ほんとうにあった税務調査での失敗談

税務調査って実際どうなの?

決算が終わり、ホッとしたころに訪れる税務調査。
税務調査と聞くと「怖い」「厳しい」というイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか。実際、申告漏れで追徴課税を命じられた企業のニュースも見かけることもあります。

「うちはちゃんとやっているから大丈夫!」と思っていても、いざ調査官が来ると緊張するものです。大きな不正ではなくても、日々の経理業務におけるちょっとしたミスや手抜きから税法上の違反、つまり「指摘事項」が発覚することがあります。今回は、実際にあった経理担当者のヒヤリとする失敗談と、教訓についてエピソード形式でご紹介します。

ファイリングはしたけれど「順番がバラバラ!」 証憑整理に丸2日

Aさん:
「調査官が来る前に、証憑を整理しておこう」とファイルを確認すると、そこには日付順が完全にバラバラの領収書、請求書、納品書が…。
調査官への提示を求められましたが、整理が全く追いつかず、他の担当者と手分けして丸2日間かけて全ての証憑を確認し、再度ファイリングを行う羽目になりました。整理を行っている間も普段の業務を行う必要があるため、ヘトヘトでした。
こんなことになるなら普段からきちんと管理しておけばよかった…、と心から思いました。

教訓:
税務調査は、過去数年間の取引すべてを対象とします。証憑の整理を怠ると、調査官の心証を悪くするだけでなく、「いざという時」に自分たちの首を絞めることになります。即座に特定の期間の証憑を提示できる状態を日頃から維持することが、調査を短期で終わらせるための重要な鍵となります。

証憑と仕訳の紐づけがきちんとできていなくて…交際費の一部が否認

Bさん:
飲食費や接待費に関する領収書自体は揃っていました。しかし、経費精算のルールで定められていた「誰と(取引先名・役職)」「なぜ(目的・商談内容)」「何人参加したか」といった裏付け情報の記載が抜けていたり、日付や金額が精算書と合っていなかったりと、曖昧なものが多数存在していました。日々の忙しさを言い訳に、多くの営業担当者がその記入を疎かにしていたのです。

調査官:「こちらの〇月〇日の会食ですが、領収書には『会議費』として処理されていますね。参加者は社内3名、社外2名。飲食代は一人当たり6,500円です。会食の目的は?」

Bさん:「ええと…裏面には『新規案件の打ち合わせ』とあります」

調査官:「この『新規案件』とは具体的にどのような内容ですか? 当日の議事録や、打ち合わせに関するメールの履歴などはありますか?」

経理担当者:「…そこまでは残っていません。担当者に確認します」

調査官から「この支出が事業に必要不可欠であったことを明確に示せない」と判断され、交際費の一部を否認され、追徴課税の対象となってしまいました。

教訓:
税法上、証憑は「支出があったこと」を示すだけでは不十分です。「何のための、事業に必要な支出だったのか」を、第三者(調査官)にも明確かつ客観的に説明できるよう、裏付け情報をセットで保存する仕組みを徹底しましょう。特に交際費と会議費の区別は、税務調査での指摘の的になりやすい項目です。

半年間残っていた「謎の仮払金」の清算漏れ

Cさん:
貸借対照表を調査官がチェックした際に、半年以上前に計上されたままの「仮払金」の存在が発覚しました。

調査官:「こちらの〇月〇日に計上された仮払金(残高:15万円)ですが、半年経っても清算されていませんね。これは、どなたに対する、何のための支出ですか?」

Cさん:「ええと…資料を確認します。申し訳ありません、担当者からの清算書提出が遅れており、社内で処理が止まっていました。」

調査官:「清算されていないということは、何に使われたのか不明な状態が半年続いているということですよね。この15万円が、実は使途不明金や個人的な支出ではないと、どのように証明できますか?」

結局、担当者からの清算書提出が確認されましたが、調査官は清算が遅れた理由を厳しく追及し、経理部門の管理体制の甘さを指摘されました。もし、精算書が見つかっていなければ15万円が経費として全額否認されていたら…最悪の事態になるところでした。

教訓:
仮払金は、一時的な立て替えであり、原則として月次決算を締める前に全額清算されるべき項目です。滞留仮払金は、経理処理のずさんさを疑われるだけでなく、使途不明金として課税の対象となるリスクを常に伴います。日々の清算督促と管理体制の強化が必須です。

電子帳簿保存法の「つもり」違反!?

Dさん:
本当にお恥ずかしい話なのですが、失敗談として供養させてください。
「領収書はPDFにしてデータ保存しているから、電子帳簿保存法はOK!」と思っていたのですが、調査官の指摘で大間違いだったことが判明したんです。

単にPDFで保存しているだけで、「タイムスタンプの付与」「真実性の確保」「取引先名や日付で検索できる要件」などを全く満たしていませんでした。これは、税法上「適正な保存」と認められず、紙の保存が義務付けられていた期間の書類について厳しく追及されることになりました。また、これがきっかけで調査が長期化してしまいました。

「うちは小さな会社で、経理も自分一人だから、そこまで厳密じゃなくても大丈夫だろう」
という認識でいたため、最新の法改正への対応を後回しにしてしまいました。これを期に税法帳の細部まで要件を満たしているか、運用ルールを見直しました。

教訓:
法改正への対応は「やったつもり」では通用しません。保存要件の細部まで確認し、システムの導入や運用ルールを徹底することが必須です。

おわりに

今回ご紹介した失敗談は、どれも「脱税しよう」という悪意から生まれたものではありません。しかし、結果として税務上の大きなリスクを招いてしまいました。
「悪気がなくても、税法上の要件を満たしていなければ、それは指摘の対象となる」
この事実を重く受け止めなければなりません。

税務調査を無事に乗り切るための最大の対策は、日々の経理業務を正しく、かつ丁寧に積み重ねていくことに尽きます。
定期的に自社の経理業務が正しく行えているのか見直し、「いつでも調査OK」の状態を維持しましょう。日頃からきちんと対応していれば、税務調査は決して怖いものではありません。