経理業務の中でも、仕訳作業のミスや業務負担に悩む担当者は多いのではないでしょうか。
昨今のクラウド会計システムは、AIやOCRなどを活用した自動仕訳が標準化されており、業務の省力化の手段として注目されています。しかし、会計システムをクラウド化したにもかかわらず、「自動仕訳はまだ活用していない」という企業は、意外と多いようです。
今回は、会計システムの自動仕訳について、メリットや活用方法など、経理担当者が押さえておきたいポイントについて、詳しく解説します。
仕訳作業は、取引内容を会計帳簿に記録する作業です。用途に応じて勘定科目を選択し、金額とともに仕訳帳や総勘定元帳に転記します。経理業務の基本となる処理作業であるため、正確さと判断力が求められます。
この仕訳処理を自動化する仕組みが、会計システムに備わっている「自動仕訳」です。自動仕訳は、取引内容に基づいて勘定科目を自動で判定し、金額や摘要を適正に記帳します。これまで人が行っていた判断や入力作業がなくなることで、作業時間の短縮や記録の精度向上が見込めます。
今では、会計システムの基本機能の1つとして様々な機能アップが図られており、システムによってはより高度な処理にも対応できるようになっています。
自動仕訳を行う仕組みには、大きく分類して次の3つのタイプがあります。
例えば「摘要に“通信料”という文字列が含まれていれば、勘定科目は“通信費”とする」といったように、あらかじめ設定したルールに従い、自動で仕訳する仕組みです。
定型的な取引が多い業務には非常に有効で、ミスも少なく処理スピードが速いことが特徴です。一度設定すれば繰り返し活用でき、ベテランの判断をルール化すれば業務の標準化にもつながるため、新人育成の負担軽減にも寄与します。
過去の仕訳データやユーザーの判断傾向をAIが分析し、次に同様の取引が発生した際に自動で適切な勘定科目や仕訳内容を提案・起票します。
AIが過去の記録を学習するため、繰り返し活用することで仕訳精度が高まります。また、AIは「過去、類似の取引にどう対応してきたか」をもとに判断するため、複雑な業務やイレギュラーな処理にも柔軟に対応できます。
昨今は、勘定科目や摘要だけでなく、取引先・部門・プロジェクトなどの属性まで自動判別するタイプもあり、取引パターンが多様な企業でも活用しやすくなっています。
紙やPDFで受け取った請求書・領収書・見積書などの帳票を、OCR(文字認識)で読み取り、そのデータをもとに自動で仕訳処理を行います。
紙の情報をデータ化することで、ペーパーレス化が進み、ルールベース型やAI活用型とつなげることで、レイアウトや書式が異なっていても精度の高い自動仕訳を実現できるようになります。
最近は、ルールベース型とAI活用型のコンボ型、それにOCRを組み合わせたハイブリッド型など、複数の仕組みを組み合わせて自動仕訳ができる会計システムも多数あります。それぞれの仕組みの特徴を理解しておけば、「何を人で判断し、何をシステムに任せるか」を切り分けて活用することも可能になっています。
現場の視点に立つと、自動仕訳はもはや「利便性」というメリットに留まらず、経理担当者が抱える様々な問題を解決するツールとして注目が高まっています。
ここでは、よくある経理業務の5つの課題を、自動仕訳がどのように解決するか見てみましょう。
仕訳入力には、「勘定科目の選択」「金額の転記」「摘要の記入」など細かい作業が多くあります。勘定科目の選択ひとつで処理結果が変わるため、担当者は常に緊張を強いられます。毎月の入力件数が多くなるほど確認不足によるミスも避けがたくなり、修正に余計な時間を奪われたり、月次処理や決算が遅れたりと、業務負担はますます大きくなりがちです。
自動仕訳を活用すると、勘定科目は自動で判定されるため、ミス発生への不安が軽減されます。作業時間も大幅に削減され、AI活用で過去データを学習させれば同様の取引にも安定した判定が繰り返されるため、入力ミスも抑えられます。
自動仕訳は、「ミスを見つけて直す」のではなく、「発生させない仕組み」と言えるでしょう。
仕訳作業では、「この会計処理は〇〇さんにしかわからない」といった属人化を懸念する声もよく聞かれます。ベテラン担当者が独自の判断基準で仕訳していると、その人が異動や退職してしまえば「知識が引き継がれない」というケースも起こりがちです。中小企業では、経理の人材不足が深刻化しており、このような属人化はさらに大きなリスクとなっています。
自動仕訳を活用すると、判断基準をルールやAI辞書に落とし込むため、業務を“組織の資産”として共有化できます。これにより、「誰でも同じルールで処理できる仕組み」へと変えることが可能になります。
人材教育においても、基本操作を覚えれば自動仕訳の結果を確認するだけで済むため、習熟にかかる時間が短縮されます。
会計処理は、制度改正の影響を受けやすく、ときには業務のやり方を見直すことも必要になります。最近では、インボイス制度や電子帳簿保存法の改正で、多くの企業が業務フローの見直しを迫られました。
制度改正の対応を誤ると、故意・過失にかかわらず法令違反リスクに直結するため、担当者の精神的な負担も大きくなります。
しかし、自動仕訳で処理することで、証憑と会計データの突合を半自動化することが可能です。インボイス番号や取引日付、金額といった必須情報は、仕訳と自動的に紐付けられるため、チェック作業を大幅に効率化できます。制度対応を正確かつ短時間で行えることは、経理業務を進めるうえで、大きな安心材料となるでしょう。
経理部門は、企業から「分析や予測を通じて経営に貢献する」役割を期待されています。しかし、日常の仕訳や記帳業務に追われ、分析や改善提案に割ける時間を満足に確保できない現場も多く存在します。その結果、経理部門は「処理部門」にとどまり、会社全体のDXや経営判断の高度化が思うように進まないという課題を抱えがちです。
自動仕訳で日常的な入力作業が大幅に削減されれば、担当者は付加価値の高い業務にシフトできます。
仕訳データも即時反映されるため経営数値を迅速に把握でき、決算の早期化も実現しやすくなり、月次レポートや財務分析に専念できるようになります。
これにより、経営陣への情報提供が迅速化し、経理部門が「攻めの役割」を担えるようになります。
監査法人や税務調査の対応では、「なぜこの勘定科目を選んだのか」「どの証憑と突合しているのか」などの説明のため、過去の仕訳や書類を用意しなければならず、意外と負担の大きな作業になります。証憑が紙の場合、ファイルから探し出すのには膨大な時間がかかりがちです。また、承認フローを属人的に回していると、誰がどう判断を下したのかを追跡するのも困難になり、内部統制上の弱点にもなります。
自動仕訳では、仕訳に適用されたルールや処理結果がシステム上に履歴として残り、証憑との紐付けも自動保存されます。そのため、取引から仕訳登録までの経路を簡単に追跡できます。担当者による判断のばらつきも減るため、承認や監査チェックの効率が飛躍的に向上し、結果として「対応に追われる監査」から「負担なくこなせる監査」へと体質を変えていくことができます。
一部の企業では、Excelなどの表計算ソフトで一部の仕訳を自動化しているケースも見られます。この方法は一見効率的に見えるものの、集計ミスや二重入力、属人化の温床になりやすく、イレギュラー処理や大量データの扱いでは限界があります。
また、RPA(Robotic Process Automation)※などを活用して、一部の処理を自動化する方法もあります。しかし、この方法は自動処理の設計から行う必要があり、ルール変更や例外処理にも弱いことから、運用負担が増す可能性があります。
一方、会計システムに搭載されている自動仕訳は、AI学習やOCRとの組み合わせにより、より柔軟で現場に即した効率化を実現できます。だからこそ、自動仕訳は単なる業務効率化のツールではなく、制度対応・内部統制・人材戦略まで含めた「経理の次の一手」として注目されているのです。
※ パソコン上のロボット。「請求書の金額や取引先コードを会計システムへ自動入力する」「ネットバンキングの入出金明細をダウンロードして仕訳データに整形する」など、パソコン上で人が行う定型的な操作をソフトウェアロボットに代行させる仕組み。
自動仕訳は、日常的に繰り返される定型的な処理や、件数の多い領域で大きな効果を発揮します。具体的には、自動仕訳が対応できる業務には次のようなものがあります。
| 対象業務・データ例 | 自動仕訳の処理内容例 |
|---|---|
| 銀行明細データ | 振込入金の売掛金消込/仕入代金支払など |
| クレジットカード利用明細 | 備品購入・交通費・交際費などの費用処理 |
| 請求書・領収書PDF(OCR連携) | 勘定科目・金額の抽出と自動仕訳 |
| ネットバンキング振込履歴 | 水道光熱費・通信費・家賃等の自動仕訳処理 |
| 経費精算アプリ・交通系IC明細 | 交通費・立替経費の自動仕訳 |
| Excelなどで管理されている取引一覧 | 一括取り込みによる自動仕訳化 |
特に次のような業務は、自動仕訳を利用しやすく効果もすぐに実感できるでしょう。
銀行の入金・出金の仕訳入力は、毎月の件数が多くなりがちで、摘要欄の判定や売掛金の消込などにも時間がかかるものです。
昨今の会計システムでは、銀行の入出金データを自動で取り込むことができます。一度、取り込んだ取引データで見合った勘定科目を選択すれば、次回以降は類似取引を自動で判定して仕訳候補を表示するため、その内容を確認し確定するだけで済みます。確定後は、取引内容に応じて売掛金消込や仕入債務処理にも即座に反映されます。
クレジットカードの利用明細の場合、備品購入や交通費、交際費など、明細ごとに科目が分かれるため、手入力では分類作業が煩雑になりがちです。
このようなカード明細データも、銀行入出金データと同様、自動で取り込むことができます。AI型自動仕訳なら、取り込んだデータで一度仕訳をすれば、その後は過去の履歴から科目を自動判定し、交通費・消耗品費など繰り返し出てくる科目が高精度で仕訳できるようになります。
請求書・領収書などの証憑データは、昨今ではPDFなどのデータで発行されるケースも増えてきています。自動仕訳は、PDFデータの金額や日付、取引先等の情報から即時に仕訳するため、金額や取引先を転記する必要がなくなります。読み込んだ証憑データを紐付けして自動保存すると、保管も簡単になり、法令対応や監査効率化にもつながります。
紙の証憑も、OCRで読み取ってデータ化することができるため、同様に自動仕訳が可能になります。
社内システムやExcelに蓄積したデータも、再入力して会計ソフトに反映するのは二度手間になるうえ、入力ミスが発生する可能性があります。
CSV形式などで会計システムに取り込めば、データ入力の手間もかからず、さらに自動仕訳で仕訳処理までスピーディーに進めることができます。
このように、自動仕訳は定型・繰り返し・件数が多い業務に向いており、短期間で効果を可視化できます。はじめて自動仕訳を試す場合は、銀行明細やカード明細から始めて、OCRによる請求書処理、経費精算の順に進めていくと定着しやすくなるでしょう。
近年、クラウド会計システムに移行する企業が増えていますが、実際に自動仕訳を充分に活用できていないケースがよく見受けられます。その背景には、機能そのものの問題ではなく、利用者側にある、次のような不安や思い込みが影響していると考えられます。
現場から多く聞かれる不安の声に、「自動仕訳をするために、ルールを自分で一から作らなければならないのではないか」というものがあります。経理業務は判断基準が企業ごとに異なるため、標準化できないと感じている担当者も多く、中には「仕訳ルールを一度間違えると大きな影響が出るかも」と不安視する声も聞こえてきます。
しかし、多くのクラウド会計システムには、仕訳辞書が用意されています。あらかじめ基本的なルールが登録されているため、銀行取引やカード明細などのよくある取引は自動的に処理可能な状態からスタートでき、必要に応じて自社の運用に合わせて調整するだけで済むようになっています。
勘定奉行iクラウドの場合は、あらゆる業界に適した仕訳辞書が標準で搭載されています。業界特有の勘定科目がある場合でも、勘定奉行iクラウド[建設業編]や勘定奉行iクラウド[個別原価管理編]などの専用システムなら、特殊な勘定科目が標準で設定されているため、最初の登録時に勘定科目を新たに設定する必要もありません。
また、銀行入出金データなど最初に取り込んだ際に仕訳を選択すれば、2回目からは同じ取引内容が出てくると、初回の仕訳が自動で表示されます。
経理業務にAIを導入することには、「AIが誤った勘定科目を勝手に付けてしまうのではないか」「修正の手間がかえって増えるのではないか」という声も根強くあります。過去に、仕訳の誤りで決算修正や税務調査対応に苦労した経験があると、“システム任せ”にすることに不安を感じるのも当然のことでしょう。特にAIは判断根拠が見えにくいため、ブラックボックスのように映りやすく、心理的抵抗を強める要因となっています。
しかし、自動仕訳におけるAIは、過去の入力履歴を学習することで、繰り返し出てくる取引ほど仕訳の精度が高まります。また、担当者が必ず確認してから仕訳を確定できるため、仕訳の精度も徐々に自社仕様に最適化されていきます。さらに、「どこでどのように管理されているか」を把握できる仕組みがあれば、AIに任せることへの心理的な不安も大きく和らげられるでしょう。
勘定奉行iクラウドの場合は、表記揺れにも対応しており、わずかな文言の違いを正しく予測変換して仕訳を行うことが可能です。AI-OCRオプション※を利用すると、95%という高精度の文字認識で請求書や領収書などの証憑データを読み取り、正しい勘定科目に自動で振り分けることができます。
また、AIが学習した情報は辞書機能でチェックできるため、どのようなロジックで操作されているか自身の目で確認することもできます。
※オプション契約が必要です。
入力の精度は充分に高く、仮に誤判定が発生しても、修正の手間がそのまま将来の精度向上につながるため、長期的には入力作業そのものを大幅に削減できます。
実は、「そもそも自動仕訳で処理できる範囲がよくわからない」という声も多く寄せられます。
例えば、銀行入出金データやカード明細データなどでは、金融機関に連携の手続きが必要です。会計システムが取引のある金融機関に対応しているか把握していないからと、「自動仕訳は後回し」と判断されるケースも多いようです。
しかし、先述したように、自動仕訳が効果を発揮する領域はすでに明確になっています。まずは、金融機関や社内の取引データのように、データで受け取ることのできる仕訳処理から始めれば、短期間で成果を実感できるでしょう。
勘定奉行iクラウドのように、国内ほぼ全ての金融機関と連携できる会計システムなら、自社の取引金融機関が対象である可能性が高く、いつでも仕訳の自動化を始めることができるでしょう。経理で管理しているExcelデータは、ドラッグ&ドロップで取り込めるため、操作性も簡単です。
他システムで管理しているデータは、API連携やCSV連携で仕訳データを取り込んで自動仕訳するなど、多様な機能があり、様々な仕訳作業に活用できます。
今や自動仕訳は、想像以上に広範囲の仕訳作業で対応できるようになっています。初期設定も簡素化され、繰り返しの学習によって精度を高め、修正も容易に行えるよう設計されています。
多くの企業が感じている「できない理由」は思い込みに近く、むしろ、自動仕訳を使わずに手作業を続けることで時間やコストの無駄を抱え込んでいます。
一歩踏み出せば、定型的な仕訳処理の大半において、短期間で自動化の効果を実感できるでしょう。不安をそのままにせず、機能を正しく理解して、1つずつ業務に取り込んでいくことで大きな成果につながります。
※事例の詳細はこちらを参照ください。
宮崎電子機器株式会社様は、時代の変遷を受けて、生産性向上と変化に強い業務環境を目指して、自社の会計システムをクラウド移行することになりました。
しかし、システムを検討中、自動化の機能を取り入れて生産性を上げるためには、サービスの仕様に合わせて従来の運用を変えなければならないことが判明しました。入出金の仕訳起票で、運用の都合上どうしても手入力で起票したい部分があったのです。
当初は、「サービスを使いこなすために従来の運用を大幅に変えると、却って業務効率が進まず、業務が止まってしまうかもしれない」という懸念が大きく、自動仕訳による運用に「業務の流れが変わる」と抵抗がありました。
そこで、従来の運用で業務をこなせる勘定奉行iクラウドを導入。それまでのインストール型の会計システムと同等の機能が揃っていることで、業務に対する安心感をまず優先したそうです。
すると、仕訳入力作業でも大きな成果が出ました。
導入前は、月次棚卸の際にExcelデータを見ながら手作業で仕訳を転記していたため、入力作業の負担も大きく、転記ミスなども度々発生していました。勘定奉行iクラウドの導入後は、Excelデータをドラッグ&ドロップするだけで仕訳化できるようになり、会計システムへの転記作業やミスを大幅に削減できたそうです。Excelデータからも仕訳を自動起票できるため、他のシステムからデータをエクスポートする作業や、勘定奉行iクラウドにインポートする作業も減ったといいます。
こうした日々のちょっとした業務でも効率性が上がることを体感でき、宮崎電子機器株式会社様では、その後もこれまでのやり方に囚われず、柔軟な視点で業務のデジタル化を進めているそうです。
今や、市場で提供されているクラウド会計システムには、標準で自動仕訳が搭載されており、もはや“未来の技術”ではありません。自動仕訳を上手く活用すれば、入力作業から解放され、経理部門を戦略部隊として進化させることもできるのです。
ただし、対象となる業務範囲や精度は、サービスによって大きく異なります。会計システムを選ぶ際は、次のようなポイントで自社が求める自動仕訳ができるかを見極めることも重要です。
勘定奉行iクラウドのような、業界特有の勘定科目にも強く、初期段階からAIの学習環境が整備されている会計システムの自動仕訳で、まずは仕訳の精度向上とスピードアップを実現するところから始めてみませんか。