資本政策②「ストックオプション編」

POINT
・ストックオプションは株価が安いうちに発行する
・税制適格ストックオプションの発行は必ず経験豊富な専門家に相談する
・ストックオプションの発行計画は必ず「逆算型」
IPO準備企業の多くが導入するストックオプションについて、失敗しやすい実務上のポイントやより効果的な使い方を中心に解説します。
2017年1月
更新:2021年1月7日

1.ストックオプションとは?

 ストックオプションとは、あらかじめ定められた「価格」、「数」、「期間内」に株式を購入することができる権利をいいます。 ストックオプションをもらった社員は、会社が上場した後にストックオプションを権利行使して株式を取得し、その株式を市場等で売却することによって利益を得ることができるというわけです。

【図表1】ストックオプションの仕組み ストックオプションの仕組み

 【図表1】をご覧ください。ストックオプションの発行にあたっては、まず「権利行使価格」を設定します。 この権利行使価格は、一般的にはそのストックオプション発行時点におけるその会社の株価と同額に設定されます。 権利行使価格が100円とは、将来、会社が上場した後に市場でいくらの株価が付いていようと、100円支払うことによってその会社の株式1株を購入することができることを意味します。 【図表1】のように株価が190円の時点で権利行使すると、本来は市場で190円支払って購入すべき株式を100円という割安価格で購入できるということになるわけです。 その後、仮に株価が200円になった時点で売却したとすると差引100円が利益になるという仕組みです。

 ここでのポイントはストックオプションの権利行使価格が「ストックオプション発行時点におけるその会社の株価をベースに設定」される、ということです。 株価が安いうちにストックオプションを発行しておくことで、より多くのメリットを得られるわけですから、株価が上がる前の早いタイミングでのストックオプション発行が成功の鍵になります。 資金調達のために外部に増資を行うような場合には、増資株価が増資前の何倍、何十倍もの株価になるケースが多々あります。 近々増資を予定している場合には、増資前にストックオプションを発行することにより権利行使価格の上昇を回避することでストックオプションのメリットを最大化できる可能性があるのです。

2.税制適格ストックオプション活用時のメリットと注意点

 ストックオプションはもらう側の社員からするとお金の代わりに株式で受け取る給料のようなものですが、同じ給料でもお金と株式とでは実は大きな違いがあります。 それは税金です。お金でもらう場合には、いわゆる「累進税率」により最高55%の税金がかかります。 しかし株式でもらうストックオプションの場合には、どれだけ多額のストックオプションをもらっても一律約20%の軽減税率で税金の支払いは完了します。 お金でもらうと最高「55%」、株式でもらうと「20%」ですから、その差は歴然です。

 ただし、ここで注意が必要なのは、無条件に20%の軽減税率が適用されるわけではないということです。 軽減税率は税務上の一定要件を満たす「税制適格ストックオプション」の場合に限って適用されますので、ストックオプション発行にあたってはこの税制適格ストックオプションの要件を満たすかどうかの検討が最も重要になってきます。

【図表2】税制適格ストックオプションの要件 税制適格ストックオプションの要件

 【図表2】の1~7の要件を満たせば「税制適格ストックオプション」として軽減税率の適用対象となりますが、残念ながら「税制適格だと思っていたら、じつは税制非適格だった」という事例が後を絶ちません。 感覚的には、10社に3社位の割合で非適格ストックオプションであることが判明するケースがあり、上場直前になって資本政策を見直さざるを得なくなることも少なくありません。 ここでは詳細な説明は割愛しますが、失敗するパターンはある程度決まっていますので、必ず経験豊富な税理士に相談しましょう。

3.ストックオプションと持株会はどちらが良い?

 ストックオプションは無制限に発行できるというものではありません。一般的にはIPO直前で発行済株式数の10%~15%程度が上限になります。 したがって誰に、どのタイミングで、どの程度のストックオプションを発行するかをIPOイメージから逆算して検討します。 ストックオプション制度は社員(とくに幹部社員)へのインセンティブプランの中核を成すもので、一度に多くのストックオプションを発行することは、その後の選択の幅を狭めることになりますのでお勧めできません。

 近年ではストックオプションの権利行使の条件として「べスティング条項」を設ける会社が増えています。 たとえばある社員に100株のストックオプションを付与する場合に、会社が上場したらまずは「100株中50株のみ権利行使できる」とし、さらにそこから1年勤続時点で「残りの50株中25株を権利行使できる」とし、 さらにそこから1年勤続時点で「残りの25株すべてを権利行使できる」というように上場してから2年経ってすべてのストックオプションの権利行使ができるような段階的な行使条件を付すというものです。 このようなべスティング条項を付けることで、イメージとしてはマザーズ上場から一部上場まで会社の成長とともに段階的にストックオプションの権利行使をしてもらうことができます。

  また、ストックオプション制度と並ぶ代表的なインセンティブプランとして「持株会制度」があります。 よく「ストックオプションと持株会はどっちが良いですか?」というご質問を頂きますが、両者は似て非なるものです。 ストックオプションは無償なのに対し、持株会では社員がお金を拠出する必要があります。ストックオプションは株式ではありませんが、持株会では株式を保有してもらうため上場前から社員に株主としての権利が発生します。 どちらも一長一短ありますが、各々のメリット・デメリットを慎重に見極める必要があります。 このようにストックオプション発行一つとっても、発行タイミングや発行数、行使条件の有無や持株会との選択など検討すべき項目は多く、現在からIPOまでの時間軸の中でIPOから「逆算」してその発行計画を立案する必要があります。

【図表3】ストックオプションと持株会の比較 ストックオプションと持株会の比較

以上、資本政策2回目のポイントは、
・ストックオプションは株価が安いうちに発行する!
・税制適格ストックオプションの発行は必ず経験豊富な専門家に相談する!
・ストックオプションの発行計画は必ず「逆算型」で!
でした。



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執筆
あいわ税理士法人 代表社員/税理士 杉山 康弘氏
あいわ税理士法人 代表社員/税理士 杉山 康弘氏
IPO準備クライアント約150社、上場企業クライアント約300社(グループ会社含む)。起業家からの資本政策相談件数は毎年100件超。毎年クライアントの10社前後がIPOを果たす。近年、M&Aの相談件数も増加。IPO準備企業への資本政策立案コンサルティングや各種上場準備支援業務のほか、オーナー企業への相続・事業承継コンサルティングやM&Aなどの実務にも精通。
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