上場審査における法務面での問題点 審査で問われる「事業の継続性及び収益性」

IPO審査項目である“事業の継続性及び収益性”を満たすための、2つの法的論点を解説します。
2018年10月1日
POINT
「事業の継続性及び収益性」を満たすには?
 ・自社ビジネスに対する法規制を把握し遵守すること
 ・自社ビジネスの根幹となる知的財産権の管理
 企業がIPOを実現するためには、主幹事証券会社による引受審査、取引所による公開審査を受ける必要があります。 IPO準備会社は、これらの上場審査において法務面での問題がIPOの足枷にならないよう、多岐に亘り準備段階から自社の問題点をあらかじめ把握し、適切な対応を取っておくことが必要です。
 今回のコラムでは、対応が後手に回りがちな法務における注意点を、TMI総合法律事務所 高野氏に解説いただきます。
-IPOを実現するための法務上のポイントは?
 多岐にわたる上場審査の基準の中に「企業の継続性及び収益性」という項目があります。 上場企業は、継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していることが求められています。 今回のコラムでこの観点でポイントを2点解説します。
-「企業の継続性及び収益性」を実現するための2つのポイントを教えてください。
 まず一つ目は、ビジネスに対する法規制を遵守しているかという点です。

 例えば、会社が行っているビジネスに関し、必要な監督官庁の許認可を得ていない、すなわち違法の可能性があるということになれば、 上場後、継続的に当該ビジネスを営み収益を上げていくことができないリスクがあるので、「企業の継続性及び収益性」を満たさないことになります。 これからIPOを目指そうとする会社は、まずは自社のビジネスに対する法規制を把握し、仮に遵守できていないということであれば、 速やかに適切な対処をする(事後的に許認可を取得する、許認可を取得できるようビジネスモデルを修正する等)ことが必須です。

自社のビジネスに対する法規制を把握するためには、以下の方法があります。
(1)上場している同業他社の有価証券報告書(特に「対処すべき課題」,「事業等のリスク」の項目)の検討
(2)ノーアクションレター制度を利用した監督官庁への確認
(3)業界団体への加入や監督官庁の勉強会への参加等による関連法律や法改正のキャッチアップ
(4)弁護士事務所への相談

 なお、新規性の高いビジネスであれば、既存の法規制の射程内かどうかがグレーな場合もあります。 2015年、米国のUber Technologies Inc.の日本法人が、福岡市において、一般人が自家用車で運送サービスを行う「ライドシェア」の実証実験を開始したものの、 国土交通省が、いわゆる「白タク」を禁止する道路運送法に抵触する可能性があるとして、実験を中止するよう指導したというケースがありました。

 新規性の高いビジネスを行う場合には、上場審査の過程において、所轄官庁や弁護士などの専門家による適法性の意見を求められることもあります。 所轄官庁から明確な回答を得られる確証はそもそもありませんし、いずれにしても相応の時間がかかってしまうため、早期にビジネスの適法性を確認しておくことは非常に重要と言えます。 新規性の高いビジネスを行う場合には、上場審査の過程において、所轄官庁や弁護士などの専門家による適法性の意見を求められることもあります。 所轄官庁から明確な回答を得られる確証はそもそもありませんし、いずれにしても相応の時間がかかってしまうため、早期にビジネスの適法性を確認しておくことは非常に重要と言えます。
-法規則の遵守のほか、もう1つのポイントを教えてください。
 二つ目は、自社ビジネスの根幹となる知的財産権が適切に管理されているか、他社の知的財産権を侵害していないか、という点も重要です。 特許権に対して侵害訴訟がなされているような場合、上場後に当該ビジネスを継続できなくなるリスクがある状態と言えます。
 事業の継続性に甚大な影響を与える可能性のある法的問題点が存在する場合には、当該問題点が解決されることが上場の条件とされることが多いと思われます。
-IPO実現において、法的問題が起こったケースはありますか?
 2017年8月25日、家計簿アプリなどを提供する株式会社マネーフォワードの上場が承認され、同年9月29日に上場しましたが、同社のアプリについては、 会計の仕訳項目を機械的に判定するアルゴリズムを巡って、2016年10月にfreee株式会社から、同社の保有する特許を侵害するとして、東京地方裁判所に差止請求訴訟がなされていました。 当該訴訟は、2017年7月27日、マネーフォワードの勝訴判決がなされ、freeeが控訴しなかったため、同年8月11日に勝訴判決が確定しました。 この判決確定と上場承認との関連性については筆者の推測に過ぎませんが、判決確定から間もなく上場承認がなされたことから、 特許訴訟が解決されることが上場承認の条件となっており、勝訴判決が確定したことにより晴れて上場承認となった可能性があります。

 今回は、「企業の継続性及び収益性」に着目したポイントを挙げましたが、IPOを目指すにあたっては、早期に法的問題点の洗い出しを実施し、 会社の規模や自社のビジネスモデルに照らした当該問題点の位置付けを見極めながら、上場審査との関係でどのように解決する必要があるのかを分析することが非常に重要です。 いざ上場審査を受けるという段階において根本的な法的問題点が発見されることのないように、ある程度の時間とコストをかけてでも準備をしておくことが肝要と思います。
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執筆
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 高野 大滋郎氏
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 高野 大滋郎氏
2005年弁護士登録。2015年ニューヨーク州弁護士資格を取得。主な取扱分野は訴訟、上場会社法務、IPO、事業再生等。現在、大手証券会社の引受審査部門に対して法的アドバイスを提供するほか、上場申請会社の法務顧問を務めるなど、IPO実務に従事している。
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