景品表示法コンプライアンス新時代~上場審査にこたえうる体制整備を求めて~

POINT
・IPO準備企業にとって、早期の表示管理体制の整備が重要
・景品表示法コンプライアンスは、従業員ひとりひとりの理解と姿勢で達成可能
2014年の法改正以降、厳格化されている景品表示法。昨今では、IPO審査項目のトレンドとも言われています。「※個人の感想です」と小さく記載しておけばいい、という考えは通用しません。景品表示法の伝道師、弁護士 野村亮輔氏が景品表示法の神髄と表示コンプライアンスの重要性を解説します。
2019年3月14日

1.景品表示法新時代

景品表示法は,正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といい,キャンペーンで不当に高価な景品を付けたり,主に広告などで不当な表示が行われたりすることを規制する法律である。消費者庁から措置命令を受けると,消費者庁のホームページに長い間当該事件が掲載されたり,大大的に報道がされて企業のレピュテーションは著しく低下する。また,2013年秋の食品偽装問題を契機に,2014年6月と11月に異例の年2回の改正が行われ,当時、私も所属事務所でセミナーを開催したり,法務担当のみなさんと合宿で勉強会を行ったりして,改正に対応したことを思い出す。
改正からしばらく経ち,適正表示を実現する整備体制について相談を受ける機会も少なくなったという印象があった。

ところが,今般,再度景品表示法が注目を集めている。上場審査で,景品表示法の管理体制不備を指摘されるケースが増えているという。特にBtoC企業にとって,景品表示法は,IPOの死命を制する法律になっているのだ。

2.厳しさを増す景品表示法

私は,朝出勤すると消費者庁のウェブサイトの「景品表示法関連報道発表資料」のコンテンツを開けて,措置命令事案をチェックしているが,一昨年あたりから,誰もが知る大企業が措置命令を受けるケースが目立ってきたと感じている。例えば,アマゾンジャパン,東レ,TSUTAYA,日本マクドナルド(アマゾンジャパンは係争中のこと)の各社などである。規模の大小や上場・非上場にかかわらず,景品表示法コンプライアンスの貫徹は,BtoC企業の永遠の課題とも言えそうである。
しかし,景品表示法コンプライアンスの貫徹は,困難な道程を行くことでもある。特に近年は,「打ち消し表示」に関する規制が激化し,規制のレベルは上がっている。
例えば,2018年10月には,健康飲料のダイエット効果を語る体験談のすぐ下に,
  •  ※このダイエットは適切なカロリー管理による結果です。
  •  ※個人の感想であり、感じ方には個人差があります。
      ダイエットの効果を保証するものでは御座いません。
  •  ※バランスの良い食事と適度な運動を。
と記載した表示が不当表示と判断され,当該企業が措置命令を受けている。「広告の隅っこに『個人の感想です』と書いておけば逃げられる」時代は,とうの昔に終焉を迎えているのである。

3.表示管理体制整備への道

それでは,どのようにして管理体制を整備し,景品表示法コンプライアンスを実現していけばよいのだろうか。

2014年6月改正において,景品表示法は景品及び表示の管理体制整備を要求している。特定の法律が,当該法律についての管理体制,言い換えれば内部統制体制の整備を要求するのは非常に珍しい。
どのような体制整備が必要かについては, 2014年11月に消費者庁が「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」を発表しており,この指針に従って体制を整備していくことになる。

具体的には,
  • 1 景品表示法の考え方の周知・啓発
  • 2 法令遵守の方針等の明確化
  • 3 表示等に関する情報の確認
  • 4 表示等に関する情報の共有
  • 5 表示等を管理するための担当者等を定めること
  • 6 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること
  • 7 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
の7項目が同指針には挙げられており,更に各項目の詳細な整備の方針が記載されている。例えば,「景品表示法の考え方の周知・啓発の例」として,「朝礼・終礼において、関係従業員等に対し、表示等に関する社内外からの問合せに備えるため、景品表示法の考え方を周知すること。」,「適時、関係従業員等に対し、表示等に関する社内外からの問合せに備えるため、景品表示法の考え方をメール等によって配信し、周知・啓発すること」など,周知啓発方法がいくつも挙げられている。各企業はその中から,自社に最もマッチした方法を選択し、工夫していけばよいのである。

4.景品表示法の真髄とは

こうして景品表示法の遵守体制を整備していくわけだが,コンプライアンスや内部統制体制整備は,とかく社内規程制定や,コンプライアンス委員会・セキュリティ委員会の開催など,「教科書通り」になりやすく,また「教科書通り」に淡々と進めることが推奨される分野でもある。しかし,その真の目的,言ってみれば法が求めている「真髄」を軽視すると,形骸化の沼地にはまってしまう。それでは,景品表示法コンプライアンスの真髄はどこにあるのであろうか。
過去の違反事案を検討していると,同業他社との「競争に勝つ」ことにばかり目が行き,顧客の存在を忘れてしまったような事案が多く見受けられる。例えば,他社を少しでも上回ろうと,合格者を水増しした事案や,同業他社と横並びで「全品半額」をうたったセールを行い,実際には全商品が対象でなかったとして数社が一斉に措置命令を受けたようなケースが挙げられよう。
景品表示法は,こうした「顧客不在」の事案に警鐘を鳴らす。その鐘の響きは,マーケティングに関わる人間に,以下のような問いかけとして跳ね返ってくる。

  • お客様が自社の製品と出会うのはどのような場面か。
  • お客様はどのような気持ちで我が社の広告表示を見つめるのか。
  • お客様はどのような表現に胸を打たれ,我が社の商品を手にとるのか。

これらは,お客様と向き合い,広報表示や広告表示を生み出す現場の方々が日々繰り返している疑問であろう。現場の最前線で奮闘する皆さまの方が,景品表示法を少々齧った弁護士よりもずっと,この疑問に正しく答えることができるだろう。景品表示法は,表示の適正化を通じて,自社のビジネス,ひいてはお客様と真摯に向き合うことを求めている法律なのである。

5.企業価値向上のために

最後に,景品表示法コンプライアンスは,企業再建に力を発揮した代表取締役が裏で私腹を肥やしていた,といったたぐいのコンプライアンス不全事案と異なり,現場の従業員ひとりひとりが正しい知識を身に付け,各自が自社のレピュテーションの守護者であることを自覚して日々の業務に臨むことで,ほぼ100%達成できることを強調したい。景品表示法コンプライアンスの実現は,その貫徹を通じ,自らが企業価値向上の担い手であることを各社が各従業員に実感させることができる過程でもある。
ボードメンバーだけにとどまらず,従業員一人一人が企業価値向上の担い手として躍動する企業。これ以上、上場企業にふさわしい企業はあるまい。上場審査で景品表示法の管理体制が厳しく問われるのは,その裏返しである。その高いハードルをクリアした企業が次々とIPOを果たすことを心から願うとともに,景品表示法を専門分野の一つとする弁護士として,そのお手伝いができれば,これに優るよろこびはない。
関連リンク
措置命令やガイドラインについては、消費者庁のホームページで閲覧できます。
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執筆
エジソン法律事務所 弁護士 野村 亮輔氏
エジソン法律事務所 弁護士 野村 亮輔氏
1997年東京大学法学部卒。2007年弁護士登録(東京弁護士会)。
2014年株式会社VOYAGE GROUP(現株式会社CARTA HOLDINGS)の非常勤監査役としてIPOを経験。現在も都内IT企業の非常勤監査役を務める。
景品表示法・労働法・コーポレートガバナンスなどを専門とし,景品表示法関連の著書には「景品表示法の理論と実務」(中央経済社・共著)がある。各地で講師を務めるセミナーは「わかりやすい」「法律のセミナーであんなに笑ったのは初めて」と多くの受講者から喝采を浴びている。

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