未払い残業問題でIPO準備が止まる?! IPO準備段階では労務問題の早期解決が鍵!

IPOにおけて重要性を増している労務管理。最重要課題である「未払い残業問題」を解説いたします。
2018年6月5日
POINT
労務の最重要課題は「未払い残業問題」
 ・タイムカードだけでは証拠にならない!
 ・高額化する訴訟の和解金・・・
 ・過去2年間の退職者を含む未払い残業代をすべて解消しないとIPO承認は下りない?!
 未払い残業問題、過重労働問題、ハラスメント問題など、連日テレビやニュースで取りざたされているように、労務管理の重要性は年々増しています。 IPO準備企業においても労務管理は厳しく問われており、労務でIPO準備につまずいてしまう企業も増えてきています。
 そこで今回はIPO実務経験豊富なアイ社会保険労務士法人の土屋 信彦先生に昨今のIPOにおける労務問題と対策について聞いてみました。
-IPO準備企業が注意すべき労務リスクを教えてください。
 労働にかかわる諸法令を遵守することを「労務コンプライアンス」と言い、IPO準備企業に限らず実施する必要があります。これに違反すると、金銭リスク、信用リスク、訴訟リスク、行政リスクなどを負うことになります。
 次に労務リスクの具体例を挙げますと、最重要課題は「未払い残業問題」です。その他にも「過重労働問題、社会保険の適正加入、就業規則その他規程の整備」などが挙げられます。今回は「未払い残業問題」について、詳しく解説したいと思います。
-未払い残業問題にはどのような種類があるでしょう?
 未払い残業問題の種類には様々なものがありますが、大きくタイプ別に以下の3つにわけることができます。

(1)労働時間管理が不適正なもの
(2)割増賃金計算の過誤によるもの
(3)名ばかり管理職の法的要件を具備していないことから発生するもの

これらの原因を細かく見るとさらに下記に分類されます。
(1)労働時間管理が不適正なもの
・そもそもタイムカード等により労働時間を記録していない
・タイムカードはあるが一定時刻になると強制打刻させたり、上司の指示により実際の労働時間がカットされている
・労働時間の集計において日単位で15分や30分未満の時間を切捨てている

 最近では、タイムカードだけでは証跡とならず、パソコンの使用記録や入退室記録などと照合することが必須になっています (「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」厚生労働省H29.1.20)。 タイムカードと実労働時間に乖離がある場合は、その乖離の理由を本人へのヒアリングなどで調べることになります。 また未払い残業代は従業員数に比例するので、数千万単位と高額になることがあります。 実際に、労働者全員分の労働時間をチェックをしてやっとIPOが承認されたというケースがありました。 審査時に見られるポイントですので、申請期の前には必ず解決しておいてください。
(2)割増賃金計算の過誤によるもの
・基本給だけで残業計算をしており、算入すべき手当を参入していない
・残業単価を一律の定額で計算しており、割増賃金を下回っている
・割増賃金率が法定率以上になっていない
・残業単価を割り出すための分母(所定労働時間)の数値が正しくない
・年俸制では残業手当が不要と誤った認識をしている
・不適正な定額残業制度となっている
・一律定額支給の住宅手当や家族手当を割増賃金対象から除外している

 数年前に割増賃金計算の割増率が変更されていますが、いまだ変更前の割増率で計算している企業もあります。ただの計算の過誤が従業員数に比例して多額になることがありますので、ご注意ください。
(3)名ばかり管理職の要件を具備していないもの
・名ばかり管理職として過大評価され、残業代が払われていない中堅社員がいる

 名ばかり管理職で有名な事例は、2008年大手外食チェーンの店長が会社に残業代の支払いを求め裁判を起こした事例です。 裁判の争点は労働基準法41条の「管理監督者」に原告が当てはまるかどうかでした。原告は店長ではあるものの、権 限は店舗内限定、労働時間に関する裁量性があったとは認められないとし、「管理監督者」には当たらないという結論になりました。会社は敗訴し、過去2年分の未払い残業代の支払いを求める判決となりました。
 上記のように未払い残業問題と言っても、その原因は多岐にわたり、労働時間の管理方法、割増賃金の計算方法、名ばかり管理職問題などは、法的に正確な知識をもって対応していない場合に思わぬ金銭リスクを負うことになります。 これらの未払い残業問題が発覚すると原則として2年分を遡及して支払わなければならず、社員数によっては数千万円~億単位の簿外債務が発生してしまうことになり、退職者を含め精算しなければなりません。 当然、精算が終わるまでIPO審査がいったん止まってしまうことになります。
 労務整備は時間をかけてきちんと取り組めば解決することができます。早め早めに取り組んでいきましょう。
【Special Interview】
 過去5年で7社のIPO支援実績をもつアイ社会保険労務士法人 土屋先生に、昨今のIPOにおける労務管理についてざっくばらんに教えていただきました。
-土屋様がIPO準備企業の労務支援を始められたきっかけ、支援する際のモットーは?
 10年ほど前、クライアント企業のうちの何社かがIPO準備に入り、IPOにおける労務上のアドバイスをしたことがきっかけです。 それから私自身「IPO内部統制実務士」の資格も取りIPOに詳しくなっていきました。社労士の中でこの資格を持っていることは非常に珍しいようで、お客様からの信頼にも繋がっています。
 支援の際のモットーですが、企業が労務上のコンプライアンスを遵守するよう促すとともに、企業とその企業で働く従業員の方々のベクトルを同じ方向に導くことを心がけて支援しています。 規程等に問題がないかをチェックするだけではなく私も企業・従業員の方と同じベクトルを向いて一緒に成長していこうと日々勉強しています。
-続いて、IPOにおける労務監査契約について教えてください。
 IPO準備企業の場合は、直前期に労務整備は完了している必要があります。労務整備には1年ほど時間を要しますので、直前々期には労務監査契約をすることをお勧めします。 IPO実現を支援した社労士は、IPO実現後も引き続き労務顧問を務めることが多いです。
-IPO準備段階また、IPO実現後は労務監査は必須なのでしょうか。
 どちらも必須ではありませんが、IPO準備段階で労務監査をして労務整備をしておかないと証券会社の審査を通ることができません。IPO準備段階では実質必須のようなものですね。
 IPO実現後は、こちらも必須ではありませんが、事業が拡大したり、従業員数が急増する等、大幅に企業の内部が変化します。 そうなるとIPO申請時に作成している労務関連の規程などが当てはまらないことがあり、ほころびが出てきます。 そのためIPO実現後多くの企業では、2年に1回くらいは最低でも労務を見直しています。
 また、新興市場にIPOをしたあとに、本則にステップアップする際にも見直しが必要になります。本則では労務監査のレベルが上がりますので。
-最後に、IPO準備段階のおける社会保険労務士の選定ポイントを教えてください。
 労務関連に限らず色々な法律を常にチェックし勉強していること、お客様と切磋琢磨し合える社労士であることでしょうか。
 法律は日々改正されていますので、勉強を怠るとお客様についていけなくなってしまいます。最初にもお答えしたようにお客様と同じベクトルで一緒に成長を考えられる社労士が適していると思います。
 また労務監査を引き受けることができる社労士法人は全体の1割程度だと思います。 IPOに詳しい社労士もなかなかいません。IPOを実現するためには、IPO支援実績や労務監査実績などが豊富な法人に依頼することをお勧めします。

土屋先生、ありがとうございました。
次回は「過重労働問題、社会保険の適正加入、就業規則その他規程の整備」について教えていただきます。 お楽しみに!
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執筆
アイ社会保険労務士法人 代表社員 土屋 信彦氏
アイ社会保険労務士法人 代表社員 土屋 信彦氏
得意分野はIPOやM&A及びリスク対応にかかわる労務監査や就業規則整備。
証券会社、税理士会、宅建業協会、異業種交流会等でのセミナー多数。
埼玉県社会保険労務士会理事、社会保険労務士会川口支部副支部長等を歴任。名南経営LCG会員。上場実務研究士業会会員。
人事担当者向け情報が充実!詳しくはホームページをご覧ください。
アイ社会保険労務士法人 ホームページ
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