上場準備段階から考えるべき、上場後の資本政策と株価形成

上場後、時価総額が思うように伸びず「死の谷」と呼ばれる100~300億を抜けられない上場企業が約1000社いると言われている。時価総額数十億で上場したことが実は大きな原因に・・・死の谷に沈む3つの理由と上場後さらなる飛躍を実現するポイントは?
2021年8月17日

1.選別が進むスタートアップの資金調達環境

今から約10年前とは比較にならないほど、スタートアップ・ベンチャー業界(いわゆる未上場企業)の資金調達環境は拡大傾向にあります。その一方で2018年までは国内スタートアップ企業の調達社数も毎年増加傾向で推移していましたが、2019年以降は調達社数が減少に入ると同時に、2020年において資金調達総額は2012年以降初めて減少局面に入りました。

国内スタートアップ 資金調達額・調達社数推移
▲国内スタートアップ 資金調達額・調達社数推移

これは魅力あるスタートアップに資金が集まることでスタートアップ企業の選別が進んでいることを意味しています。これにより、上場前のスタートアップにおけるバリュエーションが過熱化し、上場時の株価水準も必然的に高くなります。

2.上場時の時価総額にこだわることの重要性

上場時の株価水準を高く設定することは、未上場時にリスクをとったベンチャーキャピタルに当然に必須条件となりますが、上場を目指すベンチャー企業にとってはどうでしょう?
上場時の時価総額(株価)にこだわり、より高い時価総額で上場を実現することは、上場を目指すベンチャー企業の上場後のさらなる飛躍のために非常に重要なことであると考えています。

私は、これまでの10年間で約40社の上場企業をサポーターとして送り出してきました。後半の数年間で送り出した企業の中には、上場時の公募価格ベースの時価総額が数十億円規模という比較的規模の小さい企業が複数ありました。
上場は狭き門であるため、時価総額が高く評価されなくとも上場できるときに市場に出ておくことも一つの選択肢です。しかし低い時価総額で上場した会社は、私の経験上、上場後に必ずと言っていいほど大きないばらの道が待っており、ある一定規模まで達すると成長に歯止めがかかります。
低い時価総額で上場したことと、上場後の成長に歯止めがかかることは高い相関性があるのです。

3.上場企業の4分の1が時価総額100億未満、「死の谷」に沈む理由

時価総額100億円と300億円との間には「死の谷」が存在します。一旦時価総額が100億円前後で停滞してしまうと、その後に300億円規模へ成長させることは非常に難しいことを表しているのですが、実際に上場会社約4,000社のうち、時価総額100億円未満に属する企業は、私の試算で約1,000社あり、上場会社の約4分の1が死の谷を越えられずに沈んでいることになります。
なぜ、これだけ多くの会社が時価総額100億円未満に沈んでいるのでしょうか。私は、その要因は大きく3つあると考えています。

3-1.上場後における経営陣のモチベーション低下、退任

不確実性の高い株式上場プロセスを乗り切るのに対して、経営陣へのインセンティブプランとして、ストックオプションが付与されることが一般化されつつあります。上場達成後は、経営陣においてこのオプションが権利確定することから、それと同時にCFOやCOOが会社を離れるケースが多いのも実態です。

このように上場後に経営陣の総合力が低下することから、結果として会社の成長性が低下し、時価総額が振るわなくなるケースも多いと考えられます。仮に上場時の時価総額数十億円で上場し、経営メンバーの離脱によりリーダーシップが低下すると、思ったような業績成長が描けず、あっという間に低下していきます。

特に新規上場時にはストップ高を迎える株価も、上場後数日経過すると下降し停滞することが多く、2022年4月以降に再編される東京証券取引所の新市場区分においては、上場維持基準を満たさなくなるケースも想定されます。

3-2.上場後における各プレイヤーのサポート環境の変更

上場後、会社を取り巻くサポーターは様変わりします。

幹事証券会社の担当部署は上場準備の段階をサポートする部隊から上場後の会社をサポートする部隊に変更されます。また、上場準備の足回りをサポートするいわゆる「IPOコンサルタント」もお役御免ということで、会社から離れるケースが多いのが実態です。

しかしながら、上場企業のサポート部隊と一言にいっても、時価総額○兆円の会社から数十億円の会社までをサポートしていますので、時価総額が100億円未満の会社のサポートは必然的に手薄になります。その結果、満足なサポートと情報を受けられず、時価総額が振るわないケースも多くみられます。
時価総額が低い場合は、資金調達手段も限定されますので成長資金を思うように投下することが出来ず、当初描いていた成長曲線を描きにくくなることも想定されます。

3-3.個人投資家の動向に左右される株価

時価総額が低いと株主構成は機関投資家ではなく個人投資家が中心になります。

個人投資家は、株主優待や配当性向を重視し長期保有する安定株主というよりも、大半は利ザヤ確保を狙った短期保有目的であることが実情です。したがって、このような個人投資家を多く抱える上場企業においては、業績予測を上方修正したとしても株価が下がるケースもよくみられます。

そもそも時価総額が低い企業においては、一般的に売買高が少ないことから、株価の変動率(ボラティリティ)が高くなりがちです。少ない売買高で株価が形成されることから株価が不安定となり、株価対策に迷走し時価総額が振るわない会社も非常に多いといえます。

4.上場準備段階から上場後を見据えて心がけるべきポイント

それでは、このような状況に陥らないように、上場準備の段階から経営陣ならびに主にCFOが心がけることについて、以下に3つお伝えします。

4-1.上場時に高い時価総額で市場にでること

上場時に公募価格ベースの時価総額で300億円~500億円をターゲットとします。そのためには、上場後の株主構成を機関投資家中心にする必要があります。

上場時点の時価総額を大きくすることで、機関投資家の投資方針・ポリシーにフィットするサイズ感、売買高を提供し、個人投資家の売りを買い支えることを期待して、機関投資家向けのIR対策を行っていくことがポイントとなります。

4-2.上場前と上場後で経営メンバーの入れ替えを想定

上場プロセスは経営メンバーに非常に大きな負荷とマインドチェンジを求めることとなります。また、上場準備の段階でいわゆるCFOに求められるスキルセットと上場後に求められるスキルセットは異なるともいえます。

具体的には、上場準備の段階でCFOに求められるスキルセットは、大きく組織文化とプロセスを変更していくことのリーダーシップ、組織マネジメント、文書化スキルが中心であるのに対し、上場後は、市場(マーケット)との対話、語学スキル(海外機関投資家対応)や市場から資金を調達するファイナンススキルが中心となります。

経営メンバーにおいても、それまでの創業オーナー、メンバーによるトップダウンのリーダーシップに対して、ガバナンスの強化といった相互牽制が強く求められることから、このようなスキルセット、マネジメント環境にフィットしない経営メンバーは、その適性に応じて変更を加えていくことが必要となります。

4-3.上場後のM&Aを想定して経営メンバーの保有比率を高めに維持しておくこと

少子高齢化や人口減少などにより市場が縮小する日本経済において、大きく成長曲線を描いていくためには、M&Aによる買収による選択肢は避けて通れない状況にあります。買収資金について、高い株価をテコに株式交換を行うことが出来れば、同額のキャッシュを用意することは不要になる一方で、既存株主のダイリューション(1株あたりの価値が低下(希薄化))を伴うことになります。

特に、東証マザーズ(新市場区分における東証グロース市場)においては、高い成長可能性が求められることから、一定のガバナンス基準を保ちつつ、経営陣によるリーダーシップを発揮した戦略の実行が必要となります。

したがって、経営陣のリーダーシップを支える資本政策を想定し、経営メンバーの保有比率を比較的高く設定することが肝要です。

未上場のタイミングで外部ファイナンスを繰り返した結果として経営メンバーの保有比率が希薄化している場合は、自社株買いを戦略的に活用した資本政策を上場後に組み立てていく必要があります。

5.最後に

上場前にバリュエーションが付きすぎて上場時の株価が高くなりすぎるという懸念も確かに存在します。しかし時価総額が低いということで上場後にマイナスの影響がもたらされることは間違いありません。
上場時の時価総額を300億~500億をターゲットとし、実現に向けて出来ることを一つ一つ行っていきましょう。死の谷を飛び越えたその先には、さらなる飛躍が必ず待っています。

■ 企業価値向上、時価総額向上コミット支援はテトラワークス
企業価値向上、時価総額向上コミット支援はテトラワークス
執筆者
株式会社テトラワークス 代表取締役/公認会計士<br>大庭 崇彦氏
株式会社テトラワークス 代表取締役/公認会計士
大庭 崇彦氏
同志社大学法学部卒業。2006年、公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツ・トータルサービス1部に入所。上場企業の会計監査を中心に、ベンチャー企業を対象としたIPO支援業務、内部統制支援業務、IFRS導入支援業務をはじめ、中国国内上場企業の監査及びコンサルティング等さまざまな業務を経験。2011年4月同法人を退所し、同年10月に「世界のリーディングカンパニーを創出する」との理念を掲げ、グループ会社である「株式会社Bridge」(現在ブリッジコンサルティンググループ株式会社)を創業し、代表取締役COOに就任。同社では累計約1,000社のベンチャー企業に対して支援を行い、累計40社前後の上場企業を輩出。 2020年12月に自身の40歳という節目をもって創業10年、グループ売上高10億、従業員数50名、全国拠点5か所までの拡大をもって退任。2021年2月に株式会社テトラワークスを創業し、現在は、上場後に時価総額がふるわない企業に対して「時価総額の向上にコミットした支援を」という方針を掲げ、と主に時価総額100億円前後の企業に対して企業内部に深く入り込んだ支援を展開している。
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