京都の介護事業・株式会社T.S.I、2021年マザーズ上場までの軌跡

2021年3月マザーズ上場を果たした京都の介護事業T.S.I、取締役管理部長三宅氏が上場体験談を語る。上場を目指した理由、上場までの苦労、上場実現に影響した3つのポイントとは?
2021年11月15日

1.京都の介護サービス業・T.S.I、2021年3月マザーズに上場

2017年以来、約4年ぶりに京都の企業が上場を果たしました。
サービス付き高齢者向け住宅(以降、サ高住)を設計・建築・運営する株式会社T.S.Iです。

創業当初から上場を目指すと公言していた同社ですが、なぜ上場を目指したのでしょうか?
上場経験者不在の中、上場準備段階ではどのような苦労があったのでしょうか?
振り返ってみてわかる、上場実現の肝となる出来事は何でしょうか?

株式会社T.S.I 取締役管理部長 三宅 裕介氏が上場体験談を語ります。

<会社概要>
会社名:株式会社T.S.I
代表者名:代表取締役社長 北山 忠雄
本社所在地:京都府京都市
創業:2010年2月
事業内容:訪問介護・介護予防訪問介護・居宅介護支援・サービス付き高齢者向け住宅
資本金:37,420万円
従業員数:546名(非常勤含む)
証券コード:7362
※2021年9月時点


上場体験談を語る株式会社T.S.I 取締役管理部長 三宅氏
▲上場体験談を語る株式会社T.S.I 取締役管理部長 三宅氏

2.介護業界の改革を目指す、上場を視野にT.S.I誕生

当社、株式会社T.S.Iは自宅で看取られたいと望む高齢者が安心して住める住まいと介護サービスを提供することを目的とし2010年に設立しました。社名は「Terminalcare Support Institute」の略であり“終末期ケアの支援機関”を意味しています。

設立当初は訪問看護事業を行っており、看護師が1日に数件、要介護認定の方のご自宅を回り30分~1時間ほどの生活のお手伝いをしていました。しかし、介護が必要な方に対して最低限のご支援しかできず、終末期ケアの支援機関の実現には遠いと痛感していました。

そんな折、2011年に高齢者住まい法が改正されサ高住制度が始まりました。
すぐにサ高住事業に舵をきり、2013年にはサービス付き高齢者向け住宅「アンジェス」を開設します。開設から9年が経った現在では運営棟数は28棟まで増え、稼働率も約97%と高稼働を維持しています。大変ありがたいことに開設した場所すべてで受け入れていただくことが出来ていると実感しています。

今後高齢化がさらに加速します。
高齢化が加速する中で、高齢者が生活する場所が不足し早急に解決が迫られる社会問題です。
この社会問題を解決する一翼を担っているのが当社です。

社会的意義の高い介護業界ですが、一方で、メディアの影響等で、働く人にとってはつらい・厳しいというイメージがあることや、いざ自分の親を預けるには抵抗があるという方もいるような、まだまだ改革の余地の大きな業界でもあります。
このネガティブなイメージを払しょくし介護業界を改革するための手段として、当社社長の北川は創業当初から上場を視野に入れていました。

T.S.I、社名の由来は“終末期ケアの支援機関”
▲T.S.I、社名の由来は“終末期ケアの支援機関”

3.社会的意義と熱意に共感し、2013年にジョイン

私は元々信託銀行で富裕層向けの金融商品販売等、個人営業をしていました。経営者の方とお話しする機会も多く、その責任感の大きさや高い視座に触れるうちに私自身もいつか経営者になりたいと思っていました。
そして経営の勉強や経験を積める会社を探していたところ、2013年夏に知人の紹介で当社と巡り合ったのです。

介護業界の現状や終末期ケアの在り方について、また介護業界改革のために上場を目指すという社長・北山の熱い想いを聞くうちに、T.S.Iが目指す世界の社会的意義そして熱意に共感し、ここでなら自身も成長できると確信して入社を決めました。

入社当初は介護業界に関しては右も左もわからない状態でしたので、現場の下積みから始まりました。複数拠点の施設長も担当し、何でもしようという思いで本当にたくさんの経験をしました。そして2017年に本格的に上場準備が始まるタイミングでエリアマネージャーから管理部長になり、上場実務を担当することになりました。

上場を目指した理由は介護業界そのものの変革
▲上場を目指した理由は介護業界そのものの変革

4.上場で得たい2つの効果~信用力向上と資金調達~

上場で直接的に得たい効果は2つありました。
1つ目は信用力の向上、2つ目は資金調達と今後の資金調達手段の多様化です。

まず1つ目の信用力の向上ですが、新拠点を全国に拡大していくためにも社会的信用のある会社と認識してもらう必要があります。また人手不足感の強い介護業界において従業員を確保するためにも上場企業というブランドが大事であると考えました。

2つ目の資金調達と今後の資金調達手段の多様化ですが、新拠点開設のためには先立つ資金が必要です。そのため銀行以外にも資本市場から資金調達が出来ること、自社でいつでも土地を確保しにいける状態をつくることで、新規案件の進出決定の成否を外部オーナーの方に依存せず自社でコントロールできる状態をつくることは今後の拡大の可能性を広げることにつながります。

上場で得たかったのは信用力と資金調達力
▲上場で得たかったのは信用力と資金調達力


5.上場まで7年の道のり、始まりはショートレビュー

上場準備のスタートは2014年のPwC京都監査法人のショートレビューでした。
この時点では利益も出ておらず組織体制も整っていませんでしたが、上場に向けての当時の立ち位置と課題を明らかにできたことが非常に有益だったと思います。

2015年はひたすら事業拡大に邁進しました。私も複数拠点の施設長をしていた時期です。

2016年は関係会社の整理に着手します。
上場に向けて2社あった子会社を1社に合併しました。オーナー経営者の場合、関係会社の整理に時間がかかることがあると聞いていましたが、当社の場合は社長主導で上場準備が進んでいましたので、比較的スムーズに整理が進みました。

2017年は関係会社の整備が終わり、経理の内製化や会計・勤怠・介護システムの整備など、内部管理体制を整備した時期です。
会計システムは、監査法人とも相談し、上場に耐えられるシステムである勘定奉行を導入しました。内部統制上、仕訳起票者と承認者を明確に分けることや、承認者は仕訳起票ができないよう権限設定を行うこと等が必須と言われておりましたが、勘定奉行ではそれらをきちんと対応できるので、十分に監査に耐えることができました。導入前後のサポートも丁寧だった記憶があります。
大きな課題は2017年までに大方片付き、いよいよ直前々期の2018年に突入します。

6.直前々期、主幹事契約締結。苦難の連続で外部の力も活用

2018年には野村證券と主幹事契約を結びます。ここからが大変でした。

直前期の2019年に入ると、冬に予定された野村證券の中間審査を乗り切れるかどうかが最大の課題となります。
規程の整備と運用、内部統制対応、労務回りの整理など、対応すべきことだらけでした。
現場業務が根本的に変わる覚悟と、現場への実装力を問われました。自社のマンパワーではどうしても足りないところはIPO支援を手掛けるブリッジコンサルティンググループに支援を依頼し、労務コンサルにも労務周りの整備を依頼しました。
外部の力にも頼りながら、野村證券からの月に2~3回の質問にも迅速に対応していきました。
振り返るとこの時期が最も大変だったと言えます。

上場までのスケジュール
▲上場までのスケジュール

7.上場スケジュール延期を乗り越え上場を実現

中間審査対応に忙殺された一年が過ぎ、申請期の2020年を迎えます。
9月に東京証券取引所に申請をして12月に上場することを目指していましたが、経理体制の充実を更に図るため、もう1四半期を見ようと、野村證券と相談の上、決定しました。
証券会社の審査、東証審査は、基本的に何か懸念があればもう1四半期、もう1期と、審査は必ず伸びます。1四半期様子を見ると期越え上場になるため、それまで関係各所からのネガティブな意見もありました。
しかしそれでも、IPOはタイミングが重要であると判断し、期越え上場を決意しました。
そして2020年12月に取引所に申請し、2021年3月に上場を果たすことが出来たのです。

8.上場をしてから改めて思う、上場実現に影響した3つのポイント

上場を実現することが出来た今、振り返ると以下の3点が肝だったと思います。

①早めのショートレビューでの課題把握、直前々期までに大きな課題を解決
ショートレビューは上場の約7年前、2014年に実施しています。
この早めのショートレビューで当時の立ち位置と課題を把握することができました。上場準備においては対応に時間がかかるものとそうでないものがありますので、その仕分けが出来たことも良かったです。

また、2017年(直前々期より前)までに、関係会社の整備やシステムの入れ替え等の大きな課題を解決できていたことも重要でした。
直前々期に入ると審査対象期間に入るため、大きな変更の際には証券会社に合理的理由を説明する必要があります。直前々期以前に大きな課題を解決できていたことが、その後の上場スケジュールをスムーズに進めることができた要因だと感じています。

②アウトソーシングの活用
2019年の中間審査に向けて準備をしていた時が今思うと一番大変な時期でした。
上記の通り、審査のための資料作成の一部をブリッジコンサルティンググループにお願いし、労務周りも労務コンサルに依頼しましたが、この判断は正しかったと思います。
マンパワーが足りませんでしたので、あの時、無理に内製化しても精度の低いものが出来てしまい中間審査を乗り切れなかった可能性があります。労務の体制変更は、コンサルの力無しでは成し遂げられませんでした。しかし一つ一つ対応を重ねていくことで上場までに解決することが出来ました。
ちなみにブリッジコンサルティンググループを紹介してくれたのは同じく2019年に契約した証券印刷会社・プロネクサスです。プロネクサスにもいつも色々と親身に相談に乗って頂き、上場承認直前の最後の追い込みの時期にも大変お世話になりました。上場を目指す上では支援してくれる方がたくさんいらっしゃいますので、そういった外部のご支援を最大限に活用することも重要です。

③主幹事証券会社の対応は迅速に
証券会社からの質問にはとにかく迅速に対応するように心がけていました。
証券会社から見れば当社は支援している企業の1社でしかありません。証券会社に気にかけていただけなければ上場は実現できないと思います。
ただし証券会社だけを見ていればよいということでもありません。支援家の方、特に証券会社には上場への本気度を示す姿勢が大事だということです。

9.上場経験者不在の中での上場準備の苦労

私自身は上場経験者ではありませんでしたので、上場準備が本格化するまえに「上場」や「内部統制」と名のつく本は読みつくしました。
実際に経験したことはないけれど、すべて聞いたことはある土台ができた状態にしました。
そのため、いざ上場準備が始まるときに、不安と期待が同居しつつも、上場実務担当として手を挙げることが出来たのだと思います。

また、ブリッジコンサルティンググループや労務コンサル等の外部の支援家の力を借りることで自社だけでは対応しきれないところもスケジュール通りに対応することができました。特に労務コンサルティングは本当に厳しかったです。しかし一つ一つ真摯に対応していくことで上場までに解決することが出来ました。
直前々期以降の不明点はすべて野村證券の引受部のご担当の方に質問して対応しました。

上場経験者が不在であっても、独学で土台を作り、外部のご支援も活用することで上場を実現することは十分可能だと思います。

10.地方上場だからこそのメリットがある

地方上場にデメリットはないと語る三宅氏
▲地方上場にデメリットはないと語る三宅氏

私たちは京都の企業で、地方上場と言われますが、上場準備の際に地方における格差や不利益を感じることはありませんでした。
逆に京都企業の上場は2017年以来でしたので、たくさんの地域の方に応援していただき、上場時には喜んでいただくことができました。首都圏の企業であれば年間約100社の上場企業のうちの何十分の一でしかないかもしれませんが、京都であればオンリーワンです。これは地方上場のメリットではないでしょうか。

11.上場はあくまでも手段、介護業界の改革を目指して

上場後、サ高住で国内トップ企業を目指す
▲上場後、サ高住で国内トップ企業を目指す

介護業界を変えたいという思いから、その手段として上場を目指してきました。
そして多くの方に支えられ上場を実現することができました。

上場の直接的効果である知名度向上により、採用のメリットはすでに現場で感じています。また今後2030年までに150棟運営体制を実現するという目標を掲げていますので、そのための資金調達に関しても、これまでよりも手段が増え可能性が広がると考えています。

私自身は、当社が今後も成長し続けるためのバックオフィスからのサポートをしていきます。
これまでは上場を第一の目標として取り組んできましたが、これからは企業価値を永続的に発展させていくことが使命です。そこに心血を注いでいきます。

今後はさらなる企業価値向上に努め、自分の親を預けたいと私たち自身が思える介護施設を全国に拡大し、業界No.1を目指します。

※本コラムは8/24開催「2021年上半期・関西IPOとIPO準備のリアル-2021年3月、T.S.Iマザーズ上場体験談-」の講演内容を元に作成されています。

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執筆者
株式会社T.S.I<br>取締役管理部長 三宅 裕介氏
株式会社T.S.I
取締役管理部長 三宅 裕介氏
大手信託銀行にて営業活動に従事したのち、2014年に株式会社T.S.I参画。サービス付き高齢者向け住宅「アンジェス」の施設長やエリアマネージャーなどの現場経験を積み、2017年管理部長に就任しIPO準備をスタート。2019年には取締役管理部長に就任し、2021年3月東証マザーズ上場を管理部門の責任者として支えた。
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