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有償ストックオプションとは?会計処理やメリット・デメリットを解説|IPO準備から内部統制・内部監査ならIPO Compass

作成者: IPO Compass編集部|2026年05月18日

この記事でわかること

  • 有償ストックオプションの仕組みと、無償ストックオプションとの違い
  • 税務上の取り扱い(課税タイミング・税率)と実務上のメリット
  • 有償ストックオプションのメリット・デメリットと適した活用場面
  • 発行時・行使時・失効時における会計処理の基本的な考え方
  • IPO準備企業が導入する際に押さえるべき注意点(有利発行・評価・説明責任)

1.有償ストックオプションの概要

まずストックオプション全体の位置付けを整理したうえで、有償ストックオプションの基本的な仕組みを確認します。

●そもそもストックオプションとは?

ストックオプションとは、株式会社の役員や従業員が、あらかじめ定められた価額で自社株式を取得できる権利を指します。会社法上は新株予約権の一類型として位置付けられており、権利行使によって株式を取得する仕組みです。
この制度では、将来的に株価が上昇した場合でも、事前に設定された価額で株式を取得できます。株式売却時に、取得時との差額が経済的な利益となることから、株価や企業価値の向上が個人の利益に直接反映されます。
こうした特性から、ストックオプションは役員や従業員が中長期的な企業価値の向上を意識しやすいインセンティブ制度として多くの上場企業やIPO準備企業に活用されています。

●有償ストックオプションとは?

有償ストックオプションとは、役員や従業員が新株予約権を取得する際に、その対価として発行価額を発行会社に払い込みます。無償で権利が付与されるのではなく、対象者が自己資金を用いて権利を取得するため、受け取った権利は報酬ではなく購入した有価証券(金融商品)とみなされます。
税務上も、この新株予約権の取得は給与や役務提供の対価とは区別されるのが一般的です。
また、有償ストックオプションでは、業績目標の達成や一定期間の在籍などの行使条件を設け、付与対象者の中長期的な関与を促す設計が一般的です。対象者が自ら資金を拠出する性質上、経営陣や株主と同じ目線で企業価値の向上に向き合うインセンティブを持つ点が特徴です。

2.無償ストックオプションとの違い

有償ストックオプションと無償ストックオプションは、いずれも役員や従業員に対して株式取得の機会を付与する制度ですが、取得時の金銭負担や税務上の取り扱いには大きな違いがあります。特に、無償ストックオプションは役務提供の対価として付与される性質を持つため、課税関係や要件管理が実務上の重要な論点となります。
ここでは、まず無償ストックオプションの基本的な仕組みを整理したうえで、取得時の負担や税制面を中心に、有償ストックオプションとの違いを比較します。

●無償ストックオプションとは?

無償ストックオプションとは、従業員や役員が金銭を支払うことなく、自社株式を取得する権利を付与される制度です。付与時に対価の払い込みを必要としない点が、有償ストックオプションとの大きな違いです。
無償ストックオプションは、税務上の取り扱いにより「税制適格ストックオプション」と「税制非適格ストックオプション」に区分されます。税制適格ストックオプションは、一定の要件を満たすことで、権利行使時の課税が株式売却時まで繰り延べられ、株式売却時に、売却時の時価と権利行使価額の差額に対して譲渡所得として課税されます。一方、要件を満たさない場合は税制非適格ストックオプションとなり、権利行使時のみなし所得(権利行使時の時価と権利行使価額の差額)に対して給与所得として課税され、加えて株式売却時に売却時の時価と権利行使価額の差額に対して譲渡所得として課税されます。つまり、税制適格要件を満たすかどうかによって、課税のタイミングや、給与所得として課税されるか譲渡所得として課税されるかといった点に違いが生じます。

●有償ストックオプションと無償ストックオプションの違い

比較項目 有償ストックオプション 無償ストックオプション
税制適格ストックオプション 税制非適格ストックオプション
付与の性質 投資的性格 役務提供の対価 役務提供の対価
付与時の金銭負担 あり
(発行価額を自費で払う)
なし
(0円で取得できる)
なし
(0円で取得できる)
権利行使時の課税 なし なし あり
(給与課税:最大約55%の累進課税)
株式売却時の課税 あり
(譲渡所得課税:約20%)
あり
(譲渡所得課税:約20%)
あり
(譲渡所得課税:約20%)
税務上の扱い 有価証券(金融商品)として扱われ、株式売却時に譲渡所得として課税される。 給与と同じと見なされるが、税制適格要件を満たすことで行使時点の課税が繰り延べられ、株式売却時の時価と権利行使価額の差額が譲渡所得として課税される。 給与と同じと見なされ、行使時点で給与所得として課税される。また、株式売却時には、売却時の時価と権利行使時の時価との差額が譲渡所得として課税される。
注意点 付与時に発行価額の払い込みが必要。 税制適格要件を満たすことに加え、導入後も継続して要件を満たすよう管理が必要。 課税のタイミングが行使時と売却時の2回に分かれる。

有償ストックオプションと無償ストックオプションの違いは、主に取得時の金銭負担と税務上の取り扱いにあります。
有償ストックオプションでは、役員や従業員が新株予約権の取得時に自己資金を投じなければなりません。このため、税務上は給与や役務提供の対価とは区別され、株式取引に準じた課税関係が適用されるのが一般的です。その結果、権利行使時に課税は生じず、株式売却時に譲渡所得税が課税される取り扱いとなります。
これに対し、無償ストックオプションは、権利取得時の金銭負担がなく、役務提供の対価として付与される性質を持ちます。無償ストックオプションの中でも税制適格ストックオプションの場合は、一定の要件を満たすことで行使時のみなし所得への課税が株式売却時まで繰り延べられ、譲渡所得として課税されます。ただし要件管理が厳格であり、形式的な不備があると税制非適格として扱われる可能性があります。一方の税制非適格ストックオプションでは、権利行使時にみなし所得への給与課税が生じ、さらに株式売却時にも譲渡所得として課税されるため、課税のタイミングが2回に及ぶ点に注意が必要です。
このように、有償ストックオプションと無償ストックオプションは、付与対象者の負担や税務上の扱いが異なるため、企業の成長段階や付与目的、対象者の属性を踏まえて使い分ける必要があります。

3.有償ストックオプションのメリット

有償ストックオプションは、権利取得にあたって対象者が対価を払い込む点に特徴があり、無償ストックオプションとは付与の前提やインセンティブの性格が異なります。そのため、運用や付与対象・付与方法の考え方にも違いが生じます。ここでは、有償ストックオプションの主なメリットを整理します。

●役員や従業員の業績向上への意欲(モチベーション)が高まる

有償ストックオプションは、役員や従業員が自ら資金を投じて新株予約権を取得する制度であるため、企業価値の向上を自分事として捉えやすくなる点が特徴です。株価の上昇が自身の利益に直接結びつく構造であることから、業績目標の達成や中長期的な成長に対するコミットメントが強まりやすいといえるでしょう。

●人材の長期的な定着につながる

有償ストックオプションは、将来的な企業価値の成長が大きなリターンにつながる可能性を持つ仕組みです。そのため、企業の成長と付与対象者が得られる経済的利益を連動させた設計が可能です。
結果として、役員や従業員が中長期的な視点で企業に関与しやすくなり、優秀な人材の定着につながる効果が期待できます。

●株主総会での報酬決議を省略でき、迅速に発行できる

有償ストックオプションは、性質としては報酬ではなく有価証券(金融商品)に該当します。そのため、付与対象者が役員であっても、株主総会における役員報酬決議を必要とせず、取締役会決議のみで発行できます。
特に上場企業などの公開会社では、新株予約権の発行を取締役会決議のみで行えることで、付与時期を柔軟に設定しやすく、迅速に発行できる点が実務上のメリットです。
一方、非上場企業では、新株予約権の発行自体に株主総会決議が必要となる点には留意が必要です。

●課税が株式譲渡時の1回のみ(約20%)で済む

有償ストックオプションは、税務上、購入した有価証券(金融商品)とみなされるため、権利行使時には課税されず、株式売却時の譲渡所得に課税(約20%)されます。
一方、税制非適格ストックオプションでは、権利行使時に給与所得として課税され、所得税と住民税を合わせて最大約55%の累進課税が適用されます。
このように、有償ストックオプションは税制非適格ストックオプションと比べて課税の回数が少なく、かつ税率も低く抑えられるため、税負担を軽減できる点がメリットとして挙げられます。

●社外の人にも柔軟に付与できる

付与対象者の範囲に厳格な制限が設けられている税制適格ストックオプションとは異なり、有償ストックオプションは付与対象者に制限がありません。そのため、自社の役員や従業員に限らず、企業の成長を支える社外の関係者に対しても柔軟に活用しやすい仕組みです。
業務委託先の社外パートナーや顧問、社外協力者、大口株主など、企業価値向上に関与する多様な立場の人材にインセンティブを付与できる点も、有償ストックオプションの特徴といえます。

4.有償ストックオプションのデメリット

有償ストックオプションは、対象者が自己資金を拠出することで企業価値の向上と利害を一致させるインセンティブとして多くのメリットがありますが、導入や運用にあたっては留意すべき点も存在します。特に、対象者の資金負担や条件設計、算定コストなどを事前に考慮しないと、実務上の課題につながる可能性があります。
ここでは、有償ストックオプションの主なデメリットを整理します。

●取得時にまとまった購入資金が必要になる

有償ストックオプションでは、無償ストックオプションと異なり、対象者が新株予約権を取得する際に、購入資金(発行価額)を払い込む必要があります。そのため、資金負担が難しい場合には、付与対象者であっても新株予約権を取得できない可能性があります。結果として、自己資金を拠出できる人材に付与対象が事実上限定されてしまう点は、導入時に考慮すべきポイントです。

●業績等の条件を達成できないと権利が失効する

有償ストックオプションでは、一定期間の在籍や業績指標の達成、上場の実現など、複数の要件を行使条件として設定するケースが一般的です。行使条件を達成できず、対象者が新株予約権を行使できないまま行使期間が経過すると、権利は失効します。
この場合、取得時に支払った購入代金(発行価額)は返還されないため、対象者にとってはその分の損失が確定します。また、行使条件を厳しく設定しすぎると、制度への参加が進まないことや、期待したインセンティブ効果が得られないこともあるため、条件の設計には留意が必要です。

●公正価値の算定に専門的なコストがかかる

有償ストックオプションでは、発行価額が公正な価値であることを示すために、株価算定や評価に関する専門的な作業が必要となります。これらの算定は内容が複雑になりやすく、社内だけで完結させることが難しい場合も少なくありません。
不適切な価格設定による税務上のリスクを避けるため、外部の専門機関に算定を依頼するのが一般的で、その場合には委託費用が発生します。こうしたコスト負担を含めて、導入可否や制度設計を検討する必要があります。

5.有償ストックオプションの会計処理

有償ストックオプションの会計処理は、上場・非上場の区分や、発行・行使・失効といったタイミングによって取り扱いが異なります。特に、費用計上の考え方や評価方法には実務上の注意点が多いため、制度設計の段階であらかじめ把握しておくことが重要です。ここでは、有償ストックオプションに関する基本的な会計処理の考え方を、タイミングごとに整理します。

●発行・付与したとき

・上場企業の場合

上場企業において有償ストックオプションを発行・付与した場合、対象者から払い込まれた金額は、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上します。
併せて、発行時点の公正な評価額が払い込み金額を上回る場合には、その差額を「株式報酬費用」として損益計算書に計上します。この費用は、原則として、付与日時点で想定されている権利確定日までの期間にわたり、各期に按分して計上します。
なお、払い込み金額が公正な評価額と同額である場合には、株式報酬費用は発生しません。

・非上場企業の場合

非上場企業においても、有償ストックオプションの発行時に対象者から払い込まれた金額は、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上します。
さらに、払い込まれた金額が公正な評価額を下回る場合は、株式報酬費用を計上する必要があるかどうかについても検討が必要です。
非上場企業には市場価格が存在しないため、公正な評価額を客観的に算定することが難しく、会計処理においては「本源的価値」を用いる方法が認められています。
本源的価値とは、株式の時価評価額から行使価額を差し引いた金額を指します。発行・付与時点で本源的価値が発生しない場合には、株式報酬費用を計上する必要はありません。一方、本源的価値が発生する場合には、付与された新株予約権1個あたりの本源的価値に付与数を乗じた金額を上限として、付与日から権利確定日までの期間にわたり、株式報酬費用を按分計上します。

●権利が行使されたとき・失効したとき

新株予約権が行使された場合、これまで純資産の部に計上していた新株予約権は、資本金および資本剰余金などへ振り替えられます。一方、行使期間の満了などによって新株予約権が失効した場合には、計上されていた新株予約権相当額は、状況に応じて戻入益として処理されます。

6.有償ストックオプションを導入する際の注意点

有償ストックオプションを導入する際には、税務や会計上の取り扱いだけでなく、会社法上の手続きや対外的な説明責任にも注意が必要です。ここでは、有償ストックオプション導入時に実務上留意すべき主な論点を整理します。

●有利発行とみなされるリスクを回避する

有償ストックオプションを、本来の価値である公正価値よりも著しく低い価額で発行した場合、既存株主の不利益にあたる「有利発行」と判断されるおそれがあります。
有利発行に該当する場合、株主総会の特別決議が必要となり、発行手続きが大きく煩雑化します。さらに、適切な手続きを経ずに発行した場合には、株主から発行の差止めを求められるなど、法的リスクが生じる可能性がある点にも注意が必要です。

●対外的な説明責任(アカウンタビリティ)を果たす

有償ストックオプションの発行にあたっては、発行価額が妥当であることについて、既存株主や税務当局、証券会社などの関係者に対して合理的に説明できる状態を整えておく必要があります。価額設定の根拠が不明確な場合、導入自体が認められないことや、後日、税務上の取り扱いに問題があるとされるリスクがあります。特にIPO準備企業では、資本政策の透明性が厳しく問われるため、客観的な証拠資料を整備しておくことが重要です。

●専門家による評価・アドバイスを受ける

こうした背景から、有償ストックオプションの導入にあたっては、公正価値の算定や制度設計について、早い段階から専門家に意見を求めることが実務上は一般的です。公正価値の算定には、会社法や会計、金融工学に関する専門的な知見が求められるため、社内対応だけで妥当性を担保することは困難なためです。
導入を検討する初期段階から公認会計士などの専門家に相談し、算定書を含む客観的な資料を整備しておくことが、のちのトラブル防止につながります。

7.最後に

有償ストックオプションは、取得時に対価の払い込みを伴う点に特徴があり、付与対象者に対して経営や事業成長への関与を促しやすい制度です。その一方で、取得資金の負担や行使条件の設計によっては、付与対象者が限定されるといった側面もあります。
また、課税関係や会計処理については、上場・非上場の区分や、発行・行使・失効といったタイミングごとに取り扱いが異なります。特に、発行価額の算定方法や費用計上の考え方は実務上の判断に直結するため、制度導入の初期段階から整理しておくことが重要です。
さらに、有償ストックオプションの導入にあたっては、有利発行とみなされるリスクや、対外的な説明責任にも十分な配慮が必要です。IPO準備企業では、発行価額の妥当性や手続面について、関係者に合理的に説明できる体制を整えておくことが求められます。まずは専門家の助言を活用しながら、導入を検討することが重要です。

8.有償ストックオプションに関するよくあるご質問

有償ストックオプションは給与として扱われる?
有償ストックオプションは、税務上は給与ではなく、購入した有価証券(金融商品)として位置付けられます。対象者が自ら対価を支払って新株予約権を取得するため、労務提供の対価とは位置付けられません。
このため、通常は権利行使時に給与所得としての課税は生じず、株式を売却した際に譲渡所得として課税される点が、無償税制非適格ストックオプションとの大きな違いです。
有償ストックオプションの行使条件は?
有償ストックオプションの行使条件は、企業ごとに柔軟に設計することが可能です。一定期間の在籍や業績指標の達成、上場の実現などが条件として設定されるケースが一般的です。
これらの条件を満たさない場合には、権利を行使できず、行使期間の経過により失効することがあります。条件の内容はインセンティブ効果や参加率にも影響するため、慎重な検討が必要です。
有償ストックオプションの税務はどうなる?
有償ストックオプションは、税務上、購入した有価証券(金融商品)として取り扱われます。そのため、権利行使時には給与所得として課税されず、株式を売却した時点で譲渡所得として課税されます。
譲渡所得に対する税率は、給与所得に適用される累進課税と比べて低く設定されているため、無償税制非適格ストックオプションと比較すると、税負担が抑えられる点が特徴です。
有償ストックオプションの行使期間は?
有償ストックオプションの行使期間は、発行時に定められた期間内に限定されます。一般的には、付与日から一定期間経過後に行使可能となり、その後あらかじめ定められた期限までに行使しなければなりません。
行使期間を過ぎた場合、新株予約権は失効し、対象者は権利を行使できなくなります。行使期間は、インセンティブ効果や実務運用を踏まえて設計することが重要です。