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経理業務にAI活用はアリかナシか? AIの活用シーンや実践のポイントを紹介|経理業務|OBC360°|会計ソフト・人事・総務クラウドのOBC

作成者: 会計|2025年10月31日

ここ数年で、インボイス制度や電子帳簿保存法といった法改正対応、人手不足による業務の圧迫など、経理部門を取り巻く環境は大きく変化しました。これにより、手作業に頼る従来の方法だけでは対応しきれない局面が増えてきています。
そんな中、注目されているのがAIの活用です。近年、様々な業務でAIを活用する動きが進んでおり、経理業務においてもAIによる業務効率化の取り組みが広がっています。しかしその一方で、AIによる恩恵は認識しつつも、「その成果は信用できるのか」という声が現場から聞かれます。
はたして、経理業務にとってAI活用は有効なのでしょうか。今回は、AIが経理業務にもたらす影響や可能性を考察するとともに、経理業務で活用できる最新のAI機能について紹介します。

目次

AIで経理業務はなくなる?経理業務にとってのAIの位置づけ

AI(=人工知能)は、人間の知能に関するタスクをコンピューターが模倣し実行する技術で、繰り返し学習することで精度が高まり、これまで人が行っていた手作業を省力化することができます。特に、昨今のAIは急速に進化しており、多くの業務に活用されるようになりました。

その一方で、「自分の仕事はAIに置き換えられるのではないか」という声も聞かれます。経理担当者の中にも、AIの台頭に危惧を抱く方は多いでしょう。
しかし、AIは、あくまで経理業務をアシストする立場です。経理業務で活用する場合でも、今のところ、このポジションが変わることはありません。むしろ、経理業務におけるAIは、優秀な業務アシスタントと捉えるのが適切です。それは、AIがもっとも得意とすることが、入力作業や確認作業だからです。
経理業務には、単なる処理作業だけでなく、法令や会計基準に基づく判断、経営層や監査への説明責任、内部統制の運用など、人にしか担えない役割が数多く存在します。AIに入力や確認の処理作業を任せることで、経理担当者は、その結果を検証し経営に役立つ形で情報をまとめるなど、本来の役割に注力することができるのです。

このように、AIは経理担当者から仕事を奪う存在ではなく、経理担当者を支える存在と考えるのが適切です。

経理業務で活用できるAI の種類

経理業務に活用できるAIには、次のようなものがあります。これらを経理担当者が活用する際は、AIの特性や業務との相性を見極めることが重要です。

●生成AI

AIというと、ChatGPTなどの生成AIが有名です。
生成AIは、文章作成や画像・動画といった様々なコンテンツを生成する能力があります。自然文で質問すると回答を返す機能は、経理部門でも業務規程の確認や制度改正内容の要約といった場面で活用が広がりつつあります。
ただし、こうした生成AIは、経理の実務にそのまま導入できるようには設計されていません。また、プロンプトと呼ばれる指示が抽象的な場合、期待とは異なる回答が出力される可能性もあり、実際に使うにはAIの特性を理解した上で活用する工夫が必要です。

●会計システムのAI機能

経理担当者にとって最も馴染みのあるものは、会計システムに搭載されている自動仕訳や自動消込といったAIを活用した会計システムの機能でしょう。
現在市場で提供されている多くのクラウド会計システムには、AI-OCRや仕訳パターン学習など、仕訳入力など定型処理を支援するAI機能が搭載されているケースが増えています。これにより、手入力の手間がなくなり業務を効率化させることが可能です。

●AIチャットボット

AIチャットボットは、人の質問や指示に対してAIが自動で答える対話型ツールです。あらかじめ登録されたデータをAIが学習し、ユーザーの質問に自動で回答文を作成し対話形式で表示します。いわば、AIチャットボットは「質問に答える」ことを中心とする“知識の補助“になります。
昨今は、多くの会計システムにも搭載されており、経理担当者の「調べる・書く・整理する」といった時間を減らし、判断に集中できる環境を整えるのに役立っています。

●AIエージェント

市場には、“AIエージェント”と呼ばれるシステムも登場しています。AIエージェントは、与えられた目標(ゴール)を達成するために、必要な作業を自ら判断し、順番を組み立てて実行するAIです。
従来型AIが単一タスクを処理するのに対し、AIエージェントは、例えば「請求書の読取り」→「勘定科目の選定」→「会計システムへの仕訳登録」→「結果報告」といった一連の業務プロセスを、連携させて自動で進める “実務の補助”が可能です。
また、企業があらかじめ利用や連携を許可したデータやシステムの範囲内で、状況に応じて処理の順番や方法を自動で選択・実行することができます。
現在、多くのベンダーがこの開発に取り組んでおり、将来的には“実務アシスタント”として経理業務のワークフロー全体を支援できるようになると期待されています。

日次業務におけるAIの活用メリット

AIを活用すると、経理業務にどう役立つのか、日次業務で最も多く発生する仕訳入力や受領した請求書等の処理などについて、その効果を見てみましょう。

●銀行入出金データや取引データ等の仕訳入力を自動化してくれる

従来のやり方では、銀行の入出金データは、通帳やオンラインバンキングの画面を見ながら1件ずつ仕訳を起こします。手作業で行うが故に、転記ミスや勘定科目の選択間違いなどが発生しやすく、決算で発覚すると修正に大きな手間がかかるため、相当の人員と時間をかけて確認作業を行います。

クラウド会計システムのAI機能は、API連携などで銀行の入出金データやクレジットカード等の明細データを取り込み、取引の内容から勘定科目や税区分を自動判定して仕訳候補を表示させます。AIは繰り返すたびに学習するため、使うごとに仕訳で判断に迷うことが減ります。
また、Excelファイルや他システムで管理されているデータからも仕訳データを自動生成し、経理業務で発生するほぼすべてのデータの仕訳を自動で作成することができます。

例えば勘定奉行iクラウドの場合、初回に勘定科目や取引先、部門などを入力して仕訳登録を行うと、辞書として記憶され、次回以降同じ内容の入出金データが入った際に仕訳データが自動で作成されます。また、Excelで管理されている取引データなどもドラッグ&ドロップで取り込めば、仕訳を自動起票できます。自動生成された仕訳を繰り返し登録するうちに、AI学習が進み、より高度な仕訳判断も可能になります。

●受領した紙の証憑類を読み取って自動仕訳してくれる

請求書や領収書など、受領した証憑類の処理にもAIの活用が拡がっています。
紙の証憑類の場合、従来のやり方では手入力で取引情報を打ち込む必要があり、転記ミスなどを起こしていないか二重チェックの体制も必要になります。
昨今は、紙の証憑類をスキャンして文字情報を自動で読み取り、データ化するAI-OCR機能を搭載する会計システムが主流となっています。AI-OCRを利用すれば、紙で受領した場合でも仕訳時の入力作業を効率化することができます。
読み取ったデータは、AIによって正しい勘定科目に自動で振り分け、仕訳も自動化できます。

ただし、文字情報の読み取り精度はサービスによって様々です。勘定奉行iクラウドのAI-OCRは95%を超える認識率で、金額や取引先、日付といった情報を正確に読み取ります。証憑の画像を取り込む際、画像の歪みがあれば補正して登録するため、情報をより正確に読み取ることができます。また、1ファイルの中に複数ページがある場合でも、AIが自動でページごとに分割し、仕訳登録まで行います。

※オプション契約が必要です。

読み込んだデータは、そのまま仕訳として自動起票するため、担当者は確認するだけでよくなり、経費精算業務の効率化と入力ミスの削減に貢献します。

●債権・債務と入金・支払の異常を自動で検知しアラートしてくれる

債権と債務の不一致は、原因を特定するのに相当の手間と時間を要します。昨今は、登録された情報の不整合などを自動で検知する機能が会計システムに搭載されています。中には、AIによって自動で異常値を検出し、問題があればアラートを出すという仕組みを備えたシステムも登場しています。

この機能が搭載された会計システムの場合、担当者は全件を細かくチェックする必要がなくなり、入金・支払サイクルに乱れがある場合や取引先名・インボイス番号等に不整合がある場合など、担当者が気づきにくい点も自動で洗い出すため、会計処理の精度向上につながります。問題がなければそのまま自動登録されるシステムなら、仕訳入力作業の省力化にも貢献できます。

AIの活用で経理担当者もポジションが変わる!

経理業務でAIを活用するメリットは、単なる処理業務の省力化だけではありません。AIは、次のように経理担当者を「経営支援パートナー」となるようサポートもしてくれます。

●タイムリーに経営判断を支えられる

AIが定型的な処理を担うことで、経理部門は締め作業に追われる負担を軽減でき、数字をこれまでより早くまとめられるようになります。このスピードアップにより、経営層はより早い段階で資金繰りの見直しやコスト調整といった対応を検討できるようになります。
AIが直接的に経営判断を下すわけではありませんが、処理のスピードアップを通じて経営の意思決定に貢献することができます。

●精度の高い予測シミュレーションで提案できる

日常業務をAIに任せると、入力やチェックの精度が向上し、正確なデータを継続的に蓄積できるようになり、データの信頼性が高まります。また、AIは過去の取引や数値の傾向をもとに、数か月先のキャッシュフローを推計したり、売上や費用の動きを踏まえて決算の着地見通しを示したりすることができます。
信頼できるデータが整えば、将来の数値予測やシミュレーションの精度も上がるため、経営層にとって意思決定の参考情報を高い精度で提供することができます。
さらに、金融機関や取引先に対しても、企業の信頼性や透明性を高めることにもつながります。

●提案業務の幅が広がる

担当者が手作業で行っていた作業をAIが補完することで、業務時間や工数を大きく削減できます。その結果、経理担当者は数字を「つくる」作業から大幅に解放され、これまで十分に時間を割けなかった分析や、提案業務に集中する余地が生まれます。
例えば「部門ごとの経費構造を比較し、増加要因を明らかにした上で改善策を提案する」「売上や利益率の変化を複数のシナリオで試算し、経営層に対して選択肢を提示する」といった、経営の意思決定に直結する付加価値の高い業務に従事する時間も増えるでしょう。他にも、営業部門に対して顧客別の収益性を示したり、製造部門に対して原価データを分析して効率改善の糸口を提供したりするなど、現場に具体的な行動の指針を与える役割も担えます。
このように、現場にとっても有益な情報発信源となることで、組織全体の意思決定の質を高めることにつながります。

経理業務でAIを活用するために押さえておくべきポイント

業務アシスタントとして優秀でも、AIは使い方を誤れば新たなリスクや非効率を招く可能性があります。実務で使いこなすためには、AIの特性を踏まえて、次のようなポイントに注意する必要があります。

●AIの判断を過信しすぎない

AIは、大量のデータを処理し、過去のパターンを学習することで、その精度を高めることができます。しかし、それはあくまで「確からしい推測」であって、常に正しい答えを保証するものではありません。
例えば、AI-OCRで請求書を読み取る際に、「1」と「7」を誤認識したり、消費税区分を誤った科目に振り分けたりするケースはよく見られます。こうした誤りを見落とすと、決算や申告の段階で重大な齟齬が生じる可能性があります。
より高精度のAIサービスを活用すれば比較的安心して運用できますが、「最終的な責任は人が負う」ことを忘れずに、確認プロセスは残しておくことが大事です。

●説明責任を果たせるように内部統制を強化する

経理業務は「正確に処理する」だけでは不十分で、なぜその処理が正しいのかを説明できなければなりません。監査対応や税務調査の場面では、「AIがそう判断したから」という理由は通用しないため、仕訳が自動生成される場合でも、その根拠を明示できる体制が必要です。
例えば、「履歴管理をシステム上で残す」「重要な判断は承認者を設定する」など、AIを活用しても内部統制の観点を盛り込むことが求められます。また、AIでの処理には、つねに根拠を説明できるよう適度にアップデートし、ブラックボックス化しないように注意しましょう。

●データ整備とチェック体制を整える

AIの出力は、入力データの質によって大きく左右されます。
例えば、取引先の名称が部門によってバラバラに表記されていると、同じ取引先であると学習できず、別の取引として処理される可能性があります。また、AI-OCRで取り込んだデータに対するチェックが不十分な場合、誤りがそのままシステムに反映される危険もあります。
AIは便利なツールですが、データが整っていなければ、誤った結果を拡大させてしまうだけになりかねません。AIの精度を補足する意味でも、情報の登録ルールや入力ルールを徹底し、チェック体制の強化にも充分に配慮しておきましょう。

●ある程度のAI知識は身につけておく

AI活用は、経理担当者のキャリア形成にも直結します。例えば、AIが定型処理を担うようになると、経理担当者は「AIが示した結果をどう解釈し、経営に活かすか」という視点が求められるようになります。これにより、「必要な情報をAIに出力させる力」「AIが出力した情報を読み解く力」などが必要になり、経理担当者はAIリテラシーやデータ分析の素養が欠かせなくなるでしょう。

奉行クラウドが考える“安心のAI活用”とは

現在、市場では、経理業務にAIを活用する流れが広がりを見せています。会計システムには様々なAI機能が搭載され、「AIで自動処理」はもはや当たり前の光景となりました。
しかし、先述したようにAIが全ての経理業務を自動で判断・処理してくれるわけではありません。過去の取引の背景や例外的な判断を求められるケースもあり、人の知見が不可欠な場面はまだ多く存在します。
重要なのは、経理担当者が「安心して使える」状態であり、技術の先進性だけでなく、内部統制への配慮や誤判定への対応など、安心してAIを業務に取り入れられる仕組みが欠かせません。

奉行クラウドでは、こうした実務上の不安に向き合いながら、経理現場で安心して使えるAIの提供を目標としています。例えば、勘定奉行iクラウドに搭載されているAIには、次のような特徴があります。

●奉行AIチャットの特徴

奉行AIチャットは、生成AIによる対話形式の業務支援チャットツールで、勘定奉行クラウドの全てのメニューから起動でき、質問したいカテゴリを選択すると質問に応じてAIが回答します。具体的な項目名やメニュー名、やりたいこと、操作した結果などを含めて入力すると、より適切な回答が生成されるため、ちょっとした疑問で操作の手が止まるといったことが軽減されます。

●奉行AIアシスタントの特徴

奉行AIアシスタントは、探したい仕訳伝票の条件を会話形式で入力するだけで、AIが検索条件を自動で生成して仕訳伝票を抽出します。会話形式でAIとやりとりでき、検索条件(部門や勘定科目)の追加や変更もできます。AIの回答で表示された仕訳明細をコピーし、入力中の画面に貼り付けて利用することも可能です。

●その他勘定奉行iクラウドのAI機能

他にも、勘定奉行iクラウドでは次のような機能がAIで管理されており、経理業務を機能面で直接支援できるようになっています。

  • 自動仕訳:入出金・クレジットデータを基にした仕訳処理自動化
  • 自動翻訳:摘要欄の現地言語を自動翻訳(勘定奉行クラウドGlobal Editionのみ)
  • AI-OCR:帳票を自動で読み取り、仕訳処理まで一貫して実行
         (A-OCR機能はオプション契約が必要です)
  • 仕訳検索:自然言語による条件指定での仕訳検索
  • 仕訳作成支援:自然文での仕訳指示に基づく自動起票
  • AI帳票:オリジナル帳票の自動作成(AI帳票)
  • 異常値アラート:異常データや処理ミスの自動検知・通知

※今後提供予定です

さらに、今後は奉行AIエージェント 新リース会計識別クラウドのような、より高度な意思決定支援を実現する「奉行AIエージェント」も順次提供する予定です。

このように、会計システムにおいてAI機能が標準化されていくと、高額な投資や専門人材を用意しなくても、会計システムだけで完結することができるようになります。日常の業務改善だけでなく、内部統制の強化にもつながり、効率化と正確さを両立できれば、経理担当者は安心して分析や情報提供といった本来の役割に専念できるようになるでしょう。

技術の進化を現場に適切に落とし込み、経理担当者の専門性を引き出す支えとなること、それこそが、奉行クラウドが提供したいと考えている“安心のAI活用”です。

おわりに

AIを正しく、安心して活用できれば、担当者は単純処理に追われる時間を減らし、本来の役割である情報提供や分析など、付加価値の高い業務に力を注げるようになります。経理業務効率化のメリットを最大限に享受するためにも、まずは身近な会計システムに備わったAI機能を活かすことから始めてみてはいかがでしょうか。

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