IPOを見据えた契約書のチェックと管理~業務委託契約における5つの注意点~

上場審査では契約書の内容や管理について事業継続性とコンプライアンス体制という観点から重点的に確認される。ひな形の流用に問題はあるのか?請負契約と準委任契約はどちらにすべきか?ソフトウェア開発を例に業務委託契約における5つの注意点と上場準備企業が押さえるべき法令について弁護士・春馬氏が解説 。
2021年7月2日

1.契約書のチェック・管理の必要性について

通常の業務において、契約書をしっかりとチェックし、管理しなければならないことは言うまでもないことですが、上場を見据えるという観点から、その必要性について改めて確認をします。
上場によって株主をはじめとする多数のステークホルダーが生じることから、上場審査の段階では、対象会社が継続して収益を上げ、成長していくことができるかという①事業継続性と、その裏返しとして、リスクを把握・管理・対処していくための②コンプライアンス体制が整っているかどうかについて重点的にチェックされることになります。
上場審査でチェックされる法務上のポイント
① 事業継続性
対象会社が継続して収益を上げ、成長していくことができるか

② コンプライアンス体制
リスクを把握・管理・対処していく体制が整っているか

まず①事業継続性の観点では、重要な契約が相手方の一方的な意思により終了させられてしまう条項や、強力な競業避止条項、過大な賠償義務を負うような条項の有無を確認します。そのような条項が存在する場合、事業継続性について疑義が生じることになります。
次に②コンプライアンス体制の観点では、法律に反するような合意がなされていないか、契約書の更新時期等が適切に管理されているか、必要な許認可や知的財産権等が適切に確保されているか等を確認します。これらに関連する契約書上の問題がある場合、コンプライアンス体制が整っていないということになります。

2.業務委託契約における5つの注意点~ソフトウェア開発を例に~

次に、契約締結時に注意してチェックしておくべき事項について、IT企業が締結することの多いソフトウェア開発などの業務委託契約を念頭に検討していきます。

2-1.取引実態と契約書の内容が適合しているか

自社が実施する業務が明示されているか、自社が実施する必要のない業務が含まれていないか、作業終了の検収基準等が定められているか、契約書を読めばお互いの合意内容が分かるようにし、実態に即した契約書を作成する必要があります。

ひな形の流用、取引先の契約書の利用に注意!
リーガルチェックをしていると、別の契約のひな型を流用した契約書や相手方が作成した契約書を利用しているケースがあります。その場合、以下のような問題が起こる可能性があります。

・契約に不必要な条項が入っている
・自社に著しく不利な条項がそのまま残っている(過大な賠償請求や、競業避止など)
・実際に実施する業務と異なる内容が記載されている

そのような契約書は、担当者に口頭で補足をしてもらってやっと内容を把握することができるのですが、実態に即して修正しなければならないため、結局二度手間になります。何よりも問題が発生した場合に契約上の権利義務が不明確な場合も多く、訴訟等に発展してしまうこともあります。

あいまいな契約は上場準備上、リスクに
上場準備という観点からみると、契約内容があいまいであることは致命的なリスクであると評価されてしまいかねません。特に、日常的もしくは長年にわたってそのような契約を締結している場合には修正が困難な場合もあるため、契約締結時及び定期的にしっかりと内容を確認することが必要です。

2-2.契約の種類は請負契約か準委任契約か

次に内容面に少し踏み込んで検討します。

ソフトウェア開発の業務委託契約の際に議論になる点として、当該契約を請負契約(仕事の完成を目的)とするか、準委任契約(事務の履行を目的)とするか、という点が挙げられます。

一般的には、請負契約であるとする場合は仕事の完成(ソフトウェアの開発完了)が目的となりますので、発注者(ユーザー)にとっては請負契約の方が有利であり、受注者(ベンダ)にとっては、準委任契約の方が有利であると考えられることが多いです。

業務委託契約の種類と目的
▲業務委託契約の種類と目的

ソフトウェア開発の前提となる要件定義の工程を例に考えてみます。
要件定義契約の場合、通常は要件定義書の作成をもって区切りとなりますので、仕事の完成(要件定義書の作成)を目的とする請負契約と考えるべきとも思われます。しかしながら、要件定義を行うためには、ユーザーの業務内容、業務フロー、システムについての個別のニーズなどを踏まえて進められなければならず、むしろユーザーの積極的な関与なくしては有用な要件定義を策定することは困難であると言わざるを得ません。
このような観点からは、要件定義契約の目的は、ユーザーが要件を取りまとめるための技術的知識やノウハウをベンダが提供するという事務の履行であると捉える方が自然です。実際に多くの要件定義契約では準委任契約が選択されています。

請負契約か準委任契約かは、簡単に割り切れるものではありませんので、両当事者が実際に行う作業を具体的に想定しつつ、それに適した法的形式を選択していくことが重要です。

偽装請負にならないように注意が必要
業務委託の過程では、ユーザーからベンダに対して様々な要望が出されることになりますが、ベンダ担当者にユーザーが直接業務上の指示や命令を行っていると評価される場合には、偽装請負として違法となってしまう可能性があります。
そのため、それぞれに業務責任者を定め、業務従事者に指揮命令がなされることのないよう、連絡ルートを定めておくなどの手当をしておく必要があります。

2-3.報酬の額や支払条件が明確になっているか

ベンダの業務終了時点を明確にし、終了時点と支払額、支払時期が明確になるよう定めておく必要があります。
昨今はアプリ開発などでレベニューシェア方式(発生した利益をあらかじめ決められた割合で分配する契約)の報酬を採用するケースも増えていますが、実際の売上げや利益をどのように把握するか、支払時期をどのように定めるか等をあらかじめ検討した上で合意することが重要です。

2-4.知的財産権についての定めはなされているか

契約にあたっては知的財産権(主に著作権)の帰属について定めておく必要があります。
この点についてユーザー側から見た場合、開発されたソフトをユーザーのみで使うか、さらに第三者に提供するのかによって、著作権の移転を要求する度合いは異なります。ベンダ側から見た場合にも、今後同様のソフトウェアを別のユーザーに提供するかどうかによって異なります。

一般的には、著作権をユーザーに移転させつつ、汎用的に利用が可能なプログラム等の著作権はベンダに残しておくなどの方法により、両者の利益状況の調整を図ることが多いです。

なお著作権の帰属を定める場合は、著作権法27条、28条に規定する権利(翻案権や二次的著作物利用権)を含めて移転させることを定めておく必要があります。さらには、著作者人格権は、上記によっては移転しないと考えられるため、著作者人格権を行使しない旨も定めておく必要があることにご注意下さい。

2-5.契約書の管理体制は出来ているか

契約締結後の管理をしっかりとすることも重要です。
例えば、1年更新の契約を締結して更新しないまま数年経過していることや、法律や税制が変わっているのに修正されていない(消費税が8%のまま等)ケースが散見されます。
このような管理では、コンプライアンスに対する意識が低いとみなされてしまいますし、何よりも業務上極めて重要な契約の破棄につながってしまう可能性がありますので、十分に注意が必要です。

その他の注意点として、以下も確認が必要です。
再委託については注意が必要
業務の再委託を予定する場合は、再委託できることを契約上で定めておきましょう。準委任契約の場合、再委任は原則として禁止になりますので、この点に注意が必要です。
また、開発業務にあたって発注者の重要な秘密情報に触れることもありますので、再委託等をする場合には、情報管理についてしっかりと手当をしておく必要があります。

3.上場審査時に問題となりうる条項や、見逃しがちな法令について

繰り返しになりますが、上場審査時には事業継続性に影響があるかどうか、コンプライアンス体制が整っているかどうか、という点でチェックされることになります。
たとえば以下の点でチェックされます。

・契約書の規定の中に法令違反規定がないか
・競業避止条項などの事業の妨げとなるような条項がないか
・過大な損害賠償義務を負っていないか
・反社会的勢力との取引でないか
・有効期間が満了していないか(有効期間が管理され、更新される体制が整っているか) 等

次に上場審査にあたってついつい見逃しがちになってしまう法令について、いくつか例示しておきます。

3-1.景品表示法

自社のWebサイトや広告などの表現について、「不当表示の禁止」に抵触する可能性があり、多くの会社がこの法律の適用を受けます。客観的な根拠なく「業界No.1」と記載してしまう、等の表現がこれに該当し得ます。
ちなみに景品表示法が適用される「必要な措置が求められる事業者」は以下のように定義されています。
景品類の提供若しくは自己の供給する商品又は役務についての一般消費者向けの表示(以下「表示等」という。)をする事業者

また、上記以外にも以下に該当する事業者も対象になります。
なお、自己の供給する商品又は役務について一般消費者に対する表示を行っていない事業者(広告媒体事業者等)であっても、例えば、当該事業者が、商品又は役務を一般消費者に供給している他の事業者と共同して商品又は役務を一般消費者に供給していると認められる場合
詳細は消費者庁HPをご覧ください。

3-2.下請法

大企業に適用があるイメージがありますが、資本金の規模によって適用になるケースがあります。
例えばソフトウェア開発の作成委託では、委託会社の資本金が1,000万円超、受託会社 の資本金が1,000万円以下もしくは個人事業主の場合、下請法が適用されます。発注内容の書面化の義務や、買いたたき・受領拒否及び不当返品が禁止される等の点に注意が必要です。

3-3.独占禁止法

相手方の状況によっては、優越的地位の濫用規制の対象となる場合もある点に注意が必要です。正常な商慣習に照らして、優越的地位にある一方の当事者が不当に相手方に対して、自社の商品を購入させるような行為を行うことが禁止されています。
この規制の適用については一律の基準はなく、個別事例ごとに判断がなされます。取引先が自社への依存度が高かったり、取引相手の変更可能性が低かったりする場合には注意が必要です。

3-4.個人情報保護法

顧客情報などの個人情報を管理する場合、近時の法改正により取り扱う個人情報の人数に関する定めがなくなりました。また非営利団体等であっても同法の対象となりますので注意が必要です。

4.IPO準備における法務論点は専門家の活用が有効

本コラムでは、ソフトウェア開発などの業務委託契約における注意点の確認と、上場にあたって一般的に検討されるべき法律について取り上げました。

契約書のチェック・管理において重要なことは以下の2つです。
・契約締結時の法的検討体制の構築(営業部門と管理部門の連携及び契約内容の審査)
・締結後の契約の管理、法改正への対応(管理部門の充実)

ただ、十分な審査体制・管理体制を構築するには、人材を含めて多額のコストがかかります。IPO準備企業においてはこれらを充実させることには困難がともなうことも事実です。
そこで、近時はAIを利用した契約書のリーガルチェックツールの活用や弁護士等の専門家へのアウトソ―スも増えています。また、アウトソースだけでなく法務担当者(新たに法務担当者となられる方)と弁護士とが、都度の契約書チェックの際に確認ポイントの摺り合わせをするなど、OJTによる法務担当者のスキルアップのお手伝いをする法律事務所もあります

IPO実現に向けてコア業務に集中し、ノンコア業務は外部の専門家の力を借りることはIPOを実現するための有効な手段です。特に法務論点での問題は、起こってしまうとIPOスケジュールに大きく影響する可能性があるため、専門家の力をうまく活用しましょう。法務論点がIPO実現の足かせとならないよう早期に対処することが肝要です。

■ リーガルチェックサービスや法務OJTのご相談は春馬・野口法律事務所へ
春馬・野口法律事務所HP
執筆者
春馬・野口法律事務所<br>代表 弁護士<br>春馬 学氏
春馬・野口法律事務所
代表 弁護士
春馬 学氏
平成12年03月京都大学法学部卒業。平成13年10月名古屋弁護士会登録(現 愛知県弁護士会)。平成18年10月春馬・野口法律事務所開設。様々な業種、規模の企業の顧問弁護士として企業法務に携わる一方で、ビジネスサイドに立てる弁護士として複数の社外取締役を兼務し、いずれの企業も在任中に上場を果たすなど企業の発展に貢献すべく尽力している。著書『社外監査役の手引き』
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