資本政策とは?上場(IPO)における目的と立案の流れ

POINT
・資本政策は「資金調達」「持株比率」「キャピタルゲイン」のバランスが重要!
・資本政策はとりあえずの「積上げ型」ではなく「逆算型」で!
・まずはIPOイメージを持つことからスタート!
資本政策とは事業計画を達成するための資金調達及び株主構成計画をいいます。そして資本政策のキモは「資金調達」「持株比率」「キャピタルゲイン」のバランスです。上場(IPO)準備企業が押さえておくべき資本政策の基本と、失敗しない資本政策のポイントを、あいわ税理士法人・杉山氏が解説!
2017年1月
更新:2021年10月8日

1.資本政策とは?

資本政策とは事業計画を達成するための資金調達及び株主構成計画をいいます。
具体的には、以下が資本政策の重要な3要素になります。

資金調達
 誰から、どれ位の金額を、いくらの株価で資金調達するのか?
持株比率
 オーナー(もしくは経営陣)の持株比率をどの程度確保しておくのか?
キャピタルゲイン
 オーナー個人のキャピタルゲインをどの程度見込むのか?

資本政策3つの要素
▲資本政策3つの要素

持株比率…会社の発行済株式総数のうち、株主がどのくらいの株式を保有しているかを示す割合。
キャピタルゲイン…株式や債券など、保有している資産の売却によって得られる売買差益。


この3つの要素を将来にわたってどのようにバランスさせるのかが資本政策のキモです。 資金調達を重視するのであれば持株比率・キャピタルゲインをある程度抑える必要がありますし、 オーナーが過半数の持株比率を確保したいのであれば、資金調達やキャピタルゲインを抑える必要があるわけです。

上場準備企業では、上記3つの要素に加えて「役員・社員へストックオプションをどの程度与えるか?」 「事業承継を見据えた節税対策をどうするか」という点も考慮に入れる必要がありますので、より複雑になってきます。

2.資本政策の立案の流れ

資本政策立案のイメージ
▲資本政策立案のイメージ(2021/8/20開催セミナー資料より抜粋)

資本政策は大きく次の3ステップで立案します。

① 前提条件の立案
資本政策は事業計画とセットで作ります。まずは大雑把でもいいので、上場までの事業計画(利益計画)を立てましょう。 具体的には、上場までの会社の成長イメージ、必要な事業資金、上場時の時価総額・公開価格のイメージを作ります。 それに合わせて、いつ上場するのか、どの市場で上場するのか検討します。

②内部の資本政策の立案
上場後のオーナー家の持株比率をどの程度維持するのか検討します。株主総会では株主が所有する株式数に応じて議決権が与えられますので、 事前にオーナー家の持株比率の計画を立てておくことが上場後の経営権の安定に繋がります。 また、親族への贈与や資産管理会社等による相続対策もこのタイミングで検討します。資産管理会社については関連コラムで解説していますのでご覧ください。


③外部の資本政策の立案
役員・社員など、オーナー家以外の関係者に関わる資本政策を検討します。具体的な方法は後述します。 その後、上場に向けて必要となる発行済株式数を設定し、株式の公募・売出を実施します。

3.資本政策の具体的な方法

上記「③外部の資本政策の立案」に挙げた資本政策のおもな手段としては下記があります。

・ストックオプション
社員に対して、あらかじめ定められた「価格」、「数」、「期間内」に株式を購入できる権利を付与する方法です。ストックオプションをもらった社員は、会社が上場した後にストックオプションを権利行使して株式を取得し、その株式を市場等で売却することによって利益を得られます。

・従業員持株会
従業員が容易に自社株式を取得できるようにする方法です。持株会に加入している従業員の給与・賞与から自社株の取得用に少額を天引きし、その資金をもとに持株会が自社株を購入する仕組みとなっています。

・第三者割当増資
特定の第三者に対して、新株を引き受ける権利を付与し増資する方法です。一般的には、自社の役員・金融機関・取引先など、自社と関わりのある人・企業に付与します。

その他にも「種類株式の発行」や「株主割当増資」など様々な手段があります。どのような手段を採用するかは、目的に応じて自社内で検討いただくか専門家へご相談ください。 ストックオプションについては関連コラムで詳しくご説明していますのでご覧ください。

4.失敗する資本政策の特徴

資本政策が思い通りに進まないケースでよくあるのが、必要に迫られた結果「とりあえず」で資本政策を実行してしまった、というものです。

(例)
・「とりあえず時価総額1億円の20%で2,000万円調達します!」
・「優秀な人材を採用するために、とりあえずストックオプションを5%発行します!」

「とりあえず」で実行すると、専門家への相談も事後報告となり、かなりの確率でその資本政策は失敗します。

5.資本政策は上場をイメージするところから始まる

失敗しない資本政策を立案するには、まず上場時の資金調達額やキャピタルゲイン、株主構成のイメージを持ったうえで、 そのイメージに向かって「逆算型」で資本政策を立案することが重要です。
「今の持株比率20%が上場するといくらになるのか?」「今5%ストックオプションを発行すると上場までに他の社員には何%のストックオプションを発行できるのか?」など、 上場時の株主構成や時価総額をイメージしながら事前に検討すべきことはたくさんあります。
資本政策の立案はこの上場イメージを持つことからはじまります。

5-1.「上場イメージ」の作り方

それでは、資本政策立案の基礎となる上場イメージの作り方を見ていきましょう。
上場時の時価総額はざっくりと下記の算式で計算されます。
上場時の時価総額=上場申請事業年度の純利益×PER(株価収益率)
PERはその会社の成長期待度を表すもので、将来に向けてより成長可能性が高いと考えられる会社のPERは高くなります。 上場イメージの段階ではザックリとで構いませんので上場している同業種・類似企業のPERを参考にするなどして決めましょう。

▼上場スケジュールは時価総額から逆算して考える!あいわ税理士法人執筆コラム

仮にある会社の上場申請年度の純利益(経常利益ではなく税金支払い後の利益です!)が3億円、PERが20倍だとすると、 その会社の時価総額は3億円×20倍=60億円となり、この時価総額60億円を発行済株式数で割った金額が上場時の一株当たりの株価(公開価格)となるわけです。

この公開価格に上場時に新たに発行する株式数(公募株数)を掛ければ「資金調達額」が、 上場時にオーナーなどの株主が売却する株式数(売出株数)を掛ければ「キャピタルゲイン」の想定金額が計算されます (実際には、別途、手数料や税金が控除されます)。またこれらを実行した後の株主構成からオーナー(経営陣)の持株比率のイメージも浮かび上がってきます。

より多く資金調達をするために公募株数を増やしたり、オーナーの持株比率を維持するために売出株数を抑えたり、 先ほどの天秤の図にある3つの要素の何を重視するかによって、上場イメージは大きく変わってきます。

6.資本政策で押さえておくべきルール

上場イメージを作るにあたっては、最低限いくつかの基本的なルールを理解しておく必要があります。ここでは経営者が最低限押さえておきたい資本政策のルールをご紹介します。

・会社の経営権
会社法上、持株比率(これを会社法では「議決権割合」と言います)によって、株主総会で決定権を持てる議案の範囲が決まります。 下記の表を参考にどの程度の持株比率を確保するのかをイメージしましょう。 現時点でオーナーの持株比率がある程度高い場合には、上場時にオーナーが過半数の持株比率を確保するような資本政策を組むケースが多くなるでしょう。

株主総会の決議の種類
▲株主総会の決議の種類(2021/8/20開催セミナー資料より抜粋)

・上場審査基準
上場するにあたっては資本政策に関して下記に掲げる上場審査基準をすべて満たす必要があります。 ただし、上場イメージの段階では「流通株式比率25%以上」だけ意識していれば十分です。 この基準は、簡単に言うと、役員(家族や役員の個人会社を含みます)と10%以上の大株主以外の株主が保有する株式数が 発行済株式総数の25%以上となるように公募・売出株数を決める必要があるということです。

マザーズ(グロース市場)の上場審査基準
▲マザーズ(グロース市場)の上場審査基準(2021/8/20開催セミナー資料より抜粋)

今回のポイントは、
①資本政策は「資金調達」「持株比率」「キャピタルゲイン」のバランスが重要!
②資本政策はとりあえずの「積上げ型」ではなく「逆算型」で!
③資本政策はまずは上場イメージを持つことからスタート!

でした。

次回は、上場準備企業の多くが導入するストックオプションについて、失敗しやすい実務上のポイントやより効果的な使い方を中心に解説します。


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執筆
あいわ税理士法人 代表社員/税理士 杉山 康弘氏
あいわ税理士法人 代表社員/税理士 杉山 康弘氏
IPO準備クライアント約150社、上場企業クライアント約300社(グループ会社含む)。起業家からの資本政策相談件数は毎年100件超。毎年クライアントの10社前後がIPOを果たす。近年、M&Aの相談件数も増加。IPO準備企業への資本政策立案コンサルティングや各種上場準備支援業務のほか、オーナー企業への相続・事業承継コンサルティングやM&Aなどの実務にも精通。
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