上場準備会社収益認識基準適用に向けて~はじめの一歩~

2021年4月から上場会社は強制適用になる“収益認識基準”。上場準備会社ではN-3から準備することが理想です。しかし、難解な基準を読み解くのは至難の業・・・本コラムでは収益認識基準の概要を理解し、はじめの一歩を踏み出すためのアプローチを解説。
2020年12月15日

1.はじめに

上場会社では、2021年4月以降開始の事業年度からいよいよ収益認識基準が適用開始となります。
多くの上場会社はこの収益認識基準の適用に向けて数年間の準備を重ねてきたものと思われます。そして本実務は上場準備会社においても避けて通れません。
適用開始となる2021年4月以降は上場準備会社においても適用を見据えての準備を進めるべきでしょう。タイミングとしてはN-3期から適用の準備を開始することが理想的です。
とはいえこの収益認識基準、抽象的な表現が多く実務へのあてはめが難しい面もあります。
本コラムではそのような収益認識基準適用に向け、「はじめの一歩」を踏み出すためのアプローチについてまとめてみたいと思います。

2.収益認識基準の概要を理解しましょう

収益認識基準は、第1ステップ「契約の識別」、第2ステップ「履行義務の識別」、第3ステップ「取引価格の算定」、第4ステップ「取引価格の配分」、第5ステップ「履行義務の充足」という5つのステップからなります。
この5つのステップを踏むことにより収益計上の「単位」~「金額」~「計上時期」が決まります。各ステップの概要は以下の通りです。

収益認識基準 5つのステップ
▲収益認識基準 5つのステップ

3.現状の商品・サービスをマトリックスにまとめてみましょう

収益認識基準の概要を把握したら、次に現状の商品・サービスをマトリックスにまとめてみましょう。
「商品・サービス名」「金額」「取引の概要」「勘定科目」「補助科目」「収益計上時点」等の項目を設け、会社全体の売上を商品・サービスごとに分解していくイメージです。

商品・サービスをマトリックスにまとめるプ
▲商品・サービスをマトリックスにまとめる

現状の売上を商品・サービスごとに分解し終えたら、収益認識基準のステップ1~ステップ5の項目を設け、各ステップにおける取り扱いを記載していきます。

4.まずはステップ2とステップ5から検討してみましょう

ここでおすすめはステップ2から検討していくことです。
収益認識基準における会計処理はステップ2で識別される「履行義務」の単位でなされるためです。
履行義務とは「顧客に財またはサービスを移転する約束」です。マトリックスで展開した商品・サービスがどのような履行義務からなるのか記載していきましょう。 各商品・サービスが「別個の財またはサービス」であればそれぞれが履行義務になりますし、複数の商品またはサービスが「一体の財またはサービス」であれば、それらをまとめて単一の履行義務と判断します。 各商品・サービスが 「別個の財又はサービス」であるためには、概ね以下の要件を満たす必要があります。(収益認識会計基準34項)

① 顧客が当該財またはサービスから単独で便益を享受できること
② 当該財またはサービスを提供する約束が、他の約束と区分して識別できること

基準はもう少し精緻な内容で記載されていますが、まずは上記のような捉え方でよいと思います。
さらにもう少しわかりやすいイメージでアプローチするのであれば、「自社が提供する商品・サービスが単独で顧客に満足してもらえるか?複数の商品・サービスでないと満足してもらえないのか」という切り口でもよいと思います。
例えば、ライセンス供与とアップデートサービスが別個でもそれぞれで満足してもらえるのか、ライセンス供与とアップデートサービスは一体として提供しなければ満足してもらえないのか、という具合です。
マトリックスにまとめた商品・サービスごとに主要な取引先との契約書や契約書のひな形等を用意し、上記のアプローチで履行義務を識別してみましょう。

なお、契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分を認めるべきという意見の下、以下の2つの要件を満たす場合には、代替的な取り扱いとして契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分も認められています(収益認識適用指針101、174項)。

・顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められること
・顧客との個々の契約における財またはサービスの金額が合理的に定められており当該金額が独立販売価格と著しく異ならないこと

次にステップ5のあてはめをしてみましょう。ステップ5は「履行義務の充足」ですが、履行義務の充足時点が「一時点」であるか、「一定期間」であるかにより、収益の期間帰属に大きく影響を与える可能性があります。
この判定ではまず「一定期間」で充足する場合の要件にあてはめてみて、あてはまらなければ「一時点」で充足するものと判断していくことになります。
以下のいずれかに該当する場合は、「一定期間」で充足していくことになります(収益認識会計基準38項)。

① 履行するにつれて顧客が便益を享受(顧客目線)
② 資産の価値が増加するにつれて顧客が当該資産を支配
③ 当該財又はサービスを提供することにより別の用途に転用できない資産が生じ、提供した分については対価を収受する強制力のある権利を有する(会社目線)

②は顧客所有の土地に建物を建築するような限定的なケースであり、①は顧客目線での要件でもあるため、実務上は③の要件から検討するとよいと思います。
③は、財またはサービスを転用するのに契約上の制限があったり、提供する財またはサービスが顧客固有のものであること等により転用に多額のコストが生じたりすること、かつ少なくとも作業が完了した部分(履行義務が充足された部分)については顧客から支払いを受けることができること、について検討することになります。これに該当すれば「一定期間」にわたり充足される履行義務になります。
「一定期間」にわたり充足される可能性のある財またはサービスとしては、工事契約やソフトウエアの受託開発、日常的・反復的な清掃サービスなどが挙げられます。①~③のいずれにも該当しなければ「一時点」で充足される履行義務となります。商製品の販売などが「一時点」で充足される履行義務です。

5.ステップ3「取引価格の算定」において変動対価等を算定してみましょう

さて、次にステップ3の検証です。ステップ3は「取引価格の算定」です。ここでは変動対価がポイントとなります。

変動対価とは「顧客と約束した対価のうち変動する可能性がある部分」(収益認識適用指針23項)をいいます。具体的には値引きやリベートなどです。
収益認識基準では提供する財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込む額で収益を認識することも特徴的です。 値引きやリベート等について、過去の実績等に基づく合理的な見積もりにより取引価格を測定する必要があります。
変動対価の他、取引価格を算定する際に考慮すべき事項としては、「重要な金融要素」が含まれている場合(ex支払い条件が長期にわたる場合)、現金以外の対価が支払い条件となっている場合(ex有価証券で支払う)、顧客に財またはサービスを提供する際に顧客に対して支払う場合(exキャッシュバック)などが挙げられます。

ステップ2の「履行義務の識別」やステップ5の「履行義務の充足」は要件のあてはめが抽象的な概念に基づいており難しい印象がありますが、 変動対価等は見積もりをともなう既存の会計処理と考え方が通じており、経理部の方にとっては比較的取り組みやすいステップであると思います。
なお、見積もり計上するための基礎データの収集にあたり、ケースによってはシステムを変更する可能性があることにもご留意ください。

6.最後にステップ1「契約の識別」を軽く確認しましょう

上記のプロセスを経てステップ2→ステップ5→ステップ3の検証が終わりました。

ステップ4は取引価格を履行義務に配分するステップです。
独立販売価格により配分することになりますが、ステップ3と同様、経理部の方にとっては取り組みやすいステップかと思います。

最後にステップ1の「契約の識別」です。
収益認識基準上、識別すべき契約について要件が定められていますが、従来の実務と大きく異なるものではありません。 当該ステップでのポイントは契約の結合です。
例えば建物の工事契約について第1期工事、第2期工事と2つの契約がある場合でも履行義務としては建物を完成して引き渡す、という単一の履行義務であるような場合は契約を結合して考えることになります。
このような取り扱いは、会計処理が「履行義務」という単位で実質に基づき行われることを示唆するものでもあります。契約の結合という考え方を押さえておけばまずは十分でしょう。

7.現状の会計処理とのギャップ把握、監査法人との共有

さて、ステップ1~ステップ5を検討し終えると現状の会計処理と収益認識基準に基づく会計処理とのギャップを把握できます。
これを現状の商品・サービスのマトリックスに落とし込みます。N-3期末までにマトリックスが作成できるようであれば、上場準備という面ではかなり順調と言えます。 これによりN-2期首(N-3期末)という早い時点で監査法人とも論点が共有され、その後の監査も円滑なものになるものと思います。

最後になりますが、冒頭でも述べたように収益認識基準は抽象的な概念が多く、実務へのあてはめで戸惑う場面も多くあります。
特に履行義務の識別はその代表的なものです。
そのような場合は、「自社の商品・サービスはどこまで提供すれば顧客が満足してもらえるのか?」という観点からアプローチしてみてください。

■ クライアントの身近でワンランクうえの税務・会計サービスを提供する「朝日税理士法人」ホームページ
朝日税理士法人HP



執筆
朝日税理士法人 パートナー/公認会計士・税理士 松山 浩也氏
朝日税理士法人 パートナー/公認会計士・税理士 松山 浩也氏
大手監査法人で約6年勤務後、当法人へ転職。現在は法人の税務顧問業務と関連コンサル会社でIPOのコンサル業務を中心に従事。
コラム一覧に戻る
IPOコラムランキング
IPOに必要な業績とは!市場別にみる売上高・営業利益
IPO実現までのスケジュール
TOKYO PRO Marketの活用 ~2019年過去最多の9社上場!柔軟な上場基準で上場メリットを享受~
資本政策①「基礎知識編」
IPOとは何か
開催中の無料セミナー
Web
Web
IPO審査を乗り切る労務戦略

2021年1月19日(火) 13:30~15:00
Web
Web
【全3回】Q&Aで学ぶ現代型労務問題への実務対応

2021年1月20日・1月27日・2月3日 13:30~15:30
Web
Web
クラウド会計システムに見る、 これからのIPO準備と監査

2021年1月25日 13:30~14:30
Web
Web
営業改革セミナー ~ withコロナ時代に求められる営業強化を考える ~

2021年2月4日 10:30~11:30
Web
Web
DXによるグループガバナンス改革 ~コロナ禍で海外進出企業が導入したニューノーマルの海外子会社管理とは~

2021年2月10日 10:30〜11:30
Web
Web
IPOでこう変わる税務会計から財務会計へ(全2回)

2021年2月18日・25日 13:30~15:00
Web
Web
経理部テレワーク化計画

2021年2月18日 11:00~12:00
Web
Web
失敗しない!人事評価制度の運用方法

2021年2月19日 13:30~15:30
イベントレポートを見る
お気軽にご相談ください

自社に合う製品が分からない、導入についての詳細が知りたい… OBCでは専任のスタッフがあなたの疑問にお応えいたします。

ご検討のお客様専用ダイヤル

0120-121-250

10:00〜12:00/13:00〜17:00
(土・日・祝日を除く)