IPO準備段階の内部統制報告制度(J-SOX)への対応-「監査」はIPO後3年免除。「提出」は必要-

POINT
・IPO準備会社であっても内部統制報告書を提出できる体制整備は必要
・上場審査上も財務報告に関わる内部統制の評価・報告体制の準備状況が確認される
IPO準備段階から対応すべき内部統制。内部統制(J-SOX)とは何か?内部統制報告書の「監査」はIPO後3年免除だが、IPO準備段階でどこまで対応すべきか?対応を後手に回すとどういったことが起きるのか?近年の不備事例も解説 。
2019年1月29日
更新:2021年8月3日

1.内部統制報告制度(J-SOX)とは

内部統制報告制度とは、「財務報告に係る内部統制」が有効に機能していることを評価し外部に報告する制度のことです。金融商品取引法では、「財務報告の信頼性」に関して、全社的な内部統制、決算・財務報告プロセスに係る内部統制、業務プロセスに係る内部統制の3つの有効性を評価することを上場企業に義務付けています。

▼内部統制報告制度(J-SOX)の整備・運用方法を解説したセミナーレポートはこちら

2.IPO準備会社における内部統制への対応

2015年5月29日に「金融商品取引法等の一部を改正する法律」の施行により、IPO準備会社の新規上場を促すことを目的として、社会・経済的影響力の大きな新規上場企業(新規上場時の資本金が100億円以上又は負債総額が1,000億円以上を想定)を除き、新規上場後3年間に限り「内部統制報告書」に対する公認会計士監査が免除されています。
ここで注意して頂きたいのが監査の免除であって、内部統制報告書の提出は免除されていない、という点です。つまり、IPO後、会社としては内部統制対応について何ら変わりがないため、IPO準備の段階からIPO後を見据えてその対応を行う必要があります。

3.IPO準備会社の内部統制の不備事例

上場審査の基準の中に、企業のコーポレート・ガバナンスや内部管理体制の有効性という項目があり、その審査を通過した直後に開示すべき重要な不備が開示されている会社があります。

ここでは、新規上場直後(1年以内)に開示すべき重要な不備があると評価した内部統制報告書を提出した企業の内部統制の不備事例をご紹介します。
(1)全社的な内部統制不備がある場合の事例
① 取締役会や監査役会が機能していない
  • ・取締役会又は監査役が財務報告の信頼性を確保するための内部統制の整備及び運用を監督、監視、検証していない
  • ・取締役会や監査役会において議論するのに必要十分な情報と資料が共有されていない場合や表面上しか議論していない
  • ・財務報告に係る内部統制の有効性を評価する責任部署が明確でない
  • ・業務プロセスに関する記述、虚偽記載のリスクの識別、リスクに対する内部統制に関する記録など、内部統制の整備状況に関する記録を欠いており、取締役会又は監査役が財務報告に係る内部統制の有効性を監督、監視、検証することができない
  • ・管理部門の管掌役員がいない、経理や財務の経験を有する取締役や監査役がいないため、会計処理の適切性に関する判断がされていない
②従業員のコンプライアンス意識の不足
  • ・会計基準や社内規程、社内手続を遵守する意識が不足している
  • ・経営者が営業部門に過度の予算を与えている
③内部監査が機能していない
  • ・内部監査責任者や担当者に内部監査や企業の業務の知見がなく、内部監査が機能していない
  • ・会計監査人、監査役、内部監査人の情報共有や連携がなされておらず、三様監査が機能していない
(2)業務プロセス及び決算・財務報告プロセスの不備事例
①業務プロセス
  • ・業務上作成すべき資料、承認者などの業務ルールや社内規程が整備されていない事例、又は業務ルールや社内規程が役員や従業員に周知されていない
  • ・業務ルールや社内規程はあるがそれらに従って運用されていない、又は証跡が残っていないため運用状況を検証することができない
  • ・新しく買収した子会社や新規事業について、事業内容や管理体制が理解できておらず、社内管理体制が不十分
②管理部門における社内管理体制の不備事例
  • ・管理部門に専門的なスキルを有する人員が配備されていない
  • ・経理規程、経理マニュアル、開示マニュアルなどを規定していない事例、又はルールはあるが実態と一致していない
  • ・人員不足に起因し、経理担当者と財務担当者が兼任しており、職務分掌が不十分
③ITシステムに係る不備事例
  • ・ITの外部委託に関して、委託契約の締結、更新のルールが管理されていない
  • ・システムの安全性を確保するために、パスワードの定期更新に関する棚卸を行っていない

IPO準備会社では、経営者=大株主であることも多く、取締役や監査役の選解任は経営者の意思を大きく反映し、経営者の経営理念や経営方針に大きく影響を受けます。そのため、上場準備会社においては、取締役会や監査役会などのガバナンスが有効に機能していない事例が多く、経営者のコンプライアンス意識の低さから、役員及び従業員のコンプライアンス意識が醸成されていない、つまり、内部統制の基本的要素の中で最も大事な企業の組織風土となる統制環境そのものに問題があることが多いです。

また、経験年数のある従業員数が少なかったり、そもそも従業員数そのものが少なかったりすることから、社内規程の未整備、職務分掌が不十分、内部監査が不十分、ルールが従業員に周知徹底されていないなど、内部統制が未整備であったり、運用状況が十分でない不備事例もあります。さらに、事業規模の急拡大に伴い内部統制の構築が追い付いていないこともあります。

経営者は、これら経営環境を理解し、上場準備の段階で内部統制が有効となるよう社内管理体制を構築する必要があります。

4.IPO準備会社における内部統制対応の時期

内部統制報告制度は、上場申請期からの適用となるため、経営者は上場申請期に自社の財務報告にかかる内部統制を評価し、その結果を内部統制報告書として提出すれば問題はありません。

ただし、前述のように、上場準備会社は組織風土が未醸成の会社が多く、その醸成には時間を要します。さらに事業内容が確立されておらず、内部牽制組織についても構築途上である場合があります。
そのため、IPO準備の初期段階から業務記述書、フローチャート、RCM(リスク・コントロール・マトリクス)などを作成してしまうと、その都度見直しをしなければならない場合があります。事業内容、組織構造がある程度固まった段階でIPO後の内部統制報告書の提出を見据えた準備を進めていくことが肝要です。

具体的には、会社の事業内容・規模にもよりますが、マザーズ上場を目指すベンチャー企業の場合、直前々期後半から直前期初くらいに着手すると、IPO準備と並行してもある程度負荷分散が図れ、手戻り感も少なく、効率的に作業を進めることができます。

IPO準備から上場後での内部統制対応の時期
▲IPO準備から上場後での内部統制対応の時期

なお、上場審査では、財務報告に関わる内部統制の評価・報告体制の整備状況又は準備状況(対応部署、準備スケジュール、現状の課題など)について確認されます。

以上から、上場準備会社においても内部統制の充実を図ることが望まれております。

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執筆
株式会社タスク<br>執行役員 第一事業部長 公認会計士<br>前ノ園 陽氏
株式会社タスク
執行役員 第一事業部長 公認会計士
前ノ園 陽氏
10年間にわたり大手監査法人において国内大手上場メーカーを中心に監査業務に従事した後、2015年11月に株式会社タスクに参画。以降、上場申請書類作成コンサルティング、内部監査支援コンサルティングに従事。
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