上場準備のスケジュール~上場実現に向けて直前々期以前から申請期までの全体像と優先対応事項を把握~

POINT
・IPO準備期間は、少なくとも3年。監査難民にならないためにも早めのスタートを!
・IPOはゴールではなく、「企業成長を加速させるための期間」と捉えよう
上場(IPO)実現には3年前後の準備期間がかかる。上場直前2期間の会計監査が必須であること、監査難民問題を回避するため早めの準備が必要だからだ。上場準備はまず何から始めるのか?監査法人のショート・レビュー実施時期、主幹事証券会社との契約時期はいつか?上場準備をスムーズに進めるポイントと経営者のあるべき心構えを解説する。
2017年1月
更新:2021年7月5日

1.はじめに

よく上場準備に関する本には、上場準備をスタートしてから少なくとも3年前後の期間がかかる、と記載されています。なぜ上場を実現するためには、少なくとも3年前後の期間を必要とするのでしょうか?本コラムでは、経営者が上場実現までのスケジュールを考えるにあたって、最低限必要な期間や押さえるべきポイントなどについて話をしたいと思います。

2.上場実現までには少なくとも3年前後の準備期間が必要。特に最近は早いタイミングからの準備がポイントに

上場の準備期間を考えるにあたって、念頭におかなければならないことは監査法人による上場直前2期間の会計監査です(下図A)。上場の要件として上場審査基準上求められており、遡及監査(過去に遡って監査を行うこと)が原則として認められていませんので、会計監査の期間や上場審査の期間を考えると、最低3年前後の期間は必要になってきます。
特に最近では、大手監査法人を中心に監査契約を受嘱してくれない、いわゆる「IPO監査難民」の影響もあり、監査を受嘱してもらうためにも早いタイミングから準備をすることがポイントになっています。

また、取引所審査や主幹事証券会社の審査では上場会社としてふさわしい管理体制が構築され、その体制が1年間運用されていることを確認するため(下図B)、少なくとも上場直前1年間は運用期間として必要であり、その管理体制の構築期間を考えると、やはり最低でも3年前後の準備期間は必要となってきます。

IPO実現のためのスケジュール
▲IPO実現のためのスケジュール

3.上場準備のスケジュールと期間別対応事項

それでは、上場準備のスケジュールを細かく見ていきましょう。

上場直前2期間のことを、通常「直前期」「直前々期」、上場する期を「申請期」と呼びます。
前述の通り、昨今では早いタイミングで準備を進めておくことが重要であるため、「直前々期期首以前」に監査法人等の外部関係者を選定し、社内でのプロジェクト・チームを設置するなど、直前々期から上場準備をスタートできる体制を整えるのが望ましいです。
直前々期は、原則として社内管理体制を構築する時期となります。また、直前々期から会計監査の対象期間となります(直前々期の期首残高から監査対象に)。
直前期は、直前々期に構築した管理体制を運用する時期となります。また、申請書類の作成や証券審査(または中間審査)が始まるなど、いよいよ上場準備が佳境に入ります。
そして申請期では、主幹事証券会社の最終審査や取引所審査を経て上場となります。
上場準備期間別・対応事項

■直前々期 期首以前
・資本政策策定・・・なるべく早くに検討を
・監査法人の選定・・・IPO監査難民にならないために早くから接点を
・ショート・レビューの実施及び報告書の検討
・プロジェクト・チーム設置及び上場までのタイムスケジュール立案
・主幹事証券会社選定・・・直前前々期から直前々期にかけて。一般的には監査法人が決まってから

■直前々期
・経営管理体制の整備
1.利益管理制度の整備・・・事業計画書作成、予算実績管理など
2.業務管理制度の整備・・・販売管理や購買管理などの業務管理体制の構築
3.組織運営体制の整備・・・機関設計や組織体制、内部監査、稟議制度、規程整備など
4.関係会社の整備・・・不要な関係会社は整理を
5.特別利害関係者等取引解消・・・会社と特別利害関係者等(役員など)との取引は原則解消
6.会計制度の整備・・・なるべく早くに対応を
7.J-SOXへの対応

・会計監査のスタート
・主幹事証券会社、監査法人、上場準備会社の定期ミーティング実施

■直前期
・経営管理体制の運用・・・直前々期に構築した経営管理体制の運用フェーズ
・申請書類作成
・主幹事証券会社の引受審査部による審査(中間審査がある場合)

■申請期
・主幹事証券会社の引受審査部による審査
・取引所審査

4.上場を思い立ったらまずすべきこと、監査法人による“ショート・レビュー”

では、上場を思い立ったら、最初に何から手をつけるのがいいでしょうか?
一般的には、まず監査法人によるショート・レビュー(上図C)を受けることからその準備が始まります。ショート・レビューでは、上場に向けた課題の洗い出しを短期間で行うため、会社の現状がわかるとともに、上場までに何をしなければならないのか、そのロードマップが見えてきます。また、通常はショート・レビューで明らかになった課題に対して、その属性ごとにプロジェクト・チームを横断的に立ち上げ、解決案やスケジュールを検討することになるので、効率的に準備を行うためには、上場準備のスタート時点で受けることが望ましいです。

ただし、前述のとおり「IPO監査難民」の影響もあり、最近では管理体制がずさんな場合には、監査を受嘱してもらえないケースなどもあることから、内部管理体制、特に会計まわりに関する部分については、監査法人に敬遠されないよう早めに準備をすることをお勧めします。


5.経営者として早めに押さえるべきは“資本政策”

上場実現までには少なくとも3年という決して短くない準備期間が必要となりますが、経営者個人としてはいち早く資本政策を押さえることが非常に重要です(上図D)。前述のとおり上場準備はショート・レビューからスタートしますが、これは会社としての準備の話しです。経営者個人として最も大事なことは、資本政策(株主構成や資金調達、創業者利潤など)をいかに考えるか、なのです。

資本政策は、一度決めてしまうと後戻りできません。
適切な時期に適切な資本政策を組まないと、経営者個人に多額の税金がかかることや、経営権が不安定になることもあります。そのため、経営者が上場を思い立ったら、いち早く資本政策をどうするか、をまず考えることこそが、上場を成功させる大切な一歩です。

6.いつ上場を実現できるかは、3年前後の準備期間だけではなく業績という要素も重要である

上場実現のためには、少なくとも3年前後の準備期間が必要ではありますが、ではその期間にしっかりと準備さえすれば上場は実現するのでしょうか?

答えはノーです。
一般投資家に皆さんの会社の株を買ってもらうためには、魅力的な会社だと感じてもらう必要があり、一定の企業価値(時価総額)と、そのベースとなる業績がなければなりません。
上場を実現するためには、一般的に少なくとも時価総額が20億~30億となるような業績が必要であり、その業績は『時価総額=申請期の税引後利益×PER(株価収益率)×IPOディスカウント(70%~80%)』という算式から求めることができます。PERは業種やビジネスモデルによって異なりますが、今時点のマーケット平均が約15倍ですので、平均値で計算すれば申請期の税引後利益が2億になれば上場の実現性が高まる、ということになります。

上場時に必要な業績の計算式
▲上場時に必要な業績の計算式

つまり、上場を実現するためには、少なくとも時価総額が20億~30億となるような業績がいつ達成できるのか、といった観点から逆算して考える必要もある、ということなのです。

7.上場準備のスケジュールにおいて経営者が押さえるべきポイント

-資本政策
前述のとおり、上場を思い立ったら経営者個人としてはいち早く資本政策をどうするかを考えることが重要です。

-上場トレンドの変化
私は上場関係の仕事をはじめてかれこれ20年たちますが、その間上場のトレンドが振り子のように大きく変化を繰り返しているのを実感しています。現在の審査のポイントは、数年前ではそこまで言われていなかった経営者周りの話しや予実管理の話しに大きく焦点があたり、監査法人や証券会社の対応も、数年前とは大きく変わってきています。そのため、上場準備をスタートした時点では当たり前だった話が、上場直前では通用しなくなっている可能性もあります。だからこそ、これまでの常識や情報のみで準備を進めるのではなく、そのトレンドが常に変化していることを念頭において準備を進めることが重要になります。

-上場ありき(ゴール)にならないこと
上場を考える上で間違ってはいけないのは、上場ありき(上場ゴール)にならないこと、上場ありきのスケジュールにならないことです。上場はあくまで企業成長のためのツールのひとつであり、通過点の一つにすぎません。企業成長のためには何が必要なのか、上場会社としてその成長を加速させるためには何が必要なのかを常に考え、軸足をおいて準備を進めることが肝要です。

8.上場準備期間は企業成長を加速させるための期間

上場準備の項目(上場審査の項目)には、上場するためにはクリアしなければならない項目もありますが、その多くは上場する・しないにかかわらず、企業成長のためには必要な項目ばかりです。 上場実現までのスケジュールを、単なる上場準備の期間、と考えるのではなく、上場を実現し企業成長を加速させるための期間、ととらえられれば、その準備期間や準備の内容も意味のあるものとなり、成功への道へとつながるのではないでしょうか。
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執筆
あいわ税理士法人 パートナー/公認会計士/税理士 土屋 憲氏
あいわ税理士法人 パートナー/公認会計士/税理士 土屋 憲氏
1999年より、監査法人業界にて上場会社の監査や株式上場支援業務に従事。金融機関への出向なども経験し、2015年にあいわ税理士法人に入所し現在に至る。株式上場に関連するセミナー講師多数。「株式上場マニュアル」(税務研究会)、「ケーススタディ・データ分析による資本政策の実務」(税務研究会)などを執筆。
あいわ税理士法人 ホームページ
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