内部通報制度は、組織内の不正を早期に把握し、調査や是正につなげるための仕組みです。制度設計にあたっては、自社が体制整備義務の対象となるかを確認するとともに、法令に基づく通報者や通報対象の範囲を把握する必要があります。ここでは、内部通報制度の概要や義務化の対象、導入状況、通報者の範囲、通報対象、通報先を整理します。
内部通報制度は、企業内の不正を早期に発見・是正し、企業と従業員を守るための制度です。この制度に基づき、企業は従業員などから組織内の不正行為に関する通報や相談を受け付け、調査や是正を行います。
出典:消費者庁「内部通報制度を活用して信頼度UP!~ 公益通報者保護法をご存じですか?~」を基に当社にて作成
内部通報制度の整備・運用に当たっては、公益通報者保護法への対応が求められており、同法では、常時使用する労働者数が300人を超える事業者に対し、内部通報制度の整備を義務付けています。ここでいう労働者数には、正社員だけでなく、アルバイトや契約社員、非正規社員、派遣労働者なども含まれます。
常時使用する労働者数が300人以下の事業者については、「内部通報制度の整備に努めること」とされています。対象は民間企業に限らず、公益法人、協同組合、NPO、個人事業主、地方公共団体、国の行政機関などにも及びます。
消費者庁が2023年と2024年に実施した調査によれば、内部通報制度を導入している割合は、常時使用する労働者数が300人を超える事業者で91.5%、300人以下の事業者で46.9%でした。また、制度を導入している事業者では、不正発見の端緒が内部通報であった割合が76.8%と最も高く、内部監査の52.0%を上回っています。
出典:消費者庁「民間事業者の内部通報対応 -実態調査結果概要-」P2、P11
内部通報制度では、従業員や役員、退職者などが通報者に該当します。従業員には、次のような人が含まれます。
役員には、取締役や執行役、監査役などが含まれます。退職者については、退職や派遣労働終了から1年以内の者が対象とされています。
継続的な契約関係にある取引先の従業員・役員・退職者も、その取引先との業務に関して、自社の役員や従業員による法令違反行為等を目撃・把握した場合は、通報者となり得ます。
なお、2026年12月施行の改正公益通報者保護法では、保護される通報者の範囲にフリーランスが追加されます。
内部通報の対象となるのは、公益通報者保護法が指定する「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護」に関わる約500の法律に規定する犯罪行為、過料となる行為、刑罰・過料につながる行為です。
対象行為の例として、横領、保険金の不正請求、性犯罪行為、残業代の不払い、労災隠し、安全基準を超える有害物質が含まれる食品の販売などがあります。ハラスメントについては、刑法上の犯罪に当たる場合に対象となります。
公益通報者保護法では、社内への内部通報だけでなく、行政機関や報道機関など社外への外部通報も認められています。ただし、通報者が保護されるための要件は、通報先によって異なります。
社内への通報では、勤務先の内部通報窓口や上司などが通報先となります。不正がある、または不正が起ころうとしていると思われる場合に通報できます。
社内だけでなく、社外へ通報を行うこともできます。通報先としては、行政機関や報道機関があります。行政機関への通報では、通報内容を裏付ける証拠や関係者による信用性の高い目撃情報などにより、真実相当性が認められることが保護要件の一つです。また、不正がある、または不正が起ころうとしていると思われる場合に、氏名や通報内容などを記載した書面または電磁的記録を提出することも要件の一つとされています。報道機関への通報では、真実相当性に加え、特定の事情があることが保護の要件です。たとえば、社内に通報すると解雇されるおそれがある場合や、組織ぐるみの不正によって証拠隠滅の可能性がある場合などが挙げられます。
2026年12月施行の改正公益通報者保護法では、事業者の体制整備・通報者の範囲・通報を妨げる行為・不利益な取り扱いへの規制が見直されます。ここでは改正法で変更される主な内容を整理します。
改正法では、従事者指定義務に違反した場合、現行法の指導・助言、勧告に加え、勧告に従わない事業者への命令が可能となります。
命令に違反した場合は、刑事罰として30万円以下の罰金が科されます。従来の報告徴収権限に加え、消費者庁による立入検査権限も新設され、報告懈怠・虚偽報告・検査拒否に対しても30万円以下の罰金が科されます。また、労働者等に対する公益通報対応体制の周知義務も明示されています。
改正法では、従来の公益通報者である従業員・役員・退職者に加え、フリーランスも保護される通報者となります。公益通報を理由として、事業者がフリーランスとの業務委託契約を解除することや、その他の不利益な取り扱いを行うことは禁止されます。
また、契約期間中のフリーランスだけでなく、業務委託関係が終了してから1年以内のフリーランスも保護対象となります。
改正法では、事業者が労働者等に対して、正当な理由なく公益通報を妨げる行為を行うことが禁止されます。公益通報をしないことを求める誓約書など、公益通報を制限する合意も無効となります。また、正当な理由なく、通報者を特定することを目的とする行為も禁止されます。
改正法では、公益通報から1年以内に通報者の解雇や懲戒が行われた場合、その処分は公益通報を理由として行われたものと推定されます。従来は通報者側が公益通報を理由とする処分であることを立証する必要がありましたが、改正後は事業者側が公益通報をしたことを理由として解雇や懲戒されたものでないことの立証責任を負うことになります。
公益通報を理由として解雇や懲戒を行った場合、行為を行った個人には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金が科されます。また、公益通報を理由とした懲戒も無効になります。これまでも公益通報を理由とする解雇を無効とする規定が設けられていましたが、改正後は懲戒も無効の対象となることが明確になりました。
内部通報制度は、不正の早期発見や是正だけでなく、外部通報が発生する前の社内対応・不正行為の抑止・社外からの信頼獲得にも関わる制度です。ここでは、内部通報制度を導入することで企業側に生じる主なメリットを整理します。
内部通報制度を整備すると、通常の監査や管理体制では見つけにくい社内不正も、現場にいる従業員の気づきによって早期に把握できる可能性が高まります。現場で不正や違反行為の兆候に気づいた従業員から情報が集まることで、迅速な調査や是正につなげることができます。たとえば横領行為が行われている場合でも、被害額が少ない段階で気づき、社内で対処できる可能性があります。
内部通報制度がない場合、従業員が行政機関や報道機関に直接通報する可能性があります。一方、内部通報制度が整備されていると、従業員がまず社内窓口へ通報しやすくなり、企業は問題を早期に把握して調査や是正を行うことができます。
問題行為が行政機関や報道機関に共有された場合、報道などによって広く周知され、会社に対する社会的評価の損失につながることがあります。内部通報制度は、企業が問題を社内で把握し、外部通報の前に適切な対応を行う機会の確保にも役立ちます。
内部通報制度が存在すること自体が、不正行為に対する抑止力として機能します。さらに、制度が社内に周知されることで、その抑止効果をより高めることが期待できます。
内部通報制度の整備状況は、取引先や投資家が企業のガバナンス体制を見る際の確認材料となります。また、内部通報制度の整備状況と運用実績を公表し、自浄作用のある事業者であることを社外に示すことで、外部からの信頼獲得につながることが期待されます。
内部通報制度の導入は、制度導入の検討・責任者と窓口の選定・従事者の指定・内部規程等の準備・社内周知の順に進めます。ここでは、内部通報制度を導入する際の各手順を整理します。
内部通報制度の導入は、経営幹部を中心に検討します。導入にあたっては、経営トップが制度の意義を理解したうえで、その重要性を社内に発信することが、制度への信頼向上につながります。
消費者庁は、企業の内部通報制度導入を支援するため、「内部通報制度導入支援キット」を公開しています。制度導入を検討する際の参考資料として、内部通報に関する規程や通報受付票の例、従事者向けの研修動画などを活用できます。
参考:消費者庁「はじめての公益通報者保護法」
内部通報対応の責任者を選定します。通報を受け付けたあとの判断や社内対応をスムーズに進めるためにも、対応責任者の役割を明確にします。併せて、通報窓口の設置場所も選定します。社内窓口と社外窓口(通報受付専門会社や外部の弁護士等)のどちらを設けるか、または併用するかを決定します。
通報の受付対応を行う担当者を指定します。通報者を特定する情報を業務として扱う者(責任者・担当者)は「従事者」となり、守秘義務を負います。従事者が通報者を特定する情報を漏らした場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
従事者には、受付対応に関する研修を実施し、守秘義務の内容など、従事者として求められる事項を確認します。
内部通報制度を運用するための内部規程や対応マニュアルを準備します。通報の受付から調査、是正までの流れを文書化し、対応手順を明確にします。また、通報受付票も準備します。受付時に確認する事項を整理し、通報内容や対応状況を記録できるようにします。
従業員・役員等に通報窓口や通報できる内容、通報後の流れなどを周知し、制度の利用方法を社内に共有します。併せて、制度に関する研修も実施します。従業員・役員等が制度の目的や利用方法を理解する機会となります。
内部通報制度を導入する際は、秘密保持の徹底、通報窓口の独立性確保、不利益取扱いの禁止、公正な検討・調査体制の整備が重要です。ここでは、制度導入時に確認する主な事項を整理します。
通報者が安心して通報できるよう、通報に関する秘密保持を徹底します。通報窓口の環境を整備し、通報事案に係る記録や資料は施錠管理します。また、通報に関する記録の保管方法やアクセス権限についても、規程で明確にします。従事者には守秘義務があり、違反した場合は刑事罰の対象となるため、従事者への教育も実施します。
通報窓口は、経営陣や通報対象者の指揮命令系統から独立した形で設置します。経営幹部や役員を含む通報案件に対しても、権限者による不当な介入を防ぐためです。たとえば、監査役や社外取締役に直接通報できる窓口を設ける方法があります。また、法律事務所や専門機関など、利害関係のない外部機関を通報窓口として利用する方法もあります。
内部通報制度の運用規程には、通報者が不利益な扱いを受けないことを明記します。併せて、通報を理由とする解雇・懲戒・不当な配置転換などを禁止する内容も定めます。
通報を受けたら、通報内容を確認し、公正な検討・調査を行います。通報者や関係者など、いずれかの立場に偏らず、通報内容に基づいて事実関係を確認します。
内部通報制度を導入する際は、まず自社が制度整備義務の対象となるかを確認します。そのうえで、通報者の保護や通報窓口の独立性確保、通報後の検討・調査をどのように制度設計に含めるかを整理します。また、2026年12月施行の改正公益通報者保護法では、通報者の範囲の拡大や保護の強化が行われるため、自社の制度や運用が改正内容に沿っているかを確認することが重要です。