「食事補助制度」は、従業員の食事費用をサポートする福利厚生制度として広く活用されており、一定の条件を満たせば、企業が負担する食事費用は非課税として扱うことが認められています。
この食事補助制度について、2026年4月1日以後、非課税限度額が従来の月額3,500円(税抜)から7,500円(税抜)へと引き上げられました。この改正により、福利厚生の充実につながることが期待されていますが、一方では給与処理や制度設計の見直しが必要になるケースも想定されます。
そこで今回は、改正後の食事補助制度のポイントを整理するとともに、給与計算における実務対応や注意点について解説します。
食事補助制度は、企業が従業員の食事費用の一部を負担する福利厚生制度の一つです。従業員の生活支援や福利厚生の充実を目的として、社員食堂の利用補助や食事チケットの支給、食事カード・食事アプリなどを通じて食事費用をサポートします。
近年は、食料品価格の上昇や働き方の多様化などを背景に、従業員の生活支援施策として改めて注目されています。大手企業だけでなく中小企業の間でも、従業員満足度の向上や採用競争力の強化といった観点から、導入を進める動きが広がっています。
食事補助制度と混同されやすいものに「食事手当」があります。
食事手当は、企業が従業員に対して現金で支給する手当であり、給与の一部として扱われるため、原則として所得税および社会保険料の対象となります。
一方、食事補助制度は、福利厚生として食事そのものを提供・補助する仕組みであり、一定の要件を満たす場合には企業が負担する食事費用が非課税として取り扱われます。
つまり、食事手当と食事補助制度は、支給方法(現金か現物か)の違いがあり、その違いによって税務上の取り扱いも異なることになります。
なお、食事補助制度で非課税限度額を超えた場合には、超過分のみでなく、企業負担分の全額が給与として課税対象となります。そのため実務では、非課税要件を満たす範囲で福利厚生として処理し、要件を満たさない場合や制度設計によっては給与(食事手当など)として処理されることもあります。
食事補助制度のメリットの1つは、従業員の生活支援と企業の福利厚生充実を同時に実現できる点です。従業員にとっては食事費用の負担軽減につながり、同額を給与として支給される場合と比べて手取り額が上がります。
他にも、社員食堂や食事サービスの導入は、副次的な効果として社内コミュニケーションの活性化や健康経営の推進なども期待されています。採用活動において企業の魅力としてアピールしやすく、顧客や取引先、ステークホルダーなどに対する企業イメージの向上にもつながります。
一方で、制度を非課税として運用するためには、企業負担額が非課税限度額以内であることが求められます。条件を満たさない場合には給与課税となるため、制度設計には注意が必要です。また、食事の提供方法によっては運用コストや管理業務が発生します。利用実績の管理や給与処理との連携など実務対応も必要となるため、自社の規模や働き方に応じた運用設計が重要になります。
食事補助制度は、企業が負担する食事費用について、一定の条件を満たす場合に限り、給与として課税しない取り扱いが認められています。ただし、すべての食事補助が自動的に非課税となるわけではなく、税務上の要件を満たしていることが前提となります。
こうした中、食料品価格の上昇などにより従来の非課税上限額では実態に合わなくなってきたことを受け、令和8年度税制改正により約40年ぶりに非課税上限額の見直しが行われました。
従来、企業が負担する食事費用の非課税限度額は「月3,500円」とされていましたが、2026年4月1日以後に支給される食事費用については非課税限度額が「月7,500円」へと引き上げられました。これにより、例えば月22日勤務で食事補助をする場合、非課税額は従来の「約159円/食」から「約341円/食」になります。
旧 非課税上限:月3,500円の場合
3,500円 ÷ 22日 = 約159円 /食
新 非課税上限:月7,500円の場合
7,500円 ÷ 22日 = 約341円 /食
このように、1食あたりの非課税枠が大きく拡大されたことで、企業は従来よりも柔軟に食事補助制度を設計できるようになります。
なお、食事補助制度は、在宅勤務(リモートワーク)者にも適用可能です。ただし、福利厚生として非課税扱いとするためには、出社時と同様に税務上の要件を満たしていることが前提となります。
また、非課税となるための基本的条件については、これまでの考え方を踏襲するものとして、変更はありません。
食事補助を非課税として扱うための条件は、これまでと同様、次の①②とも満たす必要があります。
企業が食事費用を全額負担する場合、従業員に対して「経済的利益を提供している」とみなされ、給与として課税される可能性があります。そのため、福利厚生として非課税扱いとするには、従業員自身も一定額を負担していることが前提となります。
また、企業負担額には非課税上限が設けられており、この上限を超えた場合は企業負担分の全額が給与として課税対象となります。制度が給与の代替として利用されることを防ぐため、福利厚生として妥当な範囲に限定されている点がポイントです。
今回の改正では、非課税枠が拡大されただけで、制度の基本的な考え方は従来から変わっていません。
例えば、1日500円の食事補助を提供している企業では、月22日勤務の場合、企業負担額は11,000円となります。この場合、非課税限度額の7,500円を超えているため、企業負担分の11,000円全額が給与として課税対象となります。そのため、食事補助制度を整備する際は、補助額の設定にあたって「非課税要件を満たす範囲に収まっているか」も確認しておくことが大切です。
残業時や宿日直時に支給される食事については、企業が全額負担していても非課税とされるケースがあります。また、深夜勤務者に対しては、本来は夜食を現物として支給することが前提とされていますが、それが難しい場合の代替措置として、一定額以下の現金支給が認められています。
この「一定額以下」の金額については、従来の「1食あたり300円以下」が2026年の改正により「1食あたり650円以下」(いずれも消費税等抜き)に引き上げられています。
ただし、この引き上げは深夜勤務に伴う夜食代の取り扱いに関する通達の改正によるもので、福利厚生としての食事補助制度の改正とは異なります。
食事補助制度を導入する際には、制度内容だけでなく、運用方法や給与処理との関係まで含めて整理しておくことが大切です。
制度設計と実務運用が一致していない場合、課税対象となるなどのトラブルにつながる可能性があります。そのため、導入にあたっては、次のような流れで段階的に検討していくことが望まれます。
まず、食事補助制度の基本的な枠組みを決定します。
具体的には、次のような点を整理します。
特に重要なのが、非課税として運用することを前提にした設計になっているかという点です。制度設計の段階で税務上の要件を満たしているかを確認しておくことで、後の実務トラブルを防ぐことにつながります。
また、提供方法については、従業員の利用実態やニーズを踏まえて選定することで、制度の定着や利用率の向上にもつながります。
次に、食事補助の利用状況をどのように管理するかを検討します。
例えば、社員食堂の場合は利用回数や利用金額の把握、食事カードやアプリの場合は利用データの集計など、提供方法に応じた管理方法が必要です。利用実績をもとに企業負担額を算出する場合もあれば、一定額の補助を毎月付与する形で運用する場合もあります。いずれの場合も、制度設計で定めた内容と実際の管理方法が一致しているか確認しておきましょう。
利用状況を正確に把握できない場合、企業負担額の計算や給与処理に影響が出る可能性があるため、事前にしっかり把握しておくことが望まれます。
食事補助制度は福利厚生として提供されるため、必ずしも給与計算の中で処理するとは限りません。例えば、社員食堂や食事サービスを利用する場合、企業が事業者へ費用を支払い、従業員は自己負担分のみを支払う形で完結するケースもあります。
一方で、従業員の自己負担分を給与から控除する場合や、利用実績に応じて給与控除を行う場合など、給与計算と連動する運用も少なくありません。
そのため、次の点をあらかじめ整理しておきましょう。
このように、制度導入時に給与計算との関係を含めた処理フローを明確にしておくことで、月次の給与計算業務をスムーズに進めることができます。
給与処理と連動する運用の場合には、給与項目の設定も重要になります。
例えば、従業員の自己負担分を給与控除として処理するのか、食事補助に関する支給・控除項目をどのように区分するのかなど、制度内容に応じた設定が必要です。
また、企業負担額が非課税要件を満たしていない場合は、その全額を給与として処理することになります。
制度内容と給与項目の設定が一致していない場合、課税区分の誤りや計算ミスにつながる可能性があるため、課税区分の設定が適切に行われているかも確認しておきましょう。
最後に、制度内容を社内ルールや規程として明確にします。
食事補助制度は、日常的に利用される福利厚生制度のため、対象者や利用条件が曖昧なまま運用すると、不公平感や運用上の混乱を招く可能性があります。
例えば、次のような内容を整理し社内規程として整備しておくことで、制度運用の基準を明確にすることができます。
あわせて、制度内容を従業員へ周知することで、利用方法や条件への理解を促し、安定した制度運用につなげることができます。
制度の基本的な仕組み自体は従来から大きく変わらないものの、食事補助制度の非課税上限が引き上げられたことで、補助額の見直しや制度変更を検討する企業も増えることが予想されます。
運用内容を変更する場合には、給与実務への影響を事前に確認しておくことが大切です。
ここでは、改正対応にあたり給与担当者が押さえておきたい主な実務ポイントを整理します。
食事補助制度では、一定の要件を満たす場合に企業負担分が非課税として扱われます。制度内容と自社の非課税判定基準が一致していない場合、意図せず課税対象となる可能性があるため、給与実務では、課税・非課税を正しく判定できる仕組みになっているかを確認する必要があります。
また、課税・非課税の区分は年間の給与処理にも影響します。制度変更や補助額の見直しを行った場合には、年度途中で課税区分が変わるケースもあるため、年間を通じて処理の整合性が保たれているかを確認しましょう。
特に、制度変更前後で課税区分の管理が適切に行われていないと、年末調整や源泉徴収票の作成時に修正対応が発生する可能性があります。制度変更のタイミングと給与計算への反映時期を整理し、月次・年次の双方で適切に処理できる状態にしておくことが肝心です。
食事補助の提供方法によっては、社会保険上の取り扱いにも注意が必要です。
社会保険料は、標準報酬月額の算定や改定時に「報酬」に該当する金額を基準として算定されるため、現物給付として評価される場合には、報酬に含まれるかどうかを適切に判断しなければなりません。
また、税務上は非課税であっても、社会保険上は同様の扱いにならないケースがあります。そのため、制度の見直しを行う際には、給与税務だけでなく、社会保険の取り扱いも含めて整理しておきましょう。
残業時に支給する食事については、通常の食事補助制度とは異なる取り扱いとなります。
例えば、残業や宿日直時に支給される食事は、一定の条件を満たす場合、業務遂行上必要な食事として企業が全額負担していても、非課税として扱われるケースがあります。一方で、食事手当として現金支給する場合には、給与として課税対象となるのが原則です。
現金で支給する食事手当は、原則として賃金に該当し、時間外労働の割増賃金の計算基礎に含まれます。食事補助制度と同様に取り扱うと、課税区分や賃金計算に誤りが生じる可能性があるため、制度ごとの違いを整理しておくとよいでしょう。
近年は、社員食堂を設置する企業の他に、食事カードや食事アプリなどのサービスを利用する企業も増えています。このようなサービスを利用する場合は、食事利用データをどのように管理し、給与計算や企業負担額の算出に反映しているかを確認します。具体的には、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
特に、給与計算と連動している場合には、データ確定が給与計算の締め日に間に合うかが重要なポイントとなります。データ確定が遅れると給与処理への反映が翌月になるなど、実務にも影響する可能性があります。制度改正に伴い補助額を変更する場合には、こうしたデータ管理や処理フローにも影響がないかをあわせて確認しておきましょう。
食事補助制度は、福利厚生制度である一方、利用実績の管理や給与処理との連携など、日常的な実務と密接に関わる制度でもあります。補助額の見直しや制度改正が行われる場合には、給与処理やデータ管理の方法にも影響が及びます。
制度の設計だけでなく、「どのように運用するか」によって、担当者の業務負担は大きく変わります。改正への対応をスムーズに進めるためには、日常業務の中で無理なく管理できる仕組みを整えておくことが大切です。
例えば、社員食堂の利用実績や食事サービスのデータをExcelで集計し、企業負担額を算出している企業も少なくありません。こうした方法は、利用実績の集計や企業負担額の計算などを柔軟に行える一方で、制度変更があった場合には計算式や管理方法を手動で修正する必要があります。手作業による入力や集計が多い場合には、計算ミスや入力ミスが発生するリスクも高まります。
制度改正のたびに手動対応をしていると、給与担当者にとって大きな負担になる可能性があります。
給与計算システムを活用すれば、食事補助や食事手当に関する給与項目をシステム上で管理することができます。支給項目や控除項目を設定することで、給与計算と連動した処理を一元的に管理でき、給与明細への反映や課税区分の管理も整理しやすくなります。
また、制度変更があった場合でも、給与処理への影響範囲を把握しやすくなるため、運用ルールの見直しもスムーズに行うことができます。
中でも、クラウド型の給与システムは、税制改正や制度変更に合わせてプログラムが自動更新されるため、改正対応の負担を大きく軽減できます。
例えば給与奉行iクラウドでは、食事手当を設定している場合、給与処理時に金額を入力することで、非課税限度額に基づいた所得税計算が自動で行われます。課税・非課税の判定ロジックもシステム上で管理されるため、計算確認や対応工数の削減につながります。
✓軽減税率を適用する場合、標準税率と分けて支給項目を設定できる。
✓標準税率と軽減税率の支給項目がある場合、それぞれの内税を差し引いた後に合算し、非課税限度額と比較して判定する。
計算式を自身で作成するのが難しい場合は、奉行AIアシスタントを活用することで、適切な計算式を確認しながら設定を進めることができます。
また、奉⾏Edge 勤怠管理クラウドと連携することで、食事注文データを給与計算に取り込み、食事の回数や食事代の合計金額などから控除額を計算することができます。
このように、食事補助制度の利用回数や金額の集計、給与処理までをシステム上で一元管理できる体制が整えられれば、手作業による負担やミスのリスクを抑えることができます。
2026年の非課税枠の拡大は、企業にとって福利厚生を充実させる機会となる一方で、制度設計や給与実務の見直しが求められる改正といえます。特に、補助額の見直しや制度運用の変更を行う場合には、非課税要件や給与処理との関係、利用データの管理方法などを整理し、制度内容と実務運用が一致しているかを確認しておくことが重要です。
また、こうした制度改正に対応していくためには、給与処理や制度管理をどのような仕組みで運用するかという視点も欠かせません。
給与奉行iクラウドのようなクラウド型の給与システムを活用することで、税制改正や制度変更に応じたプログラム更新が自動で反映され、都度の設定見直しや手作業による対応を最小限に抑えながら、最新の制度に基づいた給与処理を行いやすくなります。
今回の改正を機に、食事補助制度の見直しだけでなく、給与計算体制やシステム環境も含めて、自社の運用方法を改めて整理してみてはいかがでしょうか。
食事手当を現金で支給する場合は、原則として給与として扱われるため、所得税の対象となり、非課税にはなりません。非課税となるのは、食事そのものを提供する食事補助制度で、一定の要件を満たした場合に限られます。
食事補助を非課税として扱うためには、「従業員が食事代の50%以上を負担していること」「企業が負担する額が非課税上限以内であること」という2つの条件を満たす必要があります。これらの要件を満たさない場合は、給与として課税対象となります。
現金で支給する食事手当は、原則として賃金として扱われ、時間外労働の割増賃金の計算基礎に含まれます。一方、福利厚生として提供される食事補助は、賃金には該当しないため、原則として割増賃金の計算基礎には含まれません。