IPO実現までのスケジュール

POINT
・IPO準備期間は、少なくとも3年。監査難民にならないためにも早めのスタートを!
・IPOはゴールではなく、「企業成長を加速させるための期間」と捉えよう
 よくIPO準備に関する本には、IPO準備をスタートしてから少なくとも3年前後の期間がかかる、と記載されていますが、 なぜIPOを実現するためには、少なくとも3年前後の期間を必要とするのでしょうか? 本コラムでは、経営者がIPO実現までのスケジュールを考えるにあたって、最低限必要な期間や押さえるべきポイントなどについて話をしたいと思います。
よくIPO準備に関する本には、IPO準備をスタートしてから少なくとも2年半から3年の期間がかかる、と記載されていますが、なぜIPOを実現するためには、少なくとも2年半から3年の期間を必要とするのでしょうか?経営者がIPO実現までのスケジュールを考えるにあたって、最低限必要な期間や押さえるべきポイントなどについてお話しします。
2017年1月
更新:2021年1月21日

1.IPO実現までには少なくとも3年前後の準備期間が必要。特に最近は早いタイミングからの準備がポイントに

IPO実現のためのスケジュール

 IPOの準備期間を考えるにあたって、絶対に忘れてはならないのが、監査法人によるIPO直前2期間の会計監査です (上図A。IPO直前2期間のことを、通常「直前期」「直前々期」、IPOする期を「申請期」といいます)。 IPOの要件として上場審査基準上求められており、遡及監査(過去に遡って監査を行うこと)が原則として認められていませんので、会計監査の期間や上場審査の期間を考えると、最低3年前後の期間は必要になってきます。 特に最近では、大手監査法人を中心に監査契約を受嘱してくれない、いわゆる「IPO監査難民」の影響もあり、 監査を受嘱してもらうためにも早いタイミングから準備をすることがポイントになっています。

 また、上場審査や主幹事証券の審査では、上場会社としてふさわしい管理体制が構築され、その体制が1年間運用されていることを確認するため(上図B)、 少なくともIPO直前1年間は運用期間として必要であり、その管理体制の構築期間を考えると、やはり最低でも3年前後の準備期間は必要となってきます。

 では、IPOを思い立ったら、最初に何から手をつけるのがいいでしょうか?一般的には、まず監査法人によるショート・レビュー(上図C)を受けることからその準備が始まります。 ショート・レビューでは、IPOに向けた課題の洗い出しを短期間で行うため、会社の現状がわかるとともに、IPOまでに何をしなければならないのか、そのロードマップが見えてきます。 また、通常はショート・レビューで明らかになった課題に対して、その属性ごとにプロジェクトチームを横断的に立ち上げ、解決案やスケジュールを検討することになるので、効率的に準備を行うためには、IPO準備のスタート時点で受けることが望ましいです。

ただし、前述のとおり「IPO監査難民」の影響もあり、最近では管理体制がずさんな場合には、監査を受嘱してもらえないケースなどもあることから、 内部管理体制、特に会計まわりに関する部分については、監査法人に敬遠されないよう早めに準備をすることをお勧めします。

2.3年前後、準備をすればIPOできるのか?

 前項では、IPO実現のためには、少なくとも3年前後の準備期間が必要、と話をしてきましたが、その期間しっかりと準備さえすればIPOは実現するのでしょうか?答えはノーです。 一般投資家に皆さんの会社の株を買ってもらうためには、魅力的な会社だと感じてもらう必要があり、一定の企業価値(時価総額)と、そのベースとなる業績がなければなりません。 詳細はまた別の機会にでも話をしたいと思いますが、IPOを実現するためには、一般的に時価総額が20億~30億となるような業績が必要であり、 その業績は、『時価総額=申請期の税引後利益×PER(株価収益率)×IPOディスカウント(70%~80%)』という算式から求めることができます。 PERは業種やビジネスモデルによって異なりますが、今時点のマーケット平均が約15倍ですので、平均値で計算すれば、申請期の税引後利益が2億になれば、 IPOの実現性が高まる、ということになります。

 つまり、IPOを実現するためには、少なくとも時価総額が20億~30億となるような業績がいつ達成できるのか、といった観点から逆算して考える必要もある、ということなのです。

3.IPO実現までのスケジュールにおいて、経営者として押さえるべきポイントは?

 IPO実現までには、少なくとも3年という決して短くない準備期間が必要となりますが、経営者個人としては、いち早く資本政策を押えることが、非常に重要であると考えます(上図D)。 先ほど私は、IPO準備はショート・レビューからスタートする、と話をしましたが、これは会社としての準備の話しになります。 経営者個人として最も大事なのは、資本政策(株主構成や資金調達、創業者利潤など)をいかに考えるか、なのです。

 資本政策は、一度決めてしまうと後戻りできません。 適切な時期に適切な資本政策を組まないと、経営者個人に多額の税金がかかることや、経営権が不安定になることもあります。 そのため、経営者がIPOを思い立ったら、いち早く資本政策をどうするか、をまず考えることこそが、IPOを成功させる大切な一歩となります。(資本政策については、関連コラムをご覧ください!)

また、IPOのトレンドは常に変化している、という点も押えてほしいポイントです。 私はIPO関係の仕事をはじめてかれこれ20年たちますが、その間、IPOのトレンドが振り子のように大きく変化を繰り返しているのを実感しています。 現在の審査のポイントは、数年前ではそこまで言われていなかった経営者周りの話しや予実管理の話しに大きく焦点があたり、監査法人や証券会社の対応も、数年前とは大きく変わってきています。 そのため、IPO準備をスタートした時点では当たり前だった話が、IPO直前では通用しなくなっている可能性もあります。 だからこそ、これまでの常識や情報のみで準備を進めるのではなく、そのトレンドが常に変化していることを念頭において準備を進めることが重要になります。

そして、IPOを考える上で間違ってはいけないのは、IPOありき(IPOゴール)にならないこと、IPOありきのスケジュールにならないこと、です。 IPOはあくまで企業成長のためのツールのひとつであり、通過点の一つにすぎません。企業成長のためには何が必要なのか、 上場会社としてその成長を加速させるためには何が必要なのか、を常に考え、軸足をおいて準備を進めることが肝要です。

 IPO準備の項目(上場審査の項目)には、IPOするためにはクリアしなければならない項目もありますが、その多くは、IPOする、しないにかかわらず、企業成長のためには必要な項目ばかりです。 IPO実現までのスケジュールを、単なるIPO準備の期間、と考えるのではなく、IPOを実現し、企業成長を加速させるための期間、ととらえられれば、その準備期間や準備の内容も意味あるものとなり、成功への道へとつながるのではないでしょうか。
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執筆
あいわ税理士法人 パートナー/公認会計士/税理士 土屋 憲氏
あいわ税理士法人 パートナー/公認会計士/税理士 土屋 憲氏
1999年より、監査法人業界にて上場会社の監査や株式上場支援業務に従事。金融機関への出向なども経験し、2015年にあいわ税理士法人に入所し現在に至る。株式上場に関連するセミナー講師多数。「株式上場マニュアル」(税務研究会)、「ケーススタディ・データ分析による資本政策の実務」(税務研究会)などを執筆。
あいわ税理士法人 ホームページ
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