過重労働問題、メンタルヘルス・・・
多岐にわたる労務問題、IPO準備段階での対策は。

IPOコラム 第7回

第6回「」

  • アイ社会保険労務士法人 代表社員 土屋 信彦氏

    得意分野はIPOやM&A及びリスク対応にかかわる労務監査や就業規則整備。
    証券会社、税理士会、宅建業協会、異業種交流会等でのセミナー多数。
    埼玉県社会保険労務士会理事、社会保険労務士会川口支部副支部長等を歴任。名南経営LCG会員。上場実務研究士業会会員。
    人事担当者向け情報が充実!詳しくはホームページをご覧ください。
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IPO Compassコラム「労務管理2」


<ポイント>IPO準備企業における労務管理整備のポイントは

・最新法令チェックと諸規程類の整備・周知・運用
・直前期までの労務監査対応


労務問題の注目度は年々増しており、IPO準備企業においては、早い段階での解決が必須となっています。前回のコラム(労務管理1「未払い残業問題でIPO準備が止まる?!IPO準備段階では労務問題の早期解決が鍵!」)で労務の最重要課題である、「未払い残業問題」を解説しました。
今回のコラムでは過重労働問題、社会保険の適正加入、就業規則その他規程の整備などIPO準備段階で解決必須な労務問題を、IPO実務経験豊富なアイ社会保険労務士法人の土屋信彦先生に教えていただきます。

-未払い残業問題以外の労務リスクを教えてください。

 過重労働問題、社会保険の適正加入、就業規則その他規程の整備などが挙げられます。解雇トラブル、平成26年に義務化されたメンタルヘルス対策なども見逃せないリスクです。

-広告代理を営む大手企業の女子社員の自殺を労基署が過労死と認定したことをきっかけに、過重労働問題がクローズアップされました。過重労働問題への国の取り組みは現在どうなっていますか。

 今までは労使間の合意のもと残業時間を決めることができましたので、実質青天井と言われていました。しかし、昨今の過重労働問題で、ついに国が介入せざるを得ない状況となっています。  労働局では数年前から通称「かとく」と呼ばれる過重労働撲滅特別対策班を組織して、過重労働の取り締まりを強化しています。そしてついに2018年6月29日、働き方改革法案が成立し、残業時間の上限規制が決定しました。上限規制は原則月45時間・年360時間、上限は繁忙期に配慮し、年間で計720時間、単月では100時間未満となり、違反した企業には罰則が科されます。適用時期は大企業が2019年4月、中小企業が20年4月からとなりましたので、適用までの期間でしっかりと労働時間管理の準備を整えておくことが重要です。

-IPO準備段階での過重労働問題への対策は?

 IPO準備企業も例外なく過重労働に対する対策を見直さなければなりません。過重労働によって従業員がメンタルヘルス不全におちいり、前述のような過労自殺が起きた場合、企業の損害賠償額は億単位にも及ぶことがあります。当然のことながらIPO審査に大きく影響を及ぼすことになるでしょう。
過重労働問題の前提として、労使間での残業時間の取り決めをする時間外・休日労働協定(36協定)がありますが、そもそも中小企業では36協定届自体提出していないこともあります。また、36協定の是正勧告を受けるIPO準備企業は意外と多いです。ただし、是正勧告を受けたからと言って、ただちにIPOできないわけではありません。労働環境が改善されたという是正報告を提出することで解消することができます。
36協定届の提出は大前提として、労使間で合意した労働時間を超えていないかをきちんとチェックしていくことが大事です。

-パートタイマーの社会保険加入について改正がありました。社会保険の加入について注意点を教えてください。

 健康保険、厚生年金、および雇用保険の社会保険の適正な加入に注意をしなければなりません。特にパートタイマーについては平成28年10月に改正されており、従業員数501人以上の企業の場合、以下4要件を満たしている場合はパートタイマーも社会保険に加入させる必要があります。

<パートタイマー社会保険加入要件>

・週労働時間20時間以上
・1か月88,000円以上
・雇用見込み1年以上
・学生でない

 500人以下の企業の場合でも、正社員の3/4以上の労働時間を勤務する場合に加入することになっています。雇用保険も週20時間以上の加入要件とともに、平成29年には加入時の年齢要件が撤廃されています。

 社会保険への加入が不適正になる例を紹介します。

【資格取得日のずれ】
入社してから数か月が試用期間であっても、上述の4要件を満たしている場合は社会保険に加入する必要があります。
【通勤手当等の参入漏れ】
社会保険の計算に含める手当(通勤手当、残業手当、住宅手当、扶養手当など)を参入し忘れてしまうことがあります。含まれる手当を事前に確認しましょう。
 加入漏れが生じると過去2年間遡って納付する必要があります。パートタイマーが多い業種などは負担額もそれだけ多くなり金銭リスクが高まりますのでご注意ください。

-就業規則その他規程の整備についても教えてください。

 IPOにおいては人事労務関連の諸規程整備とその周知、運用も重要事項となります。就業規則、給与規程をはじめ、退職金規程、育児介護休業規程、旅費規程、慶弔見舞金規程、パートタイマー規則、契約(嘱託)社員就業規則等が通常必要となりますが、さらに安全衛生管理規程、出向規程、人事考課規程等も場合によって整備します。
  これらの労務関連規程は、現行法に沿った形での整備が必要であるだけでなく、現実の運用に即しているかどうかも合わせてチェックする必要があります。

-平成26年6月労働安全衛生法が改正され、ストレスチェックが義務化されました。IPO準備企業はどう対策をすべきでしょうか。

 ストレスチェックは、従業員常時50人以上の全事業場で毎年1回の実施と労基署への報告を義務付けたものです。ストレスチェックを行うことによって高ストレス者を抽出し、メンタルヘルス不調を未然に防止する一次予防を講じることでメンタル不調者の発生を防ぎ、より働きやすく健康的な職場へと改善することを目指します。衛生管理者の選任義務、産業医の選任義務など 法令上の義務はIPO審査でもチェックされますので、対応には注意してください。
 また、メンタルヘルス不調者が出てしまった場合、安全配慮義務違反を問われることもあります。「メンタルヘルス対応マニュアル」を作成するなど、従業員が働きやすい健康的な職場を実現するための十分な対策が必要です。

-解雇時にトラブルになるケースがあると聞きますが、解雇の注意点についても教えてください。

 解雇とは会社側の一方的な意思により労働契約を将来的に解約することを言います。軽率に解雇すると「権利の濫用」とみなされ訴訟となってしまうこともありますので、権利濫用とならない方策を立てておくことが重要です。どんな場合に解雇になるかについて具体的な根拠を就業規則で示しておくことも重要ですが、それでも解雇のリスクは高いです。解雇はあくまでも最後の手段としておき、 「退職勧奨による合意退職」により合意書を作成することがトラブル防止に役立ちます。

-これまでのお話で労務問題は多岐にわたることがわかりました。最後に、労務問題を解決するために、IPO準備企業における、労務監査の重要性について教えてください。

 労務管理で重要なことは最新法令を常にチェックし、労務上のリスクや課題を洗い出し、改善していくことです。
そのためには労務監査を直前期より前に受けておくことで、労務部門のリスクや課題が明確になります。これらのうち優先的に改善すべき課題に対策を立てて改善していくことで、労務コンプライアンス体制が整備されていくとになります。また証券会社や市場審査部門からも専門家からの監査を受けていることは、労務リスクの改善が積極的に図られているという高い評価を受けることができます。このため労務監査は最近のIPO準備会社において、社労士に依頼をされることが非常に多くなっています。できるだけ早期に労務監査を受けて、IPOに向けて万全の労務管理体制を整えておくことをお勧めします。

土屋先生、ありがとうございました。
次回は働き方改革の行方についてお話いただきます。お楽しみに。

以上

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