IPOと予算会計

POINT
・投資家が求める「中期経営計画の合理性」の根拠は、正確かつ迅速な予算管理。
・「予算管理体制」はIPO審査の最大のハードル。早期の着手が肝要。
・属人化しやすい予算業務。システム化で“予算会計”を実現。
「IPO後も成長し続ける企業になれるかどうか」は、IPO審査の上ではもちろん、投資家たちも重要視するポイントです。その判断の情報源となる「中期経営計画」に欠かせない予算管理。IPOを目指す企業に求められる予算管理体制、そして予算会計とは?
2019年7月10日
1.経営と予算の関係
 会社の財産は「お金」と「人」であり、両者の価値を最大化することが経営の本質である。「お金」は財務諸表に掲載されるが、「人」は掲載されない。「お金」は勝手には増えない。働くという字は「イ(人)」が「動く」と書く。

 制度会計は「お金の流れ」がテーマであるが、管理会計は「いかに人を動かすか?」がテーマになり、その中核が「予算制度」である。

 予算上の組織は、「売上高―費用=利益」で管理責任を負う「プロフィットセンター(以下「PC」とする)」と「費用」で管理責任を負う「コストセンター(以下「CC」と略す)」に分けられる。

 表1-1のとおり、「営業部=PC」「購買部=CC」「管理部=CC」となる場合、営業部は「いかに利益を最大化するか」を考えて行動する。一方、購買部と管理部は「いかに費用を抑えるか」を考えて行動する。購買部と管理部の費用予算は合理的基準に基づいて営業部へ配賦される。

機能的組織(PCとCCの部署がある)の場合

 表1-2のとおり、購買部と管理部をCCからPCに変えると、すべての社員が「いかに利益を最大化するか」を考えて行動する。配賦はなくなり、社内取引が発生する。

すべての組織がPCである場合

 表2のように、部門利益に加えて、部門管理可能営業キャッシュ・フローやフリー・キャッシュフロー(以下「FCF」とする)を目標とした場合は、全社員が「いかにお金を増やすか」を考えて行動するようになる。

 例えば、営業部の社員は「貸し倒れリスクのある先へは販売しない」ようになり、売買契約を締結する時には「いかに回収サイトを短くするか」を考えて行動するようになる。
 このように予算制度は「いかに人を動かすか」という仕組みをつくる、経営マネジメントの中核である。

目標を利益だけでなく、CFも含める場合の部門予実管理報告書
2.計画開示時代の要請
 過去の延長線上には「成り行きの未来」はあっても「望む新しい未来」はない。 投資家の関心の99%は「過去」ではなく、「将来」である。「持続的成長をする会社か否か」という点になる。 その情報源が「中期経営計画(以下「中計」と略す)」になる。ポイントは「中期経営計画の合理性」にある。

 例えば、「中計第2期に生産能力を倍増する工場を新設し、中計目標の売上高倍増を実現する」というシナリオがあっても、「工場新設のための資金調達のメドは立っていない」とすれば「絵にかいた餅」になる。 損益だけでなく、キャッシュ・フローとの整合性を持った計画を作成することが重要になる。 また、「中計の目標に向けてどのように進捗しているか」という「PDCAサイクル」を丁寧に説明してゆく必要がある。 計画開示に関する主な事項は表3-1のとおりである。


計画開示と予算区分の関係


 特に注意すべきは下記の点である。    

 世界的に役員報酬は業績連動型にシフトしてきている。 有価証券報告書(以下「有報」と略す)で「役員賞与等の経営指標の目標と実績」の開示が求められている。 2021年3月決算より、監査報告書の中に「監査上の主要な検討事項(以下「検討事項」と略す)」が開示されるが、これは主に将来予測に関連する減損などになる。 「いかに予算精度を向上させてゆくか」が最重要の経営課題となる。

 また、業績予想の修正発表をタイムリーに出来ない会社は投資対象から外されるリスクがある。 従って、着地予想の正確性・迅速性の確保が急務となる。加えて言うと、着地予想は決算予想なので、着地予想管理出来ていない会社は決算発表の早期化も出来ない。  上記より、IPO審査の最大のハードルも「予算管理体制」となる。
 具体的な審査項目は表3-2のとおりである。
 予算管理体制構築には定着化まで時間がかかるので、できるだけ早く着手することが肝要である。

IPO審査で求められる予算業務体制の範囲
3.予算会計の必要性
 ところが実際の予算管理業務を見ると、表4のとおり、「内部管理体制 0点」の状況にある。改善のポイントは予算業務を実績会計と同じ「会計の仕組み」すなわち「予算会計」にすることである。

現状の予算業務と実績会計の比較
4.予算システムの選定のポイント
 IPO準備会社でも、経営企画や経理のキーマンが突然退職するケースが増えている。
 また、予算業務をEXCELで行っている場合は完全に属人化し、作業が集中するので、残業規制に抵触するリスクもある。 内部統制は「人が異動しても管理水準が維持される仕組み」である。従って、予算業務を「可視化して分担できる」様に予算を「標準システム化」することが必須となる。

 予算システムを選定する場合のポイントは下記の点になる。

予算システムを選定する場合のポイント

以上

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2018年12月3日
資料ダウンロード
執筆
株式会社スリー・シー・コンサルティング<br>代表取締役/公認会計士 児玉 厚氏
株式会社スリー・シー・コンサルティング
代表取締役/公認会計士 児玉 厚氏
昭和57年埼玉大学経済学部卒業。
神鋼商事株式会社の財務部、東陽監査法人を経て、ゼロから起業を決意し、
現在は、株式会社スリー・シー・コンサルティング 代表取締役。
「決算報告エクスプレス・宝決算Ⅹプレス(開示決算自動化システム)」
<特許取得>
主な著書
・「設例と図表でわかる企業予算編成マニュアル」
・「改訂増補 予算会計」(いずれも清文社)
予算関連情報サイト
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