IPO審査における事業計画書

事業計画とは事業の目的を達成するための目標値や具体的な行動計画を数字・グラフ・文字で表した文書を指します。特にIPO準備においては審査で聞かれる「事業計画が合理的かどうか」が最も重要なポイントです。具体的な策定の流れとポイントをタスク河野氏が解説
2022年5月10日

1.事業計画とは

事業計画とは、経営者の「思い」を整理し、その「思い」である事業の目的を達成するための目標値や具体的な行動計画を数字・グラフ・文字で表した文書を指します。
そのため、事業計画の策定には経営者の直接的な関与が求められます。

事業計画は会社の状況を定性・定量の両面で見ることができるためステークホルダーにとっても各種判断に役立てられる重要なものです。
具体的に誰が何に役立てているのでしょうか?
いくつか例をご紹介します。

【経営者】・・・経営資源・情報の把握、意思決定
【従業員】・・・自社の活動方針の把握
【銀行】・・・融資の検討材料
【投資家】・・・投資の検討材料
【連携する会社】・・・連携の判断
【証券会社】・・・引受可否の判断
【取引所】・・・上場可否の判断

2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋
▲2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋

2.事業計画策定のカギは「積み上げ方式」

事業計画は、会社の目標達成までの道のりを経営者・従業員が把握するとともに、銀行や投資家、証券会社などのステークホルダーに自社の状況を把握してもらうために必要なものです。
さらにIPOにおいては、目標の実現可能性、会社の成長可能性を判断するために「事業計画が合理的かどうか」が問われます。

しかし、初期の事業計画は「トップダウン方式」、つまり社長が自分だけで考えた、理想値の計画になってしまうことが多々あります。
客観的な視点を持たずに構成された事業計画は合理的とは言えず、高すぎる目標値に従業員がついていけないというケースも見受けられます。
IPOを意識し始めたら、自社の過去の変遷から未来を予測し、現場の意見も取り入れた「積み上げ方式」へシフトすることが重要です。

3.中期経営計画策定の流れ

では具体的に、どういった事業計画が「合理的」と判断されるのでしょうか?
上場審査の対象となる中期経営計画(事業計画の中でも3~5年先を見据えた計画)を策定するポイントをご紹介します。

まず、中期経営計画策定の基本的な流れは以下です。
(1)基本情報の記載(会社概要/沿革・設立経緯/経営理念・方針/目標)
(2)売上・利益などの数値目標の仮作成
(3)事業、製商品及びサービスの特徴を明確化
(4)外部環境分析で事業計画の確からしさを証明
(5)SWOT分析で自社環境の詳細分析
(6)戦略策定(事業/全社)
(7)数値目標の策定と月次モニタリング
(8)資金調達計画

2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋
▲2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋

事業計画は、「過去の事業の変遷」「現在の事業の特徴」「今後の計画」の3点から合理性を審査されます。そのため上記(1)~(8)もその流れで策定を行っていきます。
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 4.中期経営計画策定のポイント

「過去の事業の変遷」「現在の事業の特徴」「今後の計画」の3点それぞれから策定のポイントを説明します。

(1)基本情報の記載(会社概要/沿革・設立経緯/経営理念・方針/目標)

2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋
▲2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋

「沿革・設立経緯」は合理性を審査する3つのポイントのうちの「過去の事業の変遷」です。
「○○とアライアンスを組んだ」「新製品を開発した」など、自社が大きく変遷した契機を記載しましょう。
目標については定性的な表現だけではなく、「○年後に国内シェアNo.1」など定量的な記載があると、計画も定量的になり合理性を判断しやすくなります。

以下、(3)~(5)は、合理性を審査する3つのポイントのうちの「現在の事業の特徴」です。

(3)事業、製商品及びサービスの特徴を明確化
2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋
▲2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋

この項目を省略しているケースも見受けられますが、投資家をはじめとするステークホルダーに自社の製商品及びサービスを理解してもらうため、さらに取引所の申請書類にも記載することがあるため、経営計画には織り込んでおくとよいでしょう。
また、事業の特徴は4P分析を意識して記載すると具体的になり、読む側にとってもわかりやすくなります。

(4)外部環境分析で事業計画の確からしさを証明
外部環境となる業界をどう特定するか、は自社の捉え方で問題ありません。
同じ業界だからといってすべての競合他社を含めて分析してしまうと自社が小さく見えてしまうため、ある程度特定の領域に絞って分析してみるのもおすすめです。
また、競合他社のSWOT分析を行うことで自社の勝ち筋が見えてくることもありますので、このタイミングで実施しておくのもよいでしょう。

(5)SWOT分析
SWOT分析は自社の強み、弱み、機会、脅威といったオーソドックスな分析です。上場審査質問の中で、「SWOT分析をしてください」と聞かれることが多いため入れておくとよいでしょう。
弱みに対する対応は今後の事業戦略で重要です。きちんと分析し対応を検討し、審査質問に備えることが肝要です。

2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋
▲2022年2月17日開催「IPO塾 IPOのための事業計画書作成」講演資料より抜粋

(6)戦略策定(事業/全社)
戦略策定は合理性を審査する3つのポイントのうち「今後の計画」です。
内部環境分析(事業、製商品及びサービスの特徴の分析)、外部環境分析を踏まえて、自社がどう成長していくのかという戦略を考えます。
KPIがあると計画達成に必要なプロセスが具体化されますので、設定しておくことをおすすめします。

また売上全体の数%しかない新規事業を重点戦略に据える会社も多く見受けられますが、上場可否が新規事業の伸び率に依拠するため戦略の蓋然性が見えづらく、慎重な審査になる可能性があり注意が必要です。

上記はあくまでも基本的な流れのため、自社の事業計画に必要であればその他の項目も追加し、合理的な事業計画を作り上げていきましょう。

 5.IPOのためだけではない、上場後を見据えた策定を!

事業計画に関する上場審査の不備事例でも、「予算の作成根拠が明確でない」「努力目標的な予算になっている」といったケースは多くあります。
合理性のある事業計画の策定は、各項目で根拠のある説明やデータを必要とするため一朝一夕で成せるものではありません。
しかし、上場準備のタイミングで合理性のある事業計画策定に慣れておくことは、上場審査のみならず上場後のIRにも繋がり、ステークホルダーの信頼を得る会社づくりの基礎になるとも言えます。
迷ったときやうまく進まないときは、専門家の力も借りることを視野に入れ、一歩ずつ策定を進めていきましょう。
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更新:2022年6月30日
執筆
株式会社タスク<br>専務執行役員<br>河野 真宏氏
株式会社タスク
専務執行役員
河野 真宏氏
2006年に株式会社タスクに参画後、IPO関連のコンサルティングに実務家として幅広く従事。大型IPO案件や特設注意市場銘柄解除コンサルティングのプロジェクトリーダーを歴任。また各種セミナーの講師を務める。2017年に常務執行役員に、2018年より現職に就任。現在はコンサルティング事業本部を管掌。

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