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産休・育休の基礎知識~給与の計算方法や注意点、給付金についても徹底解説~|給与計算|OBC360°|給与計算システムの給与奉行クラウド|給与計算システム・会計ソフトのOBC

作成者: 人事給与|2025年07月08日

産休・育休制度は、労働者の出産・育児をサポートするために整備された大切な制度であり、職場全体でその理解と利用を促進することが求められています。一方で、給与計算や社会保険の手続き、給付金の申請、勤怠や必要書類の管理など、企業の経理担当者は多くの業務を行うことになるため、制度に対する専門知識が必要です。

関連する手続きは従業員の生活に直結し、わずかなミスでも経済的不安や企業への信頼低下を招くおそれがあるため、慎重かつ正確な対応が欠かせません。

本記事では、実務担当者の視点から、産休・育休に関する制度の基本的な理解に加え、給与などの計算方法およびミスを防ぐための運用上の注意点や効率化の手段について解説します。制度の適切な適用に向けた基礎資料として、ぜひご活用ください。

目次

産休と育休の基礎知識

「産休」は正式には「産前産後休業」といい、「産前休業」と「産後休業」を合わせた呼び方で、妊娠中・出産後の女性労働者が取得することができます。一方、「育休」は「育児休業」が正式名称で、育児を目的として一定期間休業するための制度を指します。

ここでは、それぞれの制度の概要を押さえ、対象者や取得期間など、企業が対応するうえで基本となるポイントを確認します。

●産休の基礎知識

産休は出産前後の休業のことで、「産前休業」と「産後休業」に分けられます。ここではそれぞれの定義と休める期間についてご説明します。

・「産前休業」とは?

出産前に取得できる休業のことを指します。母性健康管理を目的として、母体の心身の健康を守り、赤ちゃんを迎えるための準備をする期間とされています。対象は出産を予定する女性労働者で、取得自体は任意のため、本人が希望する場合は出産直前まで働くことも可能です。

産前休業の取得に際しては、原則として1か月前までに従業員から書面による申し出が必要となります。担当者は申し出に応じて速やかに事務作業のスケジュールを組むなど、スムーズに対応できるよう準備を進めておく必要があります。

・「産前休業」の期間

労働基準法では、通常の妊娠・出産であれば自然の分娩予定日の42日(6週間)前から出産日まで、多胎妊娠の場合は98日(14週間)前から出産日までと定められています。

公務員など、労働基準法に基づかない特別な規定がある場合は、それぞれの定めを確認してください。また、産前休業に入る時点ですでに帝王切開が予定されている場合は、医師の診断書に基づいた出産予定日を起算日として、産前休業の期間を算出することもあります。

・「産後休業」とは?

出産後に女性労働者が取得すべき休業として、労働基準法によって取得が義務付けられているのが産後休業です。これは、出産後の母体の健康を回復させるための期間であり、体調が整ってから復帰できるよう配慮された休業制度です。

・「産後休業」の期間

出産翌日から8週間と定められており、この間は原則として就業が禁止されています。ただし、産後56日(6週間)を経過したあと、本人の希望があり、かつ医師が就業可能と判断した場合に限り、就業が認められます。経理・人事担当者は、就業再開の時期や医師の診断書の有無を確認し、復職日や給与計算に反映させる必要があります。

【出典】厚生労働省「労働基準法における母性保護規定」産前・産後休業(第65条1項、第2項関係)

●育休とは?

育児休業は、「育児・介護休業法」に基づいて設けられた制度で、原則として1歳未満の子どもを養育するために取得できる休業です。母親だけでなく父親も含め、条件を満たせばパートや派遣社員、契約社員などの雇用形態に定めのある労働者も取得可能です。

担当者としては、育休対象者の雇用契約期間や就業実績、申請期限を確認し、申請受付から育児休業開始日にかけてのスケジュールを正確に把握する必要があります。通常、育児休業は開始日の1か月前までの申し出が原則で、子どもが1歳6か月になるまでの延長を希望する場合は、1歳の誕生日の2週間前までに申し出が必要です。

なお、「パパ・ママ育休プラス」は夫婦がともに育児休業を取得することで育休の期間を延長できるという制度で、「出生時育児休業(産後パパ育休)」は通常の育児休業とは別で休業できる制度です。

●「育児休業」の期間

育児休業の基本期間は、子どもの1歳の誕生日の前日までです。ただし、両親が共に育児休業を取得する場合、「パパ・ママ育休プラス」の制度を活用することで、1歳2か月まで延長が可能です。さらに、保育園に入所できないなど一定の要件を満たす場合は、1歳6か月、あるいは最長2歳まで延長することができます。

期間の延長に関する申請は、それぞれの申請期限に応じた対応が求められるため、担当者は該当者の家庭状況や申し出のタイミングを把握し、正確なスケジュール管理を徹底しなくてはなりません。

ちなみに、「出生時育児休業(産後パパ育休)」は、産後8週間以内に、父親が最大で4週間(28日)の休業が取得可能となる制度で、原則的に休業の2週間前までに申請が必要です(条件により労使協定で1カ月前までとする場合があります)。

また、育児休業は2回に分割して取得することができます。産後パパ育休も2回に分割取得が可能なため、組み合わせによっては休業期間を最大で4回に分けることも可能です。

【出典】「育児休業の基本」(厚生労働省)

【出典】「育児休業制度 特設サイト」(厚生労働省)

産休・育休前後の給与の計算方法

産休・育休中は、一般的に給与の支給はありません。ただし、公務員の場合は例外的に産休が有給休暇扱いとなるため、産休期間中も給与が支払われます。また、育休中には給与の代替措置として「育児休業給付金」が支給される制度があります。ここでは、産休・育休前後に発生する給与の計算方法と留意点を確認します。

●産休を取得した月の給与計算

従業員が月の途中から産前休業に入る場合、その月の給与は日割りで算出するのが一般的です。日割り計算には「所定労働日数」を基準とする方法や「暦日数」を用いる方法があります。

産休取得月の給与を求める式は以下のとおりです。

総支給額=基本給(日割り)+各種手当
支給額=総支給額-控除額(所得税+住民税+社会保険料+雇用保険料)

特に注意したいのが社会保険料の処理です。社会保険料は、当月分を翌月の給与で控除する仕組みが一般的なため、産休前の当月の給与が日割りであっても、その中から前月分の保険料が満額控除されます。

なお、社会保険料は産休に入った月から免除になるため、翌月の控除は発生しません。

●産休・育休が終了した月の給与計算

産休・育休明けに復職する場合、復職月の給与も原則として日割り計算となります。基本的な算出方法は、産休取得月の場合と同様です。

総支給額=基本給(日割り)+各種手当金
支給金額=総支給額-控除額(所得税+住民税+雇用保険料)

産休・育休が終了した月の給与では、産休・育休終了月の前月分の社会保険料等が免除となっているため、給与計算には含まれません。

産休・育休中の給与計算に関する注意点

産休・育休中の給与計算では、通常とは異なる取り扱いが必要です。税金や社会保険料の控除、徴収方法の変更など、見落としやすいポイントを押さえることで、正確な対応につながります。ここでは、担当者が注意すべき点について解説します。

●産休・育休中は雇用保険料や所得税が発生しない

雇用保険料や所得税は支払われた給与を基に計算されるため、給与が支給されない産休・育休中は、これらの控除は発生しません。ただし、産休中でも給与がある場合は、その給与に対して雇用保険料や所得税が発生します。
また、月の途中から産休に入る、あるいは復職する場合など、日割りで給与が発生するケースでも給与額に対して保険料・税が課されるため、控除額の算出には十分注意し、作成した給与明細をしっかり確認しましょう。

●産休・育休中の社会保険料は免除される

産休・育休期間中は、健康保険および厚生年金保険の社会保険料が全額免除されます。これは、月の途中からの産休取得であっても同様であり、従業員と事業主双方に適用されます。

産休中に社会保険料の免除を受けるには、「産前産後休業取得者申出書」の提出が必要です。申出書が受理されると、産前休業の開始した日が属する月から、終了日の翌日が属する月の前月までが免除期間として適用されます。また、育休中は「育児休業等取得者申出書」が必要です。

担当者は、対象の従業員から産前産後休業届等の提出漏れがないよう、提出管理を徹底し、書類を受理したのちは協会けんぽや健康保険組合への申請手続きも忘れずに行いましょう。

●住民税の支払いは必要になる

住民税には産休・育休中の免除規定が存在しないため、通常通り納税義務が発生します。ただし、給与の支給がない場合は、企業が天引きする「特別徴収」ではなく、自ら納付する「普通徴収」に切り替えることも可能です。

特別徴収とは、給与から天引きで住民税を納付する方法で、勤務先が市区町村に納税します。多くの会社員はこの方法で住民税を納めています。

普通徴収とは、市区町村から送付される納付書に基づいて本人が直接納税する方法です。給与支給のない期間や退職後などに利用されます。

産休・育休に関する手当金・給付金制度

給与が支払われない産休・育休期間中に対しては、従業員の生活を支える各種の給付金制度が設けられています。さらに、2025年4月には「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」の2制度が新設されました。ここでは各手当金・給付金の概要について解説します。

●出産手当金

女性労働者が出産のために会社を休み、その間に給与が支払われない場合に支給される手当です。

出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、産後8週間までの期間について、標準報酬日額を基に算出された手当金が健康保険から支給されます。出産当日は出産の日以前の期間に含まれ、出産が予定日より遅れた場合、6週間を超えた期間分についても支給されます。

●出産育児一時金

健康保険または国民健康保険の被保険者が出産した際に支給される一時金です。妊娠4か月(85日)以上であれば、正常分娩に限らず、早産・死産・流産・人工妊娠中絶となった場合も対象です。

2023年4月以降は、産科医療保障制度に加入している医療機関で出産した場合、1児につき50万円が(未加入の場合は48万8,000円)、多胎の場合は胎児数に応じた額が支給されます。出産育児一時金は健康保険組合が医療機関に直接支払う「直接支払制度」が原則となっており、自己負担は実際の出産費用と支給額の差額のみとなるため、経済的な負担が軽減されます。

●家族出産育児一時金

扶養家族(被扶養者)が出産した場合に、健康保険に加入している被保険者に対して支給される出産一時金です。出産した本人が自分の健康保険に加入していない場合に、その本人を扶養している被保険者に対して支給されるため、同じ出産に対して重複して受け取れるわけではありません。支給額や支給方法は出産育児一時金と同様です。

●出生時育児休業給付金

「産後パパ育休」に該当する出生時育児休業を取得した従業員に対し、休業中の収入を補償するために支給される給付金です。支給金額は「休業開始時賃金日額 × 出生時育児休業を取得した日数(上限28日)× 67%」で算出されます。

基本的な支給条件は以下のとおりです。

  1. ①出生時育児休業(産後パパ育休)を取得した雇用保険の被保険者であること
  2. ②休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月(賃金支払基礎日数がない場合は、賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の月)が12か月以上あること
  3. ③休業期間中の就業日数が、10日(または就業した時間数が80時間)以下であること
  4. ④子どもの出生日から起算して8週間を経過する日の翌日から、6か月を経過する日までに、労働契約の期間が満了することが明らかでないこと

●出生後休業支援給付金

2025年4月に新設された制度で、出産後の一定期間に夫婦ともに育児休業を取得した場合、通常の育児休業給付金や出生時育児休業給付金に上乗せして支給される給付金です。経済的負担を軽減することで、出産直後の時期の夫婦に対して育児休業を取得しやすくし、家族での育児実施を促進することを目的としています。

支給額は「休業開始時賃金日額 × 休業日数(最大28日)× 13%」です。通常の育児休業給付金(賃金の67%)または出生時育児休業給付金(産後パパ育休)に、この13%が上乗せされることで、休業前賃金の最大80%の金額が支給されるため、手取り収入の減少を抑える効果が期待されます。

●育児休業給付金

雇用保険の被保険者が育児休業を取得するにあたって、休業中の生活を支援するために支給される給付金です。主に子どもが1歳になるまで(一定の条件下では最長2歳まで)育児のために休業する場合に受け取ることができ、男女問わず、夫婦どちらも申請が可能です。

支給額は、育児休業開始から180日までは賃金日額の67%、それ以降は50%です。育児休業給付金は、育児休業終了後に職場復帰することが前提となっているため、育児休業を申し出るタイミングで退職することが決まっている場合は、支給の対象外です。

●育児時短就業給付金

2歳未満の子どもを育てるために所定労働時間を短縮して働く場合に、時短勤務による収入減少を補うために支給される雇用保険の給付金です。原則として、時短勤務を開始した月から終了した月まで、時短勤務中の賃金額の約10%が毎月支給されます。

これは、2025年4月に新たに創設された制度で、時短勤務による収入減を補うことで育児と仕事の両立を支援し、乳幼児期の離職防止やキャリア継続の後押しすることが目的となっています。

2025年育児介護休業法|改正の変更点と企業が対応すべきポイント

産休・育休に関するよくある質問

制度を適切に運用するためには、従業員からの質問に迅速かつ正確に対応する必要があります。ここでは、産休・育休に関連して担当者がよく受ける質問と、その対応のポイントを紹介します。

「パパ・ママ育休プラス」とは?

夫婦がともに育児休業を取得する場合に、育児休業の取得期限を通常より延長できる制度です。

通常、育児休業は子どもが1歳になるまで取得できますが、この制度を利用すると、夫婦で育休のタイミングを調整することで、子どもが1歳2か月になるまで途切れずに育児休業を取得できるようになります。ただし、夫婦それぞれが取得できる育児休業の期間が「最大1年間」である点は変わりません。

この制度は、父親の育児参加を促進し、夫婦で協力して子育てしやすい環境を整えるために設けられています。

出典:厚生労働省「パパ・ママ育休プラス

産休・育休で必要な申請書類は?

産休・育休の取得や給付金の申請には、複数の書類が必要です。また、関係機関に提出する書類を作成するために使用する社内用書類もあります。ここでは、主な書類を目的別に解説します。

(1)産休に関する書類
・産前産後休業届(社内用)
妊娠の報告を受けた際に、出産予定日や最終出社日、育休取得の希望などを確認するために記入を求める書類です。法定様式はないため、社内ルールに基づいて提出してもらいます。

・産前産後休業取得者申出書
従業員が社会保険料の免除を受けるために、事業主が年金事務所や健康保険組合に提出する書類です。産休期間中、または産休終了後の終了日から起算して、1か月以内に提出しなければならないため、失念することのないように気を付けましょう。

・健康保険出産育児一時金支給申請書
医療機関に直接支払う制度を利用しない場合や、差額を請求する場合に必要な書類です。この書類は、被保険者本人(または被扶養者)が直接、加入している健康保険組合や協会けんぽに提出します。そのため、企業側が直接申請することはありませんが、従業員から質問を受けた際に適切に案内できるようにしておくことが大切です。

(2)育休に関する書類
・育児休業申出書(社内用)
育休を取得する際に、従業員から企業に提出してもらう書類です。社内で育休の手続きを進めるために使用します。

・育児休業給付金支給申請書・休業開始時賃金月額証明書
育児休業給付金を受け取るために必要な書類で、企業がハローワークに提出します。企業側で証明書の作成が必要です。

・育児休業等取得者申出書
育休中の社会保険料免除を申請するために、企業が年金事務所や健康保険組合に提出する書類です。

加入している健康保険や企業の制度によって、書類の名称や提出先が異なる場合があるため、事前に確認しましょう。

産休・育休中のボーナス・賞与はどうなる?

賞与の支給有無や条件は企業の就業規則によって異なります。賞与制度がある場合、支給日に在籍していることや査定期間中の勤怠状況などの条件を満たせば、産休・育休中でも支給対象となる可能性があります。なお、妊娠や出産、育児を理由に不利益な取り扱いをすることは法令で禁じられており、公平でなければなりません。

育児・介護休業法の改正で何が変わった?

2025年4月1日の改正により、育児と仕事の両立を支援する制度がさらに充実しました。

まず、子どもの看護休暇の対象が「小学校就業の始期に達するまで」から「小学校3年生修了まで」に引き上げられ、学級閉鎖や学校行事を事由とする取得ができるようになりました。これに伴い、制度の名称も「子の看護等休暇」に変更されています。また、残業免除の対象が「3歳に満たない子を養育する労働者」から、「小学校就学前の子を養育する労働者」に拡大されました。

そのほか、3歳以下の子を養育する労働者へのテレワーク制度の導入が努力義務となり、男性の育児休業取得状況の公表義務もより多くの企業が対象となりました。今回の改正により、企業にはより柔軟な働き方への対応が求められます。

2025年育児介護休業法|改正の変更点と企業が対応すべきポイント

産休・育休の効率的な管理・計算には労務管理サービス導入がおすすめ

産休・育休に関する制度は多岐にわたり、申請書類や支給条件の管理、給与計算や申請手続きの正確な実施が求められます。こうした煩雑な業務を効率化するには、労務申請手続きについて自動計算および電子化でき、ミスを防ぎながら正確に処理できるクラウドサービスの活用が効果的です。

「奉行Edge 労務管理電子化クラウド」では、従業員がパソコンやスマートフォンから産前産後休業の申請や出産報告を行うと、提出情報を基に「産前産後休業取得者申出書」が自動作成され、電子申請が可能になります。そのため、入力作業の負担が減り、スムーズな申請手続きにつながります。

また、育児休業給付金に関する申請手続きについても、サービス上での対応が可能です。申請の抜け漏れや書類の手配ミスを防ぐことができるため、従業員の利便性向上に加え、担当者の業務負担や作業時間の削減を実現できます。複雑な制度に確実・効率的に対応するために、産休・育休に関する計算業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることが、これからの実務担当者に求められる対策ではないでしょうか。

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