「AIを使った方がよいとは思うけれど、経理業務で具体的に何ができるのかわからない」
「興味はあるものの、何から始めればよいのかわからない」
このように感じている経理担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで「経理の畑」では、上場企業で経理部長を務めた経験を持ち、現在は企業の決算業務支援や会計関連システムの開発アドバイザーなどを務める葛西 一成さんをお招きし、経理業務におけるAI活用法を実演いただくセミナーを開催しました。
本記事では、葛西さんが実践している方法をもとに、経理業務に取り入れやすい4つのAI活用法をご紹介します。
経理のAI活用は「一次チェックを任せる」ところから
AI活用というと、経理業務を大きく変革するような取り組みをイメージするかもしれません。しかし、まずは日々の業務の一次チェックをAIに任せるところから始めるだけでも、十分な効果が期待できます。
経理の仕事ではチェック作業が大きな割合を占めるうえ、人が行う確認作業には、その日の体調や集中力によって見落としが起こる可能性もあります。そのため、AIに一度確認してもらうことで、確認作業の負担を減らしながら、見落としの防止にもつなげることができます。
AIに最終判断まで任せるわけではなく、AIに確認すべき箇所を洗い出してもらい、最終的な確認や判断は人が行う。これは、葛西さんも実務でAIを活用するうえで一貫して重視している考え方となります。
「経理業務にAIをどう活用できるのか分からない」という方も、まずはご紹介する活用法の中から一つ試してみてください。小さな業務から取り入れるだけでも、AI活用の可能性を実感できるはずです。
活用法1.増減の大きな科目を洗い出すことで月次チェックに役立てる
一つ目の活用法は、月次で行う数字チェックへのAI活用です。
月次決算では、数字が誤っていないかをチェックします。ひとつひとつの仕訳の正確さチェックをAIに任せることはまだ現実的ではありませんが、損益計算書の数値を前月や前年同月と比較し、大きな増減がないかを確認してもらうことで一次チェックに役立てることができます。
このチェックは、損益計算書のデータをAIに渡し、一定以上の増減がある科目を抽出してもらうことで行えます。
例えば、前月比と前年同月比で30%以上増減した科目を洗い出し、当月金額、比較対象金額、増減額、増減率などを一覧で表示するよう指示します。2年分の科目推移が分かるデータをAIに渡すことで、注視すべき科目を絞り込めます。
その結果をもとに該当科目の総勘定元帳や仕訳を確認すれば、計上漏れや重複といった問題の発見につなげられます。増減率の基準は、自社が普段行っているチェック方法に合わせて調整することが重要です。
活用法2.売上の傾向を分析し、詳しく確認すべき得意先や部門を見つける
二つ目の活用法は、売上データの傾向分析です。
得意先別・部門別の売上データをAIに渡すことで、売上が特定の得意先に集中していないか、伸びている得意先や落ちている得意先はどこか、部門ごとに偏りがないかといった傾向を分析できます。結果をグラフ化してもらうこともできるので、数字だけが並んだデータでは見つけにくい変化にも気づきやすくなります。
直観的に分かるようにAIに整えてもらうことで、例えば、「季節要因で売上が下がるはずなのに、なぜこの得意先だけ増えているのか」といった疑問を見つけ、詳しく確認すべき得意先や部門に当たりをつけることができます。
ここで重要なのは、「何を知りたいのか」をAIに明確に伝えることです。葛西さんも、AIを使う際には普段行っている分析の目的を言語化することを重視されています。「どのような変化を見つけたいのか」を整理できれば、AIにも具体的な指示を出しやすくなります。
活用法3.交際費を分析し、確認すべき取引に当たりをつける
三つ目の活用法は、交際費の支出分析です。
交際費が大きく増えたとき、「どの部門で、何に使っているのか」と確認を求められることはよくあります。しかし、総勘定元帳を一件ずつ確認し、部門、利用者、目的、金額、利用頻度などを整理するには時間がかかります。
交際費の元帳データをAIに渡すことで、支出が多い部門や利用者、主な利用目的、金額が大きい取引、不自然な偏りなどを整理してもらうことができます。その後、AIが示した傾向をもとに、総勘定元帳や仕訳、証憑まで確認することで、効率的に原因を調べられます。
日々確認している内容を分析するよう指示すれば、求めている形で分析を行ってくれるため、注視すべき取引も絞り込みやすくなります。
また、分析精度を高めるには、日頃のデータ入力も重要です。摘要に取引内容や利用目的、取引先などが一定のルールで入力されていれば、AIはより細かな切り口で分析できます。AIツールの使い方だけでなく、分析しやすいデータを蓄積できているかという視点も必要です。
活用法4.AIにVBAを作ってもらい、Excel加工作業を自動化する
四つ目の活用法は、システムから出力したExcelデータの加工作業です。
会計システムからExcelやCSVを出力した後、不要な列の削除や必要項目の転記、並べ替えなど、毎月同じ加工作業を繰り返していないでしょうか。
このような定型作業は、ExcelのVBAやマクロを使って自動化できます。しかし、コードを一から作るには専門知識が必要です。
そこで、元データが入っているシート、抽出したい項目、転記先、表示形式などをAIに伝えることで、VBAコードを作成してもらうことができます。例えば、固定資産の情報を出力したデータから、資産番号、資産名称、帳簿価額、減価償却費などを抽出し、別シートへ転記する処理を作成するVBAを作成し、月次の加工作業を無くすことができます。
AIはコードだけでなく、Excelへの貼り付け方や実行方法も示してくれます。エラーが発生した場合も、内容を伝えて修正を依頼できます。ただし、いきなり本番データで実行するのは避け、サンプルデータやコピーしたファイルを使って、件数や合計金額が一致するかを確認しましょう。
AIを活用する前に確認したい3つのポイント
AIはとても便利なツールですが、実際に活用するには気を付けるべきポイントもあります。実際に活用する前 に、次の3 点を押さえておきましょう。
- 会社の利用ルールを確認する
会社が認めたAI環境を利用し、入力できる情報と入力できない情報を確認します。分析に必要のない個人情報や機密情報は、そもそもAIに渡さないことも重要です。
- 最終確認は人が行う
AIの分析結果をそのまま正しいと判断せず、総勘定元帳や証憑、加工前後の件数や金額を人が確認します。AIの役割は、人による確認をなくすことではなく、確認範囲を絞り込むことと捉えましょう。
- サンプルデータで小さく試す
最初から重要な業務データを使わず、実際の構造を模したサンプルデータで試します。サンプルデータを活用しながら、AIでできることの範囲を見極めましょう。
まずは今の仕事を少しだけ任せてみよう
今回ご紹介した4つの活用法に共通するのは、経理業務のすべてをAIに任せるのではなく、今行っている仕事の一部を補助してもらうという考え方です。
月次チェックでは増減の大きな科目を抽出してもらう。売上分析では詳しく見るべき得意先や部門を見つけてもらう。交際費分析では注意すべき取引に当たりをつけてもらう。Excel加工では繰り返し作業のプログラムを作ってもらう。
まずは会社で認められた環境とサンプルデータを使い、日頃の業務の一部をAIに任せてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
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