ストックオプションとは?仕組みとメリット、活用時の注意点
POINT
・ストックオプションは株価が安いうちに発行する
・税制適格ストックオプションの発行は必ず経験豊富な専門家に相談する
・ストックオプションの発行計画は必ず「逆算型」
・税制適格ストックオプションの発行は必ず経験豊富な専門家に相談する
・ストックオプションの発行計画は必ず「逆算型」

2017年1月
更新:2021年10月28日
更新:2021年10月28日
目次
1.ストックオプションとは?
ストックオプションとは、あらかじめ定められた「価格」、「数」、「期間内」に株式を購入することができる権利です。
ストックオプションをもらった社員は、会社が上場した後にストックオプションを権利行使して株式を取得し、その株式を市場等で売却することによって利益を得られます。
ストックオプションは売却時の株価が権利行使価額よりも高ければ高いほど利益になるため、将来的に株価が大きく上がる可能性のある企業、つまりIPOを目指している企業に向いています。
特に、資金力がなく高額な給料を払えないベンチャー企業にとって、ストックオプションは優秀な人材を確保するためのインセンティブとなります。
▼資本政策の基礎がわかる!シリーズ1回目のコラムはこちら
ストックオプションをもらった社員は、会社が上場した後にストックオプションを権利行使して株式を取得し、その株式を市場等で売却することによって利益を得られます。
ストックオプションは売却時の株価が権利行使価額よりも高ければ高いほど利益になるため、将来的に株価が大きく上がる可能性のある企業、つまりIPOを目指している企業に向いています。
特に、資金力がなく高額な給料を払えないベンチャー企業にとって、ストックオプションは優秀な人材を確保するためのインセンティブとなります。
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資本政策とは?上場(IPO)における目的と立案の流れ
資本政策とは事業計画を達成するための資金調達及び株主構成計画をいいます。そして資本政策のキモは「資金調達」「持株比率」「キャピタルゲイン」のバランスです。上場(IPO)準備企業が押さえておくべき資本政策の基本と、失敗しない資本政策のポイントを、あいわ税理士法人・杉山氏が解説!
2.ストックオプションの仕組み

▲ストックオプションの仕組み
ストックオプションの発行にあたっては、まず「権利行使価額」を設定します。
この権利行使価額は、一般的にはストックオプション発行時点における、発行元企業の株価と同額に設定されます。権利行使価額が100円とは、将来、企業が上場した後に市場でいくらの株価が付いていようと、100円支払うことによってその企業の株式1株を購入できることを意味します。
上図のように株価が190円の時点で権利行使すると、本来は市場で190円支払って購入すべき株式を100円という割安価格で購入できるということです。 その後、仮に株価が200円になった時点で売却したとすると差引100円が利益になるという仕組みです。
3.ストックオプションのメリット
・企業側のメリット
人件費を節減しつつ社員へインセンティブを与えられるという点が、企業側のメリットとして挙げられます。
ストックオプションは、発行する企業からすると「株で払うお給料」みたいなものです。
高い人件費は払えない、という上場準備企業が多い中、損益計算書の人件費に計上しなくて良いストックオプションは、人件費を節減しつつも社員へインセンティブを与えることができ、モチベーション向上に繋げられます。
・社員側のメリット
ストックオプションで得られた利益に対する税負担の割合が、給与所得の税負担と比べて軽いことが社員側のメリットとして挙げられます。
給料をお金で受け取った場合、日本では累進税率で最高55%の税金がかかります。しかし、株式でもらうストックオプションの場合には、 権利行使後の売却でどれだけ利益が出ても、20.315%の税負担で済むのです。お金でもらうと最高「55%」、株式でもらうと「20%」ですから、その差は歴然です。
ただし、20.315%の税負担で済むのは後述の「税制適格ストックオプション」の要件を満たしている場合に限るため、注意が必要です。
4.税制適格ストックオプションとは?活用時のメリットと注意点
ストックオプションは利益に対して、20.315%の税負担で済むというメリットがあります。
しかし、無条件に20%の軽減税率が適用されるわけではありません。
軽減税率は税務上の一定要件を満たす「税制適格ストックオプション」の場合に限って適用されます。
ストックオプション発行にあたっては、この税制適格ストックオプションの要件を満たすかどうかの検討が最も重要になってきます。
▲税制適格ストックオプションの要件
上図1.~7.の要件を満たせば「税制適格ストックオプション」として軽減税率の適用対象となります。
しかし、残念ながら「税制適格だと思っていたら、じつは税制非適格だった」という事例が後を絶ちません。 感覚的には、10社に3社くらいの割合で税制非適格ストックオプションであることが判明するケースがあり、上場直前になって資本政策を見直さざるを得なくなることも少なくありません。
ここでは詳細な説明は割愛しますが、失敗するパターンはある程度決まっていますので、ストックオプションの発行前は必ず経験豊富な税理士に相談しましょう。
しかし、無条件に20%の軽減税率が適用されるわけではありません。
軽減税率は税務上の一定要件を満たす「税制適格ストックオプション」の場合に限って適用されます。
ストックオプション発行にあたっては、この税制適格ストックオプションの要件を満たすかどうかの検討が最も重要になってきます。
税制適格ストックオプション | |
---|---|
1.付与対象者 | ① 自社の取締役または使用人 |
② 50%(議決権のあるものに限る)超の株式または出資を直接または間接に保有する関係会社の取締役または使用人 | |
③ ①および②の相続人 | |
ただし、上記①、②、③のうち、大口株主および大口株主の特別関係者を除く
・大口株主 当該付与決議のあった日において、上場会社などについては発行済株式総数の10分の1、未公開会社については3分の1を超える数の株式を有している個人をいいます ・大口株主の特別関係者 ※大口株主の親族(配偶者、6親等内の血族および3親等内の姻族)、大口株主と事実上婚姻関係と同様の事情にある者、大口株主の直系血族と事実上婚姻関係と同様の事情がある者、大口株主から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者およびその直系血族、大口株主の直系血族から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者をいいます。 |
|
2.権利行使価額 | 1株当たり権利行使価額が契約締結時の1株当たり価額(時価)以上であること |
3.新株予約権の発行価額 | 無償 |
4.権利行使期間 | 付与決議の日から2年経過後10年以内 |
5.年間権利行使限度額 | 年間1,200万円以下 |
6.譲渡制限 | 譲渡禁止 |
7.その他の税制適格要件 | ① 新株予約権の行使が会社法に反しない付与決議のもとで行われるもの |
② 権利行使により取得した株式は、一定の方法によって株式の取得後直ちに付与会社を通じて証券会社などに保管の委託などがなされること | |
③ 権利者が新株予約権の付与決議日において大口株主およびその特別利害関係者に該当しないことを誓約し、かつ、新株予約権行使日の属する年における新株予約権行使の有無について記載した書面を会社に提出すること |
上図1.~7.の要件を満たせば「税制適格ストックオプション」として軽減税率の適用対象となります。
しかし、残念ながら「税制適格だと思っていたら、じつは税制非適格だった」という事例が後を絶ちません。 感覚的には、10社に3社くらいの割合で税制非適格ストックオプションであることが判明するケースがあり、上場直前になって資本政策を見直さざるを得なくなることも少なくありません。
ここでは詳細な説明は割愛しますが、失敗するパターンはある程度決まっていますので、ストックオプションの発行前は必ず経験豊富な税理士に相談しましょう。

5.ストックオプション活用時の注意点
ストックオプションを活用するにあたって、いくつかの注意点があります。
5-1.発行は株価が安いうちに
まず注意したいのは、上記「2.ストックオプションの仕組み」で記載したとおり、ストックオプションの権利行使価額は「ストックオプション発行時点におけるその企業の株価をベースに設定」される、ということです。
株価が安いうちにストックオプションを発行しておくことで、より多くのメリットを得られるわけですから、株価が上がる前の早いタイミングでのストックオプション発行が成功の鍵になります。
資金調達のために外部に増資を行うような場合には、増資株価が増資前の何倍、何十倍もの株価になるケースが多々あります。 近々増資を予定している場合には、増資前にストックオプションを発行することにより権利行使価額の上昇を回避することでストックオプションのメリットを最大化できる可能性があるのです。
資金調達のために外部に増資を行うような場合には、増資株価が増資前の何倍、何十倍もの株価になるケースが多々あります。 近々増資を予定している場合には、増資前にストックオプションを発行することにより権利行使価額の上昇を回避することでストックオプションのメリットを最大化できる可能性があるのです。
5-2.発行数には上限がある
ストックオプションは無制限に発行できるというものではありません。一般的には、IPO直前で発行済株式数の10%~15%程度が上限になります。
したがって、誰に、どのタイミングで、どの程度のストックオプションを発行するかをIPOイメージから逆算して検討します。
ストックオプション制度は社員(とくに幹部社員)へのインセンティブプランの中核を成すものです。一度に多くのストックオプションを発行することは、その後の選択の幅を狭めることになりますのでお勧めできません。
したがって、誰に、どのタイミングで、どの程度のストックオプションを発行するかをIPOイメージから逆算して検討します。
ストックオプション制度は社員(とくに幹部社員)へのインセンティブプランの中核を成すものです。一度に多くのストックオプションを発行することは、その後の選択の幅を狭めることになりますのでお勧めできません。
5-3.なるべく1回で発行しきる
前提として、ストックオプションの発行を行う際は、最初に株主総会を開き、新株予約権の総数や権利行使価額を決定します。この決議から1年間、決定した条件でストックオプションを発行できます。
しかし、1年間はその条件で発行できるからといって、理由なく複数回に分けて発行することはおすすめしません。なぜなら、税法上はストックオプションの発行の都度、税制適格ストックオプションが適用されるかどうかの判断を行っているからです。
▲期中に資金調達があった場合のストックオプション発行への影響(2021/8/20開催セミナー資料より抜粋)
例えば上図の例では、権利行使価額100円で決議されたストックオプションを3回に分けて発行していますが、2回目以降の発行は増資によって株価が150円に上がった後に行われています。
発行時点の株価よりも権利行使価額の方が安いということは、税制適格ストックオプションの適用要件「1株あたり権利行使価額が契約締結時の1株当たり価値(時価)以上であること」に反するため、税制非適格ストックオプションと判断されてしまいます。
繰り返しとなりますが、税制適格ストックオプションが適用されるかどうかは発行の都度判断されるため、権利行使価額がストックオプション発行時点の株価以上となっているかどうかを都度チェックされるのです。
そのため、株主総会決議後は株価が変わらないうちに1回で発行しきってしまうのが良いでしょう。
しかし、1年間はその条件で発行できるからといって、理由なく複数回に分けて発行することはおすすめしません。なぜなら、税法上はストックオプションの発行の都度、税制適格ストックオプションが適用されるかどうかの判断を行っているからです。

▲期中に資金調達があった場合のストックオプション発行への影響(2021/8/20開催セミナー資料より抜粋)
例えば上図の例では、権利行使価額100円で決議されたストックオプションを3回に分けて発行していますが、2回目以降の発行は増資によって株価が150円に上がった後に行われています。
発行時点の株価よりも権利行使価額の方が安いということは、税制適格ストックオプションの適用要件「1株あたり権利行使価額が契約締結時の1株当たり価値(時価)以上であること」に反するため、税制非適格ストックオプションと判断されてしまいます。
繰り返しとなりますが、税制適格ストックオプションが適用されるかどうかは発行の都度判断されるため、権利行使価額がストックオプション発行時点の株価以上となっているかどうかを都度チェックされるのです。
そのため、株主総会決議後は株価が変わらないうちに1回で発行しきってしまうのが良いでしょう。


6.権利行使後の人材の離脱を防ぐには
ストックオプションは、特に条件がなければ発行から2年経過後、10年以内に権利行使してもらえれば問題ありませんが、「権利行使しお金を手にすると辞めてしまう社員がいるのでは」という懸念を抱く経営者の方も少なくありません。
そこで、近年ではストックオプションの権利行使の条件として「ベスティング条項」を設ける企業が増えています。
たとえば、ある社員に100株のストックオプションを付与する場合に、企業が上場したらまずは「100株中50株のみ権利行使できる」とし、さらにそこから1年勤続時点で「残りの50株中25株を権利行使できる」とし、 さらにそこから1年勤続時点で「残りの25株すべてを権利行使できる」というように上場してから2年経ってすべてのストックオプションの権利行使ができるような段階的な行使条件を付すというものです。
このようなべスティング条項を付けることで、イメージとしてはマザーズ上場から一部上場まで、企業の成長とともに段階的にストックオプションの権利行使をしてもらうことができます。
そこで、近年ではストックオプションの権利行使の条件として「ベスティング条項」を設ける企業が増えています。
たとえば、ある社員に100株のストックオプションを付与する場合に、企業が上場したらまずは「100株中50株のみ権利行使できる」とし、さらにそこから1年勤続時点で「残りの50株中25株を権利行使できる」とし、 さらにそこから1年勤続時点で「残りの25株すべてを権利行使できる」というように上場してから2年経ってすべてのストックオプションの権利行使ができるような段階的な行使条件を付すというものです。
このようなべスティング条項を付けることで、イメージとしてはマザーズ上場から一部上場まで、企業の成長とともに段階的にストックオプションの権利行使をしてもらうことができます。
7.ストックオプションと従業員持株会はどちらが良い?
ストックオプション制度と並ぶ代表的なインセンティブプランとして「従業員持株会制度」があります。
従業員持株会とは、社員が自社株式を購入するための「持株会」を設立し、毎月給与天引き等で株式購入資金を拠出してもらい、長期間にわたって財産形成をはかってもらう制度です。
よく「ストックオプションと持株会はどっちが良いですか?」というご質問を頂きますが、両者は似て非なるものです。
ストックオプションは無償なのに対し、持株会では社員がお金を拠出する必要があります。
ストックオプションは株式を購入する権利であるのに対し、持株会では株式を実際に保有してもらうため上場前から社員に株主としての権利が発生します。
▲ストックオプションと従業員持株会のメリット・デメリット
どちらも一長一短ありますが、各々のメリット・デメリットを慎重に見極める必要があります。
このように、ストックオプションの発行一つとっても、発行タイミングや発行数、行使条件の有無や従業員持株会との選択など検討すべき項目は多く、現在からIPOまでの時間軸の中でIPOから「逆算」してその発行計画を立案する必要があります。
今回のポイントは、
・ストックオプションは株価が安いうちに発行する!
・税制適格ストックオプションの発行は必ず経験豊富な専門家に相談する!
・ストックオプションの発行計画は必ず「逆算型」で!
でした。
▼資本政策シリーズ最終回は資産管理会社!会社の財務基盤を安定させるそのスキームとは?
■ あいわ税理士法人 中島氏講演のセミナーレポート
役員報酬制度のトレンド、譲渡制限付株式報酬制度の導入効果を解説!
従業員持株会とは、社員が自社株式を購入するための「持株会」を設立し、毎月給与天引き等で株式購入資金を拠出してもらい、長期間にわたって財産形成をはかってもらう制度です。
よく「ストックオプションと持株会はどっちが良いですか?」というご質問を頂きますが、両者は似て非なるものです。
ストックオプションは無償なのに対し、持株会では社員がお金を拠出する必要があります。
ストックオプションは株式を購入する権利であるのに対し、持株会では株式を実際に保有してもらうため上場前から社員に株主としての権利が発生します。
ストックオプション | 従業員持株会 | ||
---|---|---|---|
概要 | あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で、一定期間内(税制適格の場合、権利付与から2年経過後10年以内)に株式を購入できる権利を付与し、権利行使後の株式売却によってキャピタルゲインを得てもらう制度 | 社員が自社株式を購入するための「持株会」を設立し、毎月給与天引き等で株式購入資金を拠出してもらい、長期間にわたって財産形成をはかってもらう制度 | |
メリット | 会社 |
・退職時やIPOできなかった場合には権利を消滅させることができる
・特定の者への付与が可能 |
・安定株主として寄与 |
対象者 | ・インセンティブ付与時点では対象者からの資金拠出は不要 | ・奨励金の支給を受けることができる | |
デメリット | 会社 |
・安定株主としては寄与しない
・税制適格要件の設計に注意が必要 |
・IPOの可否に関わらず株主となる |
対象者 |
・付与基準が不明確な場合、不公平感によりモラル低下の可能性
・多額の報酬を手にした者が人材流出する可能性 |
・加入時に資金拠出が必要
・株価が下落した場合に実際に損失を被る |
どちらも一長一短ありますが、各々のメリット・デメリットを慎重に見極める必要があります。
このように、ストックオプションの発行一つとっても、発行タイミングや発行数、行使条件の有無や従業員持株会との選択など検討すべき項目は多く、現在からIPOまでの時間軸の中でIPOから「逆算」してその発行計画を立案する必要があります。
今回のポイントは、
・ストックオプションは株価が安いうちに発行する!
・税制適格ストックオプションの発行は必ず経験豊富な専門家に相談する!
・ストックオプションの発行計画は必ず「逆算型」で!
でした。
▼資本政策シリーズ最終回は資産管理会社!会社の財務基盤を安定させるそのスキームとは?
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執筆

あいわ税理士法人 代表社員/税理士 杉山 康弘氏
IPO準備クライアント約150社、上場企業クライアント約300社(グループ会社含む)。起業家からの資本政策相談件数は毎年100件超。毎年クライアントの10社前後がIPOを果たす。近年、M&Aの相談件数も増加。IPO準備企業への資本政策立案コンサルティングや各種上場準備支援業務のほか、オーナー企業への相続・事業承継コンサルティングやM&Aなどの実務にも精通。
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