上場からわずか1年で時価総額4倍に。名南M&A・代表 篠田氏が語る上場体験談

IPOを実現するのは特別な企業だけではない。地道な努力の積み重ねで成長し、IPO支援家たちの協力のもと上場を実現する。2019年12月に名証セントレックスに上場した名南M&A株式会社は、1年足らずで時価総額が約4倍に急伸、2020年12月には名証二部へのステップアップも実現した。名南M&A株式会社篠田社長が上場体験談を語る。
更新:2022年6月30日
  • ※本コラムは、2021年2月13日時点の記事です。2022年4月4日より新市場区分(東京証券取引所:プライム・スタンダード・グロース/名古屋証券取引所:プレミア・メイン・ネクスト)に再編されています。旧市場名は新市場名に読み替えてご覧ください。

1.IPOを実現するのは特別な企業だけではない

「IPOを実現するのは特別な企業だけ」と、お考えの経営者の方は多いのではないでしょうか。確かに、IPOを実現する企業の中には、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長する企業や独創的なアイディアと技術力で他社を圧倒する企業もあるでしょう。
しかし、そういった企業は実際にはほんの一握りです。多くの上場企業は、地道な努力の積み重ねで成長し、IPO支援家たちの協力のもと上場を実現します。

つまり、すべての企業にIPO実現の可能性はあるということになりますが、前提として間違えてはいけないことがあります。それは、上場の目的を果たすために“適切な市場選択をする”ことです。

2019年12月に名証セントレックスに上場を果たした名南M&A株式会社。
時価総額は上場から1年足らずで、約4倍に急伸(2020年10月末時点)し、2020年12月17日には名古屋証券取引所市場第二部へのステップアップも実現しました。

名南M&A株式会社のIPOを実現した背景にも、地道な努力の積み重ねとIPO支援家たちの協力があり、前提として適切な市場選択がありました。
名南M&A株式会社はなぜ上場しようと考えたのでしょうか?
なぜセントレックスを選択したのでしょうか?
上場までにはどのような苦労があったのでしょうか?

名南M&A株式会社 代表取締役社長・篠田氏が上場体験談を語ります。

会社概要
会社名:名南M&A株式会社
代表者名:代表取締役社長 篠田 康人
本社所在地:愛知県名古屋市
創業:2014年10月
事業内容:M&Aの仲介・コンサルティング/事業継承コンサルティング等
資本金:269百万円
従業員数:37名
証券コード:7076
※2020年9月末時点

2.知名度・信用力のなさに危機感、IPOを目指すと決める

当社は、東海地域を中心に事業を展開する株式会社名南経営(2001年当時)の一事業部として、2001年に開設されM&A支援事業を行っていました。
当時はM&Aに身売りや乗っ取りと言ったネガティブな印象があったため、「企業情報部」という名称で活動し、主に事業承継にお困りの方向けにM&Aの仲介を行っていました。

2011年頃になると、国内のM&A件数が伸び始めました。M&A支援業界のマーケットが年々大きくなっていき、その中で同業他社さんが次々と上場を果たしました。
一方当社は、業界内では古参だったにも関わらず、一事業部でしかないこと、何よりM&A支援事業を扱っていることがあえてわからないように「企業情報部」と名乗っていたこともあり、知名度がありませんでした。

私は大きな危機感を感じました。
コンペティターと比較されたときに、知名度・信用力のなさは成約率に直結するからです。
名南グループM&A事業の責任者として、この業界で生き残るためにはIPOが必要であると確信しました。


▲名南M&A 代表取締役社長 篠田氏、上場への想いを語る

3.上場準備スタート!ショートレビューでの5つの課題

2014年、IPOを目指すために名南グループからの分社化を社内で提案しました。
しかし、当時の企業情報部のメンバーはわずか4名、売上は1億5000万円・・・懐疑的な役員も当然いました。
役員に納得してもらうべく綿密な経営計画を作成し、2014年10月に名南グループからの分社化を果たします。

一方で売上は順調に伸び、2015年には2億5000万円に達していました。
そこで、以前よりお取引のあったあずさ監査法人様にショートレビューを依頼しました。

ショートレビュー時の指摘事項は5つでした。

ショートレビュー5つの指摘
①継続的な収益と成長性
②関係会社取引の整理
③コーポレート・ガバナンス
④業績予測の精度アップ、経営計画の整備
⑤資本政策


この時はまだ認識していませんでしたが、この指摘事項への対応が結果的に非常に大変でした。
名南グループの一員だったため、②関係会社取引は数多く存在しました。整理するのに5年かかりました。③コーポレート・ガバナンスについては、自社内にコーポレート・ガバナンスという考え方が備わっていなかったため、一から体制を構築しました。
⑤資本政策についても、ちょうど子会社上場が厳しく見られ始めた時期ということもあり、上場時の株主構成を見据えて細かく検討しました。

そして、最も大変だったのは、④業績予測の精度アップへの対応です。
M&A支援という事業はフロー型のため、1つの案件が終了すると、次の案件を新たに探さなければいけません。
また、M&Aが成立するタイミングは売主様と買主様に委ねられているため、売上計上時期が読みにくいという課題があります。業績予想の精度がなかなか向上できず、申請期までこの対応に苦慮することになりました。

名南M&Aの上場までの道のり
▲名南M&Aの上場までの道のり

4.主幹事証券会社、証券取引所の選定

監査法人は以前よりお取引のあったあずさ監査法人様一択で決定しました。
主幹事証券会社に関しても、東海東京証券様と古くからお付き合いがあり、お声がけしました。
証券取引所の選定も迷いませんでした。
名古屋で生まれて、名古屋で育ち、これからも名古屋でお世話になるということで、目指すなら名古屋証券取引所様だろうと考え、名南グループの役員にも相談し決定しました。

「なぜ名古屋証券取引所を選択したのですか?」と聞かれることがあります。
上場準備段階でも、やはりマザーズのほうがよいのではないかと言われたこともありました。
しかし、我々の上場の目的は「知名度・信用力の向上」でしたので、その目的が達成できる市場選択をした結果が名証セントレックスでした。
実際に、上場準備段階での名古屋証券取引所様による支援体制はとても手厚く、信頼できるパートナーとして上場実現まで伴走していただきました。
当社は名証セントレックス市場を選択したことに非常に満足しています。

5.上場準備は佳境に・・・振り返ると一番大変な時期だった

規程の整備、内部統制、ガバナンス体制整備、業績管理・・・
IPO準備を具体的に進めていた2016年、今振り返るとこのときが一番大変でした。
当時はフロントで営業もしながら、マネジメントも行い、業績も上げて・・・と何足もわらじを履いている状態だったからです。

上場のデメリットは何ですか?とよく質問されますが、これらの体制を整備することと言えるかもしれません。
上場に必要な体制を整備出来たからこそ上場を果たせましたので、今となっては、この時の頑張りが報われており、良い思い出になっています。

何足もわらじを履いて頑張っていたこととは裏腹に、2017年の売上は目標8億円に対して4.6億円と大幅な未達となってしまいました。
上場に向けて増やした人員の収益化に時間がかかっていたこと、ショートレビューでも指摘されていた業績予測の精度が低かったことが問題でした。
この時期から四半期ごとの予算管理の運用も始めてはいましたが、上述の通りフロー型のM&A支援事業の業績予測の精度はなかなか上がりませんでした。

一方で証券会社より上場スケジュールが示され、最短で2018年12月の上場を目指すことに決まり、IPO準備はいよいよ佳境となっていきます。

6.証券審査に通らず、IPOスケジュールを延期

そして2018年、いよいよ主幹事証券の審査が始まりました。この審査が通らないと取引所審査に進むことができません。
しかし、ショートレビューで問題となった業績予測の精度について厳しい意見をいただくことになってしまいました。
業績予測の精度が低いこと、売り上げも横ばい状態・・・、上場企業が予算を達成できないと株主の皆様にご迷惑をおかけすることになります。そのため、2018年12月の上場は諦めることになりました。

これではだめだと、業績予測の精度向上を目指して、恥を忍んで他のM&A支援企業さんたちに相談しました。皆さん同じお悩みを抱えており、心よく教えてくれました。
助言を取り入れ、2019年には予算制度を抜本的に改善し、格段に向上させることに成功しました。そして、晴れて証券審査を通過し、取引所審査に進むことになります。

7.取引所審査で大問題発覚!緊急役員会招集

名古屋証券取引所様による取引所審査は約2か月で実施されました。
様々な資料やA4用紙6~7枚にびっしり書かれた質問への回答書をわずか1週間で提出し、回答書を元にヒアリングを受けること2回。
そのヒアリング時に突然大きな課題が降りかかったのです。
それは、親会社である名南グループの持ち株比率が高いということでした。

親会社の持ち株比率を減らすためには、親会社の役員会での決議が必要ですが、その日、名南グループの慰労会が名古屋で開かれており、全役員が偶然集まっていました。
その場で役員会を開催してもらい、持ち株比率に関して決議を取り、事なきを得ることが出来ました。
これは本当に偶然で、天が味方をしてくれたとしか言いようがありません。

8.6年の準備期間を経て、2019年12月セントレックスに上場

ついに2019年10月28日に上場承認が下りました。その日は月曜日で、26日土曜日に気持ちを落ち着かせようと座禅をくみに行きました。当然、頭の中は雑念だらけでしたが。
その後、ロードショーを経て、仮条件・売り出し価格が決定、12月2日セントレックスに上場を果たすことができました。
上場日の午前中に主幹事証券である東海東京証券様とともに初値がつくのを確認しました。
午後から名古屋証券取引所様が上場記念セレモニーをご準備いただき、またたくさんの報道関係者にも囲まれ、非常に晴れ晴れしい気持ちでした。
当社は30数名の会社ですので、この上場セレモニーには名古屋証券取引所様にご無理を言って、メンバー全員で参加をさせていただきました。メンバーもなかなか体験できることでないので、全員が興奮していました。

2019年12月2日、名証セントレックスに上場を果たす
▲2019年12月2日、名証セントレックスに上場を果たす

9.上場で享受した3つのメリットと経営者としての自身の成長

IPOの目的は知名度・信用力の向上でしたが、そのメリットは十分享受できていると感じます。大きなメリットは3つあります。

1つ目に、外から見られる目がガラリと変わりました。
上場前と比べて格段に信用力が付いています。

そして2つ目は採用です。こちらも間違いなくプラスになりました。
上場企業とそうでない企業であれば、求職者は上場企業に目が向きます。
これまで難しかった経験者採用が実現しました。

そして3つ目は、これまでには取り組めなかったことに取り組めるようになりました。
たとえば、資金が増えたことにより書籍の出版やセミナーの実施、上場前には振り向いてくれなかった人たちが振り向いてくれるようになりました。

上場で享受した3つのメリット
①外から見られる目が全く変わった
②採用には確実にプラス効果
③これまで出来なかった(想像も出来なかった)ことに取り組めるようになる


上場準備は今思うと非常に大変でしたが、私自身を上場企業の経営者に成長させてくれました。
「上場ゴール」という言葉をよく聞くことがありますが、そんなことは言っていられないくらい経営者としての成長を求められた数年でした。
株主という利害関係者が増えることへの漠然とした不安もありましたが、外部の意見を取り入れることは企業成長のために重要な機会であると、今では心から感じています。
強い信念を持ち、経営者として成長したことで、私自身が上場企業の経営者に相応しいマインドにチェンジ出来たのです。

10.2020年12月名証2部へ昇格、これからの名南M&A

2020年12月17日、名古屋証券取引所市場第二部への市場変更が承認されました。
元々セントレックスはステップアップ市場と考えていましたが、セントレックス上場からわずか1年で次のステップへ踏み出すことができました。 この名証二部への昇格は過去最短であり、M&Aに対する市場の期待の表れであると、改めて気を引き締めています。名南M&A株式会社はこれからも成長を止めることはありません。 さらなる高みを目指して突き進んでいきます。

最後に、経営者の方にお伝えしたいことがあります。
それは、少しでもIPOを検討されているなら、ぜひチャレンジしてほしいということです。

私は元々自社株を多く持っていませんでした。
知名度・信用力の向上を目的としての上場でしたので、正直キャピタルゲインはあまり得られていません。
それでも上場準備を通じて企業そして経営者としての成長を果たした今、こんなに幸せです。
主幹事証券会社、監査法人、証券取引所、信託銀行等、関係機関の方々が手厚くフォローしてくれます。
適切な市場選択で上場への道が拓ける可能性があります。
上場企業になることへの不安や、また上場しても大変なだけだと反対される方もいらっしゃいますが、上場企業になって、初めてわかることはたくさんあります。 また上場企業だからこそできることがたくさんあります。我が国に元気な上場企業が増えることは、我が国の将来にも資することであり、地域創生に繋がることと信じてやみません。
可能性を信じ、自社そして自身を成長させ、上場企業として日本を盛り上げていきましょう。

■ 名南M&A株式会社ホームページ
名南M&Aホームページ

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執筆
名南M&A株式会社<br>代表取締役社長 中小企業診断士/宅地建物取引士<br>篠田 康人氏
名南M&A株式会社
代表取締役社長 中小企業診断士/宅地建物取引士
篠田 康人氏
2001年、株式会社名南経営(当時)においてM&A支援業務を手がける企業情報部の立ち上げに携わり主席コンサルタントに就任。2009年1月部門マネージャー。2014年10月、会社分割により名南M&A株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。中小企業の事業承継型M&A支援を中心にこれまで100件以上のM&A成約実績を有する、東海地区最古参M&Aプレイヤー。

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