電子帳簿保存法の施行により、「仕訳帳」「請求書」「領収書」などの国税関係の帳簿や書類を、紙ではなく電子データで保存することが認められるようになりました。紙の保存と比べると、保存コストの軽減や省スペース化、業務効率化など、多くのメリットがある一方で、電子化された書類には、複製や改ざんが容易にできてしまうというリスクもあります。そこで、電子文書が原本であることを担保するために導入されたのが、「タイムスタンプ」という仕組みです。
今回は、タイムスタンプの基本情報や、タイムスタンプと関連が深い電子帳簿保存法について解説します。
タイムスタンプとは、電子文書が改ざんされていない、原本であることを証明する技術です。タイムスタンプは、第三者機関であるTSA(Time-Stamping Authority:時刻認証業務認定事業者)が発行するため、発行後の変更や書類の有無を隠すことができません。
そのため、電子文書にタイムスタンプが付与されると、付与された時刻に書類が存在していたことや、付与時刻以降は書類が変更されていないことが証明されます。
紙の書類の場合、紙の劣化で時間の経過がわかったり、筆跡の変化や修正などで改ざんされたりしたことが明らかになります。一方、電子文書は紙と違い、劣化することがなく複製や編集も簡単なため、書類が原本であることを保証するのは困難です。
そこで登場したのが、タイムスタンプです。電子帳簿保存法の改正により発行件数が年々増えており、今後さらに利用が促進されることが考えられます。
■タイムスタンプの年次発行数の推移出典:一般財団法人日本データ通信協会「認定タイムスタンプの年次別発行件数の推移」より
なお、タイムスタンプを発行できるのは、TSAだけです。TSAの一覧は、下記のリンクからご確認ください。
出典:総務省「総務省「タイムスタンプについて」
電子文書のタイムスタンプは、どのような仕組みで付与されるのでしょうか。発行手順と併せて見ていきましょう。
タイムスタンプサービスは、タイムスタンプの「要求」「付与」「検証」によって、データの信頼性が担保される仕組みです。
タイムスタンプサービスによって付与されるハッシュ値とは、ハッシュと呼ばれるアルゴリズムを用いて生成されたデータのことで、ランダムにデータが生成されるため、暗号のような役割を持っています。ハッシュ値から元のデータを再現することは不可能で、入力されたデータが一文字でも変わるとハッシュ値も変わります。文書が修正されると、TSAが保有している当初のハッシュ値と異なるため、電子文書の改ざんが疑われるのです。
出典:総務省「電子署名・認証・タイムスタンプその役割と活用」より引用
タイムスタンプを発行する手順は、下記の3つに分かれます。
電子帳簿保存法とは、国税関係の帳簿や書類の電子データ保存などの取り扱いについて定めた法律です。IT化が進み、帳簿や書類を電子データで作成することが一般的になった結果、わざわざ紙に印刷することが非効率になってきました。そこで、1998年に電子帳簿保存法が施行され、帳簿や書類の電子データ保存が許可されるようになったのです。
帳簿や書類の電子データ保存が認められたことにより業務効率化が進む一方、電子データは簡単に改ざんできてしまうというリスクもありました。そのため、電子帳簿保存法では、電子データの保存について本物だと確認できる「真実性の確保」と、誰でも視認できる「可視性の確保」を定めています。
タイムスタンプは、「付与された時刻以前に電子文書が存在していたこと」「付与された時刻以降に電子文書が改ざんされていないこと」が証明できます。
タイムスタンプによる信頼性の担保は、電子帳簿保存法に則った正しい文書保存につながるのです。
電子帳簿保存法は、1998年の施行以降、法改正を繰り返しています。2024年1月1日から電子取引のデータ保存が完全義務化されたことからも、今後ますますペーパーレス化や電子化へ対応が求められるでしょう。
電子帳簿保存法の対象となる文書には、下記のようなものがあります。
<電子帳簿保存法の対象となる文書>
電子帳簿保存法で認められている保存方法には、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つの方法があります。それぞれの詳細は下記のとおりです。
■電子帳簿保存法における3つの区分前述のとおり、電子帳簿保存法の3つ区分のうち「スキャナ保存(区分2)」と「電子取引(区分3)」でタイムスタンプが必要となります。詳しい内容を見ていきましょう。
スキャナ保存では、真実性や可視性を確保するために「重要書類」と「一般書類」に区別し、下記の要件が定められています。
なお、重要書類とは、契約書や領収書など資金や物の流れに直結する書類です。一般書類は、検収書や見積書など、資金や物の流れに直結しない書類です。
要件 | 重要書類 | 一般書類 |
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一定水準以上の解像度による読み取り | 200dpi以上 | |
カラー画像による読み取り | 赤・青・緑それぞれ256階調(約1,677万色)以上 | カラー画像ではなくグレースケールでの読み取りも可能 |
入力期間の制限 | ◯ | 適時に入力 |
タイムスタンプの付与 | 受領者等が読み取る場合、受領後、受領者等が署名の上、概ね3営業日以内に付す | 受領者等が読み取る場合、読み取る際に付すか、受領後、受領者等が署名の上、概ね3営業日以内に付す |
解像度および階調情報の保存 | ◯ | ◯ |
大きさ情報の保存 | ◯ (受領者等が読み取る場合、該当書類の大きさがA4以下の場合は保存不要) |
不要 |
バージョン管理 | 下記のいずれかを満たすシステムを使用する
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|
スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持 | ◯ | ◯ |
見読可能装置の備え付け | 14インチ以上のカラーディスプレイ、4ポイント文字の認識など | カラー画像ではなくグレースケールでの保存可 |
整然・明瞭出力 | ◯ | ◯ |
電子計算機処理システムの開発関係書類などの備え付け | 下記のような書類を備え付ける
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検索機能の確保 | 下記の要件による検索ができる(※)
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※税務職員の求めに応じて書類のデータを提示、提出できるようにしている事業者は、(2)と(3)が不要。また、前々年度の売上高が5,000万円以下の事業者の場合、同様に税務職員からの求めに応じて書類を提示、提出できればすべてが不要。
出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】Ⅱ 適用要件【基本的事項】」
重要書類・一般書類ともにスキャナ保存の際は、タイムスタンプを付与する必要があります。 しかし、電子データの訂正・削除を行った際に、それらの事実や内容を確認できるシステムを利用している場合は、タイムスタンプの付与義務は免除されます。
電子取引の保存要件における「真実性の確保」は、下記のいずれかの措置を行うように定められています。
<真実性の確保>
タイムスタンプが付与された状態で書類を受け取った場合、自社でタイムスタンプを付与する必要はありません。ただし、すべての取引でタイムスタンプが付与された状態の書類が届くとは限らないため、(2)(3)(4)いずれかの対応が現実的といえます。
2022年に施行された改正電子帳簿保存法では、タイムスタンプの要件が緩和され、書類をデータ保存しやすくなりました。
2022年施行の改正電子帳簿保存法について、確認していきましょう。
このうち、下記2項目は特に大きな変更です。
スキャナ保存の場合、国税関係書類への自署が不要になります。また、最長で概ね約2ヵ月と7営業日以内にタイムスタンプを付与すれば良くなり、要件が緩和されました。 電子データの修正や削除をした場合でも、その事実と内容を確認することができるか、入力期限内に電子データを保存したことが確認できるクラウドシステムなどであれば、タイムスタンプは不要になります。
インターネット取引や電子メール取引などの電子取引においては、すべての企業に対し、電子データで受け取った電子書類の紙への出力とその保存が、原則不可になります。受領した電子書類にはタイムスタンプを付与して保管をするか、データの訂正削除を行った場合は、その記録が残るシステムや訂正削除ができないシステムを利用するか、訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付けをするなどの措置を講じなくてはなりません。
法改正による変更点の詳細については、当サイトの記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
電子帳簿保存法の改正内容と2024年からの電子保存義務化への対応方法
電子書類にタイムスタンプを付与するには、「TSAとの契約」「認定スタンプの付与が可能な会計システムの導入」が必要です。
タイムスタンプを付与する際の手順は下記のとおりです。
タイムスタンプを利用する場合は、現在利用している複合機や会計システムにタイムスタンプの付与機能があるか、確認してみるといいでしょう。
タイムスタンプ発行サービスには、TSAに利用料を支払う必要があります。費用の目安は下記のとおりです。
なお、タイムスタンプ付与機能がある複合機や経理システムの利用料には、タイムスタンプ利用料も含まれていることが多いため、別途費用がかかることはありません。
初期費用 | 5,000~1万円程度下 |
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維持費 | 従量制:タイムスタンプ1回あたり10円程度 定額制:1ヵ月ごとにタイムスタンプの発行上限回数で区切られた定額料金(発行上限によって10万~300万円まで幅広い) |
自社がどの程度タイムスタンプを発行するかを想定し、サービスを選択する必要があります。
タイムスタンプへの対応を検討する際は、業務の効率化や電子帳簿保存法に対応できるシステムの導入がおすすめです。経理業務との連携など、機能面も考慮することが大切です。
「勘定奉行iクラウド 」は、電子帳簿保存法に完全対応した経理DXサービスです。「証憑収集オプション 」を追加すれば、さまざまな証憑をアップロードするだけでタイムスタンプを自動付与して保管できます。
■「勘定奉行iクラウド」の対応範囲電子取引のデータ保存は2024年1月1日から完全義務化されたため、各事業者は電子帳簿保存法に則った対応が求められます。「勘定奉行iクラウド」は、電子帳簿保存法の要件を満たす形式で電子証憑を保管できるため、この機会にぜひご検討ください。
■監修者
石割 由紀人
公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタルの会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。