資産除去債務とは?会計処理と敷金支出時に簡便法が認められるケースを解説

資産除去債務とは何か?賃貸借契約の敷金支出時に認められる簡便法とは何か?イメージと具体的な仕訳例で適用方法を把握!
2022年7月14日

1.資産除去債務とは?

資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発、又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して発生し、法令又は契約で要求される法律上の義務又はそれに準じるものをさします。

通常の使用によって生ずるものが対象となるため、異常な原因によって発生するものは除かれます。また、転用や用途変更、遊休状態になった場合、そして自発的な計画による場合の除去も対象外となります。

資産除去債務とは
▲資産除去債務とは

では以下のような場合はどうでしょうか。
ビルの1フロアを自社オフィスとして賃貸借契約を結び、その際、部屋の仕切りとして壁を作ったとします。この壁は、退去時に原状回復義務があるため、撤去する必要がありますが、資産除去債務を計上する必要はあるのでしょうか。

資産除去債務の定義に当てはめて考えてみましょう。
まず、部屋の仕切りで利用することは①「通常の使用」に該当します。そして、通常は退去の際には除去しなければならないことが賃貸借契約上定められているでしょうから、②③にも該当します。つまり、将来かかるであろう撤去費用を、資産除去債務として計上することになります。

2.資産除去債務、適用の背景

2008年、企業会計基準委員会にて企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」が承認されました。これにより資産除去債務を負債として計上するとともに、対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理が行われることになりました。

適用の背景としては、以下2点があげられます。
・有形固定資産の除去に関する将来の負担を財務諸表に反映させることは投資情報として有用であること。
・グローバル化が進む中、世界的に利用されている国際財務報告基準(IFRS)と日本の会計基準との差異を縮小することを目的としたコンバージェンスに向けた取り組みの一環として。

参考)企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」の公表(企業会計基準委員会)

3.資産除去債務の会計処理、除去のイメージと仕訳方法

次に資産除去債務の会計処理について見ていきます。

資産除去債務のイメージ、時の経過に基づく利息費用を加味する
▲資産除去債務のイメージ、時の経過に基づく利息費用を加味する

耐用年数5年の有形固定資産の場合で、5年後に1,000の費用(資産除去債務)が発生するとします(青い部分)。ただし、5年後の1,000は時の経過に基づく利息費用が付加された金額のため、現在の1,000とは価値が異なります。そのため、現在の価値に割り引いた905が資産除去債務として計上されます(薄いオレンジ色の部分)。
一方で、資産除去債務は固定資産の除去費用にともなう債務なので、同額の有形固定資産も計上します(除去費用の資産計上)。
つまり、その計上された有形固定資産の減価償却を通じて、資産除去債務の費用配分が行われることになります。

より理解を深めるために具体的な仕訳を見ていきましょう。
Q.
3月決算であるA社は20X1年4月1日にB社と建物の賃貸借契約を締結し、有形固定資産Cを設置した。当該有形固定資産Cの耐用年数は5年であり、除去費用は1,000と見積もられている。割引率は3%で、割引現在価値は863である。

A.
【20X1/4/1】
・賃貸借締結時

資産除去債務に対応する除去費用の資産計上
資産 1,000 ÷ 割引率 (1.03)⁵ = 割引現在価値 863
有形固定資産 863 / 資産除去債務 863

資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務の負債計上時に同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加えます。

【20X2/3/31】
・時の経過による資産除去債務の調整額

資産除去債務は時の経過とともに利息分だけ増加していきますので、その利息費用を資産除去債務に加算します。

費用(利息費用) 26  / 資産除去債務 26

・資産除去債務の費用配分
割引現在価値 863 ÷ 耐用年数5年 = 減価償却費 173
費用(減価償却費) 173 / 減価償却累計額 173

資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて有形固定資産の残存耐用年数にわたり期間配分します。

このようにして、除去費用が費用配分されるとともに、時の経過に基づいて資産除去債務が調整されます。ゆえに、資産除去を行う際には、実際の除去費用額と計上されている資産除去債務が相殺されることになります。

また、固定資産の減損会計の割引率と資産除去債務の割引率は性質が異なります。
固定資産の減損会計の場合は、その固定資産から得られる予定の収益率や資本コストを反映して割引率が計算されます。一方で、資産除去債務の割引率は、リスクフリーレートである、国債などの利回りをもとに計算されます。
同じ割引率という名称でも、その性質により計算方法が異なりますので、ご注意ください。

【関連コラム】 IPOを目指す企業に求められる財務会計とは?金融商品、引当金、減損・・・IPOで会計はこう変わる

4.資産除去債務の簡便法:敷金支出時

資産除去債務にかかる実務負担を考慮して、簡便法と呼ばれる簡便な処理方法が認められるケースがあります。
それは、建物賃貸借契約において敷金を支出している場合です。

賃借不動産に関する実務上の負荷への考慮のほか、賃借建物に関連する資産除去債務を負債に、これに対応する除去費用を資産として両建処理した場合、敷金と資産除去債務に対応する除去費用が二重に資産計上されるという見方ができるからです。

簡便法が適用されるケースでは、原則法と違い割引計算は必要ありません。除去費用(原状回復費用)見込額を耐用年数で割った金額を毎年償却していきます。

Q.
3月決算であるA社は20X1年4月1日にB社と建物の賃貸借契約を締結し、敷金を2,000支出した。A社の同様なケースでの平均的な入居期間は5年、原状回復費用は1,000と見積もられた。

A.
【20X1/4/1】
・賃貸借契約締結時

敷金 2,000 / 現金預金 2,000

【20X2/3/31】
・償却時

費用(敷金償却) 200 / 敷金200

ただし、敷金計上していれば必ず簡便法が適用できるわけではありません。
除去費用(原状回復費用)の方が敷金を上回る場合は、敷金がマイナスになってしまうので、原則法の適用になります。あくまでも敷金の方が多い場合のみ、簡便法の適用が認められています。

また、原則法と簡便法の費用を比較すると、簡便法200に対して、原則法は199(173+26)です。つまり、損益インパクトに大きな差はないことがわかります。

5.資産除去債務、税法と会計の相違

資産除去債務は会計特有の処理であり、税務上は費用(損金)計上が認められていません。そのため、資産除去債務の分だけ会計と税務は乖離します。
毎期の償却を耐用年数期間のあいだ繰り返し、先述の例であれば5年後(除去時)に会計と税務が一致することになります。

資産除去債務の税務との相違点
▲資産除去債務の税務との相違点

多くの企業が建物を借りるなどの理由で、資産除去債務を計上することになります。また、開示の際の注記には、資産除去債務の概要・算定方法や費用の増減について説明する必要があります。
さらに、簡便法を適用した場合でも、注記にその旨を記載したほうがよいと考えられるため、原則法・簡便法の両方を理解する必要があります。

上場企業が対応すべき会計基準は非常にたくさんあります。細かいところまで理解するというよりは、概略を押さえて、対処方法を検討できるようなマインドを身に着けることが大事です。上場直前になって慌てないために、ぜひしっかり内容を押さえてIPO準備に臨んでください。
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執筆
あいわ税理士法人<br>シニアパートナー/公認会計士/税理士<br>土屋 憲氏
あいわ税理士法人
シニアパートナー/公認会計士/税理士
土屋 憲氏
1999年より、監査法人業界にて上場会社の監査や株式上場支援業務に従事。金融機関への出向なども経験し、2015年にあいわ税理士法人に入所し現在に至る。株式上場に関連するセミナー講師多数。「株式上場マニュアル」(税務研究会)、「ケーススタディ・データ分析による資本政策の実務」(税務研究会)などを執筆。
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