経理の畑

新リース会計基準にどう対応するか? 「外せないポイント」から考える実務設計

作成者: 固定資産管理|Jun 9, 2026 1:24:52 AM

2027年度以降の強制適用を控え、経理現場では「新リース会計基準」への対応が喫緊の課題となっています。経理の皆さまにとっては、いよいよ「検討」から「実装・テスト運用」へとフェーズが移り、焦りや不安を感じ始めている時期ではないでしょうか。

特に多く耳にするのが、このような悩みです。

  • 今のやり方で本当に大丈夫なのか…
  • 他社はどのように対応しているのか
  • いま構築しているExcel管理の運用は非効率ではないか
  • 他社の事例を参考にすれば抜け漏れのない対応ができるのではないか

新リース会計基準という未知の領域に対する不安から、まわりの様子を知りたいという気持ちが湧き上がってくるのは当然のことです。しかし「他社のやり方をそのまま自社に当てはめて、正解を求めること」はできません。なぜなら、リース取引のボリューム、事業拠点の数、既存の運用ワークフロー、さらに情報システムのインフラまで、企業ごとに前提条件がまったく異なるからです。100社あれば100通りの最適解が存在します。

本コラムでは、経理Aさんのエピソードをご紹介します。他社の事例から何を学び、自社の実務にどう落とし込んでいくべきか、その本質を探っていきます。

契約書管理の理想と現実
「経理がすべての契約締結に目を通す」という決断

プライム上場の製造業で経理部に勤めるAさんは、新リース会計基準への対応を進める中で、現状の業務プロセスを見直しに頭を抱えていました。

ある日、顧問会計士との打ち合わせでの一幕です。

Aさん:先生、新基準では、これまでオフバランスだった賃貸借契約なども資産計上の対象になりえますよね。現状、当社では各事業部が現場判断でコピー機の保守契約や不動産賃貸契約を結んでいて、事後報告で経理に伝わってくるんです。これをすべて確認しろと言われても、いまの体制では限界があります。

会計士:たしかに、現場判断で契約締結が行なわれていると、期末になって「実はこんなリース取引がありました」という漏れが発生するリスクがありますね。

Aさん:はい。調べてみると、大手企業では契約書をスキャンしてAIで自動判定しているケースもあるようですが、当社ではそこまでのIT投資は難しい状況です。とはいえ、このまま「事業部からの報告漏れがないことを祈る」という運用では心もとなくて。

会計士:必ずしも他社のやり方に合わせる必要はありません。自社のリソースに応じた最適な方法を考えていきましょう。特に、期末になってから後出しで取引が発覚するのはリスクが高いです。場合によっては決算の信頼性を損ない、会社の信用低下にもつながりかねません。そのリスクを最小化するためには、経理部がすべての契約書を網羅的に確認する体制を構築することが有効だと思います。

Aさん:それでは経理の負担がかなり大きくなってしまいます…。

会計士:もちろん、現場に十分な知識を持った担当者を配置できるのであれば、現場に任せる方法もあります。しかし、それが難しいのであれば、正しい知識を持つ経理が一次確認を行うほうが現実的でしょう。

Aさん:わかりました。今後は全社共通の「契約決済ワークフロー」に、必ず経理の承認ステップを組み込みます。これまでは契約締結後に通知が来るだけでしたが、これからは締結前に経理が内容を確認する運用に変更します。

Aさんの決断は、一見すると、経理の業務負担が増えるように思えます。しかし、リース識別の知識がない現場担当者が判断を誤り、決算間際に修正が発生する「手戻りコスト」と比較すれば、入口で一度チェックする方がはるかに効率的です。

「最初から正しいデータをシステムに取り込むプロセスを構築すること」
それこそが、結果的に会社全体のリスクを低減し、業務効率の向上にもつながるとAさんは確信しました。

他社の対応方法をそのまま自社に当てはめるのではなく
「外せないポイント」を意識して自社に合った対応が必要

Aさんの決断は、決して「最先端のITを導入した」という華やかなものではありませんでした。しかし、自社の実務レベルに落とし込んだ最適解だったと言えます。

もちろん、Aさんの対応がすべての企業に当てはまるわけではありません。ただし、本エピソードから分かるのは、契約書管理においては「網羅性」「正確性」「効率性」という3つの観点が外せないポイントになる、ということではないでしょうか。

1. 網羅性

すべての契約締結を漏れなく確認できているか。たとえば、本社だけでなく地方支店や海外子会社が独自に締結している契約の中に、リース取引が含まれていないか。これを担保するために、Aさんのように「契約決済ワークフロー」を整備する会社もあれば、定期的に「支払データを抽出・分析し確認する」ことで網羅性を確保する会社もあります。

2.正確性

新リース会計基準に基づき、適切なリース判定ができているか。この判断を現場に任せるのはリスクが高いと考え、経理部に専門チームを設置する方法もあれば、社内向けに「リース判定チェックリスト」を作成し、各拠点の申請者に判断を任せる方法もあります。どちらを選ぶかは、社内の知識レベルやリソースの偏りに応じて判断すべきポイントです。

3.効率性

その業務は、毎月のオペレーションとして持続可能か。「頑張れば対応できる」という属人的な運用は、担当者の異動や決算期の繁忙によってかんたんに破綻してしまいます。毎月のルーティンとして無理なく回せるか、また判定ミスによる「手戻り」という非効率を排除できているか。こうした観点から「人に依存せず仕組みで回る運用」を構築することが鍵になります。

わたしたちはつい「どのシステムを使っているか」というような表面的な手法に目を向けてしまいます。しかし、本当に学ぶべきことは、その企業が「網羅性」「正確性」「効率性」を、自社の制約の中でどのように実現したのかという思考プロセスなのです。

適用開始まで1年を切ったいま、優先すべきことは
自社に合ったプロセスを一刻も早く回しはじめること

新リース会計基準の適用開始まで、残された時間は多くありません。他社事例はあくまでヒントに過ぎず、「他社の動向を見てから」と足踏みしている間にも、現場の業務プロセス構築、運用テスト、Excelファイルの再設計、さらにはシステム選定といったタスクは着実に積み上がっていきます。だからこそ、いま優先すべきことは明確です。

「外せないポイントを押さえながら、自社で回せるプロセスを早期に構築すること」

そして、判断にまよう論点については速やかに専門家へ相談し、滞留させないことです。

重要なのは、他社の表面的な手法ではなく、その裏にある「考え方」を理解することです。Aさんのように、たとえ一時的に特定部署の負担が増えたとしても、「会社全体として最も手戻りが少なく、正確な決算を実現できるフローは何か」という視点で意思決定を行うことが求められます。

まずは、自社の現状を正しく把握すること。そして、不足している部分を洗い出し、一つひとつ埋めていく作業を、スピード感を持って進めていきましょう。その積み重ねの先に、自社にとっての最適解が必ず見えてくるはずです。