経理の畑

経理の専門家・葛西一成さんが経理担当者のお悩みに回答「Excel作業」ってどうすべき?ポイントは“優しさ”と“使い分け”?

作成者: 豆知識|Mar 9, 2026 12:55:49 AM

上場企業の経理部長を経て、アドバイザーとして独立された葛西一成さん。以前、「経理の畑」サイト公開を記念して募集した経理のお悩みにお答えいただきました。

今回は、そんな葛西さんに、社員数80名ほどの会社で経理を務めるTさんがお悩みを相談します。テーマは「Excel作業」です。Tさんの抱えるお悩みに、葛西さんがずばり回答します。

他のシステムから仕訳起票する際に使用しているExcel。
計算式のメンテナンス工数を鑑みて、無くしていくべきか?

Tさん:今日はよろしくお願いします。

葛西さん:よろしくお願いします!Excel作業でお困りのことがあるとのことですが、どういったところにお困りですか?

Tさん:まずはメンテナンスですね。例えば給料の仕訳をする際、給与計算システムと会計システムとが分断しているため、CSVでつなぐ作業が発生していまして、その際の条件の分岐に課題感があります。例えば、「この部署の人は法定福利費」「この人は販管費」といった具合に条件を作っているのですが、異動や組織変更といった変化に対して、Excelではフレキシブルに対応できないじゃないですか。

葛西さん:確かに組織変化があったときなどに苦労がありそうですね。負担が想像できます。

Tさん:比較的シンプルな式であれば対応できるんですが、「この部署のパートさんはこれ、正社員はこれ」「この部署の営業はこれ」と、複雑な式になっていると、いろいろな分岐が起きてしまうなと。あと、自分が作ったものであっても、1、2年経つと「なぜこうしたんだっけ?」とコンセプトを失念してしまうのも、Excel上のメンテナンスの怖さだと感じています。

葛西さん:なるほど。まさに今お話いただいたような課題は、ほぼすべての会社に当てはまるものなんじゃないかなと思えるほど「あるある」ですね。なぜなら、今Tさんがおっしゃったように給与計算システムのデータをそのまま会計システムで使うことができないからです。そのため、外で1回組み換え作業をしなければならないと。これはもう、仕方がないことなんですよね。

Tさん:他社でも多い悩みなんですね。どのように対策されているんでしょうか?

葛西さん:正直、解決するのは難しいんですが、まずやれることとして、できる限り給与計算システムと会計システムを同じベンダーのシステムにし、自動連携できるようにしておくことが理想かなと思います。それでも組み換えのデータまで持てない場合が多いので、正直、結局外でやらざるを得ないところは残るでしょう。ただ、同じベンダーのシステムであれば少しは楽になるかなと。システム内で基本的に連携できるようになりますからね。

Tさん:Excelでの作業そのものをなくしてしまうのは現実的ではないですか?

葛西さん:そうですね、正直難しいだろうなと思います。私もいろいろな会社さんを見てきていますが、Excelをなくした会社はないんじゃないかな。これはお話に出ていた人件費もですし、それ以外のいわゆる上流の基幹系システムや棚の資産管理システムもそうですし、場合によっては売り上げも収益認識基準のために全部1回外に出して、Excelで加工して会計システムに取り込まなければならない部分があるでしょう。ですので、Excelをやめるではなく「Excelをどうやってシンプルにわかりやすく作るのか」を考えるということが重要だと思います。

目指すべきはExcelのシート作りの標準化。
メンバー全員が使用する資料で重要なのは、誰が見ても分かりやすいシンプルさ

Tさん:Excelを無くすのではなく、Excelをどのようにシンプルにしていくかが重要とのことでしたが、葛西さんが対応された事例はありますか?オススメのExcel管理法を知りたいです。

葛西さん:いわゆる組み換えや経理処理が仕訳と直接紐づくような資料、要するに経理メンバー全員が見ることのある資料に関しては、完全にルール化しました。使う関数、色使い、フォント、ファイル名、「単位は絶対に円単位で」などですね。このように、Excelのシート作りの標準化を進める以外、方法はないと思っています。

Tさん:誰が作っても同じものができるようにすると。

葛西さん:ええ。で、もちろん複雑な関数やマクロもあるわけですが、これらはできるだけ「変に難しい関数は使わないでくれ」とお願いしました。難しい関数を使ったほうが楽に計算できる場合もあるんですが、できるだけ簡単な関数で、かつ何個か関数を分ける。例えば、B列にデータ関数を入れ、その関数を集計するために横にもう1つ関数を付けるといった具合に、バラすんです。

Tさん:たしかにそのようにシートを作っておけば管理のハードルが下がりそうですね。

葛西さん:仰るとおりです。そうすることで、他の人が見たときに「こういう計算ができているんだ」と理解できる状態にできるので、メンテナンスもできるようになります。こうした「優しさ」が必要ではないかと思っています。

Tさん:「優しさのあるExcelシート」で管理するわけですね。

葛西さん:そうです。Excelができる人ほど変に難しい関数を使いがちなんですが、それで自己満足するのではなく、そこからわかりやすい関数に置き換えるところまで持っていって初めて「ちゃんとExcelが使える人」なんだよと伝えてあげる。そうしないと、どんどん難しくなっていってしまうところはあるでしょうね。

Tさん:耳が痛いです……(苦笑)。私自身、部内で1番理解していることもあって、難しいシートを作ってしまうケースがよくあります。あとで見返したときに、「なんて独りよがりなロジックを入れてしまっているんだろう」と思うんです。

葛西さん:わかります、わかります。

Tさん:ちょっとこれから優しさを持っていきたいです。

葛西さん:ただ、個人的に裏側で自分の検証用として作っているExcelファイルであれば、難しい関数を使ってもいいですし、マクロやVBAを使ってもいいんですよ。要は住み分けですよね。

Tさん:なるほど。

葛西さん:今回の場合ですと、人件費の組み換え部門や、原価や販管費に組み換えするシート自体は経理部の皆さんが共通で使うシートなので、運用ルールに則ってやってくださいと。ただ、共有せず個人で使うシートに関しては厳しくは求めないですよということになります。

必ず発生する組織体制の変化を活用しつつ、
「他の人が見る、使う」ことを前提とした使い続けられる運用ルールを決める

Tさん:Excelを標準化していくというのは新たな考え方でした。しかしながら、運用ルールを徹底させることには難しさも感じますが、どうすればいいのでしょうか。

葛西さん:トップダウンでじわじわ浸透させていくことが重要でしょうね。そうすることで、異動や転職で入ってきた人にも「このルールでやっているから」と伝えるだけで理解してもらえます。運用ルールがあると、あとから入ってきた人が楽なんですよ。次の人のことを考えながら運用ルール作りをするのが、すごく重要だと思います。「他の人も見る、使う」ことを前提に作ってもらいたいなと。

Tさん:意識していきたいです。ちなみに、葛西さんがこれまで見られてきた中で、特にルールを設けていなかった会社が「ルールを明文化しよう」と思うきっかけやタイミングについて、参考までに伺いたいです。

葛西さん:転職や異動で新しい人が入ってきたことを機に問題提起され、上が問題を認識することで着手するケースが多いですね。今までのやり方を踏襲し、変化させることを求めていない人も多いので、トップダウンは別として、今いる現場の人たちだけで変えようとするのは難しいのでしょう。

Tさん:想像できます。ちなみに、Excel運用ルールは一度作ったあと、見直す必要はありますか?

葛西さん:いえ、1回作ってしまえば、当面の間ずっと使えると思います。Excel自体、そう大きく使い方が変わるものではないので。ただ、最近はAIも出てきたので、Excel運用ルールにAIの使い方などを追加することはあるかもしれません。

Tさん:なるほど。

葛西さん:見直す必要があるとしたら、あまりにもルールが浸透しなかったり、周りから「面倒くさい」という声が多く上がったりしている場合ですかね。細かすぎる運用ルールは浸透しづらいので、浸透していかないのであれば見直す必要があるかもしれません。

Tさん:Excel管理が属人化してしまったり、ブラックボックス化してしまったりといった課題もあるのですが、これらもExcelシートを標準化していくことで解消していけるのかなと思いました。式をシンプルにして、式の意味が部下にもわかるよう、もう少しフレンドリーな形に変えていこうかなと。

葛西さん:そうですね。どういう計算ロジックでこの計算式がここに入っているのかというのを、セルの横にメモしておくと良いですよ。私はメモが習慣化していて、新たにExcelシートを作ったら、隣のセルに「こういう計算式が入っていて、このデータを求めるためなんですよ」と書き込むようにしています。

年に1回くらいしかやらない資料作成の場合、自分自身が「これ何だったっけ?」と忘れてしまうこともありますし、他のメンバーに引き継いで資料を作ってもらうときのことも考えると、とにかく作ったときに書いておくのが重要なんです。作ったときはわかっていても、大体忘れますからね(笑)。

Tさん:そうですね。今すぐにできることなので、ちょっと徹底してみようと思います。

葛西さん:ぜひ試してみてください。

脱Excelには継続的な個別開発が必須なためコストも労力もかかる。
Excelを無くすのではなく、便利に使うための方法を模索することが現実解。

Tさん:最近、リース資産の管理データを会計ソフトにつなぎやすいよう、Excelを作っているんですが、これは私が経理担当をしているからできることだなと思っていまして。他の人に渡し、毎月のリース料を差額を生じさせず入れてもらうには、経理処理の知識、シートの使い方のレクチャーをしなければならないなと。

葛西さん:給与計算以外でもExcelを使われているということですね。

Tさん:ええ。具体的に挙げきれないぐらい多くの業務をExcelで行っています。そこで経理のナレッジ以前に、Excelをどう使ったらいいのかという課題が増えているんですよ。それで、今日お話をお聞きするまでは「Excelから離れたい」と思っていたんですが、他社さんの事例も踏まえると、脱Excelを目指すのではなく、Excelと便利に付き合っていかなければならないのかなと思いました。Excelから離れるとなると、相当な覚悟と能力が必要になるなと。

葛西さん:Excelから離れたい気持ちはわかりますし、たぶん皆さんそう思っていると思います。実際、脱Excelの方法がないわけではないですし、Excelをなくそうとした会社さんも見たことがあります。ただ、実現には追加のシステム開発が必須なんですよ。やろうとすればできるけれども、追加開発に相応の時間もお金がかかっちゃうよねと。

Tさん:でしょうね。

葛西さん:そして、その後も問題がありまして、これまでの会計システムをリプレイスするときに、また同じように追加開発するのか という話になるんですよ。で、結局Excelに戻るケースもあるので、悩ましいところだなと。

Tさん:そうですね。

葛西さん:そして、今はGoogle GeminiなどAIでプログラムのコードを書けるようになりましたので、VBAマクロを使った業務改善ができる人たちも増えてくるとは思います。こうした高度な機能も使いながらうまくExcelと付き合っていくのが良いと思います。

Tさん:そうですね。今日お話を聞くまでは脱Excelしたいと思っていたのですが、ちょっと上手く付き合っていく方向性で考え直してみようと思いました。今日はありがとうございました!