IPOに向けての法務戦略

開催情報
2022年11月17日(木) 13:30~15:00/Web
セミナー概要
IPO審査において、法令遵守は重要な事項として厳格に確認され、法令違反の度合いによってはIPOを中止せざるを得なくなることもあります。 本セミナーでは法務に関する審査事項への対応を「IPOに向けての法務戦略」として捉え、 概要とポイントを30以上のQ&Aを通して、具体事例とともに弁護士の視点で解説しました。
セミナー総括

1.IPO審査における法務の対応ポイント

まず、IPO審査は以下の5つの基準で審査されます。

①企業の継続性及び収益性
②企業経営の健全性
③企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
④企業内容等の開示の適正性
⑤その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項
(東京証券取引所 有価証券上場規程207条から抜粋)

これらを法務の目線で見たとき、IPO審査における法務の対応ポイントは以下の2つです。
(1)ビジネスの継続性
自社のビジネスが継続して利益を上げていけるのかという点はもちろん、ビジネスをするための許認可があるのか、ビジネスの根幹となる契約が法的に有効なのか、知的財産が確保されているのか、経営破綻に繋がるような大きな訴訟が起きていないかといったポイントで対応します。

(2)会社の社会的信頼性
法令違反・不正会計・脱税・反社会的勢力との関与といった不祥事が起きていないか、未払残業・過重労働が常態化していないかなど、利益を上げていけるだけではなく、社会的信頼性を保っているかといったポイントで対応します。
今回は「(1)ビジネスの継続性」の視点における契約管理について解説していきます。

【関連コラム】 自社のビジネスに対する法規制を把握する方法とは?
【関連コラム】「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」実現のポイントとは?

2.IPO審査で悪影響を及ぼす契約例

契約管理のIPO審査におけるポイントは「事業経営上、重要な契約が合理的な内容であり、今後も継続していけるかどうか」という点です。
そのため、まずは自社のビジネスにとって何が「重要な契約」なのかを確認するところから始めるようにしてください。

IPO審査で悪影響を及ぼす契約の例として6つご紹介しますので、自社が締結している重要な契約で、該当するものがないかチェックしておきましょう。

IPO審査で悪影響を及ぼす契約の例

①ライセンス契約、フランチャイズ契約における中途解約、最低保証
他社のライセンスを受ける場合や、フランチャイジーとして権利を受けてビジネスを行っている場合、事業の継続はその契約の継続が前提となります。
そのため、例えば先方の一方的な判断でいつでも中途解約されてしまう可能性のある契約や、継続のための条件が厳しく、条件に満たなかった場合に解約されてしまうといった契約では、ビジネスの継続性に疑義が生じることになります。

②サービス等利用契約における、長期間かつ独占的利用義務
親会社や業務提携先との関係で多いケースですが、親会社等のサービスを利用してビジネスを行う際に、長期間かつ独占的に利用しなければならない義務を負っていると、より安価で優良な同業他社のサービスがあっても切り替えることができず競争力が落ちるリスクがあります。

③開発委託、製造委託契約における著作権帰属
著作権は基本的に著作者に帰属します。
そのため、システムやアプリを第三者に開発委託した際に、発注者である自社に著作権が帰属するように契約を結んでおかなかった場合、サービスの改良・改修を含め様々な場面において著作者の同意が必要になりビジネスの足枷になります。

④莫大な違約金条項、仕入先と販売先との損害賠償の時効、上限額
損害賠償の負担が重い契約をしていないかという観点です。
例えば自社が販売先に納品した後に、納品した商品にトラブルがあり莫大な違約金が発生すると、大きな債務を負うことになります。
また、販売先に対しては損害賠償請求の条件が厳しいが、仕入先に対しては損害賠償請求の条件が緩いといったアンバランスな状態があると、トラブルが発生した際に賠償金の支払いが回らなくなるリスクがあります。

⑤業務提携契約における競業避止義務
契約の中に競業避止義務があり、新たなビジネスを行おうとしてもできないような制限がかけられてしまっているケースです。

⑥株主間契約・投資契約において、経営の独立性を損なう条項
例えば、自社の意思決定において何に関しても株主全員の事前の同意が必要といった状態では、経営の独立性がないと判断されるためIPOは厳しくなります。
いざIPOするというときに、契約解除するかどうかで揉めることのないよう、あらかじめ調整を行っておく必要があります。

上記は主な例となります。上記には該当していなくても、他に自社の事業の継続性を脅かす恐れのある契約がある場合は、IPO審査に悪影響を及ぼす可能性がありますので注意しましょう。

3.リーガルチェックの必要性とひな形作成時の注意点

前項のとおり、契約管理では様々なケースで問題が発生する可能性があります。
トラブルを防ぎスムーズにIPOを行うためには、事前に契約書のリーガルチェックをしておいたほうが良いでしょう。
特に、ビジネスの核となるような重要な契約に関しては、都度リーガルチェックを受けることをおすすめします。

また、「契約書はひな形を一度作ってしまえば、それを使い回していいのか」という質問を受けることがあります。ひな形を作成すること自体は問題ありませんが、作成した場合は最初のひな形を残すよう管理しましょう。
契約書は取引先によっては相手方に有利になるような修正が入ることがあり、同じひな形を使い回しているつもりでも、いつの間にかひな形の内容が自社に不利な内容に変わっているケースがあるためです。

そして、「ひな形を使っているから内容は見なくても大丈夫だろう」と思考停止してしまうのも危険です。
相手方から修正が入った場合も、なぜ修正するのか・修正した結果どういった契約内容になったのかを確認して対応することが重要です。

4.利用規約作成時のポイント

利用規約は、利用者の同意があって初めて契約が成立します。
後日の紛争防止のためにも、サービスの提供時には利用規約で同意をとったことを立証できることが重要です。
利用規約はただ掲示しておいただけでは同意を得たということは立証できないため、 「“同意する”ボタンを押さないと進めない」など、同意したことを立証できる仕組みを用意しておきましょう。

利用規約の内容はある程度自由に作成することができますが、自社に極端に有利な内容にしてしまうと、 利用者の反感を買い炎上することがあるため注意が必要です。
過去には以下の事例がありました。
■ 事例1
利用者が作成したデザインでTシャツを作れるというサービスをアパレルメーカーが展開。
利用規約に「ユーザーが作成したデザインの著作権は当社(アパレルメーカー)に帰属する」という主旨の内容を記載し炎上。

■ 事例2
テレビ局による動画投稿サイトで、利用規約に「利用者が投稿した動画の著作権はテレビ局に帰属するが、 動画によって発生した問題の責任は全て投稿者が負う」という主旨の内容を記載し炎上。
どちらも、コンテンツの利用にあたって企業側の利益に偏った規約となっていたために炎上しています。
利用規約を作成する際は、常識の範囲内で、自社がコンテンツを利用できるような内容にしておくのが望ましいでしょう。

また、過大な損害賠償請求リスクを避けるため、サービスに関するトラブルが発生したときにどこまで自社が責任を負うのかは利用規約に明記しておきましょう。
なおBtoCビジネスの場合は消費者契約法が適用されます。 事業者側の完全な免責は無効・賠償額の上限を設定しても無効になるケースがありますので注意してください。

IPO審査で悪影響を及ぼす契約の例

5.まとめ

法務面で対応すべき項目は多岐に渡りますが、どれかひとつでも問題があったらIPOできないかというとそうではありません。
冒頭で挙げた「ビジネスの継続性」と「会社の社会的信頼性」の 2つのポイントに対応できているかどうかが論点となります。

たとえばなにか訴訟が起きているといった場合でも、訴訟内容が「自社ビジネスの根幹となる特許権の無効審判が起きている」ということであればその訴訟の結果がビジネスの継続性に大きく影響するため、IPOは訴訟が解決してから、ということになりますが、ビジネスへの影響も少なく規模が比較的小さいクレームのようなものであれば、そういった紛争が起きていることをきちんと開示できれば審査上の問題はありません。
IPO準備では様々なことにリソースを割くことになりますので、重要性のメリハリをつけ、弁護士等法務の専門家の力を借りながら対応を進めていきましょう。

セミナーでは、その他以下のテーマについても解説しました。

・ビジネスの法規制
ビジネスへの法規制を遵守しないことのリスク、許認可とビジネスに関する具体例、法規制を把握する方法
・知的財産権
知財戦略を怠った場合の具体的なリスク、特許化orノウハウ化の判断基準、特許化する際の注意点
・労務管理
管理監督者と残業代、未払残業代請求
・会社法
取締役報酬の決定方法、競業・利益相反取引とは何か、善管注意義務
・反社会的勢力排除
IPO審査における反社チェックのポイント、体制整備

【関連イベントレポート】ビジネスの許認可が得られなかった事例や、見逃しがちな法規制とは?

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高野 大滋郎氏
2005年弁護士登録。2015年ニューヨーク州弁護士資格を取得。主な取扱分野は訴訟、上場会社法務、IPO、事業再生等。現在、大手証券会社の引受審査部門に対して法的アドバイスを提供するほか、上場申請会社の法務顧問を務めるなど、IPO実務に従事している。
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2014年発足。 事業計画書作成支援、内部統制構築支援などの実務サポートのほか、 IPOの審査トレンドを解説する「IPO Forum」を半期に1度開催し、 資本政策、労務管理など、IPOに必須の論点を解説する「IPO塾」を年間を通して開催している。 メンバーによるコラムも定評がある。


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