通勤手当には、一定額まで所得税が課税されない「非課税限度額」が設けられています。
この非課税限度額について、2025年(令和7年)11月の改正に続き、令和8年度税制改正においても見直しが行われました。特に2026年4月1日から適用される改正は、マイカーでの長距離通勤にかかる通勤手当が中心となっています。
短期間で連続して改正されたことで、対応に戸惑っている給与計算・人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、マイカー通勤手当の非課税限度額の基本と2025年〜2026年の改正内容を整理するとともに、通勤手当で押さえておくべき実務ポイントについて解説します。
通勤手当は、従業員が通勤のために負担する交通費を補填する目的で企業が支給する手当です。法令で支給を定められた手当ではありませんが、多くの企業では通勤費用を補助する目的で、給与規程や就業規則で支給ルールを定めて支給しています。
こうした通勤費用は、業務に伴って発生する必要経費としての性格を持つことから、通勤に要する費用として合理的と認められる範囲の金額については、所得税が課税されない「非課税限度額」が設けられています。
企業が支給する通勤手当が非課税限度額の範囲内であれば所得税は課されませんが、限度額を超えて支給する場合には、その超過部分を給与として課税する必要があります。そのため、実務では「どこまでが非課税となるのか」を正しく判定することが重要になり、支給ルールや通勤実態の確認が不可欠となります。
通勤手当を非課税とする規定は、所得税法および所得税法施行令に基づいて定められています。
五 給与所得を有する者で通勤するもの(以下この号において「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの
通勤手段には、電車やバスなどの公共交通機関を利用するケースと、自家用車やバイクなどを利用するマイカー通勤がありますが、通勤手当の非課税限度額は、この通勤手段によっても扱い方が異なります。
例えば、電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合には、合理的な運賃等の額の範囲内で、月額15万円までが非課税とされています。一方、自家用車やバイクなどを利用するマイカー通勤の非課税限度額は、実際の支出額ではなく、通勤距離(片道)に応じて定められています。
そのため、給与計算実務では、従業員ごとの通勤手段を把握し、該当する距離区分に応じて課税・非課税の判定を行う必要があります。
特にマイカー通勤の場合は、通勤距離区分によって非課税限度額が異なるため、従業員ごとの通勤距離を正確に把握しておくことが重要です。
通勤手当の非課税限度額は、通勤に要する費用の実態や社会情勢の変化を踏まえ、これまでも見直しが行われてきましたが、2014年の改正以降は長期にわたり同一水準が続いていました。しかし、近年のガソリン価格の上昇など社会情勢の変化が著しく、特にマイカー通勤に要する実態に近づける形で非課税限度額の見直しが行われました。
2025年11月の改正では、マイカー通勤の場合の非課税限度額が、通勤距離(片道)ごとの区分に応じて引き上げられました。この改正では、特に中距離〜長距離帯において引き上げ幅が大きくなっています。
| 通勤距離(片道) | 非課税限度額(月額) | |
|---|---|---|
| 〜2025.3 | 2025.4〜2026.3 | |
| 2km未満 | 非課税なし | 非課税なし(変更なし) |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 | 4,200円(変更なし) |
| 10km以上15km未満 | 7,100円 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 12,900円 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 18,700円 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 24,400円 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 28,000円 | 32,300円 |
| 55km以上 | 31,600円 | 38,700円 |
一方で、非課税限度額の判定方法自体(距離区分で判定する仕組み)は従来から変更されていません。そのため、実務上は「制度が変わった」というよりも、「同じ判定ロジックのまま金額だけが変わった」と捉えると理解しやすいでしょう。
また、このときの改正内容は、2025年4月1日以後に支払われる通勤手当に遡及して適用されたため、2025年の年末調整において差額を精算する対応が行われました。
2025年の改正では、マイカー通勤時の通勤距離が片道55km以上の場合の非課税限度額は「一律38,700円」とされました。これに加え、2026年の見直しでは、65km以上の区分を新たに細分化し、通勤距離に応じて非課税限度額が段階的に設定されました。
この改正は、2026年4月1日以後に支払われる(同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものを除く)通勤手当について適用されます。
| 通勤距離(片道) | 非課税限度額(月額) | |
|---|---|---|
| 2025.4〜2026.3 | 2026.4〜 | |
| 55km以上65km未満 | 38,700円(一律) | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 | |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 | |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 | |
| 95km以上 | 66,400円 | |
また、2026年の改正により、駐車場代についても非課税限度額の上限が設けられ、「月5,000円まで」とされました。駐車場代については、自動車、バイクだけでなく、自転車で通勤し駐車場を利用する場合にも適用されます。
なお、交通機関や有料道路を利用している場合の通勤手当にかかる非課税限度額は従来どおりとなります。
これらをまとめると、2026年4月以降の通勤手当の非課税限度額は次のようになります。
| マイカー通勤手当 | 非課税限度額(月額) | |
| 通勤距離 | 2km未満 | 非課税なし |
| 2km〜10km未満 | 4,200円 | |
| 10km〜15km未満 | 7,300円 | |
| 15km〜25km未満 | 13,500円 | |
| 25km〜35km未満 | 19,700円 | |
| 35km〜45km未満 | 25,900円 | |
| 45km〜55km未満 | 32,300円 | |
| 55km〜65km未満 | 38,700円 | |
| 65km〜75km未満 | 45,700円 | |
| 75km〜85km未満 | 52,700円 | |
| 85km〜95km未満 | 59,600円 | |
| 95km以上 | 66,400円 | |
| その他の通勤手当 | 非課税限度額(月額) |
| 電車やバスなどの 交通機関を利用している場合 |
合理的な運賃等の額(通勤用定期券) (最高限度 150,000円) |
| 公共交通機関や有料道路とマイカーやバイク、 自転車などを併用している場合 |
合理的な運賃等の額(通勤用定期券) + マイカー通勤手当 (最高限度 150,000円) |
| 駐車場(駐輪場)併用の場合 | 非課税限度額(月額) |
| マイカー通勤で、駐車場(駐輪場)を利用している場合 (通勤距離が片道2km未満を除く) |
マイカー通勤手当 + 駐車場等の利用料(上限5,000円) |
| 公共交通機関や有料道路とマイカー通勤を併用し、かつ駐車場(駐輪場)を利用している場合 (通勤距離が片道2km未満を除く) |
合理的な運賃等の額(通勤用定期券) + マイカー通勤手当 + 駐車場等の利用料(上限5,000円) (最高限度 150,000円) |
※駐車場(駐輪場)の利用料は、通勤に利用するマイカー、バイク、自転車等の駐車を目的とし、かつ、勤務先周辺はまたは自宅から交通機関の駅等の周辺にあるものに限ります。
2025年に続き、短期間で制度改正が続いている背景には、度重なる燃料費の高騰などにより、通勤に要する実費が大きく変動している状況があります。人事院では、2025年の改正に先駆けて、国家公務員に対して次のように通勤手当の見直しが行われました。人事院勧告はこれまでも税制改正に影響を与えてきており、今回2度にわたって改正が行われたのも、こうした流れを踏まえてのことと考えられます。
出典:人事院 PDF「令和7年 人事院勧告・報告の概要」
給与計算実務では、通勤手当が非課税限度額の範囲内かどうかによって課税・非課税の判定を行うため、このような改正は実務に直接影響することになります。
また、ガソリン価格の上昇は世界情勢の影響も大きく、今回短期間で制度の見直しが行われたことを考えると、「通勤手当の非課税限度額は今後も継続的に見直される可能性がある」といえます。
そのため、企業の給与計算実務では、非課税限度額の確認や判定基準の見直しなどの対応が繰り返し必要になると理解しておきましょう。
では、これらの改正によって、実際の給与計算実務や従業員への支給にどのような影響が生じるのでしょうか。
通勤手当のうち、非課税限度額の範囲内の金額は所得税の課税対象となりません。そのため、通勤距離が長い従業員の場合、通勤手当に対する課税額が減少し、その分だけ手取り額が増える可能性があります。
また、これまでは駐車場代について非課税限度額が定められていなかったため、企業が補助していた場合でも課税対象として扱われてきました。今回の改正では、距離ごとの非課税枠にプラスして最大5,000円/月までは非課税となるため、駐車場代にかかる課税額も減少することになります。
とはいえ、そもそも通勤距離が片道2km未満は対象外となっており、今回の改正では通勤にかかる費用(電車+車+駐車場)が月15万円以内であることも明記されたため、実際の影響は個々の支給状況によって異なることを周知することが重要となります。
マイカー通勤手当の非課税限度額は通勤距離(片道)に応じて定められています。そのため、従業員ごとの設定が新基準と合致しているかを見直す必要があります。従業員ごとの通勤距離と非課税限度額の対応関係が適切に管理されていない場合、課税・非課税の判定に誤りが生じるリスクがあります。
給与担当者としては制度改正の内容を正しく把握するだけでなく、自社の給与計算業務に与える影響を早急に把握し、必要に応じて通勤手当の管理体制を整えることが大切です。
通勤手当改正に対応するうえで、企業が確認しておきたい実務上のポイントは主に次の3点です。
まずは、従業員ごとの通勤距離と、給与計算における非課税限度額の設定が適切に行われているかを確認することが重要です。特に今回の改正では、長距離区分の細分化と駐車場手当の新設により、設定すべき項目が増えています。
給与システムやExcelの登録内容が改正後の基準に合っているかをあらためて見直しておきましょう。
通勤手当の課税・非課税の判定は、従業員ごとの通勤距離・通勤手段・支給額・駐車場利用の有無など、複数の条件を組み合わせて行う必要があります。今回の改正で判定すべき項目が増えたことで、処理の複雑さが増しています。
担当者が個別に確認・計算している場合やExcelで処理している場合、計算式の設定ミスや更新漏れ、入力誤りが発生しやすく、気づかないまま誤った課税処理が続くリスクがあります。特に従業員数が多い場合や通勤手段が複合している場合(公共交通機関+マイカーなど)は、課税・非課税の判定ミスが起こりやすくなるため注意が必要です。
通勤手当の非課税限度額は、通勤費用の実態や社会情勢の変化を踏まえて見直しが行われます。今回のように短期間で制度改正が続く場合には、一度設定した内容をそのまま使い続けることが難しく、改正のたびに見直しや設定変更が必要となります。
通勤手当は多くの企業で毎月支給される手当ですが、その管理方法は企業によって異なり、給与システムで管理している企業もあれば、Excelで計算や管理を行っている企業も少なくありません。Excelで通勤手当の計算や管理を行っている場合、非課税限度額の見直しに合わせてExcelの計算式や設定を変更する必要があり、入力ミスや更新漏れといったリスクも発生しやすくなります。そのため、法令改正に応じて迅速に対応できる仕組みを整えておくことが重要です。
給与計算に関わる制度は、税制改正や社会情勢の変化が大きく影響するものです。そのため、制度改正に迅速に対応できる仕組みを整えておくことは、給与担当者の負担軽減だけでなく、計算ミスの防止にもつながります。
例えば、クラウド型の給与システムは、法令改正に合わせてシステム側がアップデートされるため、企業側で複雑な設定変更を行う必要がありません。
給与奉行iクラウドの場合、公共交通機関でもマイカー通勤でも、従業員ごとの通勤手当の管理を一元化でき、手作業による負担を大きく軽減することが可能です。
2025年11月の通勤手当改正にもいち早く対応しており、2026年の見直し内容を踏まえた機能がすでにリリースされています。
具体的には、支給額と片道距離を入力すると、非課税通勤費と課税通勤費が改正後の金額で自動判定されます。また、「駐車場手当」も登録でき、一定の要件を満たす駐車場代相当額(上限:月5,000 円)が非課税限度額に含めて自動で計算できます。
マイカー通勤手当の非課税限度額の引き上げは、従業員の手取り額に影響する一方で、給与計算実務においては、非課税限度額の設定や課税・非課税の判定の見直しなど、対応すべきポイントが多くなる制度改正といえます。特に、短期間で改正が続いていることから、今後も継続的に見直しが行われる可能性があります。
こうした改正に対応するためには、制度内容の把握に加え、給与計算の設定や通勤手当の管理方法を見直し、法令改正に迅速かつ正確に対応できる体制を整えておくことが欠かせません。
給与奉行iクラウドのように、法令改正にあわせて機能が更新される仕組みを活用して、「改正や変更に強い」給与計算体制の構築を検討してみてはいかがでしょうか。
2025年11月の改正では、マイカー通勤手当の非課税限度額は通勤距離(片道)ごとの区分に応じて引き上げられました。また、2026年4月の改正では長距離区分(65km以上)が細分化され、通勤距離に応じて非課税限度額が段階的に設定されています。これにより、より実態に即した非課税枠になっています。
2026年4月1日の改正内容は、同日以後に支払われる通勤手当から適用されています。ただし、4月1日以降に支払う通勤手当でも、前月(2026年3月)以前の不足分の精算にあたる場合は、旧ルールが適用されます。
2026年4月1日の改正では、駐車場代についても通勤に要する費用の一部であるとして、一定の要件を満たす場合、月5,000円まで非課税とされました。「一定の要件」とは、勤務先周辺または通勤のために利用する駅・停留所等の周辺にある駐車場等を指します。
ただし、通勤距離が片道2km未満は対象外です。また、公共交通機関とマイカー等を併用する場合(電車+車+駐車場)は、通勤にかかる費用の合計が月15万円までは非課税となり、超える部分は課税対象となります。