

キャッシュ・フロー計算書とは、企業の一定期間における現預金の流入と流出を記録した会計書類です。財務諸表の一つとして、金融商品取引法により上場企業に作成が義務付けられています。本記事では、キャッシュ・フロー計算書の作成方法や読み方、IPO準備における留意事項などについて株式会社コロケット代表取締役/公認会計士の塩月氏が解説します。

- ■執筆:株式会社コロケット
代表取締役 公認会計士 塩月 亨氏 - 福岡県福岡市出身。2007年東京大学経済学部卒業。 2006年に公認会計士試験に合格後、あずさ監査法人に入所。監査法人ではシンガポール赴任、グローバル企業の監査及びIPO支援等を行った。 2021年に株式会社コロケットを設立し、上場企業及びIPO準備企業の会計・ガバナンス領域の支援を行っている。また、環境分野・web3分野・宇宙分野などの最新ビジネスを行っているスタートアップ企業の支援にも力を入れている。
この記事でわかること
- キャッシュ・フロー計算書の基本(意味・役割)
- キャッシュ・フロー計算書の構造(3つのキャッシュ・フロー)
- キャッシュ・フロー計算書の作成方法(間接法を中心に解説)
- キャッシュ・フロー計算書の見方・活用ポイント(経営者・投資家の視点)
- IPO準備企業が押さえるべき実務対応と留意点
目次
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1.キャッシュ・フローとは?
「キャッシュ・フロー」とは、“キャッシュ”=“現金”の、“フロー”=“流れ”という意味です。
企業会計基準委員会(ASBJ)では、キャッシュ・フローを「資金(事業活動の元手にあてる金銭(現金))の増加又は減少」と定義しています。
参考:企業会計基準委員会「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」,2024年7月
2.キャッシュ・フロー計算書とは?
キャッシュ・フロー計算書とは、企業の一定期間における現預金の流入と流出を記録(現預金の流れを見える化)した会計書類です。
一定期間に「どれだけ現預金が増減したのか」「その増減がどのような取引によって生じたのか」を確認できる点に特徴があります。
キャッシュ・フロー計算書の記載対象はあくまで現預金の流入・流出です。そのため、現預金の増減を伴わない交換取引や、当座預金から普通預金への預け替えのような現金および現金同等物相互間の取引については、記載対象になりません。
参考:企業会計基準委員会「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」,2024年7月
出典:任天堂株式会社HP
3.キャッシュ・フロー計算書の作成対象
キャッシュ・フロー計算書は、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書とともに、金融商品取引法により上場企業に作成が義務付けられている財務諸表の一つであり、業績を開示する決算短信や有価証券報告書に掲載されます。
一方で、未公開会社が期末決算の際に作成する決算書類や、税務申告の添付書類としては、作成が義務付けられていません。
IPO準備企業においては、上場審査において過去2期間分の会計監査意見が求められ、その監査対象となる財務諸表にはキャッシュ・フロー計算書も含まれます。そのため、法律上の作成義務はないものの、実務上、キャッシュ・フロー計算書の作成および理解が必要となります。
4.キャッシュ・フロー計算書を把握する目的
キャッシュ・フロー計算書を作成・確認する目的は、大きく分けて次の2点にあります。
●資金繰りを可視化し、黒字倒産リスクを含む資金不足を防ぐ
会計上は黒字であっても、売上代金の回収が遅れたり、仕入・設備投資・借入金の返済などの支払いが先行したりすると、手元の資金が不足することがあります。
このような状態が続くと、支払いが滞り、事業継続が難しくなる、いわゆる「黒字倒産」に至るケースもあります。
キャッシュ・フロー計算書を確認することで、一定期間における実際の現預金の流入と流出を把握でき、資金不足リスクを早期に察知することが可能となります。
●財務の健全性や成長性を評価するための重要な判断材料となる
キャッシュ・フロー計算書は、本業が安定的に資金を生み出せているか、将来の成長に向けた投資を行う余力があるかを確認するために活用されます。
経営者にとっては、投資判断や資金調達の検討に活用され、投資家にとっては、企業が継続的に収益を生み出す力を備えているか、どのような資金運用を行っているかを読み取る手がかりとなります。
5.キャッシュ・フロー計算書と、貸借対照表、損益計算書との関係性
キャッシュ・フロー計算書と同様に、企業の財務状況を把握するための主要な財務諸表として、貸借対照表・損益計算書があります。これらは総称して「財務三表」と呼ばれ、それぞれ異なる視点から企業の状態を示しています。
●各財務諸表の役割
貸借対照表は、決算日当日の企業の財政状態を示す財務諸表です。決算時点でどのような資産を保有しており、それらの資産を調達するための資金がどのような形で賄われているか(負債・純資産)を示すことで、企業の資金構成を把握することができます。
損益計算書とは、一定期間における企業の経営成績を示す財務諸表です。売上や費用、そこから算出される利益を通じて、「その期間にどれだけ利益を上げたか」を把握することができます。
一方、キャッシュ・フロー計算書は、一定期間における現預金の実際の流入・流出に着目した財務諸表です。利益の計上とは異なり、「お金がいつ、どの取引によって動いたか」を把握できる点に特徴があります。
| 財務諸表 | 主な内容 | 対象となる時点・期間 |
|---|---|---|
| 貸借対照表(B/S) | 決算日時点の資産・負債・純資産の状況(その結果、どのような資産・負債が残ったか) | 決算日時点 |
| 損益計算書(P/L) | 一定期間における売上・費用・利益(どれだけ利益が出たか) | 一定期間 |
| キャッシュ・フロー計算書(C/F) | 現預金の流入・流出とその要因(現金が実際にどう動いたか) | 一定期間 |
●財務三表の関係性
財務三表は、それぞれ独立した財務諸表ですが、数値の面では相互に連動しており、3つをあわせて確認することで企業の経営状態をより正確に把握することができます。
損益計算書では、一定期間における収益と費用をもとに、利益(当期純利益)が算出されます。
ただし、当期純利益は発生主義に基づく計算結果であるため、収益や費用は必ずしも現金の入出金と同時に認識されるわけではありません。したがって、算出される利益は、当期の現金の増減をそのまま示すものではない点に留意が必要です。
たとえば、売上が計上されていても、売掛金として未回収であれば、その時点では現金は増えていません。また、減価償却費のように、費用として計上されていても、当期に現金の支出を伴わない項目もあります。
キャッシュ・フロー計算書(間接法)では、損益計算書で算出された税引前当期純利益を起点として、売掛金・買掛金の増減や、減価償却費といった非資金損益項目を調整することで、「利益がどのように現金の増減に結びついたのか」を整理します。
そして、これらの結果は最終的に貸借対照表へ集約されます。
損益計算書で算出された当期純利益は、配当などを除き、純資産(利益剰余金)として貸借対照表に累積されます。
また、キャッシュ・フロー計算書における期末の現金および現金同等物の残高は、決算日時点の貸借対照表に計上される「現金及び預金」の残高と一致します。
財務三表を個別に見るだけでは、
- 利益は出ているが、実際には現金が回っていない
- 現金は増えているが、一時的な借入や資産売却によるものにすぎない
といった状況を見誤るおそれがあります。
損益計算書・キャッシュ・フロー計算書・貸借対照表を相互に照らし合わせて確認することで、利益の状況、資金繰りの実態、そして決算日時点の財務状態を一体として把握でき、会社の経営状態をより正確に判断することが可能になります。
6.キャッシュ・フロー計算書のキャッシュ・フロー区分
キャッシュ・フロー計算書は、企業の現預金の増減を、「どのような活動によって生じたのか」という観点から整理するため、「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャッシュ・フロー」、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つに区分されます。
キャッシュ・フロー計算書を読む際には、各区分の金額がプラスかマイナスかだけで判断するのではなく、それがどのような企業活動や経営判断の結果なのかを理解することが重要です。
出典:任天堂株式会社HP
●営業活動によるキャッシュ・フロー
企業の主たる営業活動(本業)から生じた現預金の流れを示します。
例:売上高や営業費用、顧客からの現金受領、仕入先への現金支払い など
また、投資活動および財務活動のいずれにも該当しない取引についても、原則として営業活動によるキャッシュ・フローに含まれます。
例:災害による保険金収入、損害賠償金の支払い、巨額の特別退職金の支給 など
●投資活動によるキャッシュ・フロー
将来の成長や事業維持を目的とした投資活動に関連する現預金の流れを示します。
例:設備投資、不動産の購入・売却、有価証券の取得・売却 など
●財務活動によるキャッシュ・フロー
事業活動や投資活動を支えるための資金調達や返済に関連する現預金の流れを示します。
例:株式の発行による資金調達、借入金の増加・返済、配当金の支払い など
財務活動によるキャッシュ・フローを確認することで、企業の財務戦略や資金調達方針を把握することができます。
| 区分 | プラスの場合 | マイナスの場合 |
|---|---|---|
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 本業で現預金を安定的に生み出せている状態 | 本業で十分に現金を生み出せていない状態 |
| 投資活動によるキャッシュ・フロー | 資産売却などにより現預金を回収している状態 | 設備投資など将来に向けた投資を行っている状態 |
| 財務活動によるキャッシュ・フロー | 借入や増資などにより資金調達を行っている状態 | 借入金の返済や配当支払いを行っている状態 |
各キャッシュ・フロー区分のプラス・マイナスが示す意味合いは、企業の成長段階や経営戦略によって大きく異なります。
まず、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスの場合は、本業で十分な現預金を生み出せていない可能性があり、売上の回収状況やコスト構造などについて注意が必要なケースもあります。
一方で、成長期にある企業では、事業拡大に向けた先行投資が増えることで投資活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなり、あわせて本業もまだ安定していない段階では、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスになることも少なくありません。
このような場合、営業活動・投資活動の双方がマイナスであっても、直ちに悪い状態であるとは限らず、企業の成長フェーズや将来の収益見通しを踏まえて総合的に判断することが重要です。
●フリー・キャッシュ・フロー
事業として最終的にどれだけ自由に使える現金が生み出されているかを示す指標が、フリー・キャッシュ・フローです。
フリー・キャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを差し引いて算出されます。
計算式:「営業活動によるキャッシュ・フロー」-「投資活動によるキャッシュ・フロー」
これは、営業活動で生み出した現預金のうち、設備投資など企業の維持・成長に必要な投資を差し引いた後に残る資金を意味します。
そのため、借入金の返済や配当の支払い、新たな設備投資などに充てることができる資金余力を示す指標として活用されます。
| 区分 | 主に示す内容 | 位置づけ・特徴 |
|---|---|---|
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 本業によって生じた現預金の流れ | 企業が本業で現金を生み出す力を示す |
| 投資活動によるキャッシュ・フロー | 将来の成長や事業維持を目的とした投資活動に関する現預金の流れ | 将来の成長や事業維持のための投資活動 |
| 財務活動によるキャッシュ・フロー | 資金調達・返済に伴う現預金の流れ | 資金をどのように調達・返済しているか |
| フリー・キャッシュ・フロー | 営業キャッシュ・フローから投資キャッシュ・フローを差し引いた残余資金 | 企業が自由に使える資金の目安 |
7.営業キャッシュ・フローの算出方法
営業活動によるキャッシュ・フローは、「直接法」または「間接法」のいずれかの方法で算出します。
両者は算出の考え方や表示の仕方に違いがあります。
●直接法とは
直接法とは、営業収入、原材料又は商品の仕入れによる支出等、主要な取引ごとにキャッシュ・フローを総額表示する方法です。
この表示方法は、資金の流入及び支出がその原因と共に開示されるため、読み手に取って非常に分かりやすいという特徴があります。
●間接法とは
間接法とは、税引前当期純利益を起点として、会計上の利益と実際の資金収支との差を調整し、営業活動によるキャッシュ・フローを算出する方法です。
具体的には、次のような項目を加減算していきます。
- 非資金損益項目
例:減価償却費など、損益計算書上は費用だが現金支出を伴わない項目 - 営業活動に係る資産及び負債の増減
例:売掛金・買掛金などの増減 - 投資活動・財務活動に含まれる、キャッシュ・フローに関連して発生した損益項目
例:受取利息などの営業外収益、固定資産売却益などの特別利益
以下は、直接法と間接法の算出イメージです。
| 直接法 | 間接法 | ||
| 項目 | 金額 | 項目 | 金額 |
| 商品の販売による収入 | 35,000 | 税引前当期純利益 | 1,000 |
| 商品の仕入による支出 | △10,000 | 減価償却費 | 3,500 |
| 給料の支払いによる支出 | △10,000 | 有価証券評価損 | 1,500 |
| 経費の支払いによる支出 | △5,000 | 売掛金の増減 | 3,000 |
| 棚卸資産の増減 | △1,000 | ||
| 買掛金の増減 | 1,000 | ||
| 小計 | 10,000 | 小計 | 10,000 |
| 法人税等の支払いによる支出 | △4,000 | 法人税等の支払いによる支出 | △4,000 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 6,000 | 営業活動によるキャッシュ・フロー | 6,000 |
●間接法で「減価償却費」を足し戻す理由
間接法を理解するうえで重要なのが、非資金損益項目の代表例である減価償却費を「足し戻す」理由です。
減価償却費は、固定資産を取得した際に支出した金額を、耐用年数に応じて期間配分した費用です。
そのため、損益計算書上では費用として計上されていますが、当期に新たな現金支出が発生しているわけではありません。
この減価償却費がそのまま費用として控除された状態では、損益計算書上の利益と実際の現金の動きにズレが生じます。
そこで間接法では、現金支出を伴わない費用である減価償却費を、税引前当期純利益に足し戻すことで、実際の資金の増減に近づける調整を行います。
8.キャッシュ・フロー計算書を作成する流れ
実務では、多くの企業が会計システムを利用しており、キャッシュ・フロー計算書は自動的に作成されるのが一般的です。
しかし、数値の妥当性を判断したり、増減要因を把握したりする上では、どのような流れで作成されているのかを把握しておくことが重要となります。
本章では、キャッシュ・フロー計算書が完成するまでの一般的な作成の流れを整理します。
①直接法か間接法を選択する
はじめに、営業活動によるキャッシュ・フローの算出方法として、直接法と間接法のいずれを用いるかを選択します。
直接法は現金の入出金を取引ごとに集計する方法で、分かりやすい一方、実務上は集計の手間が大きくなりがちです。
これに対して間接法は、損益計算書および貸借対照表をもとに算出できるため、既存の決算資料を活用して作成しやすいという特徴があります。
このため、上場企業のほとんどは、間接法を採用しています。
以下では、間接法を用いたキャッシュ・フロー計算書の作成手順をご説明します。
② 当期首および当期末の貸借対照表と当期の損益計算書を用意する
間接法では、次の帳票を用いてキャッシュ・フロー計算書を作成します。
- 当期首の貸借対照表
- 当期末の貸借対照表
- 当期の損益計算書
これらの帳票をもとに、損益計算書の利益と、貸借対照表における各勘定科目の増減を対応づけながら、キャッシュ・フロー計算書に必要な調整を行います。
③キャッシュ・フロー精算表を作成する
キャッシュ・フロー計算書は、損益計算書や貸借対照表の数値をそのまま転記して作成されるものではありません。
実際には、それらの数値を「現金の増減」という観点で整理・調整する必要があります。
その際に用いられるのが、キャッシュ・フロー精算表です。
キャッシュ・フロー精算表は、損益計算書と貸借対照表をもとに、各勘定科目の増減を整理し、キャッシュ・フロー計算書を作成するための中間資料(ワークシート)です。
精算表では、損益計算書および貸借対照表の勘定科目ごとの数値をもとに、各勘定科目の増減額を整理し、それが営業活動・投資活動・財務活動のいずれに該当するかを判断しながら、現金の増加・減少として整理します。
こうして精算表上で整理された内容が、最終的にキャッシュ・フロー計算書として反映されます。
以下では、キャッシュ・フロー精算表で行われる主な調整内容を、活動区分ごとに確認していきます。
(1)営業活動によるキャッシュ・フロー
まず、損益計算書から税引前当期純利益(税金等調整前当期純利益)を転記します(図:a)。
続いて、非資金損益項目を調整します。
非資金損益項目は、損益計算書上では費用として計上され、税引前当期純利益からは差し引かれていますが、実際には当期の現金流出を伴っていません。
そのため、営業活動によるキャッシュ・フローを算出するにあたり、税引前当期純利益に足し戻す処理を行います(図:b)。
次に、営業活動に係る資産および負債の増減を調整します(図:c)。
売掛金や買掛金、未収入金、未払金等、その他の運転資本の変動を精算表に記載します。
例:
- 売掛金が増加している場合
→売上は計上されているが、現金はまだ回収されていないため売上債権の増減額の項目で減算 - 買掛金が増加している場合
→費用は計上されているが、現金はまだ支払われていないため仕入債務の増減額の項目で加算
(2)投資活動によるキャッシュ・フロー
次に、固定資産や有価証券等の取得および除売却を精算表に調整します。
例:固定資産の当期の動き
| 期初帳簿残高 | 1,000 |
| 減価償却費 | △100 |
| 取得 | 400 |
| 除売却 | △60 |
| 期末帳簿残高 | 1,240 |
- 固定資産の取得に伴い、期末時点で未払金が100発生
- 固定資産の売却に伴い、売却損が20発生
投資活動によるキャッシュ・フローでは、
- 取得による支出:300(取得価額400から未払金100を控除)
- 売却による収入:40(帳簿価額60から売却損20を控除)
を調整します(図:d)。
一方で、減価償却費、固定資産除却損については、いずれも資金の移動を伴わないため、営業活動によるキャッシュ・フローの調整項目として、減価償却費100、固定資産売却損20を加算します(図:e)。
参考:任天堂株式会社HP, 2026年3月期の連結キャッシュ・フロー計算書より
投資活動によるキャッシュ・フローでは、固定資産や有価証券の期首から期末までの動きに加え、それに付随する資産・負債の増減も調整する必要があるため、作成の難易度は比較的高くなります。
(3)財務活動によるキャッシュ・フロー
最後に、資金調達および返済に関する現預金の動きを調整していきます。
例:社債の当期の動き
| 期初帳簿残高 | 10,000 |
| 発行 | 8,000 |
| 償還 | △5,000 |
| 期末帳簿残高 | 13,000 |
- 社債の発行に際して社債発行費200が発生(当期に全額費用処理)
- 社債の償還が行われた
財務活動によるキャッシュ・フローでは、
- 社債発行による収入:7,800(発行価格8,000から社債発行費200を控除)
- 社債償還による支出:5,000
を現預金の増減として記載します(図:f)。
なお、本例では、社債発行費200を当期に全額費用処理しているため、当期に費用として計上された社債発行費(社債発行費償却額)200は、実際の資金の移動を伴わない非資金損金項目として、営業活動によるキャッシュ・フローの調整項目として加算します(図:g)。
参考:任天堂株式会社HP, 2026年3月期の連結キャッシュ・フロー計算書より
※イメージのため、前述の例とは数値が異なります。
財務活動によるキャッシュ・フローも、借入金・貸付金・社債・資本金の期首から期末までの動きを把握し、付随する資産・負債の増減も調整する必要があります。
そのため、投資活動によるキャッシュ・フローと同様に、作成の難易度は比較的高くなります。
このほか、外貨取引や組織再編がある場合など、それぞれ追加的に作成に留意すべき項目が生じる点にも注意が必要です。
9.キャッシュ・フロー計算書の見方・見られ方
経営者がキャッシュ・フロー計算書をどのように活用すべきか、また投資家がどのような視点で評価しているかをご紹介します。
●経営者視点のキャッシュ・フロー計算書の見方・読み方
○資金繰りの管理
キャッシュ・フロー計算書全体を確認することで、自社の資金の流れを把握し、将来的な資金不足のリスクを回避します。これにより、適切な時期での資金調達や資金の節約を計画することができます。
○投資判断の基準
投資活動によるキャッシュ・フローを確認することで、どの投資が実際に利益を生み出しているかを評価します。これにより、より効果的な投資戦略を立てることが可能です。
○経営パフォーマンスの評価
営業活動によるキャッシュ・フローを確認することで、本業でどれだけ現預金を生み出しているかを把握します。利益が出ていてもキャッシュ・フローが悪化している場合、何らかの改善が必要であることが分かります。
○借入金の管理
財務活動によるキャッシュ・フローを確認することで、借入金の返済状況が把握できます。これにより、過剰な借入や返済能力を超える負債を避けることができます。
○経営戦略の見直し
キャッシュ・フロー計算書の数年分を定期的に見直すことで、現状の経営戦略が効果的かどうかを判断し、必要に応じて戦略の修正を行います。
●投資家視点のキャッシュ・フロー計算書の見方・読み方
○本業で稼ぐ力があるか
営業活動によるキャッシュ・フローは、企業が本業で稼ぐ力があるかどうかを表します。本業で稼ぐ力がある場合、営業キャッシュ・フローはプラスになります。
営業活動によるキャッシュ・フローがプラスの場合は、取引先からの売上債権の回収は問題なく行えている、在庫(棚卸資産)を抱えすぎていない、仕入債務を抱えすぎていないなど、企業経営が健全であることが想定されます。
また、 過去数年間の営業キャッシュ・フローの増減からトレンドを把握し、企業の経営状況も確認されます。
○企業成長を見据えた投資活動ができているか
投資活動によるキャッシュ・フローは企業が成長のためにどれだけの資金を投資しているかを表します。そのため、投資活動によるキャッシュ・フローは一般的にマイナスの企業が多いでしょう。
長期的な成長のための資産購入や設備投資は重要ですが、同時にキャッシュ・フローのバランスを崩していないことも重要です。理想は、本業で稼いだ営業キャッシュ・フローを超えない範囲で投資に資金を振り向けている状態です。ただし、今が投資に振り向ける時、という経営判断であれば、投資活動によるキャッシュ・フローが営業活動によるキャッシュ・フローを超えることもあります。そのため、投資活動によるキャッシュ・フローが営業活動によるキャッシュ・フローを超えてしまっても、必ずしも健全でないとは判断されません。
また、実は手元の資金が足りず、短期的な資金繰りのために資産を売却している場合、投資活動によるキャッシュ・フローが大きくプラスになることがあります。キャッシュ・フローを見れば、投資家には手元の資金不足がわかってしまい、上場企業であれば株価下落につながる可能性もあるでしょう。
○成長のための資金調達ができているか
財務活動によるキャッシュ・フローは企業がどのようにして資金を調達し、返済しているかを表します。積極的な事業活動を行うために資金調達をすれば、手元資金が増えるため、財務活動によるキャッシュ・フローはプラスになり、借入金の返済が進めばマイナスになります。
投資家は借入金の増減を確認し、企業の財務戦略を確認します。過剰な借入はリスクを伴いますが、適切な借入は成長のための資金調達として評価されます。また、配当金の支払いが継続的かどうかも重要な確認ポイントです。
例として、武田薬品工業のキャッシュ・フロー(2022年3月期決算)を見てみましょう。武田薬品工業は2019年にアイルランドの大手製薬会社シャイアーを6兆円以上かけて買収しました。その時に発生した多額の借入金を返済しているため、財務活動によるキャッシュ・フローは大幅にマイナス、投資活動によるキャッシュ・フローは抑えていることが見て取れます。大きな投資戦略をカバーするための、財務戦略を実行中と言えるのではないでしょうか。
○キャッシュ・フローのバランスは健全か
フリー・キャッシュ・フローがプラスであることは、企業が自己資金で成長を続けられることを示します。逆に、フリー・キャッシュ・フローがマイナスの場合は、財務活動による資金の流入で企業活動が行われている状況を示しており、今後の資金獲得能力やフリー・キャッシュ・フローの改善計画についてしっかりと見極める必要があります。
また、企業の現金及び現金同等物の増減を確認し、健全なキャッシュポジションを維持しているかも重要な確認ポイントです。
10.IPO準備段階における留意事項
キャッシュ・フロー計算書はIPO準備の段階で初めて作成するケースがほとんどです。スムーズに作成するためには、以下の点に留意しましょう。
●キャッシュ・フロー計算書の前提となる、貸借対照表および損益計算書の精度を上げる
IPO準備段階で、税法に基づく税務会計から上場企業に適用必須の企業会計に移行します。移行当初は財務数値の修正が発生してしまうケースも少なくないでしょう。なるべく早く、たとえば直前前々期の段階では、会計基準や自社における適切な計上方法を検討しておきましょう。そして、直前々期の期末には貸借対照表および損益計算書の精度を上げておきましょう。
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●キャッシュ・フロー計算書に必要となる、非資金損益項目や投資・財務活動に付随する資産・負債残高などの情報を適時適切に収集できる仕組みを構築する
投資・財務活動に関しては、固定資産や有価証券、借入金や貸付金などの年間の動きを把握し、さらにそれらに付随する資産・負債の増減も調整する必要があります。作成初年度は非常に大変です。貸借対照表と損益計算書が確定し、いざキャッシュ・フロー計算書を作成しようというタイミングで調べていたのでは間に合いません。遅くとも直前々期の期末中には構築しましょう。
●作成には会計システムを活用
会計システムにもよりますが、事前に勘定科目ごとに振り替える金額や振替先を設定することでキャッシュ・フロー計算書を自動的に作成することができます。IPO準備段階で会計システムをリプレイスする企業は多いので、このタイミングで内部統制も意識し、かつ使い勝手の良いシステムを選択しましょう。
勘定奉行は事前に勘定科目ごとに振り替える金額や振替先を設定することでキャッシュ・フロー計算書を自動作成が可能です。未払金などの複数のキャッシュ・フロー項目に影響する科目や差額が発生してしまった場合も、キャッシュ・フロー精算表にて正しいキャッシュ・フロー項目に振り替えることができます。
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●子会社が多いなど、自社での対応が難しい場合は専門家の手を借りる
IPO準備段階はとにかく時間がありません。決められた期日通りに必要な数値を計算し、書類を作成していくことが求められますが、監査法人や証券会社を納得させるレベルの書類を作成することはかなり難しいと言わざるを得ません。さらに子会社が多い場合で、子会社の会計システムが統一されていないと、キャッシュ・フロー計算書作成は相当な手間がかかります。海外子会社がある場合は、その手間はさらに増えるでしょう。導入当初や子会社多い、海外子会社があるなど、自社での対応が難しい場合は、専門家の手を借りることも肝要です。
直前々期以降は、財務諸表作成における手戻りが、IPO準備スケジュールに影響を与えてしまう可能性があります。経理チームの総合的な力を上げスムーズな作成につなげていきましょう。
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11.キャッシュ・フロー計算書に関するよくあるご質問
- キャッシュ・フロー計算書とは?
- キャッシュ・フロー計算書とは、企業の一定期間における現預金の流れを「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの区分で示した財務諸表です。
一定期間に「どれだけ現預金が増減したのか」「その増減がどのような活動によって生じたのか」を把握できる点に特徴があり、資金繰りの状況や経営の実態を確認するために用いられます。
- キャッシュ・フロー計算書の作成は義務ですか?
- すべての企業に作成が義務付けられているわけではありません。
金融商品取引法が適用される上場企業については、財務諸表の一つとして作成および開示が義務付けられています。
一方、未上場企業では法律上の作成義務はありません。ただし、IPO準備企業では、上場審査においてキャッシュ・フロー計算書を含む財務諸表が監査対象となるため、実務上は作成と内容の理解が不可欠となります。
- キャッシュ・フロー計算書の3つの区分とは?
- キャッシュ・フロー計算書は、現預金の流れを以下の3つの区分で整理します。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー:企業の主な営業活動から生じる現預金の流れ
- 投資活動によるキャッシュ・フロー:長期資産の取得や売却など、投資に関連する現預金の流れ
- 財務活動によるキャッシュ・フロー:資金調達や返済など、財務に関連する現預金の流れ
- 営業活動によるキャッシュ・フローは、直接法と間接法のどちらで作成すべきですか?
- 営業活動によるキャッシュ・フローは、直接法と間接法のいずれでも作成できますが、
日本の上場企業やIPO準備企業では、実務上ほとんどが間接法を採用しています。
- フリー・キャッシュ・フローとは?
- フリー・キャッシュ・フロー(FCF)は、企業が本業で稼いだ現預金(営業活動によるキャッシュ・フロー)から、設備投資などの事業拡大に使った現預金(投資活動によるキャッシュ・フロー)を差し引いた金額です。この指標は、企業が自由に使える現預金の額を示しており、借入金の返済や配当、将来の投資などに充てることができます。
- キャッシュ・フロー計算書の見方・確認ポイントは?
- キャッシュ・フロー計算書を確認する際は、次のようなポイントを意識します。
- 本業で安定して現預金を生み出せているか(営業CF)
- 投資が成長につながる内容か、資金を圧迫していないか(投資CF)
- 資金調達や返済のバランスに無理がないか(財務CF)
- フリー・キャッシュ・フローは安定して確保できているか
- キャッシュ・フローを改善するにはどうすればよいですか?
- キャッシュ・フローを改善するための方法は、どの区分でキャッシュが悪化しているかによって異なりますが、一般的には次のような観点から検討します。
- 売掛金の回収サイトを短縮する
- 在庫を適正水準に抑える
- 設備投資のタイミングや規模を見直す
- 不要な支出や固定費の削減を行う
- 借入金の返済スケジュールを調整する
- キャッシュ・フローと利益の違いは何ですか?
- 利益は、損益計算書上で計算されるもので、発生主義に基づいて算出されます。そのため、実際の現金の入出金とは一致しない場合があります。
一方、キャッシュ・フローは、一定期間における現金および現金同等物の実際の増減を示します。 このため、- 利益は出ているが現金は増えていない
- 利益は少ないが現金は増えている
両者をあわせて確認することで、経営状況をより正確に判断できます。
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