独自のフローで現場社員の負担を軽減!1000名規模の会社の経理に聞く「固定資産管理」「新リース会計基準」

「経理の畑サイト」公開記念に行ったお悩み業務の募集で最も多かった「固定資産管理」。 あなたの会社では上手く管理できているでしょうか。

今回は、社員数1000名 ほどの規模の会社で経理を務めるTさん、Oさんに、固定資産管理の方法、新リース会計基準への対応についてお聞きしました。

コミュニケーションを工夫しながら、16名で経理業務を遂行

――まずは、御社の経理体制についてお教えいただけますか?

Tさん:現在、経理部は16名体制となります。

――経理部としてはかなり大所帯な印象です!!どのように役割分担をされていらっしゃるのでしょうか。

Tさん:販売管理をする人、会計処理、財務、財務会計をやる人、連結会計をやる人の3つに分かれています。ただ、業務が被っているので、販売管理、財務会計は基本的に全員で行っている状況です。

――それだけの規模だと、部内での情報連携も大変なのではないでしょうか。

Tさん:そうですね。業務に関わるコミュニケーションはかなり多く、3年ほど前まで経理部の1番の課題でした。というのも、チャットでコミュニケーションを取っていたのですが、情報が流れてしまったり、確認したいコメントや情報を探すのに手間取ったりと、困ることが多かったんですよ。

――なるほど。どのように対処されたんですか?

Tさん:ベースは変わらずチャットなんですが、業務の種類ごとにスレッドをきちんと分け、「この業務についての情報連携はここで行う」と整理しました。そのため、情報を探したいときに探しやすい状態になっています。

――工夫を図って円滑なコミュニケーションを実現されているんですね。

請求書の金額ベースで、効率的に資産を判断

今回は「固定資産」と「新リース会計基準」への対応についてです。まずは固定資産の管理について、どういった流れで現場から情報を集めているのかを教えていただけますか?

Oさん:まず、固定資産の購入内容は、各現場の担当者に購買システム内で購入情報を登録していただいており、購買システムをとおして経理へすべて申請が上がってきます。経理が購入情報を承認したら現場から発注申請が出せるようになっており、登録された情報で発注をしてもらっています。その後は請求書が届いたタイミングで金額を見て、経理のほうで資産にしようかどうしようかの判断が入るという流れです。

――資産にするかどうかの判断や、資産計上はどのように行われていますか?

Oさん:支払い請求書が届いたら、税抜で10万円以上20万円未満のものは一括償却資産に、20万円以上のものは工具器具備品、建物、機械装置と付属設備といったように分けて処理をしています。後者に関しては、設備未払金という貸方を使うようにしているので、使っている会計ソフトの設備未払金の元帳を出してきて、上から順番に資産計上をするという流れになっています。

――支払い請求書の金額で区分けされているんですね。登録作業に当たって、購入された社員の方とやり取りされることはありますか?

Oさん:めったにないですね。請求内容を確認するか、仕入先からの請求書に購買申請の発注ナンバーを記載いただいて納品先を確認しています。もし請求書の情報から分からない場合は、部門や仕入先様に連絡をして部門の特定をするようにしていますが、そうしたケースは滅多にないです。

――なるほど。経理部の中で工夫されて判断、計上されているんですね。資産情報の管理はどのように行われていますか?

Tさん:受領した請求書の内容から仕訳を登録する際に、資産計上するものの内容確認は別の担当者がやっていまして、その内容を固定資産管理システム に手動で登録しています。

――なるほど。お金回りと資産情報の管理で担当が分かれているんですね。

Tさん:おっしゃる通りです。

――ちなみに、資産だと判断された場合、契約書はどのタイミングで収集されるんですか?

Tさん:契約書はあまり確認することがないんですよ。

――そうなんですか。なぜでしょう?

Tさん:個別で購入時に売買契約書を結ぶパターンがあまりないんですよね。

Oさん:そうですね。経理で契約書を見ることはないです。

――最初の申請内容で商品の属性を判断し、固定資産になったら資産登録するという流れなんですね。非常にシンプルです。なお、減価償却費の計上についてはいかがですか?

Tさん:減価償却費の計上は固定資産管理システムに登録する時点で、資産科目や中身に応じて定額や定率のルールが決まっているため、それに応じて登録しています。そうすれば自動的に減価償却費が計算される形ですね。固定資産管理システムから会計システムへの連携は、月次を締めるタイミングで全部まとめて行っています。

――なるほど。ルールが決まってので、経理担当の方はスムーズに登録作業ができそうですね。続いて、決算から申告の流れについても伺いたいです。個別注記表の作成に必要な情報の確認や別表十六の作成について御社ではどうされているのでしょうか。

Tさん:個別注記表に関しては、自分たちで元帳や試算表、補助科目の内訳残高などを確認して計算しています。別表十六の作成は、今はもう顧問税理士に会計ソフト内の情報をお渡しし、すべてお任せしていますね。

2024年の年明けから新リース会計基準への準備を開始。早めに資産計上の対象を洗い出した

――ここからは新リース会計基準への準備状況を伺いたいと思います。ご対応状況はいかがですか?

Tさん:弊社は倉庫が15拠点くらいあるんですが、それらすべてが賃貸なんです。それが新リース会計基準になると資産対象となり計算しなければならないため、まずリース会計基準が適用された場合の資産計上の対象になるものの洗い出しをあらかた終わらせました。(2025年10月 取材日時点)

現状では、大体の影響額がどれぐらいになるかというところの試算までは終わっていて、監査法人とも結果を共有しています。新リース会計基準の適用をいつさせるのかまで話が進んでいるという状況ですね。

――現在、影響が及ぶところを精査している会社様も多いなか、御社は早々に準備を進められたんですね。

Tさん:そうですね。倉庫がすべて賃貸というのが、結構影響が大きいだろうと思ったので。資産の総額が、2倍近くまで増えてしまうことになるんですよ。

――2倍!そんなに変わるんですか?

Tさん:そうなんです。そこからリース債務を計上し、支払利息が営業外費用で上がることまで考えると、経常利益への影響額がだいぶ大きくなるだろうなと思ったので、早めに計算しておいて、経営陣に情報を早めに出しておこうと思いまして。倉庫は定期借家なので、リース会計基準を適用させるまでの2、3年の間で契約更新のタイミングがくる物件が絶対にあるので、その時に「契約更新しますか?」「引っ越しますか?」「購入しますか?」という選択ができるよう、早く進めておいたという感じですね。

――なるほど。ちなみに、動かれ始めたのはいつ頃なんでしょうか?

Tさん:2024年の1、2月だった気がします。

――1年半ぐらい前ですね。

Tさん:ええ。適用が決まったタイミングで、「そうか、今の倉庫が資産になるのか。だとしたらちょっとたまったものじゃないな」と思ったので。

――早め早めに準備を進められていて素晴らしいと思います。倉庫以外に、新リース会計基準に関わる資産はありますか?

Tさん:あまりレンタルをしない会社なので、今のところはないですね。一部、少額のリースもあることにはあるんですけど、それもやめようという方針で動いています。

――なるほど。

Tさん:あるとすれば、社員向けに提供している社宅、技能実習生向けの寮が挙げられますが、1物件あたりの金額が少ないので、ここは監査法人の方とお話し、「対象外だよね」と決めています。それまで含め始めたら大変なので、やめておこうと(笑)。

経理への事前の購買申請はなし。独自のフローで合理的な固定資産管理を

――あらためて、固定資産管理に関して業務を上手く進めるために何かされている工夫はありますか?

Tさん:個人的には上手くいっていると思っていないんですよね……。Oさん、何かある?

Oさん:そうですね。昔は資産計上時に、設備未払金ではなく、それぞれ買掛金にしたり未払費用で計上していたんです。その後、資産科目から資産登録するものを選んでいたので、結構漏れることがあったんですよね。設備未払金に統一して、その中から確認することにしてからは、「これ、登録漏れてましたね」といったことはなくなったかなと思います。工夫というと、そのレベルですかね。

――漏れが改善したのであれば、工夫が活きていると言えますね!

Tさん:あと、固定資産管理という観点とは少し違うかもしれませんが、設備未払金で統一したということでいうと、キャッシュフロー計算書を作るとき、つまり固定資産の増減をみるときの分析が必要なくなりました。設備未払金をちゃんと使うことで、キャッシュフロー計算書作成時に未払金の中から固定資産関連の未払いを分解させるという分析が必要ないようにしています。

増減についても、固定資産管理システムとキャッシュフロー計算書を作る連結会計システムとを連携させて、除却の増減分析に必要な情報を取得できるようにして、その作業自体をある程度は自動的にできるようにしようという動きがあります。

――ありがとうございます。固定資産は購入を申請する段階で資産の判定をしていく会社が多いイメージがありましたが、御社の場合はワークフローがあるわけではなく、購買システムで入力し、買った事実のデータを設備未払金で抜いて、そこを一覧化してから判定するという流れということですね。

Tさん:そうですね。

――設備未払金という科目で分けて判定しているというのは初めて聞いた気もします。面白いですね。

Tさん:たぶんあまりないやり方かなと。そもそも、うちはワークフローがおかしいんですよ。

――どういうことでしょう。

Tさん:通常のワークフローの場合、現場の方がまず購買申請を上げると思うんですね。

――そうですね。

Tさん:その後申請が通ったものが購入され、現場に請求書が届き、経理側に支払いで上げて、その申請に対して初めて経理側がアクションするのが一般的かなと思うんですが、うちはそうじゃないんですよ。請求書がすべて経理に届き、経理が請求書の内容をすべて確認して内容を特定していくので、言ってしまえば現場はノータッチなんですよね。

――なるほど。となると、経理の方からすると、届いた請求書をチェックしていて「何これ?」みたいなものがあったりされるのでは……?

Tさん:もう毎月ありますよ。「なんだこの請求書」っていうのは(笑)。

――おお。そうしたものが出てきたら、現場の方に確認するということですか?

Tさん:そうですね。中身が何なのか本当にわからないもの、支払っていいのか疑問のあるものに関しては確認します。

――なるほど。でも、支払いも資産の判定も経理がやると考えると、合理的なやり方と言えるのかもしれませんね。

Tさん:そうなんですが、このフローには1つ課題があって、部門の特定が面倒くさいんですよ。請求書だけが届いている状態なので、どの部門のものなのか、情報がないとわからないので。そこさえクリアになれば、現場も楽ですし、いいやり方かなと思います。

――いい方法が見つかったら、またぜひ教えてください。ありがとうございました!