“いつか”はアウトソースが必要だが、始めるタイミングは難しい
昨今の人手不足や、突然の経理担当者の退職を背景に、経理業務をアウトソースする企業は増えています。
記帳を代行するサービス、請求書受領から支払データ作成までを代行するサービスなど、業務の一部を外部に委託できる選択肢も珍しいものではなくなりました。
一方で、アウトソースの検討に踏み切れず、悩み続けている企業も少なくありません。
「今すぐ業務が立ち行かなくなるわけではない」
「なんとか回ってはいる」
「ただ、この先のことを考えると不安はある」
そう感じながらも、アウトソースにはコストがかかるため、「本当に今なのか」という判断が難しい。
“いつかは必要かもしれない”と頭では理解していても、決断のきっかけをつかめない状態です。
実際のところ、世の中の企業はどのような基準でアウトソースに踏み切っているのでしょうか。
アウトソースを行う理由は「人手不足への対応」とは限らない
経理業務のアウトソースは、主に「人手不足への対処」と捉えられています。
担当者が一人抜けた、採用が進まない、業務量が急増した。そうした状況下で、外部委託を検討する企業が多いのは事実です。
しかし、アウトソースを行っている企業に理由を聞いてみると、「今、人が足りないかどうか」だけではなく、「これから経理業務をどのように行いたいか」という視点で意思決定が行われていることが分かりました。
例えば、「あと一人減ったら考えよう」「本当に業務が回らなくなってからにしよう」といった判断は、一見すると合理的です。
余計なコストをかけず、今いるメンバーで対応する。その姿勢自体は間違いではありません。
ただし、アウトソースは開始を決めた瞬間からすぐに機能するものではありません。
委託する業務範囲の整理や、業務フローの確認、委託先とのすり合わせなど、実際に業務が軌道に乗るまでには一定の準備期間が必要です。
人手不足が深刻化してから検討を始めると、その準備期間中に現場へ過度な負荷がかかり、「すぐに外に出したくても”今から”は出せない」状態に陥ることもあります。
結果として、対応が後手に回り、経理業務全体の安定性が損なわれてしまう可能性も否定できません。
そのため、アウトソースを判断する際には、
- 人が足りているかどうか
- 今、業務が回っているかどうか
だけでなく、
- 今後、業務量や業務内容はどう変化しそうか
- 経理として、人の時間をどこに使いたいのか
といった視点で考えることが重要になります。
定型的な業務を外部に委ねることで、社内ではチェックや改善、分析といった役割に時間を割けるようになる。
そうした状態を目指すのであれば、アウトソースは「人手不足の最後の手段」ではなく、経理部や会社の成長を見据えた選択肢のひとつとして検討する価値があると言えるでしょう。
今すぐアウトソースを始めない場合も、
「外部に任せられる準備」をしておくことが重要
アウトソースを検討する際、もう一つ重要なのが「任せる準備ができているか」という点です。
どの業務を、どこまで、どのように外部へ委託するのか。これらを決めて、委託をはじめるためには、自社の業務を自分たちの言葉で説明できる状態にしておく必要があります。
たとえば、取引情報をどのように受け取り、誰が内容を確認し、どのタイミングで起票しているのか。
例外的な処理が必要になるのはどんなケースなのか。
こうした情報は、日常業務では意識されにくいものですが、委託を行う際には必ず説明が求められます。
委託先は、自社の事情をすべて察して判断してくれるわけではありません。
業務を代行できたとしても、最終的な判断や責任は自社に残るケースがほとんどです。
特に、突然の退職などで、業務の背景を説明できる人がいなくなった場合、「アウトソースしたいのに、何をどう説明すればいいかわからない」という事態に陥ることは珍しくありません。
その結果、委託先に業務の整理から行ってもらうこととなり、想定外のコストがかかるだけでなく、実際に委託して業務が進められるようになるまで時間がかかってしまいます。
こうしたリスクを避けるためには、今すぐアウトソースを始めるわけではなくても、
- 業務の流れを棚卸しする
- 判断ポイントを言語化する
- 簡易的でもマニュアルとして残しておく
といった準備を、日頃から進めておくことが重要です。
業務を整理することは、アウトソースのためだけの作業ではありません。
属人化している業務や、改善の余地がある工程に気づくきっかけにもなります。結果として、「アウトソースまでは必要なかった」「一部だけ委託すれば十分だった」と判断できる場合もあるでしょう。
アウトソースを行うかに迷った時こそ
自社の経理業務を整理し、いつでも考えられる状態を整えよう
アウトソースは、人員が足りなくなった際に代わりに業務をやってもらうためだけのものではありません。経理業務をどのように進めていきたいのか、どの部分に社内の人材の力を使いたいのかを見つめ直すきっかけにもなります。
「アウトソースが必要かもしれない」と頭によぎったときは、実はそのこと自体が、一度立ち止まって経理業務のあり方を考えるタイミングなのかもしれません。
大切なのは、「いつか考えよう」ではなく、「いつでも考えられる状態をつくっておく」ことです。
アウトソースをする・しないにかかわらず、将来を見据えて、いま行っている経理業務を整理しておく。その積み重ねが、結果として自社にとって無理のない、納得感のある判断につながっていくのではないでしょうか。