名古屋証券取引所(名証)とは?名証の特長、名証IPOが増えている理由とは?

地方証券取引所の1つである名証は、東証に次ぐ国内第2位の証券取引所です。2022年4月に再編された名証市場のコンセプトや特長、近年、名証市場へのIPOを目指す企業が増えている理由について、名古屋証券取引所 伊藤氏が解説。
更新:2024年3月15日

1.名古屋証券取引所(名証)とは?

日本には、東京証券取引所(東証)以外に3つの地方証券取引所として、「名古屋証券取引所(名証)」、「福岡証券取引所(福証)」、「札幌証券取引所(札証)」が存在します。
地方証券取引所の1つである名証は、上場会社数283社(※2024年2月28日現在。東証との重複上場を含む)を誇り、東証に次ぐ国内第2位の証券取引所です。

2022年4月、名証は市場再編を行いました(東証も同様に市場再編を行っています)。以前は市場第一部、市場第二部、セントレックスの3つの市場区分でしたが、現在は、プレミア、メイン、ネクストに名称が変わり、各市場のコンセプトや基準が見直されています。

2.名証各市場のコンセプト

2-1.プレミア市場

コンセプト:
優れた収益基盤・財務状態に基づく高い市場評価を有し、個人投資家をはじめとする多くの投資家の継続的な保有対象となりうる企業向けの市場

名証における最上位市場です。優れた財務体質を持つと評価でき、上場時価総額基準が250億円以上など、高い市場評価を得ている企業向けの市場です。なお、企業規模の水準は東証プライム市場と同等です。

2-2.メイン市場

コンセプト:
安定した経営基盤が確立され、一定の事業実績に基づく市場評価を有し、個人投資家をはじめとする多くの投資家の継続的な保有対象となりうる企業向けの市場

その名の通り、名証においてメインとなる市場です。継続的に事業を営み、安定的な収益基盤を有している企業向けの市場です。

2-3.ネクスト市場

コンセプト:
将来のステップアップを見据えた事業計画及び進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価を得ながら成長を目指す企業向けの市場

いわゆる新興市場です。近い将来のメイン市場などへのステップアップが期待される、次世代の企業向けの市場です。

3.名証市場の特長

3-1.全国の企業がIPOできる

名証市場は上場する企業の本店所在地に関して定めがありません。全国の企業がIPOすることができます(【表1】参照)。

各証券取引所(新興市場)の上場基準比較(※形式要件の一部を抜粋)
▲【表1】各証券取引所(新興市場)の上場基準比較(※形式要件の一部を抜粋)

実際に、東海地方以外に本店を構える企業の割合が7割を占めています。
以下【グラフ1】が示す通り、テリトリー制(名証市場でのIPOを希望する企業による上場申請を受け付けする条件として、当該企業が名古屋周辺に営業の主体を有していることを求める制度)が廃止された2000年4月以降に名証市場でIPOをした企業、全55社のうち、東海地方に本店を構える企業の割合は27%で、残り73%は東海地方以外に本店を構える企業です。

名証でIPOした企業55社の所在エリア・本店所在地詳細のまとめ
▲【グラフ1】名証でIPOした企業55社の所在エリア・本店所在地詳細のまとめ

「東証以外での上場を考えたことがない」、「東海3県以外の会社だから東証を目指す」、「地元に証券取引所がないから東証を目指す」という誤解が少なからずあります。しかし名証市場であれば本店所在地に関わらずIPOすることが出来るのです。

3-2.「高い」成長可能性ではなく「着実な」成長可能性を求める

上場を果たすためには、最新先端技術や他社に類を見ない斬新なビジネスモデルなど、高い成長可能性を有する必要があるとお考えの企業は多いのではないでしょうか。確かに、IPO企業数が最も多い東証グロース市場は、企業に対して「高い」成長可能性を求めています。しかし、「高い」成長可能性のある企業だけが上場企業としてふさわしいとは言い切れません。フロー型ビジネスモデルで長い時間をかけて成長してきた企業や、ニッチだが独自性が高い企業など、「着実な」成長が見込める企業もたくさん存在します。

そのような企業に適した市場が、名証ネクスト市場です。
ネクスト市場では、「着実な」成長可能性を有する企業を求めています。「高い」成長可能性を有していなくてもIPOを諦める必要はありません。また、背伸びをして高い成長可能性を語る必要もありません。自社が描く「着実な」成長可能性を実現すればよいのです。

3-3.個人投資家を重視

まずは投資家属性について説明します。投資家とは、“個人投資家” と“機関投資家”の2つに分類できます。

“個人投資家”とは、組織に属さずに個人の資産を使って投資を行う投資家のことを指します。個人投資家は投資対象企業の成長性に加え、配当性向や株主優待なども重視する傾向にあることが特徴的です。
投資家との対話を通じて会社のファンを増やし、知名度を上げながら中長期的に投資を受けたいという企業は、個人投資家から投資を受けると良いでしょう。

それに対して“機関投資家”は、組織に所属して大口の投資を行う投資家のことを指し、個人投資家から拠出されたお金など、巨額の資金をまとめて運用しています。国内外を問わず注文が行き交い、キャピタルゲイン(売却益)を得ることを目的として運用されているケースが多いことが特徴です。
国内外の投資家から投資を受け、多額の資金を調達しながら高い成長性を描きたいという企業は、機関投資家から投資を受けると良いでしょう。

市場ごとにメインとなる投資家属性は異なります。
名証は「国内(97.5%)の個人投資家主体(85.3%)のマーケット」、東証は「海外(52.8%)含めた機関投資家主体(72.4%)のマーケット」であると言えます。市場を決める際には、いわゆる形式基準だけではなく、「どのような投資家から投資を受けたいのか」言い換えれば、「どのような投資家と対話をしたいのか」の視点も含めて検討することが肝要です。

東証・名証における投資家属性、個人取引高及び比率の違い
▲【表2】東証・名証における投資家属性、個人取引高及び比率の違い

3-4.流通株式時価総額基準がない

名証はいずれの市場にも流通株式時価総額基準がありません。一方で、東証にはいずれの市場にも流通株式時価総額基準があります。

東証が同基準を導入した目的は、機関投資家が求める流動性を担保するためと考えられます。しかし前述の通り、名証は個人投資家重視の市場であるため、流通株式時価総額基準は設けていません。

3-5.ステップアップ市場としての側面

名証ネクスト市場(旧セントレックス)でIPOを果たした後、上場をはずみに成長を加速させ、上位市場にステップアップした企業は少なくありません。

旧セントレックス市場には累計44社が上場し、うち17社が名証内の上位市場および東証にステップアップしました。さらに、その中の10社は東証プライム市場(旧東証第一部)にまでステップアップしています(【表3】)。

企業の規模や目的によって、適した市場は変わります。IPO時にはそのときに適したコンセプトの市場を選び、まずは上場を実現して、そこからステップアップしていく、ということも有効な選択肢の一つなのです。

旧セントレックス市場からのステップアップ企業一覧
▲【表3】旧セントレックス市場からのステップアップ企業一覧

4.2022年以降、名証市場にIPOする企業が増えている

市場再編以前のIPOは、ほぼ100%の企業が東証に上場していました。しかし2022年は、全91社のうち、96%(87社)が東証、4%(4社)が地方証券取引所に上場しました。2023年上半期では、全44社のうち、91%(40社)が東証、9%(4社)が地方証券取引所に上場しました。

2021~2023年上半期までのIPO市場別、上場会社数のまとめ
▲【表4】2021~2023年上半期までのIPO市場別、上場会社数のまとめ

東証市場を選択する企業が圧倒的に多い傾向は続いていますが、名証への上場も2022年に3社、2023年上半期に3社、と増えています。市場再編を経て、東証グロース市場一択の状況が変わり、自社に適したコンセプトの市場を選択する企業が増えていることがわかります。

5.2022年名証IPO企業にみる、上場後の企業価値向上

上場企業の株主が最も望むであろう「企業価値向上」は名証市場でも当然実現できます。
【グラフ2】をご覧ください。

「名証IPO銘柄の株価推移」と「日経平均株価の推移」
▲【グラフ2】「名証IPO銘柄の株価推移」と「日経平均株価の推移」

上図は、2022年度に名証でIPOを実現した全4銘柄について、各銘柄の上場日の「終値」と「日経平均株価の終値」をそれぞれ100とし、その後の株価の推移を表現したものです。赤が名証IPO銘柄、黒が日経平均株価の株価推移です。

すべての銘柄において、IPO直後は日経平均株価よりも低迷したものの、しばらくすると日経平均株価よりも高いパフォーマンスを出しています。特にパフォーマンスが高いA社は、個人投資家になじみがないニッチな業種という不利な状況の中、本業の業績向上はもちろんのこと、IRイベントに積極的に参加していました。企業価値を高めるだけでなく、自社の魅力を知ってもらう努力をしたことが株価に反映したのです。

名証は個人投資家向け市場で流動性が乏しい、企業価値向上も難しいと言われることがあります。しかしそれは誤解であり、あくまでも企業(銘柄)次第でマーケットは評価してくれるということです。

6.自社にとって適切な市場の選択を

IPO準備を始める前から「高い成長可能性は満たせそうにないからIPOは諦める」、IPO準備を始めたものの「N-〇を繰り返しておりIPOできない」、という企業が少なくありません。その大きな原因として、自社の状況やビジネスモデルに適していない市場を選択していることがあります。

自社に適した市場を選択することがIPOへの第一歩です。
日本には4つの証券取引所があり、それぞれの取引所および市場はコンセプトが異なります。「個人投資家の支持を得ながら企業価値の向上を図りたい」、あるいは「まずは上場し、企業成長を一気に加速させたい」と考える企業には、名証市場のコンセプトが適しています。

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過去開催「名証IR EXPO」の様子
▲過去開催「名証IR EXPO」の様子

■名古屋証券取引所へのお問合せ
Email:ipo@nse.or.jpもしくはQRコードまでご連絡ください。お待ちしております。 名古屋証券取引所へのお問合せ
よくあるご質問
名古屋証券取引所の上場企業数は?
名証上場会社は283社です。(※2024年2月28日 現在。東証との重複上場を含む)
名証と東証の違いは何ですか?
コンセプトが異なります。そのためコンセプトに即して設定されている上場基準・維持基準も異なります。
一番大きな違いは、名証市場は流通株式時価総額基準がなく、東証市場は流通株式時価総額基準があることです。
東証プライムと名証プレミアの違いは何ですか?
上場基準・維持基準ともに、東証プライム市場とおおむね同水準です(ただし、名証には流通株式時価総額基準は設けられていません)。コーポレートガバナンス・コードについては、東証プライム市場向け項目(より高度なガバナンス)は名証プレミアでは適用しません。
そのほかの違いは、 【関連コラム】 東証市場再編の目的とポイントとは?プライム・スタンダード・グロース、東証新市場の特徴も解説 をご覧ください。
名証プレミア市場または名証メイン市場に上場するための条件は?
名証プレミア市場は、株主数800人以上、流通株式数が2万単位以上かつ流通株式比率が35%以上、時価総額250億円以上などの形式要件があります。
名証メイン市場は、株主数300人以上、流通株式数が2,000単位以上かつ上場株式数の25%以上又は上場日の前日までに公募又は売出しを1,000単位又は上場株式数の10%のいずれか多い株式数以上を行うこと、時価総額10億円以上などの形式要件があります。

また各市場で上場適格性を問う実質基準も設けられています。
詳細な要件は以下をご確認ください。

■上場制度|上場審査基準(プレミア市場・メイン市場)
https://www.nse.or.jp/listed/listing/criteria.html
名証ネクスト市場に上場するための条件は?
名証ネクスト市場は、株主数150人、上場時に500単位以上の公募・売出しを行うこと、時価総額3億円以上などの形式要件があります。また上場適格性を問う実質基準も設けられています。
詳細な要件は以下をご確認ください。

■上場制度|上場審査基準(ネクスト市場)
https://www.nse.or.jp/listed/next/criteria.html
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執筆
株式会社名古屋証券取引所<br>執行役員<br>伊藤 和仁氏
株式会社名古屋証券取引所
執行役員
伊藤 和仁氏
1990年に名古屋証券取引所に入社。2002年市場営業グループ長、2010年営業推進グループ長、2022年上場推進・企業サポートグループ長、2023年より執行役員。営業推進グループ長に就任した2010年以降、名証に新規上場した企業は累計60社を超える。

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