100年続く会社を目指す!IPOで"創業者に依存しない組織"を実現しよう

POINT
・事業承継とIPOは相反するようで関係が深い
・創業者(先代経営者)に依存しない組織を実現し、次世代に承継する準備が必要
「後継者不足の原因は創業者にあり」―――偉大な創業者の後継者は同じく偉大、とは限りません。今後50年、100年続く会社をつくるために、IPO準備段階から考えておくべきポイントを解説いたします。
2019年4月18日

1.はじめに

 昨年衝撃的な数字が経済産業省から公表されました。 今後10年で70歳を超える中小企業の経営者は約245万人。 そのうちの半数が後継者未定であり、これを放置した場合、2025年頃までに累計で約650万人の雇用が喪失し、日本のGDP約22兆円が失われる可能性がある、というのです。 国もさすがにこの状態はまずい、ということで円滑な承継を実現すべく、税制をはじめ様々な対策を打ち出しています。 しかし、円滑な承継を実現するためにはいくつかの大きな壁があり、その最も大きな壁は、実は創業者(または先代経営者。以下同様)だったりもします。

2.次世代の経営者に立ちはだかる創業者の壁

 多くの創業経営者は、その勘と経験、さらにはカリスマ性をもって、様々な難局を乗り越え企業を大きくし今に至っています。 これはその創業者だからこそ成しえたわけであって、次の経営者が同じように出来るかといったらそうではないでしょう。 勘と経験、カリスマ性は個人にのみ帰属し、次世代に引き継がれるものではないからです。 なので創業者が偉大であればあるほど、引き継いだ経営者はその経営に窮し、順調にいっていた会社を傾けてしまうことにもつながりかねません。
 では、創業者から次世代へ円滑に承継するためには、何が重要なのでしょうか? その創業者だからこそ成しえているのであれば、その創業者でなくても成しえるようにすれば良いのです。 例えば、事業戦略や戦術が創業者の頭の中にあり、創業者の指示のもと常に事業展開をしているのであれば、事業計画という形でその戦略や戦術を可視化し、創業者がいなくても誰もが理解し行動できるようすれば良いのです。 また、採算について勘と経験をもとに創業者が取引の意思決定を行っているのであれば、取引(販売)に関する規程や業務フローを整備し、数値化した採算管理を行い、創業者の勘と経験に依存しない仕組みを作りあげれば良いのです。 つまるところ、創業者に依存していた属人的経営から、依存しない組織的経営に切り替えることこそが、円滑な事業承継を実現するためのポイントなのです。

3.事業承継とIPO 属人的経営から組織的経営へ

 未上場企業を中心として言われる事業承継。そして未上場企業から上場企業になることを意味するIPO。 一見相反する事柄のようで、実は非常に似ている、近しいものです。 それは事業承継のポイントが属人的経営を脱却し、組織的経営を実現することであるのと同じように、IPOにおいても、個人経営のプライベートカンパニーから、組織的経営のパブリックカンパニーになることが求められるからです。 IPOの主な準備項目は多岐にわたりますが、一部のIPO特有の項目を除き、利益管理や業務管理、組織体制の整備など、円滑な事業承継に必要な、組織的経営を実現するための重要な項目から構成されています。 そのため、事業承継の1つのストーリーとして、IPOを選択する企業や創業者もおり、特にここ最近、IPOが注目を集めています。

IPOの主な準備項目は、組織的経営に必要な項目が中心
【IPOの主な準備項目は、組織的経営に必要な項目が中心】

 ではIPOは、事業承継を行ううえで、具体的にどのような点で注目をされているのでしょうか? 一つは、体系的なIPO準備項目を活用することで、属人的経営から組織的経営への移行をスムーズにすることができる点です。 そしてもう一つは、IPO準備を通して後継者候補を育成することができる点です。
① 属人的経営から組織的経営へ
 組織的経営を実現するためには、現状の業務フローや仕組みを見直し・変更する必要があります。 しかしその多くの場合、現状に慣れている現場から変化に対する抵抗が起きるため、スムーズに移行できないケースもあります。 そのため、IPOという目標を掲げ、体系的に整理されたIPOの準備項目をひとつひとつつぶしていくことで、現場の目標やタスクが明確になり、その変化への抵抗感も薄れ、移行をスムーズにさせることが可能となります。 また、IPOという名のもとに、役員や従業員を同じ方向に向けさせることも、組織的経営への移行をスムーズにさせます。

② 後継者候補の育成
 IPO準備ほど多くの関係者が登場するプロジェクトはなく、時には主張し、時には話を聞き、時には調整することが求められます。 また、IPOまでの課題を明確にし、全社横断的な対応で解消していくことも求められます。 さらには、IPO時にいかに株主・投資家に対して、会社の魅力、特徴、強みなどを伝えられるかも重要で、これらへの対応力が問われます。 そしてこの対応力こそが、経営にも求められるものでもあり、IPO準備を通して後継者候補を育成することができる、と言われる所以なのです。

4.今こそIPOを活用して組織的経営を実現し、次世代に承継を

 円滑な事業承継の実現において、IPOはその他にも大きな役割を果たします。 それは、株式市場という開かれたマーケットで株式を売買できるようになるということ、つまりは株式の資金化がし易くなる点です。 事業承継には納税資金をはじめ、様々な資金が必要となるため、その手当にも役立つということです。 また、日本の全企業のうち、たった0.1%にも満たない上場企業となることで、会社の信用力は補完され、優秀な人材を獲得しやすくなることも円滑な承継に寄与します。
 このようにIPOは、組織的経営の実現という観点から事業承継とも近しいものであり、また、円滑な承継にも様々な観点で寄与します。 そして現在、株式市場は活況であり、IPO社数も安定的に推移をしています。今こそIPOを活用して組織的経営を実現すべきです。 組織的経営の実現は、創業者に依存しない組織の実現です。創業者にとっては寂しいことなのかもしれません。 しかしこの先10年、50年、100年以上続く企業の礎を築くのは創業者の責務であり、その決断をできるのも創業者です。 創業者だからこそ、次世代のために今、決断をしないといけないのかもしれません。
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執筆
あいわ税理士法人<br>シニアパートナー/公認会計士/税理士<br>土屋 憲氏
あいわ税理士法人
シニアパートナー/公認会計士/税理士
土屋 憲氏
1999年より、監査法人業界にて上場会社の監査や株式上場支援業務に従事。金融機関への出向なども経験し、2015年にあいわ税理士法人に入所し現在に至る。株式上場に関連するセミナー講師多数。「株式上場マニュアル」(税務研究会)、「ケーススタディ・データ分析による資本政策の実務」(税務研究会)などを執筆。
あいわ税理士法人 ホームページ

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