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社会保険料控除とは?年末調整の対象と控除額の計算方法、手続き上の注意点を解説!|社会保険・労働保険 |OBC360° |人事労務システムの総務人事奉行クラウド |人材・人事管理・総務システムのOBC

作成者: 人事給与|2025年08月04日

年末調整や確定申告で従業員の税負担を軽減できる社会保険料控除は、適切な申告方法や書類の確認方法、支払方法による違いを正しく理解することが大切です。

国民年金・厚生年金保険料や介護保険料などの控除対象に関する国税庁の規定や、家族分の支払い、特別徴収・口座振替での取り扱いなど、細かな基礎知識を正確に把握しておかないと、申告漏れや控除ミスにつながります。

本記事では、社会保険料控除の基礎知識から申告時の注意点、電子化のメリットまで詳しく解説します。

目次

社会保険料控除とは?

社会保険料控除とは、毎年1月1日〜12月31日までに納付された社会保険料に対して受けられる所得控除のことをいいます。 社会保険は、年金保険、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険があり、この中には、労働者自身が全額、または企業と折半という形で保険料を支払うものがあります。労働者にとっては所得税や住民税が大きな負担になることもあるため、支払った社会保険料の全額を控除して税負担を減らすことを目的としています。

厚生年金保険料や健康保険料などが給与から天引きされている会社員にとって社会保険料控除は、年末調整や確定申告の際に、適切に申告・手続きを行うことで税負担を軽減できる税制上のメリットです。日々の給与計算によって反映されるこの控除は、従業員の負担軽減につながる制度として正しく理解しておく必要があります。

社会保険料控除の対象者

控除の対象となるのは、従業員自身の社会保険料のほか、従業員が生計を一にする配偶者や親族などの社会保険料を支払った場合も含まれます。そのため、例えば親の国民健康保険料、配偶者や20歳を超えた子供の国民年金なども、本人が支払ったことが明確であれば控除ができます。

「生計を一にする」という判断ポイントについては、同居している家族の場合は、生活費や日常の支出を共有していることが要件となります。また、別居であっても、継続的に学費・療養費・生活費などを送金しているようなケースであれば該当します。

つまり、生活に必要な費用を実質的に分担している関係があれば、控除の適用対象と見なされると考えてよいでしょう。

社会保険料控除の対象となる保険料

年末調整でできる社会保険料控除の対象となる保険料等は、次の通りです。

  1. 健康保険、国⺠年⾦、厚⽣年⾦保険および船員保険の保険料で被保険者として負担するもの
  2. 国⺠健康保険の保険料または国⺠健康保険税
  3. ⾼齢者の医療の確保に関する法律の規定による保険料
  4. 介護保険法の規定による介護保険料
  5. 雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
  6. 国⺠年⾦基⾦の加⼊員として負担する掛⾦
  7. 独⽴⾏政法⼈農業者年⾦基⾦法の規定により被保険者として負担する農業者年⾦の保険料
  8. 存続厚⽣年⾦基⾦の加⼊員として負担する掛⾦
  9. 国家公務員共済組合法、地⽅公務員等共済組合法、私⽴学校教職員共済法、恩給法等の規定による掛⾦または納⾦等
  10. 労働者災害補償保険の特別加⼊者の規定により負担する保険料
  11. 地⽅公共団体の職員が条例の規定によって組織する互助会の行う職員の相互扶助に関する制度で、⼀定の要件を備えているものとして所轄税務署⻑の承認を受けた制度に基づきその職員が負担する掛⾦
  12. 国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律の公庫等の復帰希望職員に関する経過措置の規定による掛⾦
  13. 健康保険法附則または船員保険法附則の規定により非保険者が承認法⼈等に⽀払う負担⾦
  14. 租税条約の規定により、当該租税条約の相⼿国の社会保障制度に対して⽀払われるもののうち⼀定額

※ 日本の社会保障制度に対して⽀払われる当該租税条約に規定する強制保険料と同様の⽅法、ならびに類似の条件、および制限に従って取り扱うこととされているものに限る

出典:国税庁「社会保険料控除」より

なお、社会保険料控除には金額の上限や納付期限の指定がなく、該当年以外の保険料を前納した分や過去の未納分も、12月31日までに納付した保険料であれば全て今年の控除対象となります。逆に、該当年の社会保険料であっても、未納であれば控除の対象外となるため注意が必要です。確定申告でも社会保険料控除の適用を受けられますが、会社員の場合は年末調整での手続きが一般的です。

年末調整で社会保険料を受ける際の手続き

年末調整において社会保険料控除を受ける場合、従業員本人の社会保険料は企業が把握しているため、通常は申告書に改めて記入する必要はありません。一方で、配偶者や親族などの社会保険料を従業員が負担している場合には、本人からの申告が必要となります。

●申告に必要な書類

年末調整の手続きでは、「給与所得者の保険料控除申告書」と「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に必要事項を記入し、該当する「社会保険料控除証明書」を添えて提出してもらいます。

なお、転職者については特別な配慮が必要です。

年度の中途で雇用した従業員については、「給与所得者の保険料控除申告書」に離職期間中に納付した保険料を記入し、控除証明書と、以前の勤務先が発行した源泉徴収票も添付のうえ、提出してもらいます。

出典:国税庁「令和7年分 給与所得者の保険料控除申告書

出典:国税庁「令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

出典:日本年金機構「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書の発行について

●社会保険料の控除額の計算方法

1年間に実際に支払いを終えた社会保険料の合計額が、そのまま社会保険料控除として差し引かれます。例えば、年収(額面)が450万円で、年間の社会保険料として65万円を支払った場合、社会保険料控除後は385万円になります。簡単に「年内に納めた社会保険料の総額=控除額」と考えておくとわかりやすいでしょう。控除対象には、厚生年金保険料や介護保険料などが含まれます。

また、実際には給与所得控除など、他の控除が差し引かれたうえで課税所得が決まるため、社会保険料控除後の金額がそのまま課税対象になるわけではない点に留意してください。

●社会保険料控除の申告書の記入方法

社会保険料控除の申告書には、加入している社会保険や公的年金などの保険料に関する情報を記入する欄があります。ただし、給与から天引きしている従業員本人分の社会保険料については企業側で把握しているため、従業員に記入を求めることは基本的にありません。

一方、従業員が自分で支払った家族分の国民年金保険料などについては、支払先として日本年金機構などの具体的な名称を記入してもらう必要があります。証明書類として日本年金機構などから送付される社会保険料控除証明書を回収し、従業員の手元にある証憑と申告内容が一致しているかを確認し、年末調整に正確に反映させましょう。

以下では、申告書の具体的な書き方を紹介します。

  1. ① 社会保険の種類
    給与天引きされている自身の社会保険料以外で、従業員本人が⽀払っている社会保険の種類を記入します。
  2. ② ⽀払先の具体的な名称
    社会保険料を⽀払った機関・法⼈名を記入します。
  3. ③ 保険料を負担することになっている人(氏名)
    「保険料を負担することになっている人」とは、社会保険の対象者のことを指します。ここでは、社会保険の対象者の名前を記入します。
  4. ④ 本年中に⽀払った保険料の金額
    控除証明書等に記載されている、1年間に支払った保険料の合計額を記入します。
  5. ⑤ 合計(控除額)
    本年中に支払った社会保険料の合計金額を記入します。
  6.  

年末調整で社会保険料控除を受ける際の注意点

社会保険料控除の申告では、年末調整特有の手続きや前納・未納分の取り扱いの違いに注意が必要です。ここでは、担当者が確認すべきポイントについて説明します。

●保険料を前納した場合

12月までに翌年分の国民年金保険料を支払った場合、支払った年の社会保険料控除の対象となります。これは国税庁の規定で定められており、年末調整では支払った年に控除できる点を担当者として把握しておきましょう。

なお、会社員の場合は本人が厚生年金に加入しているため、国民年金を支払うケースとしては、配偶者や親族などの国民年金保険料を本人が負担している場合が考えられます。

また、国民年金保険料の前納は、最大2年分まで可能で、「2年前納」制度として知られています。「2年前納」制度では、2年分の保険料を前払いすることで、毎月納付する場合よりも割引が受けられる仕組みになっています。この制度を利用して一括納付した場合も、支払った全額を支払った年の社会保険料控除の対象とすることが可能です。なお、支払った年に全額を控除するか、各年分に分けて控除するかは選択できますが、収入が多い年に全額を控除することで税負担を軽減できるメリットがあります。

いずれの前納方法を選んだ場合でも、年末調整で社会保険料控除の適用を受けるには、従業員が支払った国民年金保険料やその他の掛け金に対する社会保険料控除証明書を日本年金機構などから受け取り、「給与所得者の保険料控除申告書」に添付して提出してもらう必要があります。

さらに、過去の未納分を追納や後納により支払った場合も、支払った年の社会保険料控除の対象となります。納付額が増えることで将来の年金受給額も増える点を、従業員に案内するとよいでしょう。

●後期高齢者医療制度の保険料を支払った場合

本人(申告者)が生計を一にする家族の後期高齢者医療保険料を支払った場合、その支払い分も社会保険料控除の対象になります。これは、申告者が家族の医療保険料を実質的に負担している場合の重要なポイントです。

ただし、家族本人の年金から後期高齢者医療保険料が特別徴収されている場合は、その家族本人が支払ったものと見なされるため、申告者が控除を受けることはできません。支払い方法によって控除の取り扱いが変わるため、注意が必要です。

なお、口座振替で支払った場合は、口座名義人が被保険者本人か、もしくは被保険者と生計を一にする配偶者や親族であれば、その口座名義人に対して社会保険料控除が適用されます。納付書払いの場合は、自治体によってはクレジットカードやスマートフォン決済アプリでの納付も可能ですが、この場合も、カードやアプリの名義人が社会保険料控除の対象となります。

●被扶養者が支払った保険料の場合

被扶養者が自分で支払ったと見なされる社会保険料(例:後期高齢者医療保険料が本人の年金から特別徴収されているケースなど)は、扶養している申告者の社会保険料控除の対象にはなりません。これは、実際に支払いをした人に控除が適用されるという、社会保険料控除の基本的な考え方に基づいています。

年末調整はデジタル化の時代!マイナポータル連携で業務効率の改善を!

年に一度しかない年末調整は、従業員が手続きや必要書類の作成に慣れていないことから、不備や記入ミスが発生しやすく、担当者にとっても手間がかかるものです。負担を軽減するために、年末調整業務をデジタル化して自動化・省力化することをおすすめします。

年末調整をデジタル化することで、申告書の配付や回収、給与システムへの入力業務までの一連の流れを効率化できます。特に、申告書のデータ入力まで自動化すれば、従来に比べて8割もの業務時間を削減することが可能です。

特に注目すべきは、奉行Edge 年末調整申告書クラウドのような、マイナポータル連携に対応しているサービスです。従業員側でマイナポータル連携の手続きをしていれば、企業は社会保険料控除証明書類などの提出なしに控除内容を把握することができ、証明書などの電子データについても一括で取り込むことができます。

こうしたクラウドサービスを導入することで、年末調整業務の効率化と正確性向上を同時に実現できるでしょう。

おわりに

社会保険料控除は、従業員の税金負担を軽くし、家計を支える大切な制度です。厚生年金や国民年金、介護保険料などが控除の対象であり、正確に申告することで年末調整や確定申告で適正な控除を受けられます。

一方で、人事労務担当者は、従業員本人や家族の控除対象分も含めた証明書の管理、天引きされた保険料の確認など幅広い対応が必要です。申告方法を正しく理解していれば、漏れや記載ミスなどの誤った申告を防げます。自社で判断が難しい場合は、税理士や社会保険労務士といった専門家への相談を検討しましょう。
さらに、年末調整業務をデジタル化できるクラウドサービスを利用することで、申告書の配布・回収から控除証明書のデータ取り込みまでを効率化でき、手間やミスを減らせます。マイナポータル連携に対応したサービスを導入すれば、控除証明書を自動取得でき、正確な申告を実現可能です。

社会保険料控除の正確な取り扱いは、従業員の安心と満足度、そして担当者の業務効率化の両方につながります。正しい制度理解による確実な手続きを通じて、より良い人事労務管理を目指しましょう。

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