「その業務、まだExcel使ってるんですか?」
最近、会計システムやクラウドサービスの導入が進む中で、こんな言葉を耳にすることが増えました。確かに、仕訳入力や帳票作成など、かつて手作業やExcelで行っていた業務の多くは、今やシステムが自動で処理してくれる時代です。業務効率化や人的ミスの削減を目的として、Excel管理からの脱却を目指す企業も少なくありません。
しかし、経理一筋15年の私から言わせてもらえば、「Excelは悪」だという考え方には違和感があります。むしろ、Excelは今でも必要不可欠なツールであり、使いこなすスキルは経理担当者にとって重要な武器です。
では、なぜExcelは「悪者」にされがちなのか?そして、これからの経理業務において、Excelはどのような立ち位置にあるべきなのか?今回はそんな問いに向き合ってみたいと思います。
「Excelゼロ」は理想?会計システム導入後も残るExcel業務のリアル
「Excel業務、全部なくなると思ってたんだけどね…」
これは、数年前に会計システムを導入した際、同僚のAさんが漏らした言葉です。導入前は、仕訳帳も月次報告資料も、すべてExcelで管理していました。業務量も多く、ミスも起こりやすい。だからこそ、システム導入に大きな期待を寄せていたのです。
実際、導入後は多くの業務が自動化され、効率は格段に上がりました。しかし、完全にExcelを手放すことはできませんでした。たとえば、部門別の予算管理や、イレギュラーな集計作業など、柔軟性が求められる場面では、やはりExcelが活躍します。
「なくせると思っていたけど、結局Excel触れる人がいないと、細かい調整ができないからなくならないよね」
Aさんの言葉に、私も深くうなずきました。会計システムやクラウドサービスは強力なツールですが、すべての業務にフィットするわけではありません。だからこそ、Excelを使いこなすスキルは、今でも現場で求められているのです。
手作業から自動化へ ──それでも変わらない経理の基本スキル
「昔は、仕訳も全部手書きだったんですよ」
これは私が新人だった頃、先輩から聞いた話です。当時は、電卓片手に手書きの伝票を起こし、Excelで集計して、月次資料を作成するのが当たり前でした。今では考えられないほどの手間と時間がかかっていました。
それが今では、会計ソフトが仕訳を自動で起こし、帳票もワンクリックで出力できるようになりました。業務のスピードと正確さは、昔とは比べものになりません。
しかし、新人教育では今でも「簿記の資格取得」や「Excelの基本操作」は必須項目です。なぜなら、経理の基礎を理解していないと、システムの仕組みを理解して使いこなすことができないからです。Excelでの集計や関数の使い方を知っているからこそ、システムの出力結果を正しく読み解き、活用していくことができるのです。
今の時代に求められるのは「AIなど最新技術を柔軟に受け入れる力」と「使い分け」
「AIが仕訳を自動で判断して起こしてくれる時代が来るなんて、思ってもみなかったよね」
最近では、AIを活用した会計ソフトも登場し、経理業務のさらなる効率化が進んでいます。とはいえ、AIがすべてを完璧にこなすわけではありません。判断が難しい取引や、例外的な処理には、人の目と経験が必要です。
だからこそ、これまでのやり方に加えて、新しい技術を柔軟に受け入れる姿勢が求められます。Excelも、AIも、システムも、それぞれの強みを理解し、適材適所で使い分けることが、これからの経理担当者に必要なスキルなのです。
Excelは「悪」ではなく「味方」
「Excelはもう古い」「システムに任せればいい」そんな声が聞こえる時代だからこそ、改めて伝えたいことがあります。
Excelそのものが悪なのではありません。むしろ、柔軟性の高いExcelを活用することで、業務の効率化につながる場面は今でも多く存在します。大事なのは、Excelに頼りすぎることではなく、必要な場面で適切に使えるスキルを持っているかどうかです。
そして、これまでの知識や経験が一切不要になることはありません。簿記の知識、Excelの操作、仕訳の理解——それらは、今でも経理業務の土台です。そこに新しい技術をプラスしていくことで、より強い経理チームが生まれるのです。
変化の激しい時代だからこそ、過去を否定するのではなく、未来に向けて柔軟に吸収していく姿勢が求められます。Excelは「悪」ではなく、経理担当者の「味方」である——それが、私の15年の経験から導き出した答えです。