従業員が“期日を守ってくれる”依頼の仕方

経理の現場では、従業員からの申請が期日どおりに揃わず、月次作業や支払業務に影響が出ることは珍しくありません。
「締切は伝えているのに、毎月遅れる人がいる」
「ルールを周知しても、なかなか守ってもらえない」
こうした悩みは、多くの経理担当者が抱えているものです。
様々な企業にインタビューを行う中で、申請遅れがあまり発生していない企業では、共通して期日の“理由”を共有しているという工夫をしていることが分かってきました。

本記事では、成功企業の具体的なエピソードと、すぐに使える伝え方をまとめました。

■ 成功事例①:営業部の請求書提出が遅れていた会社

ある会社では、営業部からの請求書提出が締切ギリギリ、あるいは数日遅れることが続いていました。
経理が何度「締切を守ってください」と伝えても改善はなく、むしろ「経理が厳しい」という印象が強まっていきました。
そこで経理担当者は、営業部リーダーに10分だけ時間をもらい、支払処理の工程を簡単に説明しました。
すると、「そんなに工程が多いとは思わなかった」という声が上がり、翌月から提出が少しずつ改善。
無理をさせたわけでも、ルールを変えたわけでもなく、ただ“理由を知った”ことで行動が変わっていったのです。

■ 成功事例②:経費精算の遅延が続いていたデザインチーム

創造系の仕事が中心のデザインチームでは、経費精算が後回しになりがちでした。
経理は個別に催促せざるを得ず、精神的にも業務的にも負担が大きくなっていました。
そこで経理は、デザインチームの週次ミーティングで時間をもらい“経費精算が遅れると何が起きるのか”を2~3分で説明しました。
「キャッシュフローに影響する」
「決算の作業が後ろ倒しになる」
といった具体的に会社にどんな影響を及ぼすのかについてです。
デザインチームメンバーが「それなら早めに出したほうがよさそう」と理解したことで、チーム内で自然に声がけが起き、徐々に遅延がなくなっていきました。

■ 成功事例③:若手社員は“意味”を知らないまま期日を迎えていた

若手社員の多くは、「経理に怒られるから提出する」という感覚で業務を捉えることがあります。
ある会社でも、若手メンバーが期日の意味を理解できておらず、結果として提出が遅れがちでした。
経理は、若手向けに各種申請について説明する時間を確保してもらい、申請がどの工程で使われ、遅れると誰が困るのかをシンプルな図と共に説明しました。
すると、「自分の提出が会社全体の仕組みにつながっていることが初めて理解できた」
という感想が多く、徐々に提出タイミングが改善していきました。

■ 成功事例の共通点

どのエピソードも、

  • ルールを厳しくしたわけでも
  • システムを変えたわけでも
  • 強く叱ったわけでもありません。

なぜその期日なのか、「理由」を伝えただけなのです。

■ なぜ「理由」を伝える必要があるのか

ルールなのだから、期日を伝えれば守ってほしいと考えるのは当然ですが、従業員と経理部門では担う役割が異なるため、前提となる視点に相違が生じることは避けられません。その結果として、自分たちの会社のために定められた期日であっても、従業員には一方的な強制と受け取られてしまう場合があります。
経理部門はこうした状況に対して、期日設定の根拠や必要性といった「理由」を説明することができる存在です。全ての期日は企業の健全な運営・存続を目的として設けられているという事実を踏まえたうえで、各部門がそれぞれの前提を相互に理解する努力を重ねていくことで、申請遅れは減っていくでしょう。

経理が見ている前提
  • 月次締めのタイミング
  • チェック工程の数
  • 承認が必要な理由
  • 振込データ作成に必要な日数
  • 銀行の締め時間
  • 外部提出期限
従業員が見ている前提
  • 自分のタスクの優先度
  • 締切ではあるが“後でも良さそう”な感覚
  • 経理工程の存在自体を知らない

それぞれの前提の差を完全になくすことはできませんが、見ている世界が違うということを認識したうえでコミュニケーションを取り、少しでも無くしていくことができれば、必ず行動に変化は生まれてきます。
だからこそ、期日は「守ってほしいこと」ではなく、「なぜ必要か」まで説明することが重要です。

■ どう伝えるか?押さえておきたい3つのコツ

「理由」を伝えることに挑戦してみようと思っても、新たなことへの挑戦は、「本当にうまくいくのか?」と不安が先立ち、なかなか行動し始めることは難しいものです。
次回の期日連絡の際には、ぜひ以下の3つのコツを意識してみてください。

  1. 理由は“工程”とセットで伝える
    「〇日までに提出してください」だけでなく、
    「承認→チェック→振込データ作成に〇営業日必要」という実際の工程を添えましょう
  2. 影響は“会社全体”の視点で伝える
    「遅れると経理が困る」ではなく、
    「翌月支払になり、取引先への説明が必要になる」など、相手の業務にどう影響するのかを示しましょう。
  3. 視覚化で理解を早める
    簡単なフロー図を1枚添えるだけで、文章よりも伝わりやすくなります。
    「自分が遅れるとどこが止まるか」が一目で分かるようにしましょう。

■ すぐ使える!依頼文テンプレート

3つのコツを押さえた、請求書申請を依頼する文章を見てみましょう!

毎月、請求書支払申請のご協力を頂きありがとうございます。
〇月〇日に支払が必要な請求書は、〇月〇日〇時までに経理へ提出をお願いします。
申請 → 上長承認 → 経理チェック → 振込データ作成で合計〇営業日必要なため、確実な支払いのため、期日までの申請へご協力をお願いいたします。
遅れると翌月支払となり、取引先へのご説明いただく必要がございますのでご了承ください。

このテンプレート文章では、

  • 期日までの提出が何のために必要なのか?
  • なぜその期日なのか?
  • 遅れた場合どうなるのか?

が端的に理解できるようになっています。
期日の依頼の身を行っている場合は、ぜひ来月から活用してみてください。

■ さらなる工夫:現場とのコミュニケーションと責任者の巻き込み方

全体に対しての告知の工夫はもちろん大切ですが、変化を加速させるには個別でのコミュニケーションを取り関係性を構築していくことが効果的です。また、責任者を上手く巻き込み、チーム全体として期日を守る空気をつくっていくことができると、加速度的に変化が起こります。それぞれ、コミュニケーションを取る際に気を付けてみてください。

現場とのコミュニケーション

お互いに顔を知らないようなケースも多く、テキストコミュニケーションになることも多いです。様々な事情があるなか申請を行っている背景を鑑みてコミュニケーションを取りましょう。

  • イレギュラー対応は“責めない+次につなげる”
    取引先の都合で提出が遅れたり、提出日周辺に仕事が立て込んでいたりなど、その時々で提出が間に合わないという事象は発生します。イレギュラー的な対応を行った場合は、次回は期日通りに提出してもらうようなやり取りを意識しましょう。

    例)今回事情があり提出が遅れた件、承知しました。
    来月も同じ工程になるため、〇日までにいただけると確実に支払に間に合います。
    ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
  • 早い提出には必ずフィードバック
    従業員の中には、速くに提出してくれる方がいたり、前月と比較して早い提出の月があったりします。そういった際には、おかげでスムーズに処理できているという感謝を伝え、次回以降もスムーズな提出をしたくなるような工夫をしましょう。

    例)早めに対応いただきありがとうございます。
    チェック作業を予定通り進められており、確実な支払いを行えます。
    引き続きご協力のほどよろしくお願いいたします。
責任者の巻き込み方

現場において、責任者の方針というのは大きな意味を持ちます。責任者に申請期日は自分たちのために守るものという意識を持ってもらえば、その意識は現場に浸透します。理由を伝える場を設けたり、日々のコミュニケーションの中で依頼をしたりと、上手く巻き込んでいきましょう。

責任者に伝えるべきこと
  • なぜその期日で会社にとってなぜ必要なのか
  • 遅れがその部にどんな影響を与えるのか
  • 部下に伝えてほしいメッセージ

例)会社のキャッシュフローを適切に把握するため、毎月の申請の適正化に力を入れています。月末の支払処理に間に合わせるため、承認を〇日までに完了いただけると助かります。部内においてのお声がけのご協力をお願いいたします。

■ 理由から始まり、文化につながっていく

エピソードの3つに共通していたように、「理由を伝える」だけで行動が変わることがあります。
ただし、全員がすぐに変わるわけではありません。習慣が変わるには時間が必要です。
しかし、

  • 理由が伝わる
  • 優先順位が変わる
  • 行動が少しずつ変わる
  • それがチームに広がる

という流れが定着すると、
「怒られるからやる」ではなく、
「経理が困らないようにしよう」という文化が育ちます。
経理ができるのは、その第一歩――
理由を共有し、行動しやすい環境をつくること。
その積み重ねが、組織全体の安定した運営へとつながっていくはずです。