TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)とは?メリット・特徴・上場スケジュールを解説

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)とはどういった市場か?メリット・デメリット、特徴、上場までのスケジュールをJ-Adviser船井総合研究所が解説。
2022年6月13日

1.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)とは

2009年6月、プロ投資家向け市場である「TOKYO AIM」が東京証券取引所グループとロンドン証券取引所の共同出資により創設されました。そして2012年7月、より自由度の高い上場基準・開示制度での上場の仕組みを目指し、TOKYO AIMのコンセプトを受け継ぐ形でTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)が開設され、東京証券取引所により運営されています。
TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の上場社数は2017年以降、毎年過去最高社数を更新しています。2021年は13社が上場し、2022年は5月末時点で既に10社が上場しています。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)、上場企業数の推移(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2022年5月末時点)
▲TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)、上場企業数の推移(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2022年5月末時点)

2.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場によるメリット・デメリット

2-1.メリット
上場企業になることによる一般的なメリットに加え、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)特有のメリットを享受することができます。
(1)

知名度・信用力の向上

上場企業約4,000社のうちの1社になることにより会社の知名度・信用力は向上します。営業活動がスムーズに進むことや金融機関からの借り入れが容易になる、経営者の個人保証が外れるなど、知名度・信用力向上のメリットは非常に大きいといえます。
(2)

人材確保の優位性、従業員の士気向上

優秀な人材を確保することができれば、企業成長を大きく加速させることにつながります。特に首都圏以外の地方企業においては人材確保の優位性メリットは重要です。
(3)

ガバナンスや管理体制の強化・充実

上場準備段階でガバナンスや管理体制を強化・充実させることにより企業としての基盤が整います。属人的経営から脱却し、組織的経営に生まれ変わることで生産性や効率性の向上など付随する効果がもたらされます。
(4)

M&Aや事業承継

企業成長のためのM&Aや多くの日本企業が直面している事業承継時にも、上場企業であること、財務情報を開示していることで経営者の期待に沿う結果を得られる可能性が高まります。
(5)

一般市場へのステップアップ

管理体制の整備・構築・強化や適時開示の経験、上場企業という公器の自覚等、上場企業としての義務を果たしていくことが将来のステップアップに確実にプラスになります。
一方で、一般市場の上場メリットとして挙げられる資金調達については趣が異なります。
プロ投資家向け市場のため、証券市場からの調達という直接金融の恩恵は一般市場ほどではなく、上場時の調達資金を利用して企業規模を一気に拡大することや、創業者が多額のキャピタルゲインを得るといったメリットは一般市場よりは感じにくいといえます。ただし、(1)知名度・信用力の向上により金融機関との信頼関係が強固になることで間接金融が充実するというメリットも忘れてはいけません。

2-2.デメリット
(1)

適時開示のための体制構築

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)においては、適時開示の義務があり半期と事業年度末の年2回、発行者情報を開示する必要があります(四半期開示は任意)。
(2)

上場時のコスト、維持コスト

上場時および維持のためには様々なコストがかかります。
東京証券取引所に支払う上場関連コスト例)
・新規上場料
・年間上場料
・上場後の新株発行等に伴う料金
・会社又は事業等の取得等を目的とした新株発行等に伴う料金

そのほか、監査法人・信託銀行・印刷会社・J-Adviser等にも継続して支払う必要があります。

3.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場の特徴

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場には、一般市場とは異なる3つの大きな特徴があります。
(1)

オーナー比率の維持

一般市場のように株式の流動性を求められないため(形式基準がない)、外部の株主を制限することができるとも言えます。そのため、オーナーの持ち株比率を下げることなく上場することができます。
(2)

最短1年で上場が可能

上場前の監査期間が1年(一般市場は2年)でよく、内部統制報告書や四半期報告書の提出も任意です。準備期間が短いということはコストの削減にもつながります。
(3)

J-Adviserによる上場支援

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)では、他の一般市場と違い数値基準等の形式基準が存在しません。代わりに東京証券取引所から上場審査業務等を委託されたJ-Adviserが上場適格性要件を満たしているか確認します。
J-Adviserは上場に必要な手続き、書類作成の助言・指導、東京証券取引所からの上場適格性要件の調査・確認業務に関するヒアリングへの対応等、上場に向けての様々な支援を行います。初めての上場準備において心強いパートナーとなります。

J-Adviser制度とは(参考:東京証券取引所ホームページ)
▲J-Adviser制度とは(参考:東京証券取引所ホームページ

4.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の上場適格性要件

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は一般市場と異なり株主数、流通株式数・比率などの形式基準がありません。代わりにJ-Adviserが上場適格性要件を満たしているかを確認します。
上場適格性要件
1、新規上場申請者が、東京証券取引所(以下「東証」という)の市場の評価を害さず、当取引所に相応しい会社であること
2、新規上場申請者が、事業を公正かつ忠実に遂行していること
3、新規上場申請者のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること
4、新規上場申請者が、企業内容、リスク情報等の開示を適切に行い、この特例に基づく開示義務を履行できる態勢を整備していること
5、反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項
(特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例 第113条)
▲TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の上場適格性要件(東京証券取引所ホームページより引用

5.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業の特徴

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に上場している企業の特徴は、一般市場においての“グロース市場かつ東京一極集中”とは異なる傾向がみて取れます。

5-1.業種
一般市場とTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の業種別構成を比較すると、東京プロマーケットでは、幅広い業種から上場しています。中でも建設業・不動産業が多くの割合を占めている点が特徴です。

一般市場において最大の新規上場企業数を誇るグロース市場では、高い成長可能性を求められるため、情報・通信業の新規上場が多くなり、結果的に新規上場全体での情報・通信業の割合が高くなります。しかしTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)では高い成長可能性は要件ではないため、情報・通信業に限らず全国の有力企業が上場を果たしているといえます。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業の業種別構成割合(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2021年12月末時点)
▲TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業の業種別構成割合(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2021年12月末時点)

5-2.本社所在地
2021年12月末時点では、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業のうち約7割が東京都以外に本社を構える企業でした。一般市場では、2021年新規上場社数125社のうち84社である約7割が東京都に本社を構えています。このことから、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は東京に限らず全国の企業が上場にチャレンジし、実現していることがわかります。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業の本社所在地(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2022年3月末時点)
▲TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業の本社所在地(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2022年3月末時点)

5-3.創業年数
2021年にTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に上場した13社は、設立から上場まで平均約28年を要しています。
一方で、2021年に一般市場に上場した125社は、設立から上場まで平均約19年を要していることから、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)のほうが社歴の長い企業が多いことがわかります。

業種・本社所在地・創業年数から、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業には確実に成長を続けてきた地方の有力な老舗企業の上場が多いと考えられます。柔軟な上場制度の設計により、一般市場への上場以外にもTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場という企業成長の道を見つけた企業が全国に増えているといえるのではないでしょうか。

6.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場のスケジュール

上述の通り、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)への上場には1年の監査期間が必要です。そのためJ-Adviserとの契約は直前々期の期末ごろから直前期の第1四半期あたりで締結し、準備を支援してもらうことが一般的です。そして監査法人による直前期の監査、J-Adviserによる申請期の審査を経て上場を実現します。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場までのスケジュール
▲TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場までのスケジュール

最短1年で上場が可能ではあるものの、現実的には多くの企業は2年ほどかけて準備をし、上場を実現します。しかし、中には例外的なスケジュールでTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場している企業もあります。以下3社は申請期に入ってからJ-Adviser契約を締結し、締結後3~6か月以内に上場を実現しています。
(1)
株式会社Geolocation Technology
2020年9月に担当J-Adviserであるエイチ・エス証券株式会社とJ-Adviser契約締結後、2020年12月にTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に上場。
(出典:株式会社Geolocation Technology 発行者情報
(2)
エヴィクサー株式会社
2021年7月に担当J-Adviserである株式会社アイ・アールジャパンとJ-Adviser契約締結後、2021年12月にTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に上場。
(出典:エヴィクサー株式会社 特定証券情報
(3)
株式会社アイガー
2021年12月に担当J-Adviserであるフィリップ証券株式会社とJ-Adviser契約締結後、2022年6月にTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場を予定。
(出典:株式会社アイガー 発行者情報
他の主幹事証券会社により一般市場への上場準備や上場審査手続きを進めていた会社の場合、担当J-Adviserが適宜の方法で上場審査を行うことが認められています。(東京証券取引所『特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例』及び『特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例の施行規則』)

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)が一般市場よりも自由度の高い上場基準・開示制度での上場が認められているからこそ、このような例外的なスケジュールでの上場が可能になるといえます。

7.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)を活用したステップアップ事例

2022年5月末時点で、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業のうち5社が一般市場へステップアップ上場を果たしています。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)を活用したステップアップ上場(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2022年3月末時点)
▲TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)を活用したステップアップ上場(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2022年3月末時点)

株式会社Geolocation Technologyと株式会社ニッソウの2社を例に、ステップアップ事例を見ていきます。
(1)
株式会社Geolocation Technology
同社は、2020月12月にTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場後、2021年9月福岡証券取引所(福証)のQ-Boardへステップアップしています。
この短期間でのステップアップの鍵は2つあると考えられます。

・ステップアップ上場を見据えたJ-Adviserの選定
  • 同社のJ-Adviserはエイチ・エス証券です。そしてQ-Board上場の際にもエイチ・エス証券が引き続き主幹事証券として上場を支えました。

    ステップアップ上場を見据える場合、一般市場への上場準備の際にも主幹事証券やIPOコンサルタントとして引き続き伴走してくれるJ-Adviserを選定することが肝要です。

・TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場時からの入念な準備
  • 同社はTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場前の2020年3月に福岡へ支店を開設しています。
    福証Q-Boardの形式基準には「九州周辺に本店を有する企業又は九州周辺における事業実績・計画を有する企業」と定められているため、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場の前段階で、Q-Board上場を念頭に置いた上場準備を進めていた可能性があります。
    (参考:福岡証券取引所「上場審査基準の概要」

頼もしい伴走者の存在とTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場準備段階から一般市場への上場を見据えた入念な準備が実を結んだと言えるでしょう。
(2)
株式会社ニッソウ
同社は、2018年2月にTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場し、約2年後に名古屋証券取引所セントレックスにステップアップ上場を果たしました。同社社長の前田氏は、当初からTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)への上場を一般市場へのステップアップとして位置付け、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の上場準備に約2年、セントレックスの上場準備に約2年、合計4年で2回の上場を果たしました。上場できるチャンスのある市場を選択し確実にステップアップしていく、まさにTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)を活用したステップアップの好事例と言えるでしょう。

8.東京証券取引所、市場再編の影響

しかし、なぜここ数年でTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の上場企業数が増えているのでしょうか。
その大きな要因の1つに、2022年4月の東京証券取引所(東証)による市場再編が考えられます。
(1)
スタンダード市場の高いハードル
東証の旧市場区分と新市場区分の上場基準を比較すると、旧JASDAQ市場への新規上場を目指していた会社がスタンダード市場を目指そうとした場合に、上場基準が引き上げられた形になります。

東証市場再編による市場別流通株式比率と流通株式時価総額(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2022年5月末時点)
▲東証市場再編による市場別流通株式比率と流通株式時価総額(東京証券取引所のデータを元に船井総研にて集計、2022年5月末時点)

スタンダード市場では、新規上場基準として流通株式比率25%以上、流通株式時価総額10億円以上が必要です。つまり仮に流通株式比率25%とした場合でも40億円程度の時価総額が求められることになります。
たとえばPERが10倍と想定される業種の場合は、最終利益は4億円、経常利益は6億円以上が必要になります。
(2)
グロース市場の成長可能性説明資料の提出及び更新の義務化
旧マザーズ市場で求められていた「成長可能性に関する説明資料」は提出が任意でしたが、グロース市場においては、「事業計画及び成長可能性に関する事項」の提出が義務付けられ、さらに毎年の更新が必要となりました。
(3)
新規上場基準と上場維持基準の統一化
新市場区分においては、新規上場基準と上場維持基準が統一されました。新規上場基準ギリギリで上場すると上場直後に上場維持基準を下回ってしまい上場廃止になってしまうリスクがあります。ある程度、基準を上回る余裕がないと上場ができない可能性が高いといえます。

このような背景から、一般市場ではなくTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へと目指す市場を変更した企業が増え、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)への新規上場社数が増加していると考えられます。

9.自社に適した市場選択が上場への近道

新規上場(IPO)を検討するにあたってグロース市場やスタンダード市場だけでなく、地方市場への上場、更にはTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)への上場という選択肢もあります。自社の成長戦略と各市場のコンセプトや上場基準を照らし合わせて、自社にとって最適な市場を選択することが上場実現の近道ではないでしょうか。

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