IPOを目指す企業に求められる財務会計とは?金融商品、引当金、減損・・・IPOで会計はこう変わる

財務会計とは投資家保護などを目的とし、主に上場企業に求められる会計を指す。IPOを目指す場合、税金計算を前提とした税務会計から投資家保護を目的とした財務会計(企業会計)への転換が必要であり、目的の違いと相違点の理解、各会計基準の概要の理解が重要となる。上場企業に求められる会計実務のエッセンスをあいわ税理士法人土屋氏が解説する。
2022年6月28日

1.財務会計とは?

財務会計(企業会計)とは、企業などの組織が投資家等のステークホルダーに対して、会社の財務状況を提供する会計を指します。企業会計原則をはじめとした各種会計基準等に基づいて作成された財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書)を用いて報告されます。

一方、税務会計は、企業に課税されるべき所得の額を算出するための会計であり、法人税法などをもとに作成され、国や地方公共団体に報告することを目的としています。

IPOを目指す前は、多くの企業が税務会計で決算書を作成していますが、IPOを目指す場合は、投資家保護を目的とした財務会計(企業会計)で作成する必要があります。

2.財務会計と税務会計との違い

上場企業に求められる財務会計は投資家保護が前提であるため、不測の費用・損失などのリスクは早めに織り込む、という考え方に基づいています。
一方で、税務会計は課税対象額である所得を計算する会計であるため、原則として実際に発生した費用(損金)に限定されており、その結果、費用(損金)が少なく計上され、所得が大きくなる傾向にあります(さらに税額も増える)。

収益と益金・費用と損金の計上方法が異なるため、財務会計上の利益と税務会計上の所得に差が生じることになります。

税務会計と財務会計の違い
▲税務会計と財務会計の違い

そのほか、支出項目、特に費用(損金)に関連する取り扱いに大きな違いがあります。具体的には、減損、資産除去債務、各種引当金などの計上に関するものが挙げられます。

財務会計と税務会計の相違点
▲財務会計と税務会計の相違点、支出項目に大きな違いがある。

3.IPOを目指すにあたり1社に1冊は欲しい、会計基準等を収録した会計監査六法

会計監査六法には、IPOを目指すにあたって必要な会計基準や適用指針などが収録されています。非常に多くの会計基準等が収録されているため、全てを覚えて頂く必要はありません。

大事なのは、会計基準等の詳細ではなく、概略を理解したうえで、実際に会計処理を検討しなければならない事象に遭遇した場合に、この会計監査六法を引けるようになること、引くことに慣れることです。

会計基準等を見る際にはコツがあります。

会計基準等を見るコツ
▲固定資産の減損に係る会計基準の適用指針を例に。◎の箇所を確認するのが会計基準等を見るコツ

上図の「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」の目次のように、ほとんどの会計基準や適用指針などは、最初の前半部分にルール、基準などが記載されています。ここでは◎を記載した「適用指針」の箇所が該当します。

次に◎を記載した「結論の背景」があります。この「結論の背景」は、なぜこのルールを採用したか、などの考え方が記載されています。そのため、前半部分のルールを見てぴったりとあてはまる記載がなかったとしても、この「結論の背景」をみることによってその考え方がわかり、会計処理を検討する上でのヒントになる可能性があります。
また、多くの基準等は、そのあとに「設例」があるので、その「設例」を解くことによって、より会計基準等の理解を深めることができます。

4.金融商品会計:有価証券は分類で会計基準が決まる

具体的に税務会計と異なる会計基準を見ていきます。

まず1つ目は金融商品会計です。
金融商品会計は、売掛金や買掛金などの金銭債権・債務、有価証券、デリバティブなどの会計処理が定められた基準です。どういうときに金融資産・負債の発生・消滅を認識するか、どういうときに金融商品に係る損益を認識するか、また、期末の評価をどうするか、などが定められています。

今回はその会計処理のうち、多くの会社に関係する有価証券の期末評価について解説します。

株式などの有価証券を保有する場合、保有目的によって会計処理が変わります。期末の評価においては、有価証券を保有目的ごとに以下の4つに分類することからはじめます。

① 売買目的有価証券
② 満期保有目的の債券
③ 子会社及び関連会社株式
④ その他有価証券

有価証券の4分類
▲有価証券の4分類

では、一般的な事業会社が、投資目的で他の上場企業の有価証券を保有していた場合、①の売買目的有価証券にあたるのでしょうか?
答えはNoです。売買目的有価証券に分類されるには、以下の2つの分類条件を満たす必要があります。

① 有価証券の売買を業としていることが定款の上から明らかであること
② トレーディング業務や日常的に遂行し得る人材から構成された独立の専門部署によって売買目的有価証券が保管・運用されていることが望ましい。

投資を専門的に行っている金融商品会社などが保有している場合が想定されており、投資目的であったとしても一般的な事業会社が保有しているケースでは売買目的有価証券には該当しないこととなります。

また、満期保有目的債券についても、償還期限まで積極的な意思と能力に基づいて保有する必要があると条件づけられています。途中で売る可能性のある場合は該当しないため、満期保有目的債券に該当するケースもかなり限定的と言えます。

上述のように、①売買目的有価証券と②満期保有目的の債券の分類条件がかなり限定的なため、実務上で多く分類されるのは③子会社及び関連会社株式と④その他有価証券になります。

また保有目的の変更はよほどの正当な理由がない限りできません。保有目的が簡単に変更できてしまうと会計処理も簡単に変更できることになってしまうからです。

5.時価のある有価証券が著しく下落した場合の評価は

有価証券の分類ごとの評価方法
▲有価証券の分類ごとの評価方法、評価は回復可能性なども考慮して。

時価のある有価証券が著しく下落した場合は、どのように評価するのでしょうか。
一般的には、50%超下落し、満期保有目的債券・子会社関連会社株式・その他有価証券について回復可能性がある場合を除き、評価損を損益計算書に計上する必要があります。これを減損処理といいます。

仕訳例) 投資有価証券評価損 ××/投資有価証券 ××

ただし50%超は一般的な基準のため、30%~50%程度であったとしても実質的判断で減損処理を行うこともあります。

減損処理を行う場合は、財務諸表の注記にも必要事項を記載する必要があります。

6.各種引当金:後から計上すると損益への影響が大きい、計上の勘所を押さえる

引当金とは、将来の支出に備えてあらかじめ計上される見積金額のことです。よくある引当金の例としては、賞与引当金・貸倒引当金・退職給付引当金などがあります。
会計上、引当金の4要件を満たす場合には、損益計算書に費用計上するとともに引当金として負債計上する必要があります。
ちなみに引当金のほとんどは、税務上の損金(費用)としては認められません。

引当金の4要件は以下です。
① 将来の費用又は損失
② 発生が当期以前の事象に起因
③ 発生の可能性が高い
④ 金額を合理的に見積もることができる

引当金の4要件と種類
▲引当金の4要件と種類

以下のケースは引当金として計上すべきか、考えてみましょう。

Q.ある事案について、1億円の損害賠償を求める裁判を提起された。現在係争中である。
A.引当金として計上しない。

係争中ということで、③発生可能性が高いかどうかが判断できません。また④金額は1億円になるかどうかもわからないため、合理的に見積もることもできません。つまり4要件を満たさないため、引当金は計上しません。ただし、この内容・影響などが重要な場合には、偶発事象の注記を記載する必要はあるかもしれません。

引当金の計上は、多くの場合多額になります。監査法人からの指摘で期末前に慌てて計上すると、損益が大きくぶれてしまうこともあります。
そのような事態にならないために、常に引当金の4要件を意識し、会社に何らかの事象が発生した場合に引当金を計上するか否かを即座に判断できる勘所を身に着けておくことが重要です。会計処理というよりは、この意識が非常に重要なのです。

7.減損会計:減損処理時のキャッシュ・フローの見積額は正確に

減損会計とは、固定資産の減損に関する会計基準のことです。固定資産の価格や収益性が著しく低下している場合に帳簿価額を切り下げ、資産の表示を適正にし、将来に損失を繰り延べないために行います。

減損会計を適用するにあたっては、まずは対象となる資産を決めます。
その場合、固定資産の1つ1つが対象資産となるのではなく、「他の資産から独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位」にグルーピングし、その単位を対象資産とします。
たとえば店舗の場合、店舗全体の資産でキャッシュ・フローを生み出しているため、店舗が最小の単位になります。店舗を構成する要素である什器等、1つ1つの固定資産が最小の単位になるのではありません。

単位が決まったら、次に減損の兆候があるかどうかを判定します。減損の兆候に該当する要件は4つです。

① 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合
② 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合
③ 経営環境の著しい悪化がある場合
④ 市場価格の著しい下落がある場合

要件にあてはまるかどうかを勘案し、減損の必要性を判断します。
たとえば、「①営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合」は、一般的には過去2期がマイナスだったことを指しますが、過去2期がマイナスであっても当期見込みが明らかにプラスの場合は減損の兆候に該当しません。一方で、2期前がプラス、前期がマイナスの場合でも、当期が明らかにマイナス見込みの場合は減損の兆候に該当することがあります。

また、「③経営環境の著しい悪化がある場合」では、材料価格高騰、機械技術の陳腐化など、キャッシュ・フローを稼ぐ力がなくなる場合も減損の兆候あり、と判定します。

減損会計の考え方と判定の流れ、ポイントはキャッシュ・フローを生み出すかどうか。
▲減損会計の考え方と判定の流れ、ポイントはキャッシュ・フローを生み出すかどうか。

減損の兆候ありと判定された場合、減損損失を計上するかどうかを判定します。これを減損損失の認識といいます。具体的には、対象資産(グループ)から生ずる“割引前”の将来キャッシュ・フローの総額を見積り、対象資産の簿価と比較をします。

比較の結果、割引前の将来キャッシュ・フローの総額が簿価を下回っている場合には、最後のステップとして、減損損失の金額自体を見積ります。これを減損損失の測定といいます。具体的には、簿価から“割引後”の将来キャッシュ・フロー総額を控除した金額が減損損失の金額になります。

キャッシュ・フローの総額次第で減損処理をするか否かが決まるため、減損損失の計上を回避するために、企業がキャッシュ・フローの総額を甘めに見積る懸念があります。
見積りの精度に関しては、監査法人から厳しく確認を求められるため、所管する部門や現場任せにはせずに、しっかりと統制を取り、精度の高い見積もりで会計処理を行うように心がけてください。

なお、減損損失を計上した場合には、損益計算書の注記が必要です。
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執筆
あいわ税理士法人<br>シニアパートナー/公認会計士/税理士<br>土屋 憲氏
あいわ税理士法人
シニアパートナー/公認会計士/税理士
土屋 憲氏
1999年より、監査法人業界にて上場会社の監査や株式上場支援業務に従事。金融機関への出向なども経験し、2015年にあいわ税理士法人に入所し現在に至る。株式上場に関連するセミナー講師多数。「株式上場マニュアル」(税務研究会)、「ケーススタディ・データ分析による資本政策の実務」(税務研究会)などを執筆。
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