固定資産管理というと、経理担当者の多くが「決算期になると忙しくなる業務」
という印象を持っているのではないでしょうか。実際、棚卸の時期になると
「この資産はまだ使っているのか」
「固定資産台帳に載っているけれど現物が見当たらない」
「廃棄済みだと思っていたのに固定資産台帳に残っている」
といった、台帳と実態の乖離を確認する作業に追われることも少なくありません。
その一方で、日常業務の中では固定資産管理を意識する機会はそれほど多くないのも事実です。
経理担当者500人を対象にアンケート調査を実施したところ、会計業務における課題について以下のような回答を得ることができました。
「経理業務の中で、最も課題があると思う業務は何ですか?」という質問に対して、最も多かった回答は「会計(27.2%)」でした。次いで「請求書発行(11.7%)」「連結決算(9.3%)」が続きます。そんな中、「固定資産管理」と回答した人はわずか7.6%にとどまっています。この結果から、経理担当者にとって固定資産管理は、決して毎日向き合う業務ではなく、会計業務や請求書業務と比べると存在感が薄い業務だと言えるかもしれません。
では、固定資産管理そのものに課題はないのでしょうか。
同調査では、固定資産管理業務における意外な実態が見えてきました。
「固定資産管理業務の中で、一番大変な業務は何ですか?」という質問に対して、
最も多かった回答は、「固定資産の棚卸(25.7%)」です。
固定資産管理は月次処理のように毎月発生する業務ではなく、多くの企業で決算や申告の時期に業務が集中します。そのため、日常的な課題としては認識されにくいのかもしれません。しかし実際には、決算期が近づくと状況が一変し、多くの企業が固定資産の棚卸対応に追われています。
つまり固定資産管理は、普段は目立たないものの、いざ決算期になると大きな負担として表面化する業務だと言えるでしょう。
その実態が、本調査結果にも表れているのではないでしょうか。
固定資産管理業務は一般的に、以下の流れで進みます。
つまり、最初の工程である「固定資産の棚卸」に時間がかかれば、その後に続く業務全体が影響を受けます。
決算前になると、経理が関係部門へ何度も確認を行い、台帳との差異を調査し、修正対応に追われる―。こうした状況を経験したことがある方も多いのではないでしょうか。
実は、決算時に固定資産管理の負担が大きく感じられる理由は、この「棚卸」に隠れています。なぜ毎年棚卸で苦労するのか。その原因は棚卸そのものではなく固定資産管理の運用にあるのです。
棚卸に負担を感じる最大の原因は、固定資産の情報を日常的に把握できていないことにあります。固定資産は取得して終わりではありません。日々の業務の中で、固定資産にはさまざまな変化が発生しています。
しかし、こうした情報は必ずしも経理に集まるわけではありません。なぜなら固定資産情報の変化は経理ではなく現場で発生するからです。設備を購入するのは購買部門、利用するのは現場、廃棄を判断するのも現場です。経理が把握する頃には、すでに情報が古くなっているケースも少なくありません。
現場では既に廃棄された設備が、台帳上では稼働中になっている。
別拠点へ移動した設備が、取得時の設置場所のまま登録されている。
購入済みの資産が固定資産台帳へ登録されていない。
このようなズレが少しずつ積み重なり、棚卸のタイミングで一気に表面化します。
その結果、経理は関係部門への確認や証憑の収集に追われることになります。
固定資産台帳と実態の差異が発覚するのは、半期に1回、あるいは年1回の「棚卸」のタイミングです。しかし、固定資産情報の乖離自体は棚卸時に発生しているわけではありません。
本来であれば、その時点で固定資産台帳へ反映されるべき情報が、反映されないまま蓄積されているのです。つまり、「棚卸で問題が起きている」のではなく、「日常業務で発生した問題が棚卸で見つかっている」と言えます。それにもかかわらず、多くの企業では固定資産管理を「決算時に対応する業務」と捉えて運用しています。
この状態では、毎年同じ問題が繰り返されるのも当然です。
実地棚卸で差異が発生すると、経理はさまざまな対応を迫られます。
固定資産管理業務は、棚卸が終われば完了するわけではありません。棚卸によって見つかった差異を一つひとつ確認し、固定資産台帳へ反映し、その後の会計処理や申告へつなげていく必要があります。
さらに近年は監査対応の重要性も高まっています。監査法人からは、資産取得時の証憑や契約書、廃棄の根拠資料、稟議書、現物確認結果などの提出を求められることも珍しくありません。
やっと決算資料を作成し終えたと思ったら、今度は監査対応のために過去資料を探し回る―。そんな経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
また、近年はDX推進の流れの中で、固定資産情報を単なる会計処理のためのデータではなく、経営判断や設備投資管理に活用しようとする企業も増えています。しかし、固定資産台帳と実態が一致していなければ、データとしての信頼性そのものが損なわれてしまいます。正しい台帳を作ることは、決算や申告のためだけでなく、データ活用の前提条件でもあるのです。
このように、決算対応、申告業務、監査対応、そしてデータ活用までを考えると、固定資産管理に求められる役割は以前よりも確実に大きくなっています。
それにもかかわらず、固定資産管理を「決算時にまとめて対応する業務」と捉えていては、毎年同じ確認作業や修正対応を繰り返すことになります。定期的に固定資産情報が整理されていない状態では、経理の負担は今後も増え続けるでしょう。
では、どうすればこの状況を改善できるのでしょうか。
重要なことは、決算前に集中的に対応するのではなく、日常業務の中で固定資産情報を適切に管理できる仕組みをつくることです。
固定資産管理の課題というと、「棚卸をもっと効率的に行う方法」や「決算時の確認作業を減らす方法」に目が向きがちです。しかし、多くの場合、本当に見直すべきなのは棚卸そのものではありません。問題の根本原因は、固定資産に関する情報が日常的に収集・更新されていないことにあります。そのため、まずは資産情報を定期的に確認する運用を取り入れることが重要です。
たとえば、
といった項目を月次業務の中に組み込むだけでも、決算時に発生する確認作業や修正対応を大幅に減らすことができます。
また、固定資産管理は経理だけで完結する業務ではありません。設備を購入するのは購買部門、実際に利用するのは現場、廃棄や移設を判断するのも現場です。つまり、固定資産に関する情報の多くは経理以外の場所で発生しています。そのため、経理だけが頑張っても限界があります。
たとえば、
資産を他拠点へ移設した際は所定の申請を行う
設備を廃棄する際は経理へ連絡する
高額設備を購入した際は管理情報を登録する
といったルールを整備することで、資産情報が自然と経理へ集まる仕組みを構築できます。固定資産管理の改善は、担当者の経験や努力に依存する運用から脱却し、「誰が担当しても情報が漏れない仕組み」を作れるかどうかにかかっています。
決算の負担を軽減するために必要なのは、経理担当者がもっと頑張ることではなく
「日常業務の中で資産情報が正しく経理に伝達され、
固定資産台帳と実態のズレが生じにくい運用を構築すること」
それこそが、毎年繰り返される「固定資産台帳が合わない問題」を解決する最も現実的な方法なのです。
「資産の棚卸に時間がかかる」
「固定資産台帳が実態と合わない」
「決算前になると関係部門への確認作業が増える」
こうした悩みは、多くの企業に共通する課題です。しかし、その原因は決算時の作業量そのものではありません。本当の原因は、取得・移設・廃棄といった固定資産情報を日常業務の中で適切に管理できていないことにあります。
制度改正や監査の高度化、DX推進など、経理を取り巻く環境は大きく変化しています。だからこそ、固定資産管理業務も「決算時にまとめて対応する業務」から「日常的に運用する業務」へと捉え方を変えていく必要があります。
決算前の「固定資産台帳が合わない」問題を解決する第一歩は、棚卸や決算対応を効率化することではありません。
「固定資産情報が日常的に共有され、台帳へ正しく反映される仕組みをつくること」
毎年繰り返される棚卸の負担を少しでも軽減するために、自社の固定資産管理を見直してみてはいかがでしょうか。