まずは、RSUとは具体的にどのような制度なのかについて、基本的な仕組みと構造、そしてなぜ今注目されているのかを解説します。
RSU(Restricted Stock Unit:譲渡制限付株式ユニット)とは、企業が役員や従業員に付与する株式報酬の一種です。付与時点では「現物株」ではなく、将来株式を受け取る「権利(ユニット)」を付与する点が最大の特徴です。
ユニットとは、株式を受け取る権利の単位のことです。たとえば「100ユニットのRSUを付与する」とは、将来的に100株を受け取れる権利を与えることを意味します。このユニット自体には議決権や配当権はなく、一定の条件(ベスティング)を満たすことで、最終的に会社の株式が交付されます。
RSUにおけるベスティングは、「時間条件(勤務年数)」であり、たとえば「3年間勤務すれば全額確定」「毎年25%ずつ段階的に確定(4年間で100%確定)」というように設定されます。加えて、成果に応じて権利が確定する「業績条件」を組み合わせられる場合もあります。たとえば、「新規事業の売上が年間10億円を達成したら付加ユニットの50%が確定する」「プロダクトを期限内に正式にリリースし、KPIを達成したら、残り50%が確定する」のように、一定の成果をトリガーに権利が確定する設計も可能です。
RSUの最大の利点は、「フルバリュー型」である点です。ストックオプションが、行使価額と株価の差額のみが従業員のメリットとなる「値上がり益型」であるのに対し、RSUは権利確定時の株価全額が従業員のメリットになります。このため、株価が低迷している局面でも一定の経済的価値を提供でき、従業員のモチベーション維持に有効です。
RSUは以下の流れで発行され、一定の条件をクリアすることで株式を受け取ることができます。
企業は、報酬パッケージの一部として、または特別なインセンティブ制度として、従業員にRSUを付与します。この時点ではまだ株式は交付されず、あくまで「将来株式を受け取る権利」のみが与えられたことを意味します。付与対象者は、役員や幹部社員、重要なポジションの従業員などが一般的ですが、企業によっては広く一般の従業員に対しても付与するケースがあります。
設定された条件(例:3年間の継続勤務、一定の継続勤務を前提とした売上目標の達成や特定プロジェクトの完遂など)を満たすと、RSUが「ベスト(ベスティング)」し、株式を受け取る権利が確定します。ベスティング期間の設定方法には、一括確定型(例:3年後に100%確定)と段階的確定型(例:4年間で毎年25%ずつ確定)があり、後者のほうが従業員の中長期的な定着を促すため、より一般的です。
また、ベスティング条件には「クリフ期間」を設定するケースもあります。クリフ期間とは、一定期間(例:1年間)は権利がまったく確定せず、その期間を過ぎて初めてベスティングが開始される仕組みです。これにより、短期間で退職する従業員を除外し、コミットメントが本当に高い人材にのみ報酬を提供することができます。
権利が確定することで、従業員は実際に株式を取得します。取得した株式は通常の株主と同様に、売却して現金化したり、保有し続けて配当を受け取ったり、資産運用の一環として活用することが可能です。上場企業の場合、一般的には証券口座に株式が入庫され、従業員は市場で自由に売却できます。ただし、インサイダー取引規制やロックアップ期間の制限を受けることがあるため、売却タイミングには注意が必要です。
株式報酬制度には、RSUのほかにもさまざまな種類があります。それぞれの制度には異なる特徴があるため、企業の目的や従業員のニーズ、成長フェーズに応じて最適な制度を選択することが重要です。ここでは、RSUと類似する主要な報酬制度との違いを詳しく見ていきましょう。
| 項目 | RSU | RS | PS/PSU | SO | ESPP |
|---|---|---|---|---|---|
| 主な確定条件 | 勤務継続(期間) | 勤務継続(期間) | 業績目標の達成 | 勤務継続(期間)や業績条件など | 希望者による拠出 |
| 株式交付時期 | 条件達成後(後渡し) | 付与時 (即時渡し。但し譲渡制限あり。条件達成後、制限解除) |
PSは付与時 (即時渡し。但し譲渡制限あり。条件達成後、制限解除)、PSUは条件達成後(後渡し) |
権利行使時 (行使後に取得) |
購入期間終了後 |
| 自己負担 | なし | なし | なし | 無償SOの場合、権利行使時に行使価額の支払いが必要。有償SOの場合、付与時の発行価額および権利行使時の行使価額の支払いが必要。 | あり (給与天引き等、割引価格で購入) |
| 議決権・配当 | 交付までなし | 付与時からあり | 事前交付型のPSは付与時からあるが、事後交付型のPSUは条件達成後に交付されるまでなし | 行使・株式取得後からあり | 購入後からあり |
| 主な性質 | 安定した報酬・定着(離職防止効果) | 早期の株主化・当事者意識 | 成果への強力な動機付け | 成長・株価上昇へのインセンティブ | 福利厚生・財産形成 |
それぞれの制度について、もう少し詳しく見ていきましょう。
RS(Restricted Stock)は、一定期間の売却禁止(譲渡制限)が付いた「現物株式そのもの」を付与する制度を指します。RSUとの主な違いは、「株式が渡されるタイミング」と「株主権の有無」です。RSUが条件達成後の「後渡し」であるのに対し、RSは「先渡し(付与時)」です。RSでは最初から株主となるため、譲渡制限期間中であっても議決権を行使することや、配当を受け取ることができます。このため、従業員の経営参加意識(オーナーシップ)を早期に醸成できるメリットがあります。一方で、途中で退職した場合は会社に没収される点はRSUと同様です。また、RSは現物出資等の手続きが必要になるため、事務手続きがRSUより煩雑になるケースがあります。
PS(Performance Share)やPSU(Performance Share Unit)は、売上高や営業利益、ROE(自己資本利益率)、TSR(株主総利回り)などの業績目標(パフォーマンス)の達成度合いに応じて、交付される株式数が変動する制度です。RSUとの主な違いは、「条件の内容」です。RSUが主に「勤務期間(時間)」を条件とするリテンション目的の制度であるのに対し、PS/PSUは「業績(成果)」を条件とするインセンティブ目的の制度です。そのため、主に経営陣や幹部社員に対し、企業の業績向上へのコミットメントを高めるために導入されます。基本報酬+RSU(リテンション)+PSU(インセンティブ)という組み合わせで導入している企業も見られます。
SO(Stock Option)は、あらかじめ決められた価格(行使価額)で自社株を購入できる「権利」です。株価が行使価額を上回った場合に権利を行使することで、差額(キャピタルゲイン)を利益として得られます。RSUとの主な違いは、「利益の源泉」と「コスト負担」です。SOは「値上がり益」が報酬となるため、株価が上がらなければ価値はゼロですが、RSUは株式そのものがもらえるフルバリュー型のため、株価が下がっても一定の価値が残ります。また、SOは権利行使時に株式購入代金を支払う必要がありますが、RSUは基本的に金銭負担がありません。日本では無償税制適格SOが広く導入されており、特にIPO準備企業において実績のある制度です。一方、RSUは株価が横ばいでも従業員が確実に報酬を受け取れるため、安定した報酬設計を重視する企業や、グローバル企業での人材獲得競争において選ばれています。
ESPP(Employee Stock Purchase Plan)は、従業員が給与天引きなどで資金を積み立て、自社株を割引価格(たとえば市場価格の15%オフなど)で購入できる制度です。日本の従業員持株会に近い仕組みですが、より短期のサイクルで実施されることが多く、割引メリットが明確です。RSUとの主な違いは、「原資」です。RSUは会社からの報酬として無償で付与されますが、ESPPは従業員自身の給与(自己資金)で購入する、資産運用の側面が強い制度です。福利厚生の一環として導入されることが多いです。
RSUは、企業と付与対象者である役員や従業員の双方に独自のメリットをもたらします。特に「安定性」と「離職防止効果」の高さは、株式報酬制度として導入社数が多いSOにはない強みです。
役員や従業員にとって最大のメリットは、報酬としての確実性です。SOの場合、上場後の市場環境が悪化し、株価が権利行使価額を下回ってしまう(アンダーウォーター状態)と、権利を行使する意味がなくなり、報酬としての価値は実質ゼロになってしまいます。その点、RSUは前述のとおり「フルバリュー型」の報酬であり、株式そのものを受け取ることができるため、たとえ株価が当初の想定より下落したとしても、その時点の時価分の価値は必ず手に入ります。また、株式取得後は株主として配当金を受け取ることも可能になり、長期的な資産形成に寄与します。
企業側にとっての大きなメリットは、強力な離職防止(リテンション)効果です。RSUでは、一度にすべての権利を確定させるのではなく、「3年かけて1/3ずつ確定させる」といった段階的なベスティング設計が一般的です。このような設定により、従業員が「常に数年先の未確定の株式(権利)」を持っている状態を作り出せます。
従業員には「あと1年頑張れば次の分の株式をもらえる」「今辞めると来年確定するはずの数百万円分の権利を捨てることになる」という心理が働き、優秀な人材が早期に退職してしまうのを防ぐ「手錠(Golden Handcuffs)」のような役割を果たします。これにより、目先の株価変動に一喜一憂せず、中長期的な視点で業務に取り組むモチベーションの向上にもつながります。結果として、貴重な技術や専門能力を持つ優秀な人材の長期在籍を促すことになるため、特に人材流動性の高い業界に向いていると言えます。
ハイクラス人材や海外人材などの高年収層の採用においても、RSUが活用できます。現金給与の提示額に限界がある場合でも、RSUによるアップサイド(将来の資産価値)を提示することで、「一定の資産価値は担保されている」という安心感を与えつつ、オファー金額の総額を引き上げ、採用競争力を高めることができます。
RSUには大きなメリットがある一方、一定のデメリットも存在します。
従業員にとっての大きなハードルが「納税資金」の問題です。RSUで株式を受け取った時点(権利確定時)で、その株式の時価相当額が「給与所得」とみなされるため、所得税等の課税対象となるためです。従業員が受け取る報酬はあくまで「株式(モノ)」であり、現金を受け取っていないにもかかわらず高額な税金の支払い義務が発生してしまいます。このため企業側には、株式の一部を売却して納税資金に充てるスキームを設計するなど、従業員の負担を軽減する工夫が求められます。
RSUは原則として、付与時から権利確定するまでのあいだ、公正な評価額に基づいて会計上の「費用(株式報酬費用)」として計上します。想定以上に株価が上昇した場合は、株式報酬費用が多額になり、企業の営業利益を圧迫するおそれがあります。
RSUの導入にあたっては、ベスティング管理や税務申告のサポート業務が経理・総務部門の負担になりやすい点にも注意が必要です。具体的には従業員ごとのベスティングスケジュールの管理や、権利確定時の複雑な源泉徴収事務が発生します。また、インサイダー取引防止のための売却制限管理なども求められます。
RSUは株式で報酬を受け取る仕組みのため、実際の報酬額は相場に左右されます。株価が上昇傾向にある会社では将来の株式分の受取額が増加しますが、株価が下落した場合には従業員の株式分の受取額も減少します。この状況は従業員のモチベーション低下につながるおそれがあり、優秀な従業員が退職してしまう可能性もあります。そこで、RSU導入時には従業員に仕組みを十分に説明し、インセンティブを感じてもらえるようにすることが重要です。
RSUを導入する際、最も高いハードルとなるのが複雑な会計・税務処理です。ここを間違えると、適正な財務報告に支障をきたしたり、税務リスクを抱えたりすることになります。
企業側としては、会計上の費用計上と税務上の損金算入のタイミングが異なる点、および従業員の給与所得に対する源泉徴収義務への対応が実務上のポイントとなります。
会計上、RSUはユニット付与後から権利が確定するまで「株式報酬費用」として計上します。RSUの付与時には、現物の株式は付与されていません。そのため、ユニット付与後、条件とされている勤務期間を達成し権利が確定するまで、毎期末・四半期末等の株価で更新処理をしながら費用計上していきます。想定以上に株価が上昇すると、株式報酬費用の計上金額も膨らんでしまう可能性があります。
税務上、従業員に対してRSUを付与する場合は、権利確定時の時価が損金算入の対象となります。会計上も税務上も時価で評価する点は共通していますが、算定する時点が異なります。会計上は毎期末・四半期末に評価するのに対し、税務上は権利確定時に評価するため、この時点のズレにより納税額の計算において調整が必要になります。また、役員に対してRSUを付与する場合で、「事前確定届出給与」の要件を満たしかつ税務署に事前の届出を行っていると、損金算入の対象になります。
権利確定時(株式交付時)の時価相当額は従業員の「給与所得」とみなされるため、企業はそれに対する源泉所得税と住民税を徴収して納付する義務があります。しかし、実際に従業員に渡るのは現金ではなく株式であるため、納税資金の徴収方法については綿密な事前設計が必要です。実務的には、次月給与からの控除や賞与相殺、株の一部売却などの対応が考えられます。
従業員側では、権利確定時と売却時の2回課税されます。権利確定時は、株式交付時の時価に対し給与所得として最大約55%の総合課税が適用されます。企業側で源泉徴収するケースもありますが、その場合でも、年収2,000万円超、給与所得及び退職所得以外の所得(副業など)が年間20万円超、複数社から給与を受けている、のいずれかに該当する場合は確定申告が必要です。また、売却時には売却益に対して約20%の譲渡所得課税が適用されます。
日本企業におけるRSUの導入はまだ始まったばかりですが、注目企業での導入事例が増えつつあります。ここでは代表的な3つの事例を紹介します。
2018年12月に、日本企業として初めてRSUを導入しました。以前は税制適格ストックオプションを導入していましたが、株価が上がらなければ価値がないSOではなく、株価が下がっても価値が残るRSUのほうが、従業員にとっての経済的メリットと安心感が高いと判断したためです。RSUは権利確定時の株価がそのまま全額従業員のメリットになるため、株価が横ばいでも確実に報酬を受け取れる点を重視して導入しました。
日本を代表するグローバル企業であるソニーグループも、2020年から、譲渡制限付株式報酬(RS)に加えて、事後交付型の株式報酬(RSUに相当する仕組み)を導入しています。グローバルに事業展開する同社においては、海外競合企業に見劣りしない報酬制度を構築し、優秀な人材のリテンション強化を図る狙いがあります。
印刷・物流等のシェアリングプラットフォームを展開するラクスルも、従来のSOに加え、RSUを導入しています。特に、長期的な企業価値向上にコミットする従業員に対し、より確実性の高いインセンティブを提供することで、組織の求心力を高めています。SOとRSUを組み合わせることで、「攻め(株価上昇への意欲)」と「守り(リテンション)」のバランスを取った制度を実現しています。
これまで日本企業では、税制優遇が受けられる「税制適格ストックオプション」一択という状況が続いていました。しかし、人材獲得競争の激化や上場後の株価ボラティリティ(変動)リスクを考慮すると、SOだけでは十分なインセンティブとして機能しないケースも考えられます。
一方のRSUは、税務面の複雑さやコスト負担という課題はあるものの、「株式を報酬として確実に渡せる」という強力なメリットがあります。特に、即戦力のハイクラス人材や海外人材を採用したい企業、あるいは上場後の株価変動に左右されすぎない安定したリテンション施策を求めている企業にとって、RSUは「現金給付」や「ストックオプション」に加え、株式報酬を用いたインセンティブ設計の有力な選択肢の一つといえるでしょう。
出典:経済産業省「スタートアップの成長に向けた インセンティブ報酬ガイダンス(P9成長段階に応じたインセンティブ報酬制度の活用)」