現代型労務問題Q&Aセミナー「メンタルヘルス不調者への対応&パワハラとは何か?」

開催情報
2020年8月26日(水) 14:00~16:00/Web
セミナー概要
従業員のうつ病が労災に!?メンタルヘルス不調者への対応とパワハラの正しい理解を弁護士が解説。
昨今注目される労務問題の中でも、相談や紛争が多い内容に絞って企業側弁護士・片山氏がQ&A形式で解説する3部作セミナーの第2回目です。
本セミナーでは「メンタルヘルス不調者への対応」「パワハラの正確な理解」を中心に解説いただきました。
レポートでは、その中でも「精神障害の認定基準の積み重ねによる労災認定の可能性」と 「パワハラだと思っていないこともパワハラと認定される事例」、そして昨今注目の集まる「新型コロナと労災」について掘り下げて記載します。
その他、取り上げたテーマについてはこちらをご覧ください。

セミナー総括
1.組み合わせに要注意!心理的負荷による労災認定
精神障害が労災と認定されるかどうかについて、まずは以下の事例で考えてみましょう。

従業員Aさんは他部署へ配置転換になった後、新しい部署の仕事に慣れることができずミスを繰り返していました。
配転先の課長Xさんは従業員Aさんに対して、「そんなに無能でよく出社できるな?」等、従業員Aさんの人間性を否定する発言を繰り返すようになりました。
そして従業員Aさんは一ヵ月80時間を超える残業を行うようになり、むしろミスが増加していきました。
このような状況が続き、もう従業員Aさんを会社に置けないと判断した上層部は課長Xさんに従業員Aさんへの退職勧奨を命じました。
課長Xさんは従業員Aさんに丁寧な口調で退職を促しましたが、従業員Aさんは働き続けたいとこれを拒否しました。
しかし、その後も課長Xさんは退職を求め続けました。
その後、従業員Aはうつ病を発症し休職、自殺しました。

Q.従業員Aさんの自殺は労災と認められるでしょうか?

答えは「労災として認められる可能性が高い」です。
ここから考え方を解説していきます。

まず、従業員が発症したうつ病等の精神疾患が労災になるかどうか、つまり業務起因性があるかどうかの基準は「心理的負荷による精神障害の認定基準」で定められています。

労災の認定要件は以下の3点です。
  • ①対象疾病を発病していること。
  • ②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
  • ③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。
このうち重要なのが、②の「業務による強い心理的負荷」という部分です。
これは「業務による心理的負荷評価表」(厚生労働省)に照らし合わせた考え方となっていますので、 何が「強」(強い心理的負荷)と判断されるのか一度は見ておいてください。

上記を前提として、今回のケースを「業務による心理的負荷評価表」で見た場合、冒頭にあった従業員Aさんの配置転換は基本的に「中」にあたります。
(状況によっては「強」または「弱」になることもあります)



しかし、「中」と判断されるものも、いくつか組み合わさると「強」と判断されることがあります。
たとえば先ほどの事例の場合、1ヵ月に80時間以上の労働は「中」、上司から人格を否定されることも「中」~「強」となるなど、実は「中」がいくつか組み合わさっています。
さらに、退職勧奨・退職強要についての強度は、今回のように退職の意思がない相手に執拗に退職を求めた場合は「強」と判断されます。

組み合わさった「中」程度の心理的負荷、そして退職強要による「強」、これらが従業員Aさんに重なった結果うつ病を発症したとして、「労災として認められる可能性が高い」という結論になります。
2.新型コロナウイルス感染による労災認定・安全配慮義務違反
セミナーのテーマであるメンタルヘルス・パワハラから少し離れますが、労災関連で昨今注目が集まっているため、 「従業員が新型コロナウイルスに罹患した場合に労災となるかどうか」についても触れておきます。

こちらも実際の事例で考えてみます。

飲食店店員のEさんは店内での業務に従事していましたが、新型コロナウイルス感染者が来店していたことが確認されたことから、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定されました。
また、労働基準監督署における調査の結果、Eさん以外にも同時期に複数の同僚労働者の感染が確認され、クラスターが発生したと認められました。

Q.Eさんの新型コロナウイルスの感染は労災になるのでしょうか?

答えは「労災として認定される」です。
ポイントとなるのは「感染経路が職場であると特定されているかどうか」という点で、詳細は 「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」で考え方が示されているのでご覧ください。
感染経路が調査される新型コロナウイルスは業務起因性が認められやすく、季節性インフルエンザなどの風邪とは異なり労災になる可能性が高いため注意が必要です。

また、労働安全衛生法には、事業者が措置を講じなければならない健康障害として「病原体等による健康障害」が含まれています。 そのため、仮に職場内での感染・クラスターの発生防止措置を怠った状態で発症、死亡者が出た場合には、安全配慮義務違反になる可能性があります。
厚生労働省から 「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」も公表されていますので、 職場内での感染・クラスターの発生を防止する取り組みは必ず行っておきましょう。
3.パワハラ防止はパワハラを理解しようとするところから
2020年6月から大企業ではパワハラ防止措置義務化となり、2年後の中小企業での義務化も待ったなしの状況となりました。
「何がパワハラになるのか」を理解するために、こちらも事例で考えていきましょう。

従業員Aさんから見て、従業員AさんのアシスタントであるBは仕事の能力が低いと感じていました。
従業員Aさんはそのことで不満を周囲に漏らしていましたが、
アシスタントBさんは他の従業員とはトラブルもなく仕事ができていました。
ある時から、従業員Aさんは「能力の低いBと仕事すると顧客に迷惑がかかる」として、
アシスタントBさんに対して一切仕事を振らず、顧客とのメールのやり取りからも外すようになりました。

Q.従業員Aさんの行為はパワハラになるでしょうか?

答えは「パワハラになる」です。

パワハラの具体例は、 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(厚生労働省)で明確に挙げられていますが、今回のケースはその中の「過小な要求」に該当します。



また、上記は実際の事例をもとにしていますが、パワハラ加害者となったAさんには「パワハラをしている」という意識はありませんでした。 「顧客のためにも、仕事ができる人間が仕事をする」くらいの感覚だったと思われます。

パワハラは前章の「業務による心理的負荷評価表」でも「強」と見なされる可能性の高い事案です。
しかしながらこのように、現場で働いている従業員の方々の中には、「何がパワハラになるのか」の認知が欠けている方も多いのが実情です。

パワハラに関して、一番押さえてほしいのは「人格否定を行ってはいけない」という点です。
というのも、「死ねばいい」という発言がパワハラであることは認識されている方が多いのですが、 例えば「学ぶ気持ちはあるのか」「何で自分が怒られているのかすら分かっていない」など、比較的暴力性が抑えられた言葉に対しては「数回なら言っても問題ない」といった考えを持たれている方も多いのです。
これらの発言もすべて人格否定であり、発言すべきではありませんが、パワハラを形式だけで捉え理解しようとしなければ、そのことに気づくのは難しいでしょう。
パワハラを防止するには、まずパワハラを理解しようとすることが重要なのです。
4.労災認定の判断基準とパワハラを理解し会社を守る
メンタルヘルス不調は、最悪の場合人の命に関わる事態となり、さらに労災と認められた場合は、企業・経営陣へのリスクは非常に大きなものとなります。
昨今は「新型コロナウイルスの影響による業績悪化により、退職勧奨を実施したい」という相談が増えていますが、 上述の通り、勧奨した相手が精神障害を発症した場合、心理的負荷が組み合わさることにより労災認定される可能性が高まることになります
心理的負荷が「強」と判断されるケースを今のうちから確認しておくことが重要です。

また、パワハラに関しては、その定義だけではなくパワハラと認められる具体的な言動や行動を従業員に周知しておくことで、「パワハラになると思っていなかった」という事態を防ぐことができます。

自社の対策・対応に不安がある場合は、弁護士への相談も視野に入れ準備を進めていきましょう。

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IPO準備企業における労務管理
講師紹介
弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員/弁護士 片山 雅也氏
弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員/弁護士 片山 雅也氏
東京弁護士会所属。上場企業の社外取締役、厚生労働省・技術審査委員会での 委員や委員長を務める。
近著に、
「労働紛争解決のための民事訴訟法等の基礎知識」
「65歳全員雇用時代の実務Q&A」
「トラブル防止のための就業規則」(いずれも労働調査会)がある他、 労政時報、労働基準広報、先見労務管理、労務事情、月刊人事労務実務の Q&A及びLDノート等へ多数の論稿がある。
企業側労務問題、 企業法務一般及びM&A関連法務など企業側の紛争法務及び 予防法務に従事する。
高品質なリーガルサービス、弁護士法人ALG&Associates
※掲載している情報は記事更新時点のものです。
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