経理の仕事がAIに奪われるのはホント?
AI活用をはじめている経理担当者にインタビューしてみました!
AIが急速に進化している今、「経理の仕事はAIに奪われるのでは?」という声をよく耳にします。
請求書処理や仕訳の自動化など、経理業務の一部ではすでにAIが導入され、
「もしかして、数年後には経理がいらなくなるのでは」と不安を感じる人も少なくありません。
けれど、実際に現場で働く経理担当者はどう感じているのでしょうか?
今回は、メーカーの経理部で10年以上勤務しているAさんに、
“AI時代の経理のリアル”をじっくり伺いました。
―― 最近、「AIが経理の仕事を奪う」という話をよく聞きますが、どう思われますか?
Aさん:
ニュースではよく聞きますね。
ただ、正直「AIのせいで経理の仕事がなくなった」って人、私は一人も知りません(笑)。
AIが得意なのは、いわゆる“定型的な作業”。
たとえば請求書の読み取りとか、仕訳の自動提案とか。
確かにそういう部分はAIに置き換えられていますが、
経理の仕事って、それだけじゃないんですよね。
経理の現場では、数字を見ながら「これは本当に正しいのか?」と考える場面が多い。
仕訳を切るだけではなく、背景を理解し、社内ルールや会計基準との整合をとる必要があります。
AIはルールに従うのは得意ですが、「状況を読んで判断する」という部分はまだ苦手。
だから、AIがどれだけ進化しても、
経理が“いらなくなる”という未来は現実的ではないと思っています。
むしろAIが広がることで、経理の仕事の中身が少しずつ変わっていく。
「手を動かす経理」から「考える経理」へのシフトが進んでいると感じますね。
―― 実際にAIや自動化ツールを使ってみて、感じることはありますか?
Aさん:
すごく便利ですよ。
うちの会社でも、AI-OCRを使って請求書を読み込んで仕訳を自動提案する仕組みを導入しました。
手入力がほとんどなくなって、作業時間は以前の半分以下になりました。
でも、AIが出す仕訳を“そのまま”採用できるケースって、意外と少ないんです。
AIは過去の取引データをもとに判断するので、少しでも条件が違うと間違えることがある。
たとえば、同じ「外注費」でも、
それが製品開発なのか、広告制作なのかで勘定科目が変わります。
AIは文脈までは理解できないので、誤った仕訳を提案してくることも。
あと、経理の仕事って“例外対応”のほうが多いんですよね。
「得意先の請求書の日付がズレている」とか、
「支払いが一部保留になった」とか、そういう細かい判断が山のようにあります。
AIが得意なのは“パターンの処理”。
でも、経理が日々向き合っているのは“パターンから外れた例外”なんです。
だから結局、人の確認と判断が欠かせません。
―― AIを導入したことで、経理の仕事はどう変わりましたか?
Aさん:
「何を自分でやるか」の考え方が変わりました。
AIがやってくれる部分が増えたおかげで、
私たちは“数字の背景を読み解く仕事”に時間を使えるようになった。
たとえば、今までは1日中請求書を処理して終わりだったのが、
今は「この費用はどのプロジェクトに関連しているか?」とか、
「この数字の増減にはどんな要因があるか?」という分析をするようになりました。
AIが得意なのは“処理の効率化”。
でも、そこに意味を与えるのは人です。
数字を正しく処理するだけじゃなく、
その数字を“経営判断に生かせる情報”に変えていく。
そういう仕事が増えた気がしますね。
以前は「決算が締まれば終わり」だったけど、
今は「締まった数字をどう活かすか」が求められている。
AIが入ったことで、経理の役割そのものが“進化”しているのを感じます。
―― 経理におけるAI活用の注意点はありますか?
Aさん:
一番大事なのは、「AIを鵜呑みにしないこと」ですね。
AIの判断は、あくまで過去のデータに基づいた“確率的な推測”です。
正しそうに見えるけど、必ずしも正解ではない。
たとえば、AIが自動で消込を行ってくれるツールを使っていても、
伝票番号が1桁違うだけで別のデータをマッチングしてしまうことがあります。
人間なら「これはたぶん誤りだな」と気づけるけど、AIはそのまま処理してしまう。
だからこそ、AIを導入するほど「監督する力」が必要になります。
AIを“新人アシスタント”だと思って見守るくらいの感覚がちょうどいいですね(笑)。
AIは、指示すればすぐ動くけれど、
本質的な意図までは読み取ってくれません。
経理担当者はAIの出力結果をチェックして、
“なぜこの結果になったのか”を理解する責任があると思っています。
―― これからの経理に求められるスキルは、どんなものだと思いますか?
Aさん:
AIを正しく理解して、適切に判断できる力。
つまり、“AIを使いこなす経理”になることですね。
今のAIツールって、使い方次第で効果が全然違うんです。
AIにどういう条件を与えるか、どういう精度でチェックするか。
その設計力と検証力がある人ほど強い。
あと、ITリテラシーも必要になってきています。
AIがどんなロジックで学習しているのか、
仕訳提案の裏で何を参照しているのかを理解しておくと、
「これはAIが苦手なパターンだな」と予測できるようになります。
経理はもともと“数字に強い人”が多いですが、
これからは“データを扱う人”にもなっていくと思います。
AIを理解し、正しく導ける経理が、今後の組織を支えていくんじゃないでしょうか。
―― 最後に、AI時代の経理にメッセージをお願いします。
Aさん:
AIは決して“敵”ではなく、“味方”です。
AIを導入していくと、一部の業務は確かに減ります。
でもその分、数字の意味を考える時間や、改善を提案する余裕が生まれる。
私はそれを「経理が本来の仕事を取り戻した」と感じています。
AIが進化すればするほど、“考える人”の価値は上がる。
だから、AIを怖がるのではなく、使いこなす。
自分の仕事をAIに奪われるのではなく、AIを自分の仕事に取り込む。
これからの経理は、“AIと共に働く時代”です。
焦らず、一つひとつの業務の中で「どこならAIに任せられるか」を考える。
それが、AI時代を生き抜くための第一歩だと思います。
今回のインタビューを通じて感じたのは、
「AIが仕事を奪う」ではなく、「AIによって仕事の質が変わる」という現実でした。
AIは確かに強力なツールです。
しかし、経理という仕事は“正確さ”と“判断力”の上に成り立っています。
AIがいくら進化しても、数字の背景にあるストーリーを読み解くのは人の仕事です。
経理の未来は、AIに奪われるものではなく、AIとともに広がっていく。
そんな希望を感じさせてくれる取材でした