

経理と現場の協力、そして属人化しない体制作りで、遅れず確実な業務を実現 経験が浅いメンバーがいても関係ない! 社員100人規模の経理担当者に聞く、進化し続ける「月次決算」

経理業務は現場の協力が必須。さらに専門性が求められる仕事なので、どうしても属人化しやすいもののひとつなのではないでしょうか。
今回は、4名で経理を担当している会社のOさん、Kさんに月次決算の進め方についてお話を伺います。その中で、どのように現場と連携を取り、経理チーム内でノウハウを共有、アップデートしているのかを深堀していきます。
第6営業日までに着実に進行
仕組化されたルーティンで遅れ知らずな月次決算を実現
――まずは御社と御社の経理体制について、簡単にご紹介いただけますか?
Oさん:弊社は社員数100名以上の上場企業 です。経理担当は4名で、その上に経営管理本部長がいます。4名で役割分担をしていまして、私とKさんが受領請求書や法人カードの請求書を担当、1名は子会社担当、1名が発行請求書と売上関係を担当しています。
Kさん:私は25年4月で2年目になる社員で、もう1人も新卒社員で4年目です。ただ、この方は入社時から経理ではなく、人事を1年経ての経理担当となります。
――若手、別部署からの異動者など、フレッシュなメンバー構成なんですね!
Oさん:経営本部長を含め経理以外の経験を積んできた方が多いのが弊社の特徴かもしれません。私ともう1名は経理が割と長いのですが、二人とも経理一辺倒ではなく、私も営業事務から始まり、会計ソフトのインストラクターなどを経て今に至っているんですよ。
――経歴豊かなメンバーで経理業務を行っている皆様に、今回は「月次決算」について伺っていきたいと思います。まずは全体のスケジュールを教えていただけますか?
Kさん:第6、7営業日くらいまでに確定させるように進めています。
<第1営業日>
小口現金や貯蔵品、預金関係を確定させる。
小口現金は着払いなど、貯蔵品として計上しているものにはレターパックや切手などがあります。これらは総務担当者への申請を経て利用するルールとしています。そのため、数量のずれなどが生じることなく、適切に管理できています。
<第1~3営業日>
各事業部から上がってくる受領請求書を見て勘定科目などを財務会計ソフト に手入力でデータ化。
同じく第3営業日までには、立替経費の精算も専用の別システム を使って締めるようにしています。
同時並行で売上の請求書作成も行っています。
<第4営業日>
法人カードの明細が届きますので、そちらを財務会計ソフトに入れて計上。
売上もこのタイミングで締めて計上しています。
<第5営業日>
給料や社会保険料の計上と、それぞれ担当している部分について管理表などで残高や、計上漏れがないかなどの確認を行っています。
<第6~7営業日>
社内開発しているソフトウェアに関する計算や原価の振替を行い、それが終わり次第、月次分析の資料や予実分析を進めています。
原価計算については、共通費も人数比で配賦、開発部の方からは工数をいただいて計算しています。これはExcelで管理しています。
――細かくスケジューリングされていますね。しかも都度違ったソフトやシステム、エクセルも活用しながら御社ならではのベストな管理方法が確立されている印象を受けました。
――お聞きしてまず気になったのが、共通費の配賦です。・・・手間がかかりませんか?
Oさん:そうですね。組織が変わることも多いので、そこはちょっと面倒くささを感じています(笑)。
――ですよね。でも本当にスケジュールが明確で、読者の方にとっては非常に参考になりそうです。そしてもう一つ気になったのが、システムが増えることでの大変さもあるのではないかなと。その点いかがでしょうか?
Kさん:そうですね。複数社のシステムを使っていると、どうしてもそのままデータ移行するのが難しく、人のチェックが必要という点は大変なところかなと思っています。弊社も紙で印刷してダブルチェックを行っているので、そこは今後検討していきたいと話しているところですね。
――なるほど。ちなみに、月次決算のルーティンの中で、お二方にとって1番大変なのはどのタイミング、シーンになりますか?
Kさん:私は法人カードを担当しているので、証憑の格納について事業部とやり取りが増えるタイミングが忙しいですね。海外の請求書は時差の影響もありますし、事業部の方がうっかり格納を忘れてしまうケースもあるので、確認やフォローに時間がかかることがあります。
Oさん:給与計算やカードがすべて上がってこないと、その次の社内開発のソフトウェア計算や分析の資料の作成ができないので各作業の進捗は確認しています。今期から子会社が増えたことで連結処理と分析が重なりやすいので、そのタイミングが忙しいです。単体を早く締める方法を考えているところではあります。
――それぞれの立場で異なる苦労があるんですね。ただ全体の流れとして、細かくスケジューリングしてうまく捌かれているのかなと思うのですが、そもそも各フローがずれ込んでしまうことはないですか?
Kさん:毎月ほぼ期日通りに進められているかなと思います。
――素晴らしいですね!ちなみに、現場との連携が必要な請求書や領収書は遅れてしまうという話をよく聞くんですが、毎月どれぐらいの量を処理されていますか?
Kさん:受領請求書だけで平均で200~300件ほどです。
Oさん:経費精算はコロナ禍以降、Webミーティングが増えたからなのか、あまり多くなく、月1回の精算で間に合っています。
遅れない、ブレない
毎月のルーティンを実現する事業部との良好な関係性
――毎月期日通りに月次決算処理するためには事業部の方の協力も必須となるかと思います。ずばり、必要な書類を期日までに出してもらうために何か工夫されていらっしゃいますか?
Kさん:シンプルな工夫にはなりますが、共通のチャットルームで締め日など依頼事項を適宜アナウンスするようしています。また締め日後に財務会計ソフトの月次推移表を利用して、計上されていないデータがあれば、「未着請求書シート」に記載し、経理から事業部に「この請求書は漏れていませんか?」と確認していますね。――“具体的な依頼”を出されているんですね。それは事業部側にとってはありがたいはずです。請求書は割と毎月同じ内容のものが多いのでしょうか。
Kさん:受取請求書に関してはおっしゃる通りですね。ただ、一部には年に1回発生する費用や、突発的なものもありますので、それらも念のため「未着請求書シート」に含めていくようにしています。「未着請求書シート」は、事業部の方で確認していただき「今月は発生しない」などを、記入してもらうという形で運用しています。
――一方的ではない、事業部と皆様の連携があるからこそ期日が遅れないような気がします。また、イレギュラーなものをアーカイブしていく“積み上げ型の管理方法”も魅力です。いつ入力作業をするのか、もうルーティン化されているのでしょうか。
Kさん:毎月第4営業日あたりに通知するようにしていまして、事業部の方にはすでにご認識いただいています。そのため、通知と同時にほぼ皆さんに記入いただいている形になりますね。
Oさん:事業部にも請求書を取りまとめている営業管理のチームがありますので、そちらの方がまとめて見てくれている感じなんです。更に次の予算実績の分析で、「あれ、今月はこれが発生するはずじゃないの?」というところまでご案内できたらいいなと思ってはいるのですが、まだそこにはなかなか行き届いていないのが実情です。
――常にアップデートを考えられているんですね。それが事業部だけ、経理部だけにならず両者で実現をしようとしているのが素晴らしいと思います。
月初の作業後はチームで改善点の洗い出し&アップデート
経歴関係なく、メンバー全員でノウハウを共有し、属人化しない体制へ
――話は戻りますが、月次のタイミングで完全一致を無理に目指さず、少しの含みを持たせて決算時に完全一致させる会社もありますが、御社はいかがですか?
Kさん:月次の段階でできるだけ合わせていくことが私たちのミッションだと思っているので、預金残高では通帳と、他のシステムとの連携も必ず残高など確認をしていますし、毎月届くのが遅い請求書分は概算で計上したり、臨時で間に合わない請求書があるに場合は「未着請求書シート」などから共有いただいて概算計上も行っています。最後にチェックリストを使って漏れのないように、出来るだけ月次で合わせるようにしています。
――徹底されているんですね。
Oさん:はい。経理も4人で対応しているため、営業日ごとに何をするのか進捗管理表で共有できるようにしています。
――連携が取れているんですね!チェックリストは昔からご用意されていたものなんですか?
Oさん:はい。私は以前コンサル会社でいろいろな企業様の経理改善の支援を行っていまして、そのときから月次決算チェックリストなどの管理方法を進めてまいりました。業態ごとに特性が異なるため、それぞれに合わせてアップデートを実施しています。
――まさにOさんの経験が詰まった“経理改善のレシピ”ですね。差し支えなければ、最近のアップデート例について、教えていただけませんか?
Oさん:経理グループ内で年払いの購入申請を忘れそうになったので進捗表に追加しました。細かいことですがミスがあったら進捗表やチェックリストに追加するようにしています。毎月のことでもうっかりすることもありますので、進捗表を見て「まだ賞与引当金の計上が出来ていないから対応しますね。」とか、メンバー同士でもフォローしてくれてます。
――そういったアップデートや情報のインストールもチームで行っているんですか?
Oさん:そうですね。月初の作業を終えたあとがプラスアルファのことができるタイミングになりますので、出てきた反省点に関する改善策などを経理のミーティングでも話しています。マニュアルを作成するなど、属人化しないような工夫も行っていますね。
Kさん:最近はAIの利活用がトレンドですね。Excelやスプレッドシートをよく使うところでは、毎月の月初の作業が終わったころに、使用する関数をChatGPTなどに聞きながら改善させています。
――時間の使い方も徹底されている!チーム内でノウハウの共有が進めば一気に能力が高まりそうです。Kさんは2年目ということでしたが、業務にはすぐに慣れましたか?
Kさん:簡単なものであれば最初の1、2カ月で習得できましたが、1年経ってようやく習得できたものもあります。決算や開示関係などはOさんや他のメンバーと相談しながら作業を引き継いでいっている感じですね。
――特殊な業務ですしね。ただ、お話を伺う限り確実に情報のインストールが進んでいる印象を受けています。
10営業日前後の取締役会に向けて報告書を作成
――最後は報告書について伺いたいです。タイミングや内容などを教えていただけますか?
Oさん:第10営業日ぐらいに取締役会が開かれるので、そこに向けて予算実績の分析資料やBS分析資料、資金繰り表と連結精算表を作成しています。
――作成までの流れもお聞かせいただけますか。
Oさん:分析資料の作成については、私も引き継いだばかりで、まだまだなんです。できるところから始めないと間に合わないため、ある程度仕訳の計上が終わったら順次進めています。ソフトウェアの計算で動く科目は決まっていますので、まず先にBSの分析資料が作れるかなとか。連結精算表も、子会社のところは一旦貼り付けて、連結相殺するところまでを入れておこうかという感じで取り組んでいますね。
――突発的なものが出てくるといったことはあまりないのでしょうか。
Oさん:そうですね。やっぱり締まったと思ったところで「請求書が漏れていました」というケースは0ではないですし、分析中に部門や科目の間違いに気が付いてがっかりすることもありますが、その場合も可能な限り、修正しながら進めています。
――本日はありがとうございました。
月次決算処理については、様々なシステムを活用しながら期日通りに業務を遂行できる仕組みが確立されている。
そのベースとなるのは、経理部・事業部両者の協力を通じた業務アップデートが継続されていること。そして、経理チームは現状に満足せず、シェア・アップデートを徹底されて、属人化しない体制作りができていることがポイントと言えるのではないでしょうか。