企業の成長実態を追うために重要な予実管理。あなたの会社では、どのように管理していますか?
今回は、社員数1000名ほどの規模の会社の経理部から、代表してTさんにお話を伺いました。
予実管理システム・会計ソフトで実績を把握
――まずは、御社の経理体制について教えていただけますか?
Tさん:現在、経理部は16名体制となります。販売管理をする人、財務会計をやる人、連結会計をやる人の主に3種で役割分担しています。販売管理、財務会計は基本的に全員がやっている状態ですね。
――ありがとうございます。今回のテーマは「予実管理」です。御社ではどのように予算を管理されていらっしゃいますか?
Tさん:基本的に一旦、経営企画で予算の数字を作っています。それを各現場に下ろして、数字に問題がないかどうかの確認作業を行っていく流れですね。
――現場の確認が済んだものが経理にやってくるのでしょうか。
Tさん:いえ、予算管理に経理が絡むことはないですね。最終確定した予算情報を予実管理システムに登録する作業があったのですが、それも今はなくなりました。
――では、経理部の役割は?
Tさん:実績を流し込んで、予実を見ることです。
――なるほど。とすると、予実対比表は経理側で作成している?
Tさん:作っています。予実管理システムを使って予実対比表を作成しています。月次の数字と実績、会計ソフトの仕訳明細をすべて連携させていまして、予実を比較した数字を毎月出しています。
――予実の分析をするのも経理部ですか?
Tさん:全社の数字は経理部で見ていて、各部門の数字の中身の分析は、部門の責任者がやっています。
――そうすると、経理部と各部門は同じデータに対して、それぞれ見るべきところを分析されていらっしゃる?
Tさん:その通りです。
――なるほど。ちなみに、経理の立場ではBS、PLはどういった粒度で見られていらっしゃるのでしょうか。
Tさん:BSの科目でいくと、特に重要視しているのは預金残高です。現預金残高の推移だけを追っていますね。あと見るとしたら、長期借入の残高ですかね。
――なるほど。非常にシンプルですね。どんなところに注視していらっしゃるのでしょうか?
Tさん:毎日、キャッシュがどれぐらいあるのか見ています。「このタイミングだと、これぐらいのキャッシュがあるはずだよね」という目安の数字は大体私の中にあるので、そことズレがあれば、「何か大きな支払いがあったのかな?」「入金が遅れている先があるのでは?」とキャッチできます。キャッチするためにも、預金残高を毎日見ている感じですね。
――毎月の数字の変化をある程度把握されているからこそ、キャッシュの変化が適切かが分かるわけですね。
Tさん:そうですね。月末時点では、キャッシュの他、長期借入の銀行別の残高を確認しています。その上で、次の投資予定で決まっているものがあれば、どの銀行に対して融資提案を依頼しようかを決める参考までに借入残高も見るようにしています。
――それらも予実管理システムでチェックされているんですか?
Tさん:いえ、使っているシステムではまだBSが見られないので、会計ソフトのほうで見ています。
――では、そこは予実ではなく実績の数値だけを見られていらっしゃる?
Tさん:そうです。BSの予実比較はしていないんです。予実比較はPLのみですね。
――そうなんですね。PLではどの科目を重要視されていらっしゃいますか?
Tさん:もちろん売上ですね。弊社は物流事業をメインとしており、売上を構成する要素が「作業」、「運賃」、「家賃」と3つあります。そのため、それぞれの数字を見て、まず「作業」でどれぐらいの売上があるのかが1つのポイントになっています。特に、「運賃」は売上が大きくなりすぎると利益率が極端に下がってくるので、そこは注視するようにしています。3つの売上が想定通りの割合になっていると、想定通りだなと判断しています。
あとは原価ですね。製造原価の中で、「人件費」、「運賃原価」、「家賃」の割合が原価内で大部分を占めるので、それらが基準値内にあるかどうかを見ています。
――なるほど。製造原価も重要なんですね。
Tさん:そうなんです。さらに、重要な原価3つを見たときに、「家賃」は金額が固定ですが、「運賃」は変動するため推移をコントロールすることはできません。そのため「人件費」を特に注視しています。
――「人件費」を注視というと、具体的にどのような確認をされているのでしょう?
Tさん:だいたいは法定福利と残業代を見るようにしています。そして、作業の売上と人件費から粗利を出します。粗利率の基準を弊社内で持っていますので、その基準に沿ってみていけば、作業で儲かっていない拠点がわかるので、そこの拠点を詳しく確認します。
――なるほど。
Tさん:そこからさらに、売上総利益率の基準も弊社で定めているため、そこをクリアしているかどうかまでを見ていますね。また、別の事業では毎月の売上推移が増加傾向にあるかどうかを見ています。
――きちんと基準を設けられて推移を見られていらっしゃるんですね。どのようにこの基準を作り上げてきたのですか?
Tさん:経験と勘ですね。大体これぐらいだろうと。
――お話を伺っていると、Tさんが経理でありながら経営目線に近い予算の見方をされていらっしゃるという印象を受けました。
Tさん:決算を発表する際、投資家向けの説明会を経営層が行うのですが、そこで投資家から聞かれますからね。私自身が経営企画にも所属していて、ここ3年ぐらい全社の予算を作っているのもあり、数字を見なくても「大体ここの拠点はこういう数字になるだろうな」と予測できるんです。
――なるほど。経理だけのご担当ではないんですね。
Tさん:そうなんです。何でも屋みたいな感じなんですよ(笑)。
――先ほど出てきました粗利率の基準については、各拠点の責任者の方たちも意識されていらっしゃるんですか?
Tさん:はい。現場では日計表を付けていまして、その日計表をベースに、責任者が日報を上げることになっているんです。そこで、その日単位での売上、原価、粗利、利益率がわかる形になっています。私も日報を見ていまして、最終月次で締めた数字の結果との整合性についても見るようにしています。
Excel管理だと属人化が進む。ツールを導入することで、管理・共有もスムーズに
――経理部の業務に使えるツールにはいろいろなものがありますが、予実管理システムは導入が後回しにされがちだと感じています。御社が予実管理システムを使い始められたのはいつ頃からですか?
Tさん:まだそんなに経っていないですね。去年からです。
――割と最近なんですね。では、その前は何で管理を?
Tさん:Excelです。
――なるほど。ツールを導入されたのは、Excelでの管理が限界だったからなんでしょうか。
Tさん:そうです。ただ、今使っているツールは、私の判断で一度導入を見送ったんですよ。
――それはなぜですか?
Tさん:ちょっと費用が高いなと。ただ、社長が展示会でそのツールを見て、導入するよう指示が出たので、導入することになりました。トップがそれだけのコストをかけていいと判断したのであれば問題ありませんので。
――ツール自体を入れたい気持ちはあったと。
Tさん:入れないといけないと思っていました。PLの区分ごとの粒度で数字を見られるよう、粗利計算みたいなものをExcelで管理していたんです。で、それを現場側にも共有していたんですが、Excelだといじれてしまうので、確認中に変なところを触られて数字がおかしくなってしまうということがあって。
――ああ。それは……
Tさん:もう、何してくれてるんだ、となるじゃないですか。そういう管理面や共有面で課題があるなと思っていました。あと、Excel管理だと仕事が属人的になってしまうのも課題でしたね。どこのシートからどの数字を引っ張ってきて、関数がどうなっていてどう計算されているのか、部下に説明してもたぶんわからないので。そうなると、私しかできない状態になってしまい、関数エラーへの対処もすべて私になってしまう。それはまずいよねと。
――Tさんがいなくなったら回らなくなってしまいますもんね。
Tさん:ええ。あとは、月次の速報値を発信するための作業に、半日ぐらいかかっていたことも課題でした。月初の締め日の残業が絶対になくならないという状態になってしまっていて、これは嫌だなと。だからシステムを入れたかったんです。
――なるほど、導入を決められた背景がよくわかりました。本日はありがとうございました!