資産管理会社とは?メリットと上場(IPO)準備企業における活用のスキーム

POINT
・オーナー家の相続税節税は会社の財務基盤の安定に繋がる
・資産管理会社には「会計税務の視点」と「上場審査の視点」が必要
・資産管理会社はとにかく株価が安いうちに実行する
資産管理会社はオーナーの相続税対策として活用されます。それでは具体的にどのように・どのくらいの相続税が節税できるのでしょうか?上場準備中に押さえておきたいメリットと活用のスキームを、あいわ税理士法人 杉山氏が解説。
2017年1月
更新:2022年1月7日

1.資産管理会社とは?

資産管理会社とは、一義的には資産管理を目的とした会社を指します。
一方、資産管理会社には副次的に「オーナーの相続税対策」としての意味合いもあり、上場準備中のオーナーの場合、上場前の段階で資産管理会社に株式を移転しておくことで、上場後の相続税の節税に繋がります。
2020年に上場した企業103社のうち、約半数の47社が資産管理会社を保有していることからも、資産管理会社が多くの上場準備企業に活用されていることがわかります。

2.資産管理会社の目的は「会社の財務基盤の安定」

一般的に資産管理会社の最大のメリットは「オーナー家の相続税の節税」と言われています。
これはある面では正しいのですが、これだけでは不十分です。その裏には、実は「相続税の節税」=「会社の財務基盤の安定」という図式が隠されているのです。

上場会社のオーナーがお亡くなりになると、その所有する株式に莫大な相続税がかかります。相続税は10か月以内にお金で納付するのが原則ですから、株式を相続したオーナーの相続人は何とかしてその納税資金を捻出しなければなりません。ほとんどのオーナーは計算上の財産額は莫大でも、手元にそれだけのお金があるわけではありません。

そこで相続人はオーナーから相続したばかりの会社株式を何とかして換金しようとするわけです。 そして多くの場合、会社(自社)がその株式の買い手となり、いわゆる「自社株買い」によって会社から相続人にお金が渡るということになります。 言い換えると、会社がオーナー家の相続税を支払う、ということになるのです。

オーナー会社の相続税納税スキーム
▲オーナー会社の相続税納税スキーム

上記のスキームのため、オーナー家の相続税が高額であればあるほど会社の財務基盤が揺らぐことになります。 資産管理会社の目的は、将来、会社が負担することになるであろうオーナー家の相続税を節税することで、 将来にわたって「会社の財務基盤」を安定させることなのです。

3.資産管理会社設立と株式売却のスキーム

具体的な節税メリットをご説明する前に、前提となる資産管理会社の設立と株式売却のスキームを、上場準備企業であるA社と、A社のオーナー(甲)を例に解説します。

資産管理会社設立&株式売却のスキーム図
▲資産管理会社設立&株式売却のスキーム図(2021/8/20開催セミナー資料より抜粋)

イ) A社の上場前に、甲が新たに資産管理会社(Z社)を設立します。資本金はいくらでも構いませんが、設立コスト等を賄う必要がありますので一般的には100万円程度に設定します。

ロ) 次に、甲が所有するA社の株式を、時価でZ社に売却します。(図の例では5億円で売却しており、売却先のZ社は購入資金に資本金100万円+借入金4.99億円を充てています。)

ハ) 株式売却に伴い甲に税金が発生する場合には、株式売却の翌年3月15日までに確定申告で申告納税手続きを済ませます。

ここまで実行しておけば、後はA社が上場するのをじっと待つだけです。
非常にシンプルですが、これが資産管理会社設立と株式売却のスキームです。

4.資産管理会社のメリット

オーナーにとって、資産管理会社には大きく2つのメリットがあります。
1つは前述した「相続税の節税」、もう1つは「配当金の節税」です。

4-1.相続税の節税

上場準備企業が自社株式を資産管理会社に売却し、その後上場して株価が数十倍・数百倍になると、オーナー家は、数十億円、場合によっては数百億円の相続税の節税メリットが得られます。
その理由は相続税の算出方法にあります。

企業オーナーが所有する株式については、その企業が所有する資産の価値に対して相続税が計算されます。企業オーナーの相続税の算出の流れは下記のとおりです。

① 保有している株式を時価評価します(時価と帳簿価額との差額が含み益となります)。
② ①に法人税率37%を乗じて、仮にその株式を売却したとしたら課税されるであろう法人税(法人税等相当額)を算出します。
③ ①から②を差し引いた金額に、その他の財産を足した金額を評価額として、相続税を算出します。

資産管理会社の節税効果
▲資産管理会社の節税効果(2021/8/20開催セミナー資料より抜粋)

前述の「3.資産管理会社設立と株式売却のスキーム」の例で説明すると、まずZ社がA社の株式を売却したものとして考えます。上場前に5億円で購入したA社株式が、A社の上場によって時価100億円になっていた場合、含み益は95億円となります。

次に、株式を譲渡して得られた売却益には法人税がかかりますので、この含み益に対して法人税37%が課税されます。95億円に対して37%ですので、約35億円が課税されます。

最後に、含み益95億円から法人税35億円を引いた60億円に、A社株式購入に充てた借入金4.99億円を足し、甲の持つ本来の財産である約65億円を算出します。これが相続税を計算する上での評価額となります。
もしもA社が資産管理会社を持たず自社株式を持ち続けていた場合は、A社株式の含み益である100億円がそのまま評価額となります。

相続税は甲の財産に対して最大55%の税金がかかります。財産が100億円なら相続税は約55億円、財産が65億円なら相続税は約33億円ですので、資産管理会社を活用することで、この差額である約20億円を節税できるのです。
この得られた節税メリットの分、A社の財務基盤も将来にわたって安定するというわけです。

上記の例では資産管理会社の株主はオーナーである甲本人ですが、オーナーに子供がいる場合には子供を資産管理会社の株主にすることも検討しましょう。オーナー本人を株主とする場合に比べて、倍以上の相続税の節税メリットが得られます。
ただし、子供を株主とする場合には、財産権と経営権を切り離して財産権のみ子供に渡し、経営権はオーナーが持ち続ける仕組みを採用するかどうか、子供が株主として会社を設立する手続きを具体的にどうするのか、など検討すべき項目が多岐にわたりますので慎重に進めましょう。

4-2.配当金の節税

見落としがちなのが配当の節税メリットです。通常、上場会社のオーナーが受け取る配当金には約50%の税金がかかります。これに対して資産管理会社が受け取る配当金の場合には、せいぜい15%程度の税金で済むのです。

1億円の配当金を受け取る場合で考えてみましょう。
1億円の配当金をオーナー個人で受け取ると、オーナー個人でその50%である約5,000万円の税金を支払う必要があり、差引5,000万円しか手元に残りません。 一方、資産管理会社で受け取ると、税金は15%の1,500万円で済みますので、手元に8,500万円程度のキャッシュが残ることになります。 個人だと5,000万円、資産管理会社だと8,500万円ですから、その差は歴然です。この差が、毎年毎年、積み上がっていくことになるわけです。

株式のオーナー個人所有と資産管理会社所有の比較
▲株式のオーナー個人所有と資産管理会社所有の比較(2021/8/20開催セミナー資料より抜粋)

このように上場前に資産管理会社を設立しておくメリットは非常に大きいと言えます。ただし、これらのメリットは、オーナーや資産管理会社が各々何%の株式を保有するのかや、その時々の税制や株価によって大きく変わってきます。また、上場審査の観点からも実行時期や株価など慎重な検討が必要になりますので、必ず上場準備の経験豊富な税理士にご相談下さい。

5.資産管理会社を「やりたくてもできない」ケース

上場準備企業のオーナーに資産管理会社のご提案をすると、ほとんどのオーナーが前向きな反応を示されます。ただし、残念ながら「やりたくてもできない」ケースがあるのです。それは税金が支払えないケースです。

「3.資産管理会社設立と株式売却のスキーム」のハ)にあるように、資産管理会社実行の翌年3月15日までに株式売却に伴う税金を支払う必要があります。資産管理会社への株式売却はその時点の株式の時価によって行う必要がありますので、すでに資金調達などをされていて株価が高くなっているようなケースでは、実行後のこの税金が想定外に多額となってしまい、納税資金が用意できずに資産管理会社の活用自体を断念せざるを得ないこととなるのです。前回のストックオプションのコラムと同様に、資産管理会社も「株価が安いうちに実行する」が鉄則です。


今回のポイントは、
①オーナー家の相続税節税は会社の財務基盤の安定に繋がる
②資産管理会社には「会計税務の視点」が必要
③資産管理会社はとにかく株価が安いうちに実行する
でした。

これまで全3回にわたって資本政策のお話をしてきました。
資本政策は一度実行してしまうと後戻りができず、検討を始めるのに早すぎることはありません。後回しにせず、まずはとにかく会社の上場イメージを持つことからはじめましょう。

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執筆
あいわ税理士法人 代表社員/税理士 杉山 康弘氏
あいわ税理士法人 代表社員/税理士 杉山 康弘氏
IPO準備クライアント約150社、上場企業クライアント約300社(グループ会社含む)。起業家からの資本政策相談件数は毎年100件超。毎年クライアントの10社前後がIPOを果たす。近年、M&Aの相談件数も増加。IPO準備企業への資本政策立案コンサルティングや各種上場準備支援業務のほか、オーナー企業への相続・事業承継コンサルティングやM&Aなどの実務にも精通。
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