勤務間インターバル制度は、従業員の休息時間を確保し、長時間労働を抑制するための制度です。現在は努力義務とされていますが、将来的な制度見直しの議論も進んでおり、企業には従業員の労働時間管理や健康に対して配慮する姿勢がより明確に求められるようになりつつあります。本記事では、勤務間インターバル制度の基本的な考え方から導入時のポイント、実務上の留意点、事例やシステム活用までを整理します。
勤務間インターバル制度は、連続した勤務によって心身の疲労が蓄積しないよう、勤務と勤務の間に一定の休息時間を確保する考え方を制度として整理したものです。労働時間の管理に加え、シフトなどの組み方そのものを見直す視点であることから、労働環境の整備を図るための枠組みとして位置づけられています。
勤務間インターバル制度とは、前日の勤務終了時刻から翌日の始業時刻までの間に、一定の休息時間(インターバル)を設ける仕組みです。所定労働時間や残業時間を直接制限する制度ではなく、勤務と勤務の間に連続した休息時間を確保する点が特徴です。
この制度は、各勤務間の休息が十分に確保されない状態が続くと、疲労の回復が妨げられ、業務の質や安全性に影響が生じるおそれがあるという問題意識から制定されました。
日本では、2019年以降、国の指針等により勤務間インターバルの導入が推奨されており、各企業は自主的な取り組みを行っています。制度の具体的な運用方法や休息時間の設定については、業種や勤務形態の違いを踏まえ、実情に応じて検討することが前提です。
勤務間インターバル制度が制定された背景には、長時間労働や不規則な勤務が続くことによって、十分な休息が確保しにくい状況が生じていたという実情があります。連日の残業や勤務間の休憩が短い状態が常態化すると、心身の回復が追いつかないことが労働環境上の課題として顕在化するようになります。
こうした課題に加え、海外における労働者保護の考え方も制度検討の参考とされてきました。欧州連合(EU)では、勤務と勤務の間に一定の休息時間を確保する仕組みが法制度として整備されており、労働者の休息確保を重視する考え方が広く共有されています。
日本の勤務間インターバル制度は、これらの状況を踏まえつつ、整理されています。現時点では企業の自主的な取り組みを促す努力義務にとどまっていますが、労働環境の改善に向けた選択肢の一つとして位置づけられています。
2027年以降の労働基準法改正を見据え、勤務間インターバル制度の見直しが検討されています。2019年に制度が整理されて以降、導入は企業の努力義務とされてきましたが、実際には導入企業の割合が十分に伸びていない状況があります。
現行制度では、勤務間インターバルを導入していない場合でも、直ちに法令違反となるわけではなく、罰則が科されることもありません。このように企業ごとの判断に委ねてきた結果、業種や事業規模によって取り組み状況に差が生じている点が課題として指摘されています。
こうした背景から、将来の制度見直しの際に勤務間インターバルの取り扱いを強化する方向で議論が進められています。具体的な制度設計は確定していませんが、現時点の議論では、インターバル時間について「原則11時間」とする案が示されており、今後の審議の中で具体化が検討されています。
人事労務の担当者にとっては、義務化前に制度を導入するかどうかだけでなく、日々の労働時間管理や休息確保の考え方をどのように整理しておくかが重要になります。将来の法改正を見据え、勤務実態を把握したうえで、就業規則や社内ルールを順次見直していくことは、労務管理上のリスク低減につながります。
勤務間インターバル制度の導入は、労働環境の改善や人材確保につながる可能性がある一方で、運用面では負担が生じることもあります。制度の導入に関しては、期待できる効果だけでなく、実務上の影響を整理したうえで判断することが重要です。
導入メリットとして、主に以下の4つが挙げられます。
勤務間インターバル制度の導入にあたっては、中小企業は助成金制度を活用できる場合があります。厚生労働省は、勤務間インターバルの導入を後押しする「勤務間インターバル導入コース」を設けており、一定の要件を満たすと、制度整備や運用に関する費用の一部が助成される仕組みです。
ただし、助成金を受領するには申請手続きが必要で、対象となる取り組み内容や要件が定められています。助成金を活用しての制度の導入を検討する場合は、要件に合致するか、申請スケジュールに無理がないかを確認して進めることが重要です。
参考:厚生労働省:働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
勤務間に一定の休息時間を確保することで、従業員が私生活を充実させやすくなります。たとえば、家族と過ごす時間や趣味の時間を取りやすくなり、生活リズムの安定や気分転換につながる可能性があります。勤務間の余裕が確保されることで、十分な睡眠時間を確保しやすくなる点も、制度導入の効果として挙げられます。
休息不足が続くと、集中力の低下や判断ミスにつながりやすくなります。一方、勤務間インターバル制度によって疲労の回復が促されると、業務中の注意力や集中力が保たれやすくなり、ミスや事故の防止につながる場合があります。結果として、業務品質の安定や生産性の向上が見込まれるケースもあるでしょう。
勤務間インターバル制度を導入している事実は、働き方に配慮している企業であることを示す材料になります。そのため、採用活動の場面で求職者に対して自社の労働環境を説明する際のポジティブ要素となり得ます。また、既存の従業員の定着にもつながり、離職率の低下も期待されるでしょう。
勤務間インターバルを確保するには、その日の勤務終了時刻と翌日の始業時刻の関係を継続的に管理する必要があります。そのため、シフト調整や勤怠管理が複雑になり、現場の運用負担が増える可能性があります。また、業務の繁閑や突発対応が多い職場では人員配置の見直しが必要になることもあり、人員数が増えて人件費が上がる可能性も考えられます。
勤務間インターバル制度を導入する際は、制度の内容を先に決めるのではなく、まず自社の労働実態を把握してから段階的に進めることが重要です。現場の実情を踏まえずに制度を設計すると、形だけの導入にとどまり、実態が伴わない原因となります。
最初に、自社の労働実態を客観的に整理します。日々の労働時間や残業時間、業務量の偏りなどを洗い出し、どの部署や業務において従業員の勤務間の休息を確保しにくい状況が生じているかを確認します。併せて、従業員本人から実態を聞き取ることも重要です。勤怠データだけでは把握しにくい業務負担や繁忙期の状況、休息を十分に取れていると感じるかどうかなどを確認することで、制度設計の前提条件が明確になります。
労働実態の把握結果を基に、具体的なインターバル時間や運用ルールを検討します。業種や勤務形態によって適切な休息時間は異なるため、一律の基準を当てはめるのではなく、各部署の実情に即した設計が求められます。実際の制度設計にあたっては、現場の実態を踏まえ、労使双方で話し合いを行いながら、無理のない形を実現することが重要です。
勤務間インターバル制度を導入する場合、その内容を就業規則に反映させる必要があります。始業時刻の調整方法や例外的な取り扱いの考え方など、制度の枠組みを明文化することで、社内での認識のずれを防ぐことにつながります。就業規則の改定には所定の手続きが必要となるため、スケジュールに余裕を持って進めることが望まれます。
勤務間インターバル制度を運用するためには、その日の勤務終了時刻と翌日の始業時刻を正確に把握できる勤怠管理体制を整える必要があります。つまり、日々の勤務実績を継続的に記録し、勤務間の休息時間を把握できる状態にしておくことが前提です。手作業による管理では確認作業の負担が大きくなりやすいため、必要に応じて勤怠管理システムを活用することも選択肢となるでしょう。制度の運用を安定させるためにも、自社の業務量や勤務形態に合った管理方法を選ぶことが重要です。
制度の内容が固まったら、従業員に対して制度の目的や運用方法を周知します。単にルールを伝えるだけでなく、なぜこの制度を導入するのか、どのような点に注意すべきかを丁寧に説明することが重要です。説明不足のまま運用を開始すると、現場での誤解や混乱につながるおそれがあります。
制度導入後は、実際の運用状況を定期的に確認します。想定どおりのインターバルが確保できているか、現場に過度な負担が生じていないかを点検し、必要に応じてルールを見直します。
このように、勤務間インターバル制度は、導入後の運用を通じて調整を重ねていくことを前提とした制度です。
勤務間インターバル制度を導入する際には、制度の内容そのものだけでなく、実際の業務運営との整合性を意識する必要があります。業務量の調整や例外的な事態への対応を想定せずに制度を導入すると、現場での運用が難しくなり、制度が十分に機能しないおそれがあります。導入後の運用を見据え、あらかじめ押さえておくべきポイントを整理しておくことが重要です。
勤務間インターバル制度を安定して運用するためには、業務量の調整が欠かせません。たとえば、残業が常態化していると、勤務終了時刻が後ろ倒しになり、翌日の始業までに十分な休息時間を確保しにくくなります。そこで、制度導入にあたっては、業務の進め方や役割分担を見直し、残業が発生しにくい体制を整えることが重要です。インターバル確保を前提とした業務設計を行うことで、制度の形骸化を防ぎやすくなります。
勤務間インターバル制度を運用するにあたっては、すべてのケースに対して一律に適用することが難しい場面も想定されます。災害対応や突発的なトラブルなど、やむを得ずインターバルを確保できない状況が生じることもあるでしょう。
こうした場合に備えて、あらかじめ適用除外とするケースをルールとして定めておくことが重要です。除外の対象や判断基準を明確にしておくことで、現場ごとの判断にばらつきが生じるのを防ぎ、制度運用の混乱を避けやすくなります。
勤務間インターバル制度は、業種や事業規模によって運用の形が大きく異なります。ここでは、厚生労働省が公表している事例の中から、自社の業務内容や勤務形態に応じて制度を設計・運用している企業の取り組みを紹介します。あくまで各社の実例であるため、そのまま自社に当てはめるのではなく、制度設計の参考としてください。
株式会社エールは、訪問看護事業所を運営している企業です。訪問先や訪問時間帯によって勤務が不規則になりやすい業務特性があることから、同社では勤務間の休息時間を安定して確保することが課題となっていました。この課題を解決するために、同社では11時間の休息時間を確保する勤務間インターバル制度を導入し、介護職との連携によるシフト調整や、有事を想定した適用除外ルールの整備を進めています。さらに、スマートフォンから打刻できる勤怠管理システムを採用することで、事務所への立ち寄りを不要とし、勤務時間の把握と休息時間の確保を両立しやすい運用体制を構築しています。これらの取り組みにより、働き方への配慮が実務面で進み、結果として採用面でも一定の効果が見られています。
深田電機株式会社は、電設資材の卸売業を営む企業です。深夜の搬入立ち合いなどが発生する営業職は勤務終了時刻が後ろ倒しになりやすく、勤務間の休息時間を確保しにくいことが課題となっていました。このため同社では、9時間のインターバルを設定し、状況に応じて始業時刻を繰り下げる運用を行っています。さらに、クラウド型の勤怠管理システムを活用し、従業員がインターバル対応用の勤務パターンを選択・申請できる仕組みを整えています。こうした制度設計と運用上の工夫により、勤務間インターバル制度を現場で実現できるようにしています。
さくら情報システム株式会社は、情報通信業を展開する企業です。フレックスタイム制を含む多様な働き方を導入する中で、勤務間に十分な休息を確実に取る必要性を踏まえ、同社では11時間の休息時間を確保するための独自の運用ガイドを策定しました。制度の運用にあたっては勤怠管理システムを活用し、インターバルが不足した場合には入力画面にエラーを表示させ、上長の承認がなければ日次の締め処理ができない仕組みを採用しています。こうした可視化と管理の仕組みにより、管理職を含めた従業員全体の時間管理への意識が高まり、休息時間を意識した働き方を検討するきっかけとなっています。
勤務間インターバル制度は、従業員の休息時間を確保するための仕組みであり、現在は努力義務とされているものの、今後の制度見直しや義務化の議論も踏まえると、企業としての対応姿勢が問われやすい分野の一つといえます。特に、残業が発生しやすい業種や交代制勤務の現場では、制度そのものの導入可否だけでなく、実際の勤務実態をどのように把握し、継続的に管理しているかが重要です。
また、勤務間インターバル制度を安定的に運用するためには、勤務時間を正確に記録し、インターバルに不足が生じた場合に速やかに把握できる体制を整えることが欠かせません。手作業や属人的な管理では対応が難しい場面も多いため、勤怠管理の仕組みをシステム化することで、日々の運用負担を抑えながら制度対応を進めやすくなります。
奉行Edge 勤怠管理クラウドは、労働時間や残業時間を一元的に管理できる仕組みを備えており、勤務実態の可視化を通じて、勤務間インターバル制度への対応状況を把握しやすくします。また、給与奉行iクラウドと連携することで、勤怠情報を基にした給与計算までを一貫して処理でき、労務管理全体の効率化にもつながります。
勤務間インターバル制度については、制度の位置づけや運用方法、実務への影響など、企業の人事労務担当者から多くの質問が寄せられます。ここでは、制度対応を検討する際に特に多く寄せられる質問について、一般的な考え方を整理します。
現行制度では、勤務間インターバル制度は努力義務とされており、導入していないこと自体に対する罰則は設けられていません。同様に、現時点で制度を導入していない場合でも、直ちに法令違反となるわけではありません。
一方で、将来の法改正に関連して、勤務間インターバル制度の取り扱いの見直しが議論されています。仮に義務化される場合には、制度の位置づけや設計によっては、法令違反と判断されて罰則を科されるかもしれません。現段階では改正内容は確定していないため、今後の動向を注視しつつ、準備を進めることが現実的な対応といえるでしょう。
夜勤や突発的な残業が発生する場合でも、勤務間インターバル制度の考え方自体は同様です。勤務終了時刻から翌日の始業までに、一定の休息時間を確保することが基本となります。
実務上は、夜勤や残業によってインターバルが不足した場合、翌日の始業時刻を繰り下げるといった運用を行うことも考えられます。業種や勤務形態によって適切な対応方法が異なるため、自社の業務実態を踏まえたルール設計が重要です。
業務の都合や緊急対応などにより、やむを得ずインターバルを確保できないケースも想定されます。こうした場合に備え、あらかじめ適用除外となる条件や対応方法をルールとして整理しておくことが実務上有効です。
たとえば、災害対応やシステム障害への対応など、例外的なケースを限定的に定めたうえで、代替的な休息確保や事後的なフォローを行うといった対応が考えられます。制度の形骸化を防ぐためにも、例外運用は最小限にとどめることが望まれます。
一般的に、通勤時間は労働時間には含まれないため、勤務間インターバル制度における休息時間として扱われます。ただし、通勤中に業務指示への対応を行っている場合など、実態によっては注意が必要なケースもあります。
実務では、通勤時間と業務時間を明確に区分し、勤務終了時刻と翌日の始業時刻を正確に把握できるようにしておくことが重要です。
勤務間インターバル制度の導入にあたっては、本文で解説した国の助成金制度を活用できる場合があります。具体的には厚生労働省が中小企業の制度導入を支援するための助成制度を設けており、要件を満たせば一定の費用補助を受けられる可能性があります。
助成金は申請すれば必ず受給できるものではありませんが、導入コストを抑える手段の一つとして、要件を確認したうえで検討するとよいでしょう。
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