原価計算はなぜ必要?面倒な計算をあえて行う理由とは

原価管理と聞くと、「とにかく手間がかかって大変」「そこまで細かくやる必要があるのか」と感じる方も多いのではないでしょうか。

特に、建設業やシステム開発、コンサルティング会社のように、案件ごとにビジネスを行っている企業では、プロジェクト単位での原価把握が求められがちです。

実務では、工数の入力や外注費の集計、配賦計算など、日々細かな数字の管理が必要です。
正確にやろうとすればするほど、管理項目や計算は増え、業務は複雑になっていってしまいます。

「ここまで面倒なことをする意味があるのか」
「そこまでやらなくても、大きな問題は起きないのではないか」

こうした疑問は、多くの方が一度は感じたことがあるのではないでしょうか。

では、なぜ企業はそこまでして原価管理を行うのでしょうか。

原価管理の目的は“削減余地のあるコスト”を見つけること

原価計算は確かに手間のかかる作業ですが、単に掛かった原価を管理しているわけではなく、削減可能性のあるコストを可視化するために行っていると言えます。

というのも、企業は存続のためには成長をし続ける必要があり、そのためには利益を増やすことが求められます。利益を増やす方法は、売上を伸ばすか、原価を抑えるかしかありません。
このうち売上は、市場環境や顧客動向など外的要因に左右されやすいのに対し、原価は自社の取り組みでコントロールできる要素が多く含まれています。
つまり、原価を適切に把握できているかどうかは、「自社がどれだけ利益改善の余地を持っているか」を知ることにもつながります。
逆に言えば、原価が見えていない状態では、どこに無駄があるのかや、どこを改善すべきかが分からないまま経営の意思決定をしていることになります。
つまり原価管理は、「見えないまま判断している状態」をなくし、意思決定の精度を高めるためのものだと言えます。経理部は原価計算を行うことで、経営陣に意思決定の判断材料を数多く渡せることができるため、企業成長に役立つ経理部を目指すのであれば、原価計算は必要なことであることは間違いありません。

ここで、原価管理を細かく行うことでどんな事が見えてくるのかを具体的に見ていきましょう。

具体例①:同規模売上なのに利益が違う理由が見える

例えば、同じ売上規模のシステム開発案件であっても、利益に大きな差が出ることがあります。

  • A案件:売上1,000万円/利益300万円
  • B案件:売上1,000万円/利益50万円

売上が同じである以上、この差は原価の使い方にあります。

そこでそれぞれの案件でかかっていた原価を集計し比較してみると、A案件とB案件には以下のような違いがあることが分かってきます。

<原価の違いの例>
  • 人件費が想定よりも多くかかっている
  • 外注費が膨らんでいる

さらになぜその原価がかかったのかを担当者などに確認してみると、以下のような具体的な原因が浮かび上がってきます。

<原価がかかる原因例>
  • 仕様変更が多く、手戻りが発生していた
  • 見積時点の工数想定が甘かった
  • 内製可能な工程を外注に頼っていた

この時重要なのは、「利益が出なかった」という事実ではなく、「その理由を説明できるか?」ということです。なぜなら、理由が分かることで初めて、“同じことを繰り返さないための判断”ができる状態になるからです。

原価管理がなければ、「この案件は予想以上に利益が出なかったから、同様の案件はなるべく控えよう」といった、定性的な判断で終わってしまいがちです。
しかし、原価の中身まで把握できていれば、どういった要因で利益が出なかったのかが分かるため、以下のように「気を付けるべきポイント」や「見直すべきポイント」を具体的に提示することができます。

<対応策の例>
  • 見積の前提条件を見直す
  • 体制や進め方を改善する
  • 外注の使い方を調整する
具体例②:間接費まで加味することで見えてくる“本当の利益”

もう一つ重要なのが、間接費も含めて原価を見るという視点です。
多くの現場では、案件原価を「人件費や外注費」といった直接費中心で捉えがちです。
しかし、実際には案件の裏側でさまざまなコストが発生しています。

<間接費例>
  • 共通システムやインフラの維持コスト
  • 経理や総務など管理部門の間接コスト
  • 事業所の家賃や光熱費などのコスト

ある案件で、

  • 売上:1,000万円
  • 直接費:700万円

とすると、表面上は「利益300万円の優良案件」に見えます。

しかし、ここに間接費を正しく配賦してみると、実際には利益が大きく圧縮され、ほとんど残っていないというケースも珍しくありません。

例えば先ほどの案件に間接費を配賦すると以下のようになります。

売上:1,000万円
直接費:700万円
    ┗人件費:500万円
    ┗外注費:200万円
間接費: 500万円 (全体の間接費を売上比率をもとに10%で配賦)
    ┗オフィス家賃:200万円
    ┗水道光熱費:50万円
    ┗消耗品費:30万円
    ┗管理部門人件費:150万円
    ┗システム利用料・インフラ費:70万円

【最終的な損益】

売上:1,000万円
-直接費:700万円
-間接費:500万円
=利益:▲200万円(赤字)

一見すると「利益300万円の優良案件」に見えていたものが、間接費まで含めてみることで、実際には赤字であったことが分かります。このように、間接費を含めて初めて、案件単体では見えなかった“本当の採算”が明らかになることがあります。

案件単位で仕事を行うビジネスなため、どうしても案件の原価がいくらかかっているのかを注視し、案件ごとの原価を抑えることに頭を使ってしまいがちです。しかし、間接費も含めて考えてみると、システムやインフラを見直したり、家賃や消耗品費の使い方を見直すだけで、すべての案件の原価を下げることができる可能性が見えてきます。
つまり、個別案件ではなく「全社で効くコスト改善余地」が見えてくる点も、間接費を把握する大きな意義です。

“完璧な原価管理”は目指さなくていい

とはいえ、「ではすぐに細かい原価管理を始めよう」と思っても、現実的には簡単ではありません。

  • どの項目を管理すべきか
  • どこまで細かくするか
  • 現場の入力負担をどう抑えるか

など、事前に検討すべきことが多く、すぐに仕組みを大きく変えるのは難しいのが実情です。
だからこそ、最初から完璧を目指すのではなく、“見え方が変わりそうな部分”から着手することが有効だと言えます。その中でも特に効果が出やすいのが、「認識と実態にズレがありそうな案件」を見ていくことです。

まずは「利益が出ているつもりの案件」を疑ってみる

その入口としておすすめなのが、「利益が出ていると思っている案件」を見直してみることです。

  • 本当にその利益は残っているのか
  • どのコストが大きいのか
  • 間接費まで含めるとどう見えるのか

こうした視点で見直してみると、これまで意識していなかったコストの存在や、案件ごとの特性に気づくことがあります。
特に、間接費まで含めて見たときに初めて、「見かけ上は儲かっている案件」と「実際に利益に貢献している案件」の違いが見えてくるケースも少なくありません。

原価計算は確かに手間のかかる作業です。しかし、その数字を使って「なぜ利益が出なかったのか」を説明できるようになったとき、はじめて次の判断に活かすことができます。
原価管理とは、単なるコストの記録ではなく、“同じ失敗を繰り返さないための材料”をつくるものだと言えるのではないでしょうか。