内部統制報告書の「監査」はIPO後3年免除。しかし「提出」は必要! IPO準備段階のJ-SOXへの対応は?

POINT
・IPO準備会社であっても内部統制報告書を提出できる体制整備は必要
・上場審査上も財務報告に関わる内部統制の評価・報告体制の準備状況が確認される
PO実現後3年間は、内部統制報告書における公認会計士監査が免除されますが、準備段階で対応する必要はないのでしょうか?早期に対応することのメリット、対応しなかった場合のデメリットとは?
2019年1月29日

1.IPO準備会社におけるJ-SOXへの対応は必要か?

 2015年5月29日に金融商品取引法等の一部を改正する法律」の施行により、 IPO準備会社の新規上場を促すことを目的として、社会・経済的影響力の大きな新規上場企業(新規上場時の資本金が100億円以上又は負債総額が1,000億円以上を想定)を除き、 新規上場後3年間に限り「内部統制報告書」に対する公認会計士監査が免除されています。 ここで注意して頂きたいのが監査の免除であって、内部統制報告書の提出は免除されていない、という点です。 つまり、IPO後、会社としてはJ-SOX対応について何ら変わりがないため、IPO準備の段階からIPO後を見据えてその対応を行う必要があります。

2.IPO準備会社の内部統制の不備事例

 上場審査の基準の中に、企業のコーポレート・ガバナンスや内部管理体制の有効性という項目があり、 その審査を通過した直後に開示すべき重要な不備が開示されている会社があります。 ここでは、新規上場直後(1年以内)に開示すべき重要な不備があると評価した内部統制報告書を提出した企業の内部統制の不備事例をご紹介します。
 IPO準備会社では、経営者=大株主であることも多く、取締役や監査役の選解任は経営者の意思を大きく反映し、 経営者の経営理念や経営方針に大きく影響を受けます。 そのため、上場準備会社においては、取締役会や監査役会などのガバナンスが有効に機能していない事例が多く、 経営者のコンプライアンス意識の低さから、役員及び従業員のコンプライアンス意識が醸成されていない、 つまり、内部統制の基本的要素の中で最も大事な企業の組織風土となる統制環境そのものに問題があることが多いです。
 また、経験年数のある従業員数が少なかったり、そもそも従業員数そのものが少なかったりすることから、 社内規程の未整備、職務分掌が不十分、内部監査が不十分、ルールが従業員に周知徹底されていないなど、 内部統制が未整備であったり、運用状況が十分でない不備事例もあります。 また、事業規模の急拡大に伴い内部統制の構築が追い付いていないこともあります。
  経営者は、これら経営環境を理解し、上場準備の段階で内部統制が有効となるよう社内管理体制を構築する必要があります。
(1)全社的な内部統制不備がある場合の事例
①取締役会や監査役会が機能していない例
  • ・取締役会又は監査役が財務報告の信頼性を確保するための内部統制の整備及び運用を監督、監視、検証していない事例
  • ・取締役会や監査役会において議論するのに必要十分な情報と資料が共有されていない場合や表面上しか議論していない事例
  • ・財務報告に係る内部統制の有効性を評価する責任部署が明確でない事例
  • ・業務プロセスに関する記述、虚偽記載のリスクの識別、リスクに対する内部統制に関する記録など、内部統制の整備状況に関する記録を欠いており、取締役会又は監査役が財務報告に係る内部統制の有効性を監督、監視、検証することができない事例
  • ・管理部門の管掌役員がいない、経理や財務の経験を有する取締役や監査役がいないため、会計処理の適切性に関する判断がされていない事例
②従業員のコンプライアンス意識の不足
  • ・会計基準や社内規程、社内手続を遵守する意識が不足している事例
  • ・経営者が営業部門に過度の予算を与えている事例
③内部監査が機能していない
  • ・内部監査責任者や担当者に内部監査や企業の業務の知見がなく、内部監査が機能していない事例
  • ・会計監査人、監査役、内部監査人の情報共有や連携がなされておらず、三様監査が機能していない事例
(2)業務プロセス及び決算・財務報告プロセスの不備事例
①業務プロセス
  • ・業務上作成すべき資料、承認者などの業務ルールや社内規程が整備されていない事例、又は業務ルールや社内規程が役員や従業員に周知されていない事例
  • ・業務ルールや社内規程はあるがそれらに従って運用されていない事例、又は証跡が残っていないため運用状況を検証することができない事例
  • ・新しく買収した子会社や新規事業について、事業内容や管理体制が理解できておらず、社内管理体制が不十分な事例
②管理部門における社内管理体制の不備事例
  • ・管理部門に専門的なスキルを有する人員が配備されていない事例
  • ・経理規程、経理マニュアル、開示マニュアルなどを規定していない事例、又はルールはあるが実態と一致していない事例
  • ・人員不足に起因し、経理担当者と財務担当者が兼任しており、職務分掌が不十分な事例
③ITシステムに係る不備事例
  • ・ITの外部委託に関して、委託契約の締結、更新のルールが情報管理規程なされていない事例
  • ・システムの安全性を確保するために、パスワードの定期更新に関する棚卸を行っていない事例

3.IPO準備会社におけるJ-SOXへの対応

 J-SOXは、上場申請期からの適用となるため、経営者は上場申請期に自社の財務報告にかかる内部統制を評価し、その結果を内部統制報告書として提出すれば問題はありません。
 ただし、「2.IPO準備会社における内部統制の不備の事例」に記載したように、上場準備会社は組織風土が未醸成の会社が多く、その醸成には時間を要します。 一方で、IPO準備会社では、事業内容が確立されておらず、内部牽制組織についても構築途上である場合があります。 そのため、IPO準備の初期段階から業務記述書、フローチャート、RCM(リスク・コントロール・マトリクス)などを作成してしまうと、 その都度見直しをしなければならない場合があることから、事業内容、組織構造がある程度固まった段階から、 IPO後の内部統制報告書の提出を見据えた準備を進めていく必要があります。 具体的には、会社の事業内容・規模にもよりますが、マザーズ上場を目指すベンチャー企業の場合、直前々期後半から直前期初くらいに着手すると、 IPO準備と並行してもある程度負荷分散が図れ、手戻り感も少なく、効率的に作業を進めることができます。 なお、上場審査では、財務報告に関わる内部統制の評価・報告体制の整備状況又は準備状況(対応部署、準備スケジュール、現状の課題など)について確認されます。
  以上から、上場準備会社においても内部統制の充実を図ることが望まれております。
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2017年1月
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執筆
株式会社タスク 公認会計士 前ノ園 陽氏
株式会社タスク 公認会計士 前ノ園 陽氏
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