をみると、中身は各社バラバラです。特に「注記」に関していえば、100社あれば100通りの開示がなされています。従来の有価証券報告書は、あらかじめ雛形が決められていましたので、その雛形に「あてはめる」という実務が行われていました。しかし、IFRSになると雛形は与えられていませんので、皆様で「判断」(judgement)をして開示するという実務に変わります。

【図表2】 有形固定資産増減表の注記記載事例

【図表2】 有形固定資産増減表の注記記載事例

2.増える傾向にある期末までの“増減表” “将来情報”

「注記」に関しては、これ以外に、「増減表」が多いという特徴もあります。「増減表」ですので、「期首」「期中増加」「期中減少」「期末」のそれぞれの数値を開示するということになります。例えば、【図表3】は住友商事のIFRSベースの有価証券報告書(2011年3月期)に記載されている税効果の注記の一部抜粋ですが、繰延税金資産及び繰延税金負債の「増減表」を2期比較形式で記載しています。このような「増減表」がいたるところで見受けられます。従来の日本基準では「期末」の数値のみを開示していたような項目についても「増減」を開示する場合がありますので注意が必要です。

【図表3】 繰延税金資産・負債の増減表の注記記載事例

【図表3】 繰延税金資産・負債の増減表の注記記載事例

さらに「将来情報」が多いという特徴もあります。IFRSは、主に投資家に対して投資意思決定情報を提供することを目的としており、過去の業績ではなく、将来のキャッシュ・フロー獲得能力を提供しようとしています。よって「注記」に関しても将来情報が多く含まれます。

「将来情報」の一つに「訴訟」に関する注記があげられます。例えば、【図表1】に列挙したインフォシス・リミテッドの注記の中にも「訴訟」という項目があり、訴訟による将来への影響を開示しています。訴訟については、製薬会社などは数多くの訴訟を抱えているためか、膨大な注記をしているケースが珍しくありません。例えば英国の製薬会社グラクソスミスクライン・ピーエルシー(2010年12月期)は、「訴訟」について18ページに及ぶ注記を開示しています。

「将来情報」としては、「感応度分析」(リスクに関する変数の変動の影響の分析)の開示をしている事例も多く見受けられます。【図表4】は住友商事のIFRSベースの有価証券報告書(2011年3月期)に記載されている外貨感応度分析の開示です。これ以外に、金利感応度分析や商品価格感応度分析も開示しています。

【図表4】 感応度分析の注記記載事例

【図表4】 感応度分析の注記記載事例

このように、IFRSを適用すると開示の量(特に注記の量)は従来に比べて多くなることが予想されます。これは、財務諸表利用者にとっては望ましいことですが、財務諸表作成者にとっては大きな負担となります。IFRS導入を低予算で成功させるためには、今のうちからIFRSの開示事例を分析しておくことが望まれます。

文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。

文中作図掲載日:2012年1月20日

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