IPOを目指す経営者のメディア戦略

IPOを目指す上で、自社のメディア戦略はどうあるべきなのでしょうか。長年に渡り多くの経営者を見てきた明石 智義氏が、経営者の在り方とともに解説します。
2019年9月2日

1.はじめに

 IPOを目指すということは、つまり企業成長をする覚悟を持つということに他ならない。企業を成長させ、より社会の役に立ち、同時に社員の物心両面の幸せを実現させる。この難題に挑む覚悟を持つということだ。

 では、IPOを目指すうえで、企業成長を前提としたメディア戦略とはどういったものになるのかを考えてみたい。まず初めにはっきりさせないといけないのは、メディアを活用するにあたって、自らのメディアに対する基本スタンスを明確にさせることだ。どういうスタンスでメディアに出るのか。どのようなコミュニケーションを顧客、株主、社員、取引先ととるのか。ここをしっかりと考えて、自らの中に信念のようなものにまで昇華させなければいけないと思う。

2.過去・現在は等身大、未来はワクワクを情熱的に

 まず、自らや自らの会社を語るうえで時系列として「過去・現在・未来」に分けて考えてみよう。過去に関しては、これは嘘偽りなく、真実を述べるしかないだろう。ここに嘘があってはいけないし、嘘の入り込む余地はない。また現在に関しても同じである。つまり、過去と現在においては、なるべく等身大で分かりやすく、自らや自らの会社について伝えていくことをお勧めする。どうしても人間は、過去を美化しがちである。もちろんそれが人間の性であり、ある程度は仕方がない。

 でも、本当に人の心を打つのは、飾り気なく、自分の都合の悪いことも包み隠さずに話す率直さである。その飾り気のなさに、人は魅力を見出し、また信頼関係も醸成されるのだ。

 ある調査によると、組織への信頼感というのは、その組織の情報開示の度合いに応じるというのがある。情報開示度がより高い組織に対して、人は信頼感を持つということだ。経営者は立場上、あるいは性格上、なかなか自らの過去の都合の悪い話は避けたがるのかもしれない。しかし、そこをあえて開示して伝える姿勢こそが、自らの覚悟を人に伝えることに繋がり、はたまたその言葉が人の心を打ち、両者の信頼関係の向上につながるのだと思う。

 次に未来に関してだが、これこそ経営者の経営者たる仕事である。経営者はワクワクする未来を語り、社内外にそれを情熱的に伝えていく。ここはソフトバンクの孫さんがよく言うように大ぼらを吹いてもよいだろう。ただし、孫さんくらいまでいけば、大ぼらも良いかもしれないが、まずは「ほら」くらいが良いのかもしれない。もちろんIPOした後のIRや、短期的な展望などは実際の数字に裏打ちされたものでなければいけない。だが5年後、10年後の未来を語るときは、自らが本当にしたいと思え、語るとワクワクするような未来を描くべきだ。夢は大きければ大きいほどいい。どうせ描くなら大きく。同じ登山をするにしても、裏山に登ろうとするのか、エベレスト登頂を目指すかによって、集まるメンバーや、明日からの日常の動きも変わってくる。どうせ一度きりの人生、夢は大きく描きたいものだ。まとめると、過去現在に関しては嘘偽りなく率直に語り、未来に関しては明るい未来を熱く語る。一見すると、当たり前のようだが、これがなかなか難しい。

3.名経営者の共通点、“常に自然体”

 私自身、長年に渡って経営者インタビューをしてきて思ったことが一つある。それは大経営者、名経営者といわれる人ほど、驚くくらい自然体で、飾り気がなく、率直な人柄を持っていたということだ。偉くなればなるほど、その傾向は顕著だった。逆に中途半端な経営者ほど、偉ぶったり、妙にプライドが高かったりするものだった。これは非常に面白い事象であり、今でも私の記憶に深く刻まれている。自然体で飾らず、いいことも悪いことも率直に話す。これが名経営者になる近道なのだろう。

 「得意淡然、失意泰然」という名言があるが、まさに名経営者とはこの言葉を地でいっているのだろう。どんなに調子が良くても驕ることなく淡然と過ごし、逆にうまくいかなくて失意にある中でも、焦らずに泰然としている。こういう姿勢が持てる経営者というのは、普段から飾らず、自然体に社員や社外の人と接している。

 また、名経営者に共通することとして、自らの事業やその事業の展望を心底熱く語っていたというのも印象深い。それまで淡々と話していたと思いきや、自らの事業やその展望の話になると、急に情熱的な語り口に変化し、その変容ぶりに驚いたものだ。

 以前、ビジネスモデルの寿命は30年といわれ、今では世の中の変化がより激しくなり、寿命は10年とまで言わるようになった。こういった時代において、一つのビジネスモデルだけ、たまたま当てて、たとえそのワンモデルで運よくIPOできたとしても、その会社が長く発展するとは限らない。次々と新しい事業を生み出し、トライアンドエラーを繰り返して、生涯挑戦し続けなくてはいけない。その場合、経営者一人だけではどうしでも限界がある。いかに自らの周りに優秀な人材を集め、信頼関係を醸成して、長く発展する企業の礎を築くか。そこが要だ。

 そう考えると、やはり経営者は自分自身に嘘がなく、自然体で魅力ある人柄を持っていなくてはいけない。たしか中国の故事だったと思うが、「どんなに優秀な指導者でも長年かけても部下の気持ちが分からないことがある反面、どんな部下でも3日もあれば自らの上司の器の程度は分かってしまう」というのがある。社員や取引先というのは、普段は経営者にいい顔をしているかもしれないが、彼ら彼女らは経営者の人となりを常日頃からよく見ているものだ。

4.時の洗礼を受ければ、本物の経営だけが残る

 また、よく読書をするときに「時の洗礼を受けていないものを読むな」というのがある。これもそのまま経営に当てはまる。世の中には新書が雨後の竹の子のごとく溢れているが、本当の良書というのはほんの一握りだ。それを見極めるためには、時の洗礼が必要というわけだ。時代がたっても色あせず、残り続けるのか。単に消費されるものでなく、含蓄のあるものなのか。それを、まさに時が選別してくれる。経営者は、この時の洗礼を否が応でも受けることになる。なぜなら株式会社とは継続を前提としているからだ。この時の洗礼というのは、一切ごまかしはきかない。大衆というのは、その地域、その時代において限定的に間違った判断をすることはあっても、長い時間を経た大衆の判断は間違うことは無いものだ。本物だけが選別されて残る。経営も同じである。時の洗礼を受ければ、本物の経営だけが残る。

 経営者はメディアに出るにあたって、肝に銘じなくてはいけない。上っ面の金メッキはすぐに剥げ、上っ面のプライドはすぐに見通されることを。それよりも、等身大で自然体に周りと接し、「得意淡然、失意泰然」の姿勢で物事に対処するよう心掛ける。

5.良書で磨く、経営者の人間性

 そのためにも常日頃から、世の中にむき出しにしても、恥ずかしくない人間性を磨き続けることが必要だ。では、経営者が人間性を磨くにはどうすればよいのだろうか。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉がある。やはり今までの人類が蓄積した歴史に学ぶべきだろう。具体的には、しっかりした良書を読むべきだ。まさに時の洗礼を受けて残った良書を読み込み、日々の経営の実践を通じて、自らの血肉にするのだ。若いうちは世にあふれるノウハウ本や、今を時めく経営者の本を読むことそれ自体悪いことではないと思う。ただ経営者とは、人の上に立ち、広い視野と深い洞察力を持たなければいけない。人が成長とともに食の嗜好が変化するように、経営者となればそれ相応の栄養を本から得なければいけない。大人になれば大人の食があり、経営者も自らの成長とともに読む本も変化させていくべきだろう。

6.人としてどうあるべきか、原理原則を教える「現代の帝王学」

 では、具体的にどんな本なのか。ひとつ私がお勧めしたいのが、伊藤肇著「現代の帝王学」という本だ。帝王学と言うとブルジョア志向の本に思えるかもしれないが、実際の中身はそうではなく、人の上に立つ者が修めなければいけない「人としてのあり方」を経営実例をもとに明快に書いてくれている良書である。古今東西、どんな時代もどんな場所でも、「人としてどうあるべきか」という答えは変わらず、それを「原理原則」として、わかりやすく何度も説いてくれている。この書の中で帝王学とは「修己治人(しゅうこちじん)」の学問であると説き、人を治めたければ、まず自らを修めよと説く。自らを修めれば、自然と人を治めることができると。これは「修身斉家治国平天下(しゅうしんさいかちこくへいてんか)」とも表せ、天下を平定したければ、まず国を治めよ、国を治めたければ、家をおさめよ、家をおさめたければ、自らを修めよとつながる。つまり、いかに自らの人間性を高め、徳を積むことが、世の指導者には必要なのかを切々と説いてくれる。しかも何度も繰り返すが、これは古今東西、今も昔も日本も他国も変わらない「原理原則」なのだということを、この書は教えてくれるのだ。ぜひ一読することをお勧めする。

 また、指導者論でお勧めなのは梯久美子著「散るぞ悲しき」だ。これは先の大戦末期に硫黄島で奮闘した栗林忠道司令官を描いたノンフィクション作品であり、名指揮官としての人柄、家族愛、そして日米開戦という大きな戦略上の過ちにおける悲劇、その中でも孤軍奮闘する名指揮官の悲哀など、あまりにも多くのことを教えてくれる名著だ。人を指導する立場になったら、ぜひとも読んでもらいたい一冊である。

7.最後に

 少し長くなったので、まとめたい。経営者はメディアに出るにあたって、自らのスタンスを明確にするべきであり、私の考えとしては、過去現在に関しては嘘偽りなく自然体で率直に語り、未来に関しては自らがワクワクする未来を熱く語る。名経営者とは常に自然体であり飾り気がないものなのだ。

 自然体で飾り気がない人柄というのは、むき出しにした時の人間性が高くなくては実現できない。その人間性を磨くためには、時の洗礼を受けた良書をしっかり読み込むべきだ。会社が発展するのは、経営者の器の大きさにかかっている。次世代の名経営者が続々と日本に現れることを願って終わりにしたい。

以上
執筆
イシン株式会社 代表取締役会長 明石 智義氏
イシン株式会社 代表取締役会長 明石 智義氏
1999年、慶應義塾大学に在学中『ベンチャー通信』を創刊。
2005年、イシン株式会社(旧社名 株式会社幕末)を設立、代表取締役社長に就任。
2011年、同社代表取締役会長に就任(現任)。2015年、グループ全体でのグローバル事業の加速のため、シンガポールに移住。
イシン株式会社 ホームページ

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